尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

水瓶座

2005年12月31日 19時47分23秒 | アバンギャルド集
 「水瓶座」

歩きながら
目をつむると
とっぷんとっぷん
もう水は
目のところまできて
揺れている
わたしは
わたしに溺れそうな
水瓶である

暗い水
ではあるが
思い出せない
思い出の結晶が
海蛍のようだ
どうですか
コップに一杯
あなたの
口のまわりが
光ります
恋人よ

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2005年12月27日 18時35分58秒 | 詩の習作
風が鳴っている
殺風景の空なので
喉の奥から
飲み込めなかった
青緑色の玉を取りだして
空に浮かべてみる
爆発させても迷惑がかからない

持ち主の名前のないそんな玉で
何にもない空は
いっぱいだ

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カシオペア

2005年12月26日 08時28分22秒 | 少年詩集
 「カシオペア」

天の川からの
流れ者ですけれど
窓辺のあなたに
一本の銀の針のように
光ってみます

ママにしかられただけで
北斗七星で首をくくってはいけません
カシオペア座でブランコしてなさい

さようなら


   (2003.3.4)
コメント (4)
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赤は緑だ

2005年12月25日 19時45分31秒 | 詩の習作
赤は明日は緑だろう
などと自分の手にした
絵の具を信じられない画家
が僕らの運命だ
僕らは
言葉を信じられない詩人だ

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2005年12月25日 19時28分15秒 | ライトバース集
冬の空からバス停の列へ
灰色の目をした風がおりてきて
びょうびょうと証言しました

愛しているとは
愛してしまったということ
愛してしまった、とは
生きている限り愛しているということ
あの人を、もう愛していないとは
はじめっから愛していなかったということ
たった一度も愛さなかったということ

白い目をした雪が
降ってきました
もうなにも言いませんでした
コメント (2)
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室生犀星「行ふべきもの」 

2005年12月25日 13時06分12秒 | 好きな詩と詩論抄
 「行ふべきもの」   
       室生犀星


詩よ亡ぶるなかれ、
詩よ生涯のなかに漂へ、
我が戯言(たわごと)も亡びることなかれ、
我が英気よ運命を折檻(せっかん)せよ、
行き難きを行け、
詩よ亡ぶるなかれ、
我が死にし後も詩よ生きてあれ。
汝の行ふべきものを行へ。


★詩よ亡ぶるなかれ‥詩よ生きてあれ‥‥いいですね!
犀星の詩はこうして日本語が滅ばない限り、白秋や朔太郎の詩と共に生き延びると思います。しかし僕の詩はもちろん、現代詩と呼ばれる大半の詩は生まれてすぐ死んでしまう運命にあるようです。それはそれとして、「詩よ亡ぶるなかれ」という気持ち、志は共通です。

僕が安心して訳のわからないいわゆる「現代詩?」を書いていけるのも、
「室生犀星」という心の故郷のような詩人を知りえたからだと思います。
もしあなたが詩を書いてみようと思われるなら、戦前の詩人の中で、一人でもファンを持つことをお勧めします。
戦争を境にして、残念ながらテクニックではなしに、詩の格の違いははっきりしています。何かを信じようとしている者達と、はじめっから信じられない所から始めなければならない私達の差です。
たぶん、私たちは何かを失ってしまっているのですが、何を失ったかさえ忘れてしまっているのです。彼らはその失いつつある時代と格闘したのではないでしょうか。)

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荒川洋治「詩とことば」

2005年12月22日 13時30分26秒 | 好きな詩と詩論抄
  「詩と散文」

「詩は、そのことばで表現した人が、たしかに存在する。たったひとりでも、その人は存在する。でも散文では、そのような人がひとりも存在しないこももある。(中略)
 散文そのものが操作、創作によるものなのだ。それは人間の正直なありさまを打ち消すもの、おしころすものだから、人間の表現とはいえないと思う人は、散文だけでなく詩のことばにも価値を見る。(中略)
 散文は、果して現実的なものなのか。多くの人たちに、こちらの考えを伝えるためには、多くの人たちにその原理と機能が理解されている散文がふさわしいことは明らかだ。だが、散文がどんな場合にも人間の心理に直接するものなのかどうか。そのことにも注意しなくてはならない。詩を思うことは、散文を思うことである。散文を思うときには、詩が思われなくてはならない。ぼくはそのように思いたい。

