知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「明りょうでない記載の釈明」に一応該当するとした事例

2012-10-21 19:44:22 | 特許法134条の2
事件番号 平成23(行ケ)10263
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治
旧特許法134条の2第1項ただし書3号所定の「明りょうでない記載の釈明」

(2) 判断
ア 訂正事項2は,本件明細書の段落【0015】中の「,エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸(EDTPO),ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)」を削除したものである。
・・・
(イ) 化学辞典等によると,「コンプレクサン」の意味については,① ・・・(岩波理化学辞典第3版,化学大辞典3),②・・(入門キレート化学),③ ・・・(第3版化学用語辞典),④・・・(標準化学用語辞典)とがあり,これらによると,当業者間で「コンプレクサン」の意味が一義的に明確であるとはいえない
 なお,「大辞泉 第1版」(甲2)には,「コンプレクサン」はキレート試薬の総称であるとの記載があるが,これは一般向けの説明にすぎず,当業者がこれに基づいて「コンプレクサン」の意味を理解するとは認め難く,同辞典に基づいて「コンプレクサン」の意義を確定することは相当ではない。
・・・
(ウ) 上記辞典等の説明をも参酌して,本件明細書の段落【0015】記載の化合物につき検討すると,・・・。したがって,訂正事項2により,上記ホスホン酸の2つの化合物を削除したとしても,段落【0015】に列挙された化合物には,・・・,上記①ないし④の「コンプレクサン」のいずれの説明とも符合しない化合物が含まれている
 以上によると,訂正事項2により,本件明細書の段落【0015】に例示された化合物から,本件明細書における「コンプレクサン」の意義が明確になるとまではいえない。しかし,訂正事項2は,少なくとも上記①ないし④の「コンプレクサン」には該当しない化合物を一部削除するものであるという点では,旧特許法134条の2第1項ただし書3号所定の「明りょうでない記載の釈明」に,一応該当するといえる。
・・・
 なお,上記のとおり,本件明細書の段落【0015】の記載は,コンプレクサン化合物の例示にすぎないのであるから,訂正事項2に係る訂正によって,本件発明の要旨に変更を来すものとはいえない。以上を前提として,以下の取消事由の判断においては,本件訂正明細書の記載に基づいて,検討することとする。

動機付けがなく、阻害事由があるとした事例

2012-10-21 19:10:03 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10320
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明

そもそも,引用発明は,上記のとおり,分岐先アドレスを出力することで,出力される実行情報の量を抑制することを目的とするものであるから,引用発明において,この目的を達成することが可能なアドレス計算部の出力する分岐先アドレスを用いるのに代えて,実行する命令のアドレス全てを出力するとの構成に至る動機付けがない

 むしろ,引用文献1の上記記載によれば,引用発明は,内蔵キャッシュがヒットしている場合,命令の実行状況がマイクロプロセッサのアドレスバスやデータバスに出力されない構成である上,常にマイクロプロセッサの実行情報をプロセッサの外部に出力することは,バスの競合が発生し,マイクロプロセッサの性能の低下を招くとの認識を前提としており,引用発明において,実行する命令のアドレス全てを出力するように構成することには,阻害事由があるといえる・・・

複製権及び譲渡権の取得時効

2012-10-20 22:24:42 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)36664
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年09月27日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史、石神有吾

(2) 複製権及び譲渡権の取得時効について
 被告寿屋は,被告寿屋が,著作権の譲渡契約を原因として,昭和52年初めころから平成22年3月ころまで本件各イラストを被告寿屋の商品のパッケージに継続して使用し,自己のためにする意思をもって,平穏かつ公然に著作物である本件各イラストについて継続して複製権及び譲渡権を行使したから,上記使用開始時から10年を経過した昭和62年初めころ又は20年を経過した平成9年初めころ,上記複製権及び譲渡権の取得時効が成立した旨(前記第3の3(2))主張する。

 ところで,複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2第1項)は,民法163条にいう「所有権以外の財産権」に含まれるから,自己のためにする意思をもって,平穏に,かつ,公然と著作物の全部又は一部につき継続して複製権又は譲渡権を行使する者は,複製権又は譲渡権を時効により取得することができるものと解されるが,時効取得の要件としての複製権又は譲渡権の継続的な行使があるというためには,著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利又は譲渡する権利を専有する状態,すなわち外形的に著作権者と同様に複製権又は譲渡権を独占的,排他的に行使する状態が継続されていることを要するものというべきであり,また,民法163条にいう「自己のためにする意思」は,財産権の行使の原因たる事実によって外形的客観的に定められるものであって,準占有者がその性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権を行使しているときは,その財産権の行使は「自己のためにする意思」を欠くものというべきである(複製権につき,最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決民集51巻6号2714頁参照)。


