「半分の馬」
凍った湖面に半身を沈め
半分になった白い馬
のんきに氷柱を抱え
前歯で シャーシャー
こそばい摩擦音を奏でている
その透きとおる音楽を聞きつけ
雪山を降りてきたつむじ風は
馬のまわりを三周して
自分に助ける力はないと知ると
たてがみの霜を払ってやりながら
やさしく尋ねた
どうして氷を削っているのですか
生涯
嘘をついたことはないだろう
つるつるの馬は
濡れた蒼い目を
ぱちくりさせて答えた
いいえ わたしは
歯を磨いているのです
つむじ風はその答えに
満足したわけではなかったが
藤色の遠雷がまるで
なにかの合図のように点滅し
あちらこちら
雪崩が走り出したとき
自分と馬との
見えない半身の苦労を思い
存在するとはそもそも
こんな奇妙きてれつだと結論し
おれだって何故か回転している
美しい半透明の半分の馬を
北の国に置き去りにして
歌いながら
ダンスしながら
真っ白い舞台から
去っていくしかなかったのだ