 (以上は岩波書店から発売されたばかりの荒川洋治著「詩とことば」p.42から引用させていただきました。「詩と散文」としたのは、僕が仮につけた表題です。
 僕自身と見聞きする経験から云うことですが、詩を書き始めた人々は、まじめであるほど、およそ一年で「詩とはなにか?」というような原理的なことで行き詰ってしまうことが多いと思います。そのときに最適な、詩をほんとうに愛する数少ない詩人の一人、荒川さんのこの本を、お勧めします。「現代詩手帳」「詩と思想」など月刊の詩誌や同人誌では、あいかわらず「あれは詩ではない、我等のこれこそが詩である」と異質なものの排除と仲間褒めで、貧しい現代詩をより貧しくしている傾向があります。ほとんど読み手を失っているなかで、それでも本気で詩をやっていく人には荒川さんのこの本が強い味方になるとおもいます。
 さて、僕が詩を書き始めた契機の一つに、日常生活をほぼ全面的に支配している「散文」にたいして怒りに近い深い「懐疑」のようなものがありました。多少図式的になりますが、散文には近代市民社会を成立させている形而上学的な土台があると思います。本来なら二律背反の人間の「自由」と世界の「因果律」です。現在では科学文明の成果をまのあたりにして、無批判にうけいられている、いわばわれわれの共有する「神学」になっているように思います。‥‥ということを書いていくと、ますます僕は原理的においつめられていきます。というのは、散文で反散文的な自分の論理を展開していくからです。(笑)
このように詩を書く以外どうしようもない人が、めったに読まれないことを覚悟しながら、ひっそり書いて、ますます貧乏になってゆくものが詩なのかもしれませんね。(2005.1月記)

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川崎洋「詩は たぶん」

2005年12月17日 22時52分25秒 | 好きな詩と詩論抄
「詩は たぶん」
     川崎洋

詩は たぶん
弱者の味方
ためらう心のささえ
屈折した思いの出口
不完全な存在である人間に
やさしくうなずくもの
たぶん


 ★この詩の作者である川崎洋さんは、10/22の朝日新聞朝刊によると21日になくなられたそうです。合掌。
難解でないと現代詩ではない‥という偏見が詩壇にも一般読者にもありますが、わかりやすい日々の言葉で詩を成立させる詩人の力量こそ「非凡」であると言えます。
川崎さんの詩はこれからも読むたびに、ぼくらの凡庸なりにつらいところのある人生に、やさしくうなずいてくれると思います。
(2004年10月22日記、まこと)
 ★この詩が散文ではなく、みごと詩となり得ているいるのは最期の一行の「たぶん」であると思います。うまい詩を書こうとして「詩語」なるものを連ねている詩人気取りには絶対書けない、川崎さんの息遣いが聞こえるようです。自戒・・がんばらねばね。(2005年12月17日記、まこと)
コメント (2)
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堀口大学「わが詩法」

2005年12月17日 21時30分37秒 | 好きな詩と詩論抄
 「わが詩法」
       堀口大学

言葉は浅く
意(こころ)は深く



  ★言葉は浅く、こころは深く‥‥
残念ながら、いわゆる現代詩は大学の目指した逆の方向、「言葉は深く(=難解)、こころは浅く(=観念的)」のほうに流れてきました。
僕達は、なるべく皆にわかりやすい言葉で、しかし深いこころの謎を探る勇敢な冒険者で在りたいものです。(まこと)

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堀口大学「詩」

2005年12月16日 11時39分39秒 | 好きな詩と詩論抄
 「詩」
      堀口大学

難儀なところに詩は尋ねたい
ぬきさしならぬ詩が作りたい

たとえば梁(はり)も柱もないが
しかも揺るがぬ一軒の家

行と行とが支えになって
言葉と言葉がこだまし合って

果てて果てない詩が作りたい
難儀なところに詩は求めたい


 ★難儀なところとはどんなところでしょうか?
「楽しい詩ではなくて、自分は苦労したとか、悩んでいる暗い詩を書きたい」
 ということではないと思います。
それが証拠に、大学はウイットとユーモアのある詩やエロティックな詩をたくさん書いています。
「世間や自分に妥協するような安易なところではなくて、前人未踏の心の真剣なところで書きたい」
 ということだと思います。
そうでないと、人の心をほんとうに打たないからです。
詩の志がそうであるのは、とらえようとする人生はいつも前人未踏だからです。