 以上を前提に検討するに,被告寿屋は,被告紙パック又は被告寿屋が,「著作権の譲渡契約を原因として」,本件各イラストを被告寿屋の商品のパッケージに継続して使用した旨主張するが,前記(1)認定のとおり,原告が本件各イラストの著作権について譲渡契約を締結したことは認められないから,被告紙パック又は被告寿屋が,「著作権の譲渡契約を原因として」,本件各イラストの使用を開始し,これを継続したものということはできない。かえって,被告寿屋は,原告が,本件各イラストの原画(本件原画)を基に制作された被告イラスト・・・を被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾したことに基づいて,被告紙パックから納品を受けた上記各イラストが付された本件カートン・・・に箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始し,これを継続したものであるから(前記1(2)ウ,(3)ア),被告寿屋においては,その性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権(複製権又は譲渡権)を行使したものであり,「自己のためにする意思」を欠くものといえる。
 また,被告寿屋が,本件各イラストについて他者に利用許諾をして許諾料を得たり,他者による本件各イラストの利用の差止めを求めるなど,外形的に著作権者と同様に複製権又は譲渡権を独占的,排他的に行使していたことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はない。

均等論第2要件の判断事例

2012-10-17 22:28:12 | 特許法その他
事件番号 平成24(ネ)10035
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年09月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 部眞規子、裁判官 井上泰人、齋藤巌

イ 第2要件
 前記のとおり,本件発明1は,従来方法では,各視線上に位置するボクセル毎の色度及び不透明度を互いに積算する演算過程の高速化を図るために,一部のボクセルに関するデータを間引いて演算を行っていたため,可視化した画像において,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現することができなかったことに鑑みて発明されたものである。本件発明1は,・・・「全ての前記平面座標点毎の色度および不透明度を該視線毎に互いに積算する」ことにより,・・・,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現しつつ,相異なる生体組織を明確に区別することが可能な可視画像を生成し得る医療用可視画像の生成方法を提供することを目的とするものである。

 これに対し,被告方法においては,・・・積算処理は・・・閾値に達した時点で打ち切られるため,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現する観点からは,画質に対して悪い影響を与えるものである。被告方法による可視画像の生成は,本件発明1の方法によるほど生体組織を明確に区別するという作用効果を奏するものとはいえないものと解される。

 したがって,被告方法は,本件発明1の目的を達し,同一の作用効果を奏するとまではいえないものであるから,均等の第2要件を欠くものである。

均等論第5要件の判断事例

2012-10-17 22:23:05 | 特許法その他
事件番号 平成24(ネ)10035
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年09月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 部眞規子、裁判官 井上泰人、齋藤巌


ウ 第5要件
(ア) 前記(1)のとおり,本件明細書によれば,従来技術は一部のボクセルに関するデータを「間引いて」演算を行っていたため,可視化した画像において,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現することができなかったことから,上記課題を解決する手段として,本件発明1は,「全ての」前記平面座標点毎の前記色度及び前記不透明度を該視線毎に互いに積算し,当該積算値を当該各視線上の前記平面座標点に反映させることを特徴とするものである(【0006】~【0008】)。

 仮に控訴人が主張するように,従来技術に係る「間引いて」の反対語が「間引かずに」ということであれば,出願人において特許請求の範囲に「間引かずに」と記載することが容易にできたにもかかわらず,本件発明1の特許請求の範囲には,あえてこれを「全て」と記載したものである。このように,明細書に他の構成の候補が開示され,出願人においてその構成を記載することが容易にできたにもかかわらず,あえて特許請求の範囲に特定の構成のみを記載した場合には,当該他の構成に均等論を適用することは,均等論の第5要件を欠くこととなり,許されないと解するべきである。
(イ) 以上のとおりであるから,仮に控訴人の主張を前提とすると,客観的にみて,意識的に「全て」に限定したものと解され,均等の第5要件も充足しないこととなる。

新規事項の追加であるとした事例

2012-10-14 21:35:31 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10351
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子、田邉実

 本件補正は,請求項1の特許請求の範囲に,一対の冷蔵室扉のうちのいずれか一方の後面(背面)に製氷室を取り付けるとの限定を加えるものであるが,願書に添付された当初明細書(甲1)の発明の詳細な説明には,冷蔵室扉よりも後方(内側)に位置する冷蔵室の内部に製氷室を設けることが記載されているのみで,扉自体に製氷室を内蔵させることは記載も示唆もない。また,当初明細書に添付の図面を見ても,扉自体に製氷室を内蔵させる構成を見て取ることができない

