リリス (ちくま文庫) | |
荒俣 宏 | |
筑摩書房 |
G.マクドナルドの『リリス』読了しました。
何がきっかけで買ったか忘れたけど、買ったまま読んでなかった本。
(一度読んだと思っていたのはカン違いでした。)
『不思議の国のアリス』のルイス・キャロルにも影響を与えたと言われる作家、G.マクドナルドの最高傑作と言われる幻想小説。500ページもある長編でしたが案外すんなり読めました。
さっそく感想(ネタバレあり)書いてみますね。
主人公ヴェインは幼いころ父親が死に、母親もその1年後に亡くなるという天涯孤独の身の上。
オックスフォードでの勉学が終わって、休暇を楽しんでいる時の出来事として、物語は始まります。
先祖から受け継いだ広い屋敷の図書室で本を読んでいる時に現れる見知らぬ老人、その老人を追って行くうちに、塔の階段を登りつめたところの屋根裏スペースにある鏡の中に入り込んでしまう主人公。
老人は大鴉(オオガラス)に姿を変えて、鏡の中のヒースの草原へと主人公を導きます。
そこからの展開はもう奇想天外。
・・・幻想小説(ファンタジー)って本当に自由でいいですね(笑)。
主人公ヴェインは鏡の中の国でたった一人で「本当に生きるとは?」ということを問いかけながら旅をします。
旅の途中で出会う、墓守の夫婦、毎夜舞踏会を繰り広げる骸骨たち、喧嘩している骸骨の夫婦、ラヴァーズ(恋人たち)と呼ばれる小さな民族とバッグ族と呼ばれる愚かな巨人たち、キャットウーマン、ブリカという市(まち)とその市を支配する、豹に変身する美しい女王、、、。まるで夢の中の物語のように世界は次々と広がっていきます。
キャラクター設定も表現もユニークで、これ今3D映画にしたら相当面白いんじゃないかなと思うほどです。
カラスがメッセンジャーの役割として登場するのは村上春樹の『海辺のカフカ』にも通じるし、「影」が人に取り憑いてその心を「恐れ」で虜にして苦しめ続けるストーリーは同じイギリスの幻想小説の『ゲド戦記』、小さな知恵ある人が悪い女王をやっつけるストーリーはフランスの『キリクと魔女』にも影響している気がします。
おおよそ幻想小説のプロットというのはもう出尽くしていて、知らず知らずどこかしら似てしまうのかもしれないですけどね。
最終的に、物語はアダムとイブ、生と死、善と悪、天国への扉という壮大なストーリーに展開していき、なかなか哲学的で深い内容で終わります。それもそのはず、作者がこの幻想小説を書いたのは1895年つまり71歳のとき。
おそらく作家としても人としても円熟して晩年に差し掛かった頃なのでした。
最終章「終わりのない終末」にはこうあります。
「人間は夢を見、また希(ねが)う。神は考え、意図し、促す。
人間が自らの夢をみるとき、彼はその夢と戯れあう。だが、アナザー(他の者)がかれに夢を与えたとき、アザー(別の者)がその夢を実現してくれる。」
(中略)
「わたしは待っている。眠りながら目醒めながら、待ちつづけている。
あのノヴァリースは言う、
「私の生命は夢ではない。しかしそれはやがて、夢とひとつになるだろう」と。」
人生が晩年に近づき生と死を振り返るとき、人は人生を「目醒めて見る夢」のように感じるのかなと思います。
確かにある意味において「死ぬこととは夢の中に入ること」なのかもしれないです。
自分の死生観と照らし合わせてみても面白いです。
脳みそをコチョコチョとくすぐってもらえるような物語。
読み終わった後はちょっと新しい世界に生まれ変わったような気分になれます。
毎日がちょっと単調で薄曇りの天気のように感じてしまっている人にもオススメです。
ぜひ読んでみてね。