尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

アルミニウムの夜

2008年07月14日 22時22分47秒 | アバンギャルド集
深夜
異様な寝苦しさに
外に出ると すでに
街の人々の大半が ぽかんと
天を見上げていた

すべての星が
白く鳴り響いていた そのため 
人の顔が
アルミニウムの仮面ように
輝いていた

僕はどこまで喜んでよいのか
あるいはどこまで恐怖してよいなか
わからないでいた
隣の人に
 〈とうとう来ましたね〉
と話しかけた
隣の人は 〈ええ〉
と頷いただけで
相変わらず天を見上げ続けた ただ
アルミニウムの頬に
涙のようなものを一筋落として それから
とんでもない秘密のように
僕の手を握った

僕は鳴り響く星どものことと
しめった手のことと
二つのことに
引き裂かれてしまった

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逃亡者

2007年02月10日 22時00分19秒 | アバンギャルド集
木々の
影の傾きを吟味したあと
おもむろに
イスから立ち上がり
ズボンの裾の埃をはらい
去っていったのは
人ではなく
そのイスだった
つまり
君の座っているイスは
イスからイスが逃げた後の
影のないイスだ
それからそんな机もある
君が手紙を書いている机
机の去ったあとの
机だ
そんな窓がある
そんな窓から見えるのは
鳴いたとしても
飛んだとしても
鳥の脱け殻と
泣いたとしても
食ったとしても
人の逃げた後の
人の脱け殻ばかりだ
逃亡者に君が手紙を
書くのは
どんなものだろう
文字は逃げないのか
インクは逃げないのか
君が逃げたあとに
残された君は
もう逃げないのか
ただ一人
逃げなかった男のために
いつまで手紙を書き続けるのだろうか
君だけが魚のように
捕まってしまったのだろうか

ひたすら苦しむあの男と
地球の裏の太陽と
眼前の白紙と

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わたしという名の

2007年01月21日 14時53分23秒 | アバンギャルド集
わたしはわたしのいう名の
やかましい病気です
顔を光る海のように
平らにして
雲の影や鳥を待って
それから
こんなに長い言葉が
症状です

だまります
泣くときは
だまります

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ほれ

2007年01月08日 20時00分23秒 | アバンギャルド集
そこにあるものは
そこにあると知っている
見たことは見たと
言ってきた
ほれ
こんなに手が出る
足が出る
赤い舌もでる
自分の鼻先だって
いつも見えている
そこにあるものは
そこにあると言いながら
ほれ
薄ら笑いも浮かべるぞ
そこにあるものは
そこにあるもので
しかし
私がいない

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水母(くらげ)

2006年12月06日 23時28分06秒 | アバンギャルド集
とうとう
頭蓋骨が透明である
黄色い脳のヒモを
寒い海に垂れ流してみる
自虐であるにしろ
自分というものが
切れそうで切れないで
意外に長いとわかる
そのうちに
光る魚たちが集まる
魚という金属に
叙情はわからない
擦れ合う鱗(うろこ)の
キンキンと音がするだけ
脳と腸を間違えている
詰まっているモノが問題だ
おぞましい
父の乳房の筋肉とか
そそくさ
脳のヒモを回収する
その場所が
腹か頭かわからない
あなたがたも

わたしが
水の母である

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大仏の作り方

2006年12月05日 20時20分15秒 | アバンギャルド集
あなたの皮膚が
超えられない国境です
痛い言葉で身体に
無数のピンホールを
あけるのです
あなたの中に
小人が住んでおれば
国境は
高原で見あげる
満天の星のようでしょう
ある限度を超えれば
皮膚はめくれあがって
すかすかの
まばゆい
大仏のできあがり

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コンセント

2006年11月19日 11時32分55秒 | アバンギャルド集
中には
玉子やハムや野菜たちがいて
たわいのないことを
しゃべっている様子だった
悪意の怒りではなくて
どうしようもない善意がわき起こって
冷蔵庫は自分のコンセントを抜いた
腐る前に人間が来て
コンセントをさして思った
お前はなるほど白い墓だな

