尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

「半分の馬」

2009年01月30日 22時58分35秒 | 詩の習作

「半分の馬」

 
凍った湖面に半身を沈め
半分になった白い馬
のんきに氷柱を抱え
前歯で シャーシャー
こそばい摩擦音を奏でている

その透きとおる音楽を聞きつけ
雪山を降りてきたつむじ風は
馬のまわりを三周して
自分に助ける力はないと知ると
たてがみの霜を払ってやりながら
やさしく尋ねた

 どうして氷を削っているのですか

生涯
嘘をついたことはないだろう
つるつるの馬は
濡れた蒼い目を
ぱちくりさせて答えた

 いいえ わたしは
 歯を磨いているのです

つむじ風はその答えに
満足したわけではなかったが
藤色の遠雷がまるで
なにかの合図のように点滅し
あちらこちら
雪崩が走り出したとき
自分と馬との
見えない半身の苦労を思い
存在するとはそもそも
こんな奇妙きてれつだと結論し
 
 おれだって何故か回転している

美しい半透明の半分の馬を
北の国に置き去りにして
歌いながら
ダンスしながら
真っ白い舞台から
去っていくしかなかったのだ









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林檎ランプ

2009年01月30日 22時52分34秒 | 詩の習作

 「林檎ランプ」


林檎山の林檎の木
風が吹くと
まだ青くて小さいけれど
鈴なりの子供たちが
かりん こりん かりん
いい香で鳴り響きます

昼間は見えないけれど
一つ一つのまんなかには
小さな炎が
灯っているのです
夜になると皮をすかして
ほんのり明るむので
林檎山全体まるで
輝く童話の森のようです

林檎ランプは
夕焼けの空と同じように
だんだん水色からピンクへ
ピンクから茜色に偏光し
私たちのために
ほんとうに美しく
美味しく育っていくのです

今年の秋
ナイフでさくっと割っていただく時
林檎ランプ
つまりそのまんなか
灯し続けた炎のあとを
確かめてごらんなさい

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仮面

2009年01月29日 00時17分55秒 | 尾崎まことの「写真館」

仮面の割れ目に窓がのぞいています。
ゲームセンターの二階ですから、事務所があるのでしょう。

仮面とは、鎧やお城のように自分を守ってくれるものでもあります。
ちょっと寂しいけれど、「表情」という脱げない仮面をかぶって、一生をそのお城ですごす私たちでもあります。

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こんなにも

2009年01月28日 23時15分59秒 | 詩の習作
空よ
人を好きになるって
あなたのように
晴れわたることなんですね
花よ
人を好きになるって
あなたのように
咲きほころぶことなのですね
山よ
人を好きになるって
あなたのようにどんと
そこにそびえることなのですね
海よ
人を好きになるって
あなたのようにドドドーと
打ち寄せることなのですね
人よ
人を好きになるって
人を好きになるって
こんなにも
好きになるってことなんですね

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わたしのはら

2009年01月27日 23時45分24秒 | 尾崎まことの「写真館」

「わたしのはら」


わたしのはらで
ふきすさぶ
しろいおおかみよ

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「樹木」

2009年01月26日 23時19分02秒 | 尾崎まことの「写真館」

「樹木」

地球のアンテナに違いない
太陽と雲と風の
通信を聞いている

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ケッペルせんせい

2009年01月25日 23時45分06秒 | 詩の習作
ゆきどけではあるまい。
れいぞうこのそこを
ちょろちょろと
ながれていくたにかわの
おとがあるだろう。
そのみえないこみちをおいかけて
ぼくから
まるではんこを にどおししたみたいに
わずかにはみでたりんかくが
そのゆじさきからしたたりおち
よるのそこをながれていくだろう。

しかくいはこの
ケッペルせんせいのまえで
よだれをたらしていた
じぶんというものが
あまざらしの いしのようにとしをとると
こんなひかるいとになって
ほどけてしまうものなのだろうか
しんや
こうふんするわけなどないのに
ついにみたぞと
いきがあらいのだ