 この点,原告は,当初明細書の段落【0019】,【0020】中で,かかる技術的事項(限定事項)が開示されていると主張するが,段落【0019】には,「前記製氷室は,前記冷蔵室の内部に着脱可能に設けられる。」と記載されているのみで,冷蔵室扉自体に製氷室を内蔵させる構成が含意されていると見るのは困難である。
 段落【0020】にも,「前記扉の一側には,前記製氷室が備えられる。」との記載があるが,この1文に引き続いて,「前記冷蔵室を開閉する扉は,それぞれ異なる幅を有する。前記冷蔵室を開閉する複数の扉の先端には,それぞれガスケットが備えられ,扉が閉まった時,相互密着される。」との記載があることにかんがみると,上記「前記扉の一側」との文言も,冷蔵室の一対(複数)の扉相互間で構造に違いがあることに着目した表現であるとみるのが合理的であって,単に一対の扉のうちの片方の側(より正確にはこの片方の扉の後方(内側))に製氷室が位置することを意味するものにすぎないというべきである。したがって,上記「前記扉の一側」が冷蔵室の扉の後面(内側の面)を指すとか,上記段落が冷蔵室扉自体に製氷室を内蔵させる構成を意味するということはできない

 さらに,当初明細書の発明の詳細な説明に係る段落【0026】,【0031】,【0056】,【0060】,【0074】には,・・・。これら発明の詳細な説明の記載に照らしても,扉自体に製氷室を内蔵させる構成が新たな技術的事項の導入でないと認めることはできない。
 結局,本件補正は当初明細書及び図面に記載された事項の範囲を超えた新たな技術的事項を追加するもので,当初明細書及び図面に記載された事項の範囲内でされたものではない・・・。

組み合わせに特徴がある両成分の一方を機能の共通する別の成分に置き換えること

2012-10-14 19:19:50 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10005
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、古谷健二郎
特許法29条2項

 引用発明Aは,有効成分としてビタミンC又はその誘導体を用いる場合に特有の問題点を解決するために,そのような目的に適する架橋剤を限定したものであって,特定の有効成分と架橋剤の組み合わせに特徴があるパップ剤である。
 そして,引用例B(・・・)に,グルコサミンとビタミンC(L-アスコルビン酸)はともに代表的な美白剤として従来から知られていることが開示されているとしても,グルコサミンは,ビタミンCと化学構造等の理化学的性質が類似するわけではないから,パップ剤中での金属架橋剤との相互作用が同様であるとは考えられない

 したがって,ともに美白剤として知られているというだけで,当業者にとって,引用発明Aの有効成分であるビタミンC又は誘導体をグルコサミンに変更することが容易に想到し得るとはいえず,取消事由2は理由がある

先使用による通常実施権を認めた事例

2012-10-14 19:11:56 | 特許法その他
事件番号 平成23(ワ)29049
事件名 特許権に基づく製造販売差止等請求事件
裁判年月日 平成24年09月20日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 高野輝久、裁判官 志賀勝、高野輝久
特許法79条

(4) サンテック用スカーフカッターに係る発明は,本件発明と同一の発明であると認められるところ,その発明をした被告の従業員を具体的に特定することはできないものの,被告はその発明をした従業員からこれを知得して,本件特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしていたものである。そして,被告が当時本件発明の内容を知っていたこと窺わせるような証拠は全くないから,このことに鑑みれば,被告は,本件発明の内容を知らないでその発明をした従業員からこれを知得したものと認められる。
そうすると,被告は,本件特許権について,先使用による通常実施権を有する。

アンケート調査による商品表示の類似の裏付け

2012-10-14 18:46:59 | 不正競争防止法
事件番号 平成23(ワ)12566
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成24年09月20日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康、西田昌吾
不正競争防止法2条1項1号又は2号

 原告は,昭和29年10月30日,「正露丸」の商標登録をしたが,同商標登録に係る商標登録無効審判についての審決取消訴訟において,同商標登録は無効とされた。
 その理由は,遅くとも原告が上記商標登録をした当時,「正露丸」は,本件医薬品の一般的な名称として国民の間に広く認識されていたこと,ごく普通の書体で「正露丸」の文字に「セイロガン」の文字を振り仮名のように付記したにすぎない上記商標は,商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示したにすぎない標章であるということによる。
以上の事実によると,「正露丸」は,本件医薬品の名称として,遅くとも昭和29年ころまでに,普通名称となっていたということができる。

