尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

白夜(改訂バージョン)

2007年06月25日 23時25分23秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「白夜」

 
光子で合成された
幾千万個の透明ゼミが
唸りながら高層ビルを飛び回っている
自ら発光する奴らのおかげで
空に太陽はいらない
夜は追放され
時計はいつも正午だ

         ジャイ ジャイ ジャイ
             しかし路上では
          間違いがたまに起こる
         ジャイ ジャイ ジャイ

鳴き声がワンオクタブ高くなったのは
車にひかれた犬の死骸に
粛清ゼミが群がったのだ
セミが飛び去ると
首輪だけが残されている
人々は薄く笑って
奴らの仕事をほめたたえる

             ビアウチフル!
      死体がないなら死は存在しない
       美しすぎる街並みをふたたび
        人々は後ろ向きに歩き出す
         ジャイ ジャイ ジャイ

僕は耳が痛くなって
白いカッフェに逃げ込んだ
尻のポケットには
死んだ父の帽子を忍ばせている
見つかれば頭から食われてしまうだろう
その帽子には闇が滲んでいるからだ
しかし死の滲んでいない
記憶なんてあるだろうか?
白夜において
すべては完成されたという思想と
それに付随する
終わったという感傷は賞賛される
人生と歴史を始めることは許されない
なにもかも終わったのだから!

           カッフェ白い家では
       ワルトのミキがウエイトレス
        彼女はもともと漫画なんだ
        プレスがいきとどいていて
          横から見ると一本の線
     だから正面からしっぽを振り回す
ジャイ ジャイ ジャイ
         とステップを踏みながら

アイス カッフィ!
これで僕はアイスを飲んでいる男
マルタテブルにも
平らなミキにも影が無い
一組の先客は
一本のアイスクリムトを
交互になめあうママと坊やだ
かれらは作法とおり
僕と目をあわさない

どちらが親だかわからんぞ
今、坊やはしかたなく
ママのオモチャしているけれど
ママは昔みたいに裏返ったイソギンチャク            
             でありたのか?
      坊やは明日ゴムのじいさんか?
         ジャイ ジャイ ジャイ
       白夜に冷たい雨が降ってきた
         ジャイ ジャイ ジャイ
     と正午のステップを踏んでしまう 

透明ゼミの鳴き声が
水滴の走るガラスを突き抜ける
尻のポケットを膨らませているのは
最後に残った
僕の夜だ

コメント (1)
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夏の犬(改訂バージョン)

2007年06月24日 21時58分33秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「夏の犬」


僕は歯と歯の間に
誰にも見えない海を
皿のように一枚くわえて
一夏 すたこらと
街を駆けています

遊びほうけたあなたを
涼しい汐風とともに
すばやい影が追いこし
びっくりさせたなら
それは僕です

さゞ波の反射が
銀紙のようにまばゆいので
振り返った 風の犬 
細い目で
笑っているように
見えましたか

それとも
振り返った 蒼い犬
洗濯されて晒されて
もうすぐ泣きだしそうに
見えましたか

岸辺の風は遠かったですね

夏が一匹 
赤い舌を垂らして
走って行きました

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比叡山、あるいは「野心と写真」

2007年06月24日 00時01分19秒 | 日記
小学校三年生の頃だった、勉強でもなんでも
競争心のない僕にあきれた父は
「坊主になって比叡山で修行しろ!」と怒ったことがある。
「お前は優しいだけの男や」
とも言った。
「優しいだけで人間は充分や!」
と、答えた。
(こんな子供は嫌だね。笑)

そんなこんなで、野心のない道を歩んできたつもりである。
…それはそれで、生易しい人生ではなかったな。
しかし、不思議なもので、
世間の評価から自由であったつもりが、
50をだいぶ過ぎてからはじめた「詩」に
一生懸命になっていると、
無かったはずの色気というものが湧いてきて、
人一倍褒められたい。
ところで、詩人という人種は、
他人から褒められたいばかりで、
ほめ方をまるで知らないらしい。

と、いうことで、
野心よりも写真を始めることにした。
写真機は買った。
今も机の上に飾ってあるのを
横目に見ている。
しかし、デジタルは難しいな。

そのうちに、
わけのわからに詩ではなくて、
いやほど自己中心の写真をアップするね。

(お父さん、ここが比叡山やった!!)

