尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

二丁目の!(「!」を改稿)

2007年05月31日 01時04分07秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「 二丁目の!」 


二丁目のバス停に
朝日は注ぎ
人々の列は
そよ風にそよぐ
麦穂のように
揺らめいている

めいめいの頭頂からは
マンガの吹き出しのような空白に
○×□●△?
暗号が
吹き出しては消えている

一丁目の丘に
バスが光ると
一斉に


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神様の電話(新バージョン)

2007年05月29日 21時26分31秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「神様の電話」


雨の降る夜に限って
必ず鳴る
無言電話が幾日かつづいた

雨音のむこうの闇に
見えざるものの息づかいが
メトロノームのように
繰りかえされた
ふくらんだり
消えそうになったり
切なげにも聞こえ
その奇妙な緊張と興奮に
自分の息と神経までが
次第に同調していった

コンクリートの壁が透きとおり
古いフィルムに走る
白と黒の傷のような雨脚が
見えて来そうだった

息苦しくなって
受話器を下ろすと
その夜は
再び掛かってこなかった
迷惑という自分の凡庸な反応よりも
彼あるいは彼女の節度に
デリカシーを感じた

肺活量のあまりなさそうな
小さい胸の後ろには
もしかしたら
羽根がはえている

そんな油断から
ある晩
 マサコサンですか?
ときいた
 ミチルクンですか?
ときいた
 レイコさんですか?
ときいた

沈黙は
それらを聞き流していたが
 やっぱり、神様ですか?
ときいた時
雨音が激しくなって
電話線をたどると
必ず行きつくその先で
もう一つの送話器が
そっと
置かれた

神様はもう
電話をしない





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反響(新バージョン)

2007年05月27日 21時34分49秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「反響」
    尾崎まこと


失われた記憶ばかりを
風に乗せ
果てしなく打ち寄せてくる
正午の空は
水色に輝く時の満ち潮

静けさの潮騒に
僕 
狂ってもいいかい?
君 
笑ってもいいよ
みんなそろって
泣きだしてもいいのだ

永遠を望む
地球という惑星の
渚で

地平の森と太陽と
野の花と獣たち
戦車と
少女と蝶々と
歩みを止め
自らの来し方の
ピアニシモに
耳を澄ましている

波と波の隙間から
神の朱い舌先が
ちろっと見えて
美しい母の悲鳴が
ダイヤモンドに
光ったなら
今日は
私たちの誕生日

ヤー
と呼ぶ
あの日の
反響

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卵をノックする

2007年05月27日 11時56分47秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
人差し指を
くちばしにして
鏡をたたくと
これは
誰かの
おかあさん

コツ
コツ
コツ

こちらの方と
むこうの方から
厚みのないものを
挟みうちにして
影の
形の
おかあさん

コツ
コツ
コツ

この冷たいガラスの
孵化しない
時間の卵

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痕跡

2007年05月26日 00時24分44秒 | 詩の習作
ぽかんと
晴れた空は
あなたの去ってしまった
痕跡

空にきらめく星は
こんなにたくさん
あなたが
永遠にいない
痕跡

そして
僕の身体は
あなたがいたという
たったひとつの
星の
痕跡

目を閉じて
自分を
痛く
したい時が
ある

こころのように

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白い布を用いた思考実験(新バージョン)

2007年05月25日 00時40分26秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「白い布を用いた思考実験」


一枚の白い布を敷く。大きさは特定しない。あなたの想像しうる限り薄い布(二次元)、しなやかな布、強靭な布である。そこに、ありふれた林檎をひとつ置いてみる。隙間なく布で包む。すると、この世に白い林檎が現象する。

あなたはおもむろに、侍が首をはねる要領で、白い林檎を光速ではねあげる。我々は、幽霊のような蒼い電子の残像を見るであろう。林檎型に射抜かれた真空を見るであろう。それは一瞬の物理学的な真空であり、少なくとも形而上学的な真空である。いわば林檎の「無い」と云うことがその残像おいて「在る」。

林檎の無を見せてくれたあなたは素敵な「奇術師」と呼びうるだろう。

さて次に、この布で私を包んでごらん。現象した白い人を、林檎と同様に素早くはねあげよう。これに成功したあなたは、白い人の無を見せてくれたところの、最高の「魔術師」と呼びうる。僕は、あなたが怖ろしくなってきた。