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路地裏の

2009年01月25日 22時39分58秒 | 尾崎まことの「写真館」
「路地裏」

生きていることに愛想をつかした人間が
美しいことを発見し、美しいものを作り出すのである。
それは白樺派の仕事ではなかった。
舌と唇の仕事ではなく、目と耳、腕と指先、脚と腰、骨と筋肉の仕事であった。

不遜にも道具になりたいと思うことがある。

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路地裏のアート

2009年01月25日 21時52分39秒 | 尾崎まことの「写真館」


阿部野橋をちょっと奥にはいったところのゲームセンターの壁に描かれていました。うっとり見とれてしまいます。通りかかった人が映り込んでいる方がリアルで面白い写真になるのですが、肖像権というのがあるのでね、残念です。


壁を通りぬけた男を見送ったことがある。
その男はこう僕に言い残した。
どんなに厚い壁でも、通りぬけられると君が信じれば
必ず通りぬけることができる。
信じてついてきなさい。
僕もそうだと思う。
ただ信じ切れなかったので、ここにいるのだ。

この世には不思議なことがたくさんある。
あの日、あの男が壁を抜けたこともその一つだが、
カメラでこの現実を映しうることの方がより不思議である。
そしてたいていは、容易に通りぬけられない壁が映っている。
通りぬけた奴は戻ってこない段取りだ。

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明るい小径

2009年01月25日 12時24分20秒 | 詩の習作
ここまで歩いてきて
むかしむかし
入道雲のわきあがる校庭で
僕だけが
木であったころを
思い出す
小さな犬の屍骸のそばで
木のふりをして
突っ立ってみる
一拍子

たくさんの
歌を覚えたが
ひとつの歌も
歌えやしない
しかし
腹ぺこの君も
ここまで歌なしで
やってきた
四拍子

木の葉をゆらしては
明るい小径
白い前歯を光らせ
人のような
歩みをはじめる
二拍子

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わたしがあのひとをあいするとき

2009年01月25日 00時47分53秒 | 詩の習作
「わたしがあのひとをあいするとき」


わたしがわらうとき
かならずわたしはあくびをふたつしよう
とものように
わたしがしゃべるとき
かならずわたしはそのうそをかぞえよう
ちちのように
わたしがめをみひらくとき
かならずわたしはめをつぶろう
てんぐのように
わたしがおきるとき
かならずわたしはふとんをひこう
ははのように
わたしがなくとき
かならずわたしはわらってやろう
けものたちのように
しかし
やくそくしよう
わたしがあのひとをあいするとき
わたしもあのひとをあいする
かみのように
それだけはいっしょ

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あかんぼう

2009年01月24日 23時39分23秒 | 詩の習作
わたしがわたしを
これいじょう
ささえられないと
わかったとき
わたしははじめて
うかんだのです
あなたという
うみにだかれて

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黄昏

2009年01月24日 23時14分31秒 | 詩の習作
うつむく男が
マッチで煙草に火をつけた
一仕事終えたのだろう
女が部屋から出てきて
鍵をかけている
情事が終わったのだろう
男と女の街に
雨が降ってきた
何かが一斉に終わったのだ
窓という窓に明かりが
灯り始めたが
それでさえ一日の終わりを
告げている
カーテンが揺れて
ため息をついている

たとえるならば
映画の字幕の THE END
なぜ終わるものだけが
立て続けに
始まりるのだろう
男と女の疲れた心を
白い布にして
THE ENDばかりを
映し続けるのだろ

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陽気な幽霊

2009年01月24日 22時55分04秒 | 詩の習作
生きているあいだ
憎んでいたので
ごめんね
死んでから
愛してしまった

どっちでも
いいけど
お前は死んでるの?
あるいは
私が死んでるの?

人間は
幽霊がこわいけど
もっと
幽霊は
人間がこわいよ
でも
あなたが好きだよ
かたちがあるって
大好きだよ

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どろぼう

2009年01月24日 22時33分02秒 | 詩の習作
ここにいると
追われているが
何を盗んだか
忘れてしまった
逃げてみると
誰も追いかけてこない
とうぶん
ここにいるとしよう
この世の真実
盗んだふりして

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