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堀口大学「定義」

2005年12月16日 11時32分08秒 | 好きな詩と詩論抄
 「定義」
 
詩はそんなものではない


 ★これが詩と詩論のアイロニーだというような、「一行詩」です。
 しかし大学は、奇をてらったののではありません。
 「詩の定義」としては一級のものだと思います。
 詩人は一応完成した自分の作品を見て、「詩はそんなものではない」と言い放  ち、もう一度挑戦するか、これを捨てて次の作品に取り掛かるのではないでしょ うか。)


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「PI,PO,PA」

2005年12月16日 11時24分26秒 | ライトバース集

「PI,PO,PA」

太陽の黒点のせいかもしれない
最近の電波環境は悪いな

しかし僕らは
一そうの宇宙観測艇だ
打ちあがったからには
この虚空に
高感度のアンテナを
せいいっぱい拡げよう

宇宙の全質量を測ってみよう
(この体が押しつぶされはしまいか)
宇宙の膨張を測ってみよう
(この心がパンクしまいか)

pi,po,pa
今、ここで測りえたすべてを
君に送信しよう

pi,po,pa‥‥
応答はなくても送信続けよう
僕らは勇敢な宇宙観測艇であり続けよう

今、ここに受信しております
今、ここから発信しております
必ず、君を見つけ出します
僕の位置をお知らせください
最後の最後まで、通信をあきらめません

Pi,Po,Pa,pi,po,pa


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小マゼラン

2005年12月16日 11時12分06秒 | 詩の習作
「小マゼラン」

夏休みの朝
僕らは洗いたての
白いシャツを帆にして
風を膨らんで出帆した

海賊の歌を歌いながら
沢山の虫やカエルやトカゲを殺したのだ
そのあげく大発見に興奮したもんだ
父も母も自分も友達もみんな
こんなのと同じように無様に
死んでしまうという
命の大発見は
地球が廻るという発見より
世界をわくわくさせた

世界一周の航海を終え
夕陽に木立より長い影を引き
シャツも体も心も
土色に汚れて家に帰った
幾分つり上がった目をして
吠えながら
母の白いエプロンに飛び込んだ

血の臭いをかいだ母は
きまっていつもより生々しかったのだ


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朗読用特集

2005年12月15日 17時30分54秒 | みなさんへ・その他
 「裏庭」

僕の裏庭は
眼の後ろに広がっている
まばゆい海だ

海をこぼさないよう
顔を銀の皿にし
片手に乗せて
ボーイのように
移動する


 「小熊座」

僕のなかの
毛皮を着た人は
冬の星に関する発見に
耳をピンと立て
ずきんを持ちあげ
息を白くして言います

まばたきしているのは
光ではなくてって
むしろ闇です


 「どろの舟」

夜が明けても
沈まないで
がんばっている
泥の舟を
悲しむ
乗せている
タヌキを悲しむ

絵本を読んでから
ずっと


「浜辺」

昼も夜も
海は地球を洗っている

四十億年洗っても
落ちなかったものが
陽に焼けて
飴湯を飲んで
夕方
その子供の手と
長い影をひいて
帰っていった


「笑うんか?」

冬の空のような用事のなさに
君だって電話したことがあるだろう
用事のない自分の
携帯番号に

そんな
自分が出たらどうするんだ
笑うんか?
キスするんか?
泣いてしまうんか? 


 「どうどう」

私はテレビや友達が
決して言わないだろう
ほんとうのことを
あなたの心の黒板に
スケッチします

夢とか愛とかとても大切です
しかしもっと大切なことを
つまり、夢など愛などなくても
どうどう生きていくのですよ

お猿だった大昔からほんの少し前まで
夢など愛などどこにもなくて
食べていたのは
そんな言葉ではなくて
野ねずみや芋を食って生きてきたのです

けっこう仲良く笑っていましたのに
おれの夢だのお前の愛だの
やかましく言いだすようになって
ご覧なさい
人と人とが共食いを始めた
じゃあないですか

言葉など食えなくても
恥ずかしくはありません
自分より弱い人を食うほうが恥ずかしい
芋だけ食って
音の鳴るおならをして
みんなを笑わせて
元気にお暮らしください

黒板を消す前にもう一つ
そんなあなたは
とても優しいですから
夢とか愛とか希望とか
どうどう生きている
あなたへ
ほんのおまけです






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ケーキの意味

2005年12月15日 16時51分51秒 | ライトバース集
ケーキの意味ってなんだろう
値段だろうか
メニューだろうか
レシピだろうか

甘いか酸っぱいだろう
もう一度食べたいか
食べたくないかだろう
今日は
今日という
ケーキだよ

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