鹿児島県議選において買収があったとして元議員や住民らが逮捕起訴された裁判で,鹿児島地裁は全員に無罪を言い渡しました。
元県議ら12人全員無罪 鹿児島選挙違反事件で地裁判決(朝日新聞) - goo ニュース
なぜ逮捕までできた?
この事件,多くのブログやニュースなので紹介されていますので,改めて説明はしませんが,結果的には「アリバイあり」「自白は偏重された」「証拠不十分」ということで全員無罪となりました。
現在,検察庁が控訴するかどうか検討中のようですが,仮に控訴したとなるとこの争点を中心に高裁が改めて審理することになるため,どのような結果になるのかはまだ分かりません。ただ,検察側もよほどの証拠を用意しない限り,無罪をひっくり返すのは難しいのでは,という気がします。
ところで,このニュースを聞いて,例によって違った視点からの解説や思ったことなどを述べたいと思います。
1 なぜ逮捕,起訴できたか
そもそも,今回の裁判では,「逮捕後の取調べでの自白が不自然である」ことや,証拠不十分であることなどを理由に無罪としました。
ところが,被告人らは全員逮捕勾留の上で起訴されています。そして,逮捕勾留の場合には,必ず逮捕状,勾留状が必要であり,これは裁判官のチェックが入ります。その際,必ず証拠書類を警察が用意しなければなりません。
とすると,逮捕時には警察はそれなりの証拠を持っていた,といえるはずです。
しかし無罪になったとすると,この証拠がいい加減だったのか,誰が見ても分かるようなずさんな証拠なのに裁判官が許可してしまったのか,はたまた最初から捏造証拠だったのかなどなどいろんなパターンが考えられます。
検察庁もこの点をしっかりと検証しておく必要があるでしょう。
2 なぜ最初に自白してしまったのか
「なぜ捜査中に自白したのか」という点を不思議に思った人も多いと思います。
しかし,現在の警察の取り調べ方法は,いろいろありまして,時には駆け引きも必要となってきます。中には,違法な駆け引きも存在します。
よく使うのは,「他の共犯者が自供した」とか「自供すれば釈放する」などという誘導です。これによりうその自白をする場合があります。
また,警察の取調べは逮捕後は最大で23日間できます。しかも,実際は起訴後も結構取調べを行う場合があります。そして,勾留中は基本的に孤独です(共犯者や仲間とのコンタクトは取れません。)。そんな状態なので,ついつい捜査官の誘惑に乗ってしまうということも多いようです。
取調べのビデオ化が議論になっている背景には,このような「危ない取調べ」をチェックするためでもあるのです。
3 被告人の権利を削ってよいのか
最近では,被害者の権利を尊重する動きが出てきました。それ自体はいいことだと思います。
しかし,一方で,「被告人の権利が手厚すぎる」などという意見もかなりあり,被告人の権利保護をやめようという論調さえあります。
ところが,被告人の権利保護が手厚い理由が,まさに今回の無罪裁判に現れているのです。もし,被告人の権利が保護されていなければ,警察による自白強要や拷問などの発生,さらには裁判官も「お前,一度自白したのに無罪主張とはいい根性しているなあ」などという態度で裁判を臨むことなどなどが発生しうるため,この12人は有罪になった可能性すらあります。
もちろん,被害者よりも被告人が保護された事例は山ほどあります。しかし,憲法が保障した理由は,まさに「今回の12人の保護にある」という点を十分知った上で,議論をするべきではないでしょうか。
4 もしこれが裁判員だったら
前提として,公職選挙法違反は裁判員制度の対象外ではありますが,あえて議論の対象とします。
今回の事件,マスコミでもかなり報じられ,特に地元では大きな関心をもたれていました。また,警察も当然有罪論調の記者会見を連日発表していました。
そのような「有罪推定」の前提の中で,もし6人の一般市民が裁判員としてこの裁判に参加していたとしたら,果たしてどんな評決になったでしょうか。
これは検証できませんからなんともいえませんが,日本人の気質として「マスコミ報道を信じやすい」(納豆事件で立証済み),「警察発表は正しいものとして信じやすい」,裁判に被害者が参加することで裁判が浪花節になる(被害者中心の裁判になることで,この被告人が犯人かという議論よりも,とにかく被害者を助けようという議論に変わってしまう恐れがある)ことからすると,「推定有罪」という前提で裁判に臨みやすいのではないでしょうか。とすると,今回の件もひょっとしたら有罪となったかもしれません。
このあたり,今後の問題点としてさらに検証するべきかもしれません。
5 接見交通権って何?