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赤紙さま

2006年11月12日 22時51分27秒 | アバンギャルド集
 赤紙様


わたしのなかの
わたしでないものを
探し出しては騒いでいる
僕たち
時間つぶしだね
新しい思想とは
時間伸ばしだ
わたしでないもののなかに
わたしがいると思えないか

たとえば
表札とか
消しゴムとか
冷蔵庫とか
それはだいたい
四角だ
つまり…

いたるところ
四角のお墓だよね
いつまで兄弟は
隠れん坊を続けるのだろう
僕らの勘違いだよ
隠れているじゃなくて
隠されたんだよ
赤紙様
もうこの子は死にました
ご勘弁をって

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夢の王

2006年10月27日 23時52分12秒 | アバンギャルド集
母が死ぬとき
闇に黄金の蝶が舞う夢を見た
それからというもの
愛する人が去ったり
小さな動物が死ぬ度に
色とりどりの
夢を見なければならなかったのである
たった一度
自分が死ぬときだけ
もう夢は見ないで
はっきり目覚めていて
笑ったのである
王は

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亀山博士

2006年10月25日 00時02分45秒 | アバンギャルド集
亀山博士は
ラーメンの汁をすすり終え
干上がったハチの底を見やりながら
おっしゃったのだ
 君、想像したまえ
 人間はすでにいないんだ
 地球もね
 神様だけだ
 …そんな宇宙は奇妙に歪んでいて
 寂しいだろう?

神様は風邪をひくでしょう
僕の答えに
博士はハチの縁を
箸でパチンと叩いた
次の客に押されるようにして
僕たちは屋台を出た

博士と別れてから
古ぼけた煙草屋のある角で
ちょっと酔って
まるで彼女にでも電話するみたいに
絶対に話し中の
携帯電話の番号を押した
月もないのに
群雲が光っていた
話し中である
自分のしていることが
あの神様のように寂しかった

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革命

2006年10月03日 23時48分22秒 | アバンギャルド集
人は皆
首から上をかついで
胴が歩いていると
振る腕が
はじめに
気付かねばならない
顔が王様だと
俺たちは
奴隷だと

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言葉がリンゴを

2006年06月26日 22時46分38秒 | アバンギャルド集
言葉というものが
物質であるとは
冗談を言っているみたいだけれど
こうもじぶんの言葉が
通じないと
物質だね
墜落するんだ
リンゴなんだ
転がっているんだ
だれも気がつかないね
ここまで歩いて来た者は
少ないんじゃないか
人間が言葉をじゃべるなんて
嘘っぱちさ
言葉が人間を喋っている
言葉がリンゴを食っている

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裏庭

2006年06月25日 11時27分29秒 | アバンギャルド集
私は私の顔の裏にいる
目の裏にいる
皮膚の裏にいる
影の裏にいる
言葉の裏に張りついている

私の裏の裏庭は
海である

浜で神様が
私を裏返しにして
干すのである

皮膚の裏では
潮騒のざわめきが
いつも聞こえる
ゆっくり
太陽に
反りかえる

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ペスト

2006年06月13日 21時26分35秒 | アバンギャルド集
これは一つの暴力だろう
顔のまん中に
金属をくり抜いた
トンネルがあいている
僕はその奥に逃げていく
右腕を差しこみ栓をすれば
もう大丈夫だ
街へ出れば
食堂でも
プラットホームでも
顔に腕を突っ込む格好ばかりだ
新しいペストだ

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一の顔

2006年04月06日 00時02分14秒 | アバンギャルド集
どこから見ても
丸い顔に
水色で

と書いてある
その一は
目なのか
口なのか
わからない
おそらく
一は
目であり
口である

ない耳を
傾けている

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