さらにあなたは、この布を我々の宇宙にすっぽりかぶせ、現象した白宇宙を素早く取り去る。「虚無(なにもない)」と云うことがその蒼い残像において見える。その時あなたは最高の「神」、あるいは最悪の「悪魔」と呼びうる。僕は、神と悪魔が迎合し遂にセックスしているような、あなたが大嫌いだ。

神と悪魔の間でひらひらしている、このありふれた布。これを世間では「言葉」と呼んでいる。そして、この布をやたら見せびらかせ、ひらひらさせるばかりで、世界に何もなしえない人間のことを、「詩人」と呼んでいる。僕は、汗をかき恥をかき、神を出そうとしているあなたが大好きだ。鳩だって出せないくせにね。
       

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傘をどうぞ(新バージョン)

2007年05月22日 00時00分17秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「傘をどうぞ」
尾崎まこと


静かな
プラットホーム

雨に濡れています
などと囁いてみても
だれも
雨に濡れてはいなくて
ただ確かなことは
雨に濡れています
という言葉に
いま
あなたの耳は
濡れはじめています

降っているのは
雨ではなくて
むかし
僕のまいた言葉が
遅刻して
届いているのです

あなたという
プラットホーム
ぽっと明らむ
この傘をどうぞ


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ここ

2007年05月15日 09時23分59秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
ここは
そこである
あそこである
あそこは
そこである
ここである

どこも
ここである
ここは
どこでもある
生きている限り

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サイコロ

2007年05月13日 23時59分08秒 | 詩の習作
死の夢から
押し出されるように
浮かび上がって
手の平がつかんだものを
開いて見た

絶望は一だった
その裏の希望は六だった
絶望は二だった
その裏の希望は五だった
絶望は三だった
その裏の希望は四だった

見てきたものだから
それだけは見たと
伝えなければならないだろう
それは人情ではなく
簡単な足し算だったと


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語り得ぬもの

2007年05月11日 02時04分26秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「語り得ぬもの」


語り得ぬものについては
沈黙しなければならない
と、ウィトゲンシュタインが
我々に忠告しなければならなかったのは
しばしば
語り得ぬものに取り囲まれている
我々の不安から
語り得ぬものについて
饒舌になるからだ

かように

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出口

2007年05月11日 02時02分31秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「出口」

真昼がね
水色のマントと
太陽の仮面を脱いでね
僕に挨拶したんだよ

空に
真っ白な裂け目さ
ありゃ傷だね
時間の

鳥肌がったったよ
死ぬかと思った
なんたって
今では唯一の
出口だからね

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恐るべき事は

2007年05月11日 02時00分00秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
人間がいなくても
世界があるように
人間がいなくても
そっくり言葉はあるのだ

恐るべき事は
言葉は人の能力ではなくて
事物の能力ということだ

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手の鳴る方へ

2007年05月11日 01時57分38秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「手の鳴る方へ」



落ちてゆく陽が
空の静寂(しじま)を
鬼灯(ほおずき)の色に染めるとき
きっとその高みでは
薄い大気も凍るのでしょう
見えない岸辺へと帰る
白い羽音の連なりが渡りゆき
きしきしきし
きしむことがありました

目隠しをされた
鬼の子が
その響きを
手の鳴る方へと
まちがえて
おぼつかない足取りで
駆けてゆきます
両手を前へ二匹の蝶のように
ひらひらと
すすき原をゆくのです

ひらひらするかさせないか
これが鬼の子と
人の子の違いです
その様子が面白くて
よく遊んだものですが
人並みに私も恋をしますと
鬼の子は消えました

人の子
今では自分で
手を鳴らし
手は鳴るだけで
あたりを見回しては
その人気のなさに
ここが手の鳴る方だと
納得しております



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暗室

2007年05月11日 01時55分04秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「暗室」


皮膚の下の
暗室が
わたしだと思っていた
あなたのとがった指先が
パチンと
私を灯すまで

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メランコリア

2007年05月11日 01時51分04秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「メランコリア」


私と鏡に映る私は
お互いの水のような目を見ながら
口元に浮かぶ僅かな嘲笑で
挨拶を交わした

つまり私は彼が
死んでいることについての
憐憫から
彼は私が
生きていることについての
憐憫から
私たちは双子のように
微笑んだのである

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