この裁判をめぐっては,別途弁護士から「接見妨害があった」とする国家賠償請求訴訟が行われています。
ところで,この接見交通権って何か気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は,これは憲法でも保障された制度であり,被告人はいついかなる状態であっても弁護人と面会ができると認められています。これが接見交通権というものです。
今回の裁判では,検察官が理由をつけて接見に応じなかった,つまり面会ができなかったということから,弁護人たる弁護士が民事裁判により損害賠償請求をしているというものなのです。
こんなところです。
とにかく,まだ裁判は続く可能性があります。もし,継続した場合は高裁や最高裁がどのような判断をするのか,その点は注目に値するでしょう。
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TB先一覧
http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/2c7ec6fb36a74d53649673e390a52b3d
http://blog.goo.ne.jp/arusuran7409/e/bc928f60424ceb0d6be42f7c60540809
http://tetsu007.blog54.fc2.com/blog-entry-1420.html
http://kurumachan.seesaa.net/article/34577051.html
http://yaplog.jp/lawyaz-klub/archive/2071
http://blog.livedoor.jp/nob11/archives/50898244.html
http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/9c64ab274a93396a168cb3ac801e8b63
元県議ら12人全員無罪 鹿児島選挙違反事件で地裁判決(朝日新聞) - goo ニュース
なぜ逮捕までできた?
この事件,多くのブログやニュースなので紹介されていますので,改めて説明はしませんが,結果的には「アリバイあり」「自白は偏重された」「証拠不十分」ということで全員無罪となりました。
現在,検察庁が控訴するかどうか検討中のようですが,仮に控訴したとなるとこの争点を中心に高裁が改めて審理することになるため,どのような結果になるのかはまだ分かりません。ただ,検察側もよほどの証拠を用意しない限り,無罪をひっくり返すのは難しいのでは,という気がします。
ところで,このニュースを聞いて,例によって違った視点からの解説や思ったことなどを述べたいと思います。
1 なぜ逮捕,起訴できたか
そもそも,今回の裁判では,「逮捕後の取調べでの自白が不自然である」ことや,証拠不十分であることなどを理由に無罪としました。
ところが,被告人らは全員逮捕勾留の上で起訴されています。そして,逮捕勾留の場合には,必ず逮捕状,勾留状が必要であり,これは裁判官のチェックが入ります。その際,必ず証拠書類を警察が用意しなければなりません。
とすると,逮捕時には警察はそれなりの証拠を持っていた,といえるはずです。
しかし無罪になったとすると,この証拠がいい加減だったのか,誰が見ても分かるようなずさんな証拠なのに裁判官が許可してしまったのか,はたまた最初から捏造証拠だったのかなどなどいろんなパターンが考えられます。
検察庁もこの点をしっかりと検証しておく必要があるでしょう。
2 なぜ最初に自白してしまったのか
「なぜ捜査中に自白したのか」という点を不思議に思った人も多いと思います。
しかし,現在の警察の取り調べ方法は,いろいろありまして,時には駆け引きも必要となってきます。中には,違法な駆け引きも存在します。
よく使うのは,「他の共犯者が自供した」とか「自供すれば釈放する」などという誘導です。これによりうその自白をする場合があります。
また,警察の取調べは逮捕後は最大で23日間できます。しかも,実際は起訴後も結構取調べを行う場合があります。そして,勾留中は基本的に孤独です(共犯者や仲間とのコンタクトは取れません。)。そんな状態なので,ついつい捜査官の誘惑に乗ってしまうということも多いようです。
取調べのビデオ化が議論になっている背景には,このような「危ない取調べ」をチェックするためでもあるのです。
3 被告人の権利を削ってよいのか
最近では,被害者の権利を尊重する動きが出てきました。それ自体はいいことだと思います。
しかし,一方で,「被告人の権利が手厚すぎる」などという意見もかなりあり,被告人の権利保護をやめようという論調さえあります。
