尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

彫刻刀

2006年11月28日 10時12分04秒 | 詩の習作
人々は朝
小銭を握りしめ
ほんのり顔を赤くし
いそいそと出かけるだろう
明日を作るために

彼だけは
夜になると
彫刻刀を胸に忍ばせ
心臓のような青い顔をして
野原をさまようのだ
昨日を作るために

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神話

2006年11月28日 09時49分55秒 | 短詩集
雨の日は
神話のように
魚のなかで眠る
晴れの日は
童話のように
花のなかで眠る
夢は見ない

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それから

2006年11月26日 23時11分12秒 | 詩の習作
犬の気持ちで
お手をしたが
子供の気持ちで
この人たちは
嘘をついていると気がついた
猫の気持ちで
じっとしている

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天秤

2006年11月26日 21時56分31秒 | 詩の習作
目が覚める
カーテンの隙間から
差しこむ光の筋をしばらく眺めている
休日であると気がつく
得をした気持ちと
生まれてきたのが間違いだった
という気持ちが
この部屋の空間の中で
みごとに釣り合っている

泣き疲れた子供のように
もう一度眠る
ゆれても次第に
収まっていく
天秤がある

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詩の墓

2006年11月25日 22時27分40秒 | 詩の習作
人の形をして
ことばが凍っている
これは
墓の詩ではない
ここが
詩の墓である
僕は見たのだ
たくさんの
人の形をして
ことばが凍っている
ここが
天国でないのは確かだった
詩にも墓場があったのだ
象と同じで
一人で歩いていく

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「空中の火花」 (芥川竜之介『或阿呆の一生』より)

2006年11月25日 22時13分40秒 | ことばの玉手箱
「空中の火花」

彼は人生を見渡しても、何も特に欲しいものはなかった。が、この紫色の火花だけは、凄まじい空中の火花だけは命と取り換えてもつかまえたかった。


             芥川竜之介『或阿呆の一生』よ

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出られない

2006年11月24日 23時28分22秒 | 詩の習作
悪い風邪を引いたのだろう
隣の囚人が咳き込んで
ここから出られないと言っている
私という囚人も
ここから出られないと言っている
誰か知らないが
上の方からきれいな声で
出られなくてよかったわ
と言っている

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呪術

2006年11月24日 23時05分26秒 | 詩の習作
日が暮れて
むっつりする頃 
わかる
溢れているのは
幸せではない
人の不幸だ

満員バスのしみったれ
うすぼんやりした蛍光灯の下では
たくさんの一日が
それぞれの下着のように汚れている
ぼくだけが
今日をあきらめきれないのだろうか
心の無数のカルタをくりながら
一瞬にしてこの世の不幸と矛盾が解決できる
呪文のカードをたった一枚探している
昔 性器をいたずらされながら
ニセ神父に教えてもらった
主の祈りを上の空で繰り返し
肩をがちがちに凝らして
移動する景色を睨みつけて
しょんべんをちびって
神の隙を狙って
人間よりはまともな悪魔に
ありがたい呪術を教えてもらう
しかし出るのは悲鳴だ
狂ったらごめん

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日記

2006年11月23日 21時38分20秒 | 詩の習作
石だと思っていたら
亀だった
その亀があくびをしたら
シャボン玉がひとつ飛んだ
奴には歯がなかった
という日記を
大正元年に書いた人がいる
という
詩はどうだ 参ったか
だめかい
そうかい

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角兵衛(高村光太郎)

2006年11月22日 23時39分57秒 | ことばの玉手箱

不思議な生をつくづくと考へれば
ふと角兵衛が逆立ちをする

  (高村光太郎『道程』の「冬が来る」より)

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枯葉

2006年11月22日 23時39分41秒 | 短詩集
枯葉とは
枯れたのではなくて
燃えた

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エピソード

2006年11月19日 23時07分47秒 | 詩の習作
夜半の雨音を白い寝床で
はらわたにしみ込ませ
咳き込んでは
昔話のように
水の上を歩いて
向こう岸に渡った人を思い出す
戻っては来やしない
それからこうして
雨の日の魚のように
生きてきた死んでいく
その他はエピソード

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岬の墓

2006年11月19日 12時59分53秒 | 短詩集
海を見つめる
モアイの石像を
思い浮かべるとよい
しかし石になる寸前
目と耳と鼻と口
顎を突き出した顔で
時間の風を
二つに切り裂いている
君だ

目に見えるすべてが墓だと
言い切ってよいが
その中で つまり
生きている人間だけが
宇宙の岬の先端で
ほんとうの墓である

花もトカゲもサボテンも
先祖代々
みんなここに眠ると
君の顔には書いてある

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コンセント

2006年11月19日 11時32分55秒 | アバンギャルド集
中には
玉子やハムや野菜たちがいて
たわいのないことを
しゃべっている様子だった
悪意の怒りではなくて
どうしようもない善意がわき起こって
冷蔵庫は自分のコンセントを抜いた
腐る前に人間が来て
コンセントをさして思った
お前はなるほど白い墓だな

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2006年11月15日 23時48分52秒 | 短詩集
 
思い出と 
区別のつかなくなった
はるかかなたの地上
それでも
細い絆を
握りしめている
小さな手があるだろう

そのけなげな力を
胸の結び目に感じて
息をつめる 僕は
青い階段を駆け上る
てっぺんでは
くるくる回ってしまう
それから逆さまに
落ちてあげる


コメント (2)
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