尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

忘れざるもの

2007年07月25日 21時27分44秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
生きるとは
まどろっこしいものだ

一年や二年では
ほとんど分からないことが
十年たってみて虚ろにわかり
二十年、三十年たってみて
はっきりとわかる
ということが ある

わたしがあなたを 
忘れないのではない
あなたがわたしを 
忘れないのでもない
すごした日々が 
二人を忘れてくれないのだ

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踏み絵

2007年02月22日 23時51分32秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
あしのうらは
しってるさ
いくぶん
おれはしんでいる
それで
ひととあうのがはずかしい

(はかのようにぼうだちだろう)

それでも
あさがくれば
もういいちど
やりなおそうと
ちかどうの
たいるをふみしめている
いきているひとに
まぎれて
にどと
ふみえないものを
あしのうらは
しってるさ

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イタカ!

2007年02月16日 21時34分44秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
環状線を環状に走っていると
空からイタカ
と声がする
そんなバカな
またイタカと声がする
これは僕の内心の自虐である
そんなバカな
またイタカと声がする
そういうときは
イタカ!と叫ぶにかぎる
こうして人生のレコードを
すり減らしている
おれは針だ

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鳩よ

2007年01月04日 07時40分10秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」

「鳩よ」


冬の公園の
日だまりは
知らない鳩でいっぱいだった
名も顔も知らないけれど
ノアの放った鳩の末裔だろう
噴水が高くなると
しぶきを怖れて
噴水の形で
飛び去った

その夜
知らない
一行目が降りてきた
オリーブの葉を
音符のようにくわえている一行は
どこにあるのだろうか
知らない詩のまま
終わりの行を
書き終えた
鳩よ、と

思い出の
日だまりを
首をすくめて
歩いていた鳩ぐらい
遠のいていく
知らない
男の物語

その男を
今日も生き
暗がりに
こうして寝返りをうって
彼の一行を
明日へと
改行する

わずかに
わずかに揺れている
箱船の底が揺れている
朝が来れば
自分をまぶしすぎる空へ
放つだろう

おおい
鳩よ




  鳩は夕方になってノアのもとに帰って来た。
 見よ、鳩はくちばしにオリーブの葉をくわえ
 ていた。ノアは水が地上からひいたことを知
 った。彼は更に七日待って、鳩を放した。鳩
  はもはやノアのもとに帰って来なかった。
               (創世記8章11~12節)      
   
コメント (6)
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条件

2006年09月30日 23時58分59秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
君も僕もいなくても
月はあそこにいるだろうが
もし月がいなければ
君も僕もここにはいない
ということなんだ
だからといって
明日から
どういうことでもないが
一番幸せな二人が
月の光を浴びて
誰よりも寂しい訳は
そういうことだよ

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月の方へ

2006年01月16日 16時19分21秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
月の方へ


あの夜それは
軽い戯れから始まった

竜蔵という名の
やくざな男は
惚れた女に
ほんとは一番好きだ
という男の名前を
呼ばせてみた

女は竜蔵の奇妙な哀願に
しかたなく一度つぶやいてみたが
瞑った目じりから涙を一筋垂らせると
後は一気に魔にはまり
愛しい男の名前を繰りかえし
繰り返し呼びだし
自分自身の声に激しく
昂じていった

その見たこともない
法悦の有様に竜蔵まで
神がかった文楽人形
己が誰だかわからない
目と顎と手足の関節を
カクカク カクカク
しゃくり上げている
二体の人形は壊れる寸前だった

静けさが戻ると
喧嘩という喧嘩に
負けたことがなかった竜蔵は
始めて負けた気がした

風呂で女に
彫り物のある
背中を流させた
女を心配させるぐらい
湯船に沈む遊びをし
最期に浮かび上がって
帰るぞ
と言った

なに言ってんのよ
ここ
あんたの家じゃない

戸の外は
醤油の溜まりのような
濃い夜だったけれど
その闇に
切った爪よりも
細い月が
釣り糸でも垂らすように
一筋の光を
差し入れていた

竜蔵は
背中に青い竜を乗せ
そろーり 
立ち泳ぎで
帰ったそうな

つまり竜蔵
粋がって家は女に
くれてやったのだが
その女が一番目の男を招くには
半年とかからなかったそうな

生きているとしたら
今でもそろーり
立ち泳ぎだろうね
月の方へ
竜蔵という
二番目の男は

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水仙

2006年01月16日 15時57分30秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
 「水仙」


夜に
庭の水仙を切った
瞬間
光りのかわりに
匂いが放たれた

彼女は
死んだのではない
彼女は始めて
時間を理解した
私の指の間で
彼女は
体重を持ち
脈打った

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質量

2006年01月16日 15時43分17秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
「質量」


あなたを
地球に代わって
支えてみる

これだ
僕の欲望の
全質量は

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蟻(あり)

2006年01月16日 15時39分44秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
  「蟻」 


●蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
          蟻
        蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻

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星と月と

2006年01月16日 15時37分33秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
 「星と月と」


夜が来ると
見えないものが
見えてきた

星と月と
あなたの面影

夜が来ると
聞こえないものが
聞こえてきた

風と鼓動と
あなたの声が

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出帆

2006年01月16日 15時31分34秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
 「出帆」


わたしという帆をあげ
今日という風をはらむ

限りない紺碧を
真新しい傷のような
白い軌跡を曳いて

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ポスト

2006年01月15日 23時52分25秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
 「ポスト」

この瑠璃色の
空のどこかに
赤い切り傷のような
あなたのポストの入り口が
隠されていないか

僕は
手紙を
こんなに持っている

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2006年01月15日 23時47分55秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
 「箱」


両手に抱えるほどの大きさの
クリスタルグラスの箱の中で
黒大アリより小さな男が
春夏秋冬
畑を耕したり
短気をおこしたり
病気もするが
結婚もする

できるだけ笑って
できるだけ嘘をつかないで
歌いながら


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夕暮れ

2006年01月15日 23時45分38秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
「夕暮れ」

空の遠くが
あかね色に染まってくると

僕の肺も遠くの
一本の木のように
あかね色に染められて
立っている

淋しい

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2006年01月15日 23時36分35秒 | アドリアナ選「まことの詩集その1」
 「笛」


風よ
でたらめに穴のあいた管
だからといって
俺を吹くな

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