尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

形見

2006年04月29日 22時19分39秒 | 詩の習作
どうのこうの
ということではない
ウインクして
子どもを驚かす
今日の形見に

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ランナー

2006年04月29日 22時08分49秒 | 自選詩集
表彰式は
とっくに終わり
観客も帰ったのに
日没の競技場の外周を
一人でひたひた
走り続けている

そのような約束を
僕は走っている

足を止めれば
空まで静まりかえり

これは夢ではないかと
寝ないで疑ってみたが
やっぱり窓から
ひたひたと
朝がやってきて
僕はまた走り出す
コメント (3)
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ヘビースモーカー

2006年04月29日 21時55分40秒 | 詩の習作
言葉はたいてい
誰にも理解されずに
消えてゆく
しかし
煙草の煙のように消えていく
言葉の外に
私はどこに
あるのだろうか

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パンセ

2006年04月29日 00時16分09秒 | 少年詩集
パンセと名付けられた子犬が
駈けてきて一生懸命
しっぽを振っている

かわいいでしょ
だから僕を食べないで
何かちょうだい

ほんとうに君はおいしそうだ
でも、思い出したよ
むかし、むかし
同じようなこと言いながら
そんなふうに笑って
人を見あげていたことがあったよ

しっぽは振れなかったけどね
かわいいパンセ




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渚にて

2006年04月27日 13時44分02秒 | 自選詩集

 「渚にて」


失われた記憶
ばかりを乗せて
果てしなく
打ち寄せてくるものがある
今日の正午の空は
水色の満ち潮

この静けさに
君、笑ってもいいよ
僕もう、狂ってもいいかい?
みんなそろって
泣きだしてもいいのだ

地平の森と太陽と
野の花と獣たち
手に手を重ね
耳を澄ましている
永遠を望む渚
地球で

波と波の間から
神の紅い舌先が
ちろっと見えて
美しい母の悲鳴が
降りてきたなら
今日は私たちの
誕生日

あの日の
反響


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ドジョウ

2006年04月25日 21時13分00秒 | 詩の習作
君は
泥の家に棲んでるくせに
一日の終わりには
涙を目にうかべ
今日の泥を吐く
ぬめる体を
泥の寝床にくねらせて

小さな
あわ粒がひとつ
闇に昇れば
それを合図に
君は眠りにつける

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裁縫

2006年04月24日 23時56分35秒 | 詩の習作
僕の恋人には
縫い目がある
いや
私の縫い目が
見えるのは
恋人である証拠だそうだ
そう言って
女は
また僕を
ほどくのだ
繕うために
コメント (2)
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反響

2006年04月23日 13時00分15秒 | 詩の習作
 「反響」

水色の空
ひっくり返せば
宇宙の海原
果てしなく
寄せてくるものがある
果てしなく
引いていくものがある
満ちることはない

この静けさに
笑ってもいい
狂ってもいい
泣き出してもいいのだ
わたしと野の花は
地平の森と太陽は
右手と左手をかさね
永遠の岸辺で
耳を澄ましている

波と波の間から
神の割れた舌が
ちろっと見えて
美しい母の悲鳴が
投げ込まれたなら
今日は
わたくしどもの
誕生日

あの日の
反響

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整列

2006年04月23日 00時17分00秒 | 詩の習作
うるさく
しゃべっているものが
ほんとうは
石よりも
黙っている

ドナルドダックの
黄色い目覚まし時計
車内放送
トラックの
バックしますよ
都市への爆撃
サルの島
通過する急行列車
のなかで整列する人々
中古のCDラジカセ
テレビ
ふいに蘇る家族の記憶
夜聴く留守番電話
太陽の黒点
短波放送
そして
僕と君の
睦みあう
頭蓋骨
恥骨など

一本道に
これらが
整列している

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ぶっきらぼう

2006年04月22日 21時15分00秒 | 詩の習作
一人になって
窓を開ければ
星も月も
ぶっきらぼうに
ぶらさがっている

糸をさがしてしまう

さっきの
ぶっきらぼうな
客は
宇宙の外へ
還っていった

蛍光灯の下
鏡に映る
黄色な顔も
ぶっきらぼうだ

ぶっきらぼうは
何故か丸いな
へっていく
消しゴムのように

ぶっきらぼうは
憂鬱だ
ぶっきらぼうで
コメント (2)
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2006年04月21日 08時20分01秒 | 詩の習作
すべては
星のように
遠いところに配置してある
湯気をあげている
コーヒーカップでさえ
全体が工場のような
惑星に見えた
乾いた
わたしの
腕が
つるのように
延びて
カップの取っ手を捕まえた
つぎつぎに
切断面の円盤の上で
彼の
彼女の
腕が伸びては
ひっこんだ

オートマチック

昨日から
逃げてきたのだ
どのひとも
こんな工場に

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石の花

2006年04月19日 23時25分23秒 | 詩の習作
何かが
野においていった
小石をひらう

この石は
いつ咲くのだろう

私たちは
咲いた石である

誰かが置いていった

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樹も蛇も

2006年04月17日 23時48分26秒 | 詩の習作
明るい一日だった
樹も蛇も
空も鳥も
山も蛇も
海も魚も
石も虫も
みんな目をつぶった
そして黙った

男の子だけが
裸で
たった一人
岩の上に
立たされていた

それから
陽は沈み
陽は昇り
次の一日が来た

記憶がなければ
何事もなかったのだ

みんなよくしゃべりはじめた
岩の上には
落書きが残されていたが
そのことについては
誰も何も言わなかった
樹も蛇も
石も虫も

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妖精

2006年04月16日 09時53分57秒 | 詩の習作


そいつって
お金で買える
妖精かも知れない

小さな声で
僕は
と、言った
ボクハ
と、そいつも
木霊(こだま)するんだ

君を
と、言った
キミヲ
と、そいつも
答えるんだ

それからボクは
思い切って
嘘を言う
愛しているよっ
てね
そいつも
意外にあっけらかんと
響くんだ
アイシテイルヨ

僕は
勢いに乗って
イツマデモ
と、言った
すると
そいつは
恥ずかしくって
ちょっと陶器みたいに
体を硬くして
黙って

消えるんだ

いつも

そいつって
君のことじゃないよ
モノのことだよ
たとえば
目の前にある
かわいいコップだとか
とぼけた目覚まし時計とか

消えたんだ

また買うさ


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ヒト

2006年04月13日 20時29分10秒 | 詩の習作
ぼくと一緒に生まれ
ぼくと一緒に老いて
たぶん
ぼくと同じ時刻に死んでしまう
ヒトがいる
透明で
顔を見たことはないが
ぼくと同じかたちだ

焼きそばも
カレーうどんも食べなかったし
コーヒーも酒も
とうとう
女も知らないで
ぼくの
心配ばかりしてきた

悪いことなんか
一つもなかった
そんなヒトだ

そんなヒトが
ぼくと一緒に
死ぬんだ

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