ところが,被告人の権利保護が手厚い理由が,まさに今回の無罪裁判に現れているのです。もし,被告人の権利が保護されていなければ,警察による自白強要や拷問などの発生,さらには裁判官も「お前,一度自白したのに無罪主張とはいい根性しているなあ」などという態度で裁判を臨むことなどなどが発生しうるため,この12人は有罪になった可能性すらあります。
もちろん,被害者よりも被告人が保護された事例は山ほどあります。しかし,憲法が保障した理由は,まさに「今回の12人の保護にある」という点を十分知った上で,議論をするべきではないでしょうか。
4 もしこれが裁判員だったら
前提として,公職選挙法違反は裁判員制度の対象外ではありますが,あえて議論の対象とします。
今回の事件,マスコミでもかなり報じられ,特に地元では大きな関心をもたれていました。また,警察も当然有罪論調の記者会見を連日発表していました。
そのような「有罪推定」の前提の中で,もし6人の一般市民が裁判員としてこの裁判に参加していたとしたら,果たしてどんな評決になったでしょうか。
これは検証できませんからなんともいえませんが,日本人の気質として「マスコミ報道を信じやすい」(納豆事件で立証済み),「警察発表は正しいものとして信じやすい」,裁判に被害者が参加することで裁判が浪花節になる(被害者中心の裁判になることで,この被告人が犯人かという議論よりも,とにかく被害者を助けようという議論に変わってしまう恐れがある)ことからすると,「推定有罪」という前提で裁判に臨みやすいのではないでしょうか。とすると,今回の件もひょっとしたら有罪となったかもしれません。
このあたり,今後の問題点としてさらに検証するべきかもしれません。
5 接見交通権って何?
この裁判をめぐっては,別途弁護士から「接見妨害があった」とする国家賠償請求訴訟が行われています。
ところで,この接見交通権って何か気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は,これは憲法でも保障された制度であり,被告人はいついかなる状態であっても弁護人と面会ができると認められています。これが接見交通権というものです。
今回の裁判では,検察官が理由をつけて接見に応じなかった,つまり面会ができなかったということから,弁護人たる弁護士が民事裁判により損害賠償請求をしているというものなのです。
こんなところです。
とにかく,まだ裁判は続く可能性があります。もし,継続した場合は高裁や最高裁がどのような判断をするのか,その点は注目に値するでしょう。
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http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/2c7ec6fb36a74d53649673e390a52b3d
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http://blog.livedoor.jp/nob11/archives/50898244.html
http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/9c64ab274a93396a168cb3ac801e8b63
9行目
>交際が改めて審理することになるため
高裁ですね。
確かに権力は横暴になるもの,だからこそ憲法というものがあるのです。
ところが,最近では「横暴を追認」するための改正すら検討しようとしています。憲法改正を議論する場合は,常にこのような「横暴を抑制する」という視点を忘れずに検討したいものですね。
誤変換情報ありがとうございました。今後も気を引き締めて書いていきたいと思います。
そして、ほかにも数あると思う冤罪事件を見逃し、許してきた日本社会にも問題があるようにも思えます。
親、教師、上司、先輩、年長者、お役所は偉くて、その人たちのいうことやすることはすべて正しいと教えられてきた我が日本国民。日本の民主主義というのは、見せ掛けのように思えてなりませんね。
冤罪は絶対に阻止しなければなりませんよね。
ただ,一方で,「被告人の権利が厚すぎる」とか「なんで弁護人が被告人につくんだ」,さらには「弁護人の主張はおかしい」などという「推定有罪論者」がまだまだ多いのではないでしょうか。
その背景として,おっしゃるとおりの「お上依存」体質もあると思います。ただ,マスコミの報じ方が日和見的であることや,憲法それ自体を日本人が実は理解していないと言う点にも問題がありそうな気がします。