さあて、忙しい。農作業が忙しい。苗を植えたばかりでは育たない。愛情を注いで回るので忙しい。咲き終わった春の花々の手入れも忙しい。後片付けも忙しい。お礼の施肥も忙しい。温かくなって虫が這い回るようになって来た。殺虫剤を撒くので忙しい。
やだやだやだ。やたらするべき事が目に付く。じっとしていられなくなる。これがそれ、その「持てる者の苦悩」とやら。花も野菜も育てていないとこんな煩わしさもないのにと思う。ま、しかし、これが楽しいこと。あれやこれやしていると、暇潰しが出来る。厄介事が半分、いいこと半分か。
世間様の財産の無所有と所有もきっとこんなものだろう。楽しんだ時節が過ぎてしまえば、後は水の流れ。永久保存というものはない。折々、折々。人生の折々を楽しんでそれでおしまい。それでいいのだろう。
庭に一群れの芍薬が咲き出した。赤い蕾から赤い花が開き、風に吹かれている。神秘の扉が開いたかのようだ。小葱は枯れ始めた。枯れて衰えて生涯を閉じていく。根株を引いて納戸の陰に保存する。みな身を細めていかにも死んだようにしている。秋口になってまたこれを土に挿すと、彼らはそこで息を吹き返す。