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夢の中の

2007年06月22日 22時51分55秒 | 詩の習作
夢の中の
あなたを探すだけで
まるで一人だけ
鏡の中にいたように
年をとってしまいました

嫌いになることは
一生できませんでした
ただあなたを
探すのに疲れたのです

あなたも
おじいさんになった
わたしを探さないでください
夢の中の
雑踏で


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しゃぼん玉

2007年06月22日 21時15分50秒 | 詩の習作
生きたいことと
破滅したいことが
どこまでも
区別できないで
あなたは
回った
 
薄い皮膜に
世界と
笑ってる僕と
虹まで貼りつけて
あなたは
光った
コメント (2)
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「抱きしめながら」(最終バージョン)

2007年06月18日 23時42分30秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集


「抱きしめながら」


夏の盛りを
よく生きた
ほんとうに
よく生きたと思う

蝉が一匹
透きとおる羽を
乾いた地面の上に敷き
六本の脚を空に向け
かきかき かきかき
何かをつかもうとしていた

脚をぎゅっと立て
見えないものを
抱きしめながら
その形のてっぺんで
冷たくなって

あれは何だったのだろう


見あげれば
私の思いも逝く雲の盛りをこえて
流れていく

あのあたり いま
かすかに風にゆれている

おいしい樹液の
川のような淋しさ

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アダムの煙

2007年06月11日 00時05分01秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
言葉を
擦ってしまうと
あなたは
儀式のように
永遠より
やや短い煙草に
火をつけるのだ
世界のはじめを
やりなおす
アダムみたいに

わたしたちは
絶望より
やや軽い
暗闇の中で
火の玉が踊るのを見つめ
希望より
やや重い
何かを待っていた




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神様の電話(36行バージョン)

2007年06月10日 23時12分27秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「神様の電話」


雨の降る夜に限って
必ず鳴る
無言電話が幾日かつづいた

雨音のむこうの闇に
繰りかえされる息づかいは
切なげにも聞こえ
奇妙な緊張と興奮に
自分の息と神経までが
次第に同調していった

息苦しくなって受話器を下ろすと
その夜は再び掛かってこなかったので
迷惑という自分の凡庸な反応よりも
彼あるいは彼女の節度の方に
デリカシーを感じた

何かの理由で
言葉を失ったに違いない
小さな胸の後ろには
もしかしたら羽がはえている

そんな油断からある晩
 マサコサンですか ときいた
 ミチルクンですか ときいた
 レイコサンですか ときいた
 
沈黙はそれらを聞き流したが
 やっぱり カミサマですか
ときいた時 
もう一つの受話器が
世界で一番小さな悲鳴のように
そっと置かれた

神様はもう
電話をしない



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なんどでも

2007年06月07日 20時54分18秒 | 詩の習作
「なんどでも」


泣き出すと
なんどでも
死んであげるよと
後ろから
言ってあげる
なんどでもなんどでも
死んであげるよと
なんどでも
言ってあげる
ひつこくて
ついにあなたが
笑い出すと
こうして
右の手で
左の胸を押さえ
僕は
なんどでも
死んできたのだと
思い出す

スズメが
黒い木から
飛びだす明け方に

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葉緑素

2007年06月07日 00時15分38秒 | 詩の習作
私のなかには
無口な植物がいて
語っていると
その葉が
次第にうなだれていくのが分かる
立派なことを聞かされると
しなだれていくのだ
小学校の生徒のように
こんな風にね

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