(2)「正露丸」の名称で本件医薬品を製造販売する他社の存在
平成18年当時,「正露丸」又は「SEIROGAN」の名称で本件医薬品の製造販売を行っていた業者は原告及び被告の他に少なくとも10社以上存在し,それらの商品の包装箱は,いずれも直方体であり,包装箱全体の地色が橙色である点で共通していた。
・・・
 原告は,原告各表示と被告各表示が類似することなどを裏付ける証拠として,インターネットを用いたアンケート結果に係る書証(甲59ないし62)を提出している。

 これらの書証によれば,原告が実施したアンケート結果の概要は,要するに,○1 回答者らに対し,被告商品(被告表示2の正面)を示して認識の有無等について質問した後,○2 認識していると回答した約8割の回答者らに対し,原告商品を含むその他の本件医薬品の包装を見せて確認したところ,そのうちの約9割の者が原告商品と誤認していたというものである。

 そこで検討すると,上記アンケートの回答者らが,前記1の各事実,すなわち「正露丸」が単なる一般名称にすぎないこと及び原告以外にも本件医薬品を製造販売する業者が多数存在することなどを認識していたかについては全く明らかでない。そうすると,上記アンケートは,前記1の各事実を知らない回答者らが,被告表示2を見て本件医薬品に係る包装であると認識し,そこから本件医薬品に係る市場において大きな市場占有率を有する原告ないし原告商品を想起したにすぎないとみることも十分に可能である。
 したがって,上記アンケート結果が被告各表示について原告各表示と類似することなどを裏付けるものであるとはいえない


被告表示 原告表示

動機付けを否定した事例

2012-10-14 17:37:07 | 特許法29条2項
事件番号  平成23(行ケ)10398
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 部眞規子、裁判官 井上泰人、齋藤巌
特許法29条2項

ア 本願発明は,「この管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあり,前記圧力容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある」ものであるから,「エジェクター」と「噴霧装置」とを併用するものである。他方,引用発明は,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジェクターに替えて,エジェクターより接触反応器の構造が簡単で安価なスプレーノズルを用いるものであるから,スプレーノズルは,エジェクターの代替手段である。
 そうすると,引用発明において,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジェクターを敢えて用いようとする動機付けがあるとはいえない

イ また,仮に,引用発明にエジェクターを適用する動機があるとしても,スプレーノズルがエジェクターの代替手段であるから,その場合は,引用発明におけるスプレーノズルに替えてエジェクターを適用することになるところ,引用発明には,本願発明のようにエジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することの示唆や動機付けがあるとはいえない

優先権主張の取り下げによる翻訳文提出期間の延長の主張

2012-10-14 17:21:02 | Weblog
事件番号 平成24(行コ)10002
事件名 決定処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成24年09月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子、齋藤巌
特許法184条の4第1項

1 控訴人は,要旨,パリ条約に基づく優先権を主張する国際出願の場合,優先権主張が有効か無効か確定しなければ,優先権を主張する国際出願の優先日を確定することはできず,その結果,国内書面や翻訳文の提出期限も決定していないことになると主張し,これを前提として,平成22年1月22日の特許庁長官に対する本件取下書の提出によって,平成19年1月23日を優先日とする優先権主張が取り下げられた結果,本件出願に係る優先日は,本件国際出願の日である平成20年1月23日に繰り下がり,これに伴い,本件出願についての国内書面提出期間の満了日も平成22年7月23日に繰り下がるから,本件出願は法184条の4の要件を満たす合法的な出願であり,本件各処分は違法である旨主張する。

 しかしながら,そもそも,パリ条約に基づく優先権の主張を伴う国際出願において,優先日は,期間の計算上,優先権の主張の基礎となる出願の日をいうのであり(特許協力条約2条(.)(a)),当該優先権の主張が有効であるか否かといった,指定官庁における国際出願の実体審査の結果によって,左右される性質のものではない

 このように,優先日の判断が指定官庁における国際出願の実体審査の結果に左右されるものでないことは,特許協力条約23条が,指定官庁は,同条約22条に規定する国際出願の翻訳文提出期間の満了前に,当該国際出願について実体審査を行うことを禁じ,国際出願の翻訳文提出期間が指定官庁における実体審査の開始前に設定されていることや,法184条の17が,外国語特許出願については,法184条の4第1項の規定よる翻訳文提出手続をした後でなければ,出願審査の請求(特許法48条の3)をすることができないと規定し,特許庁における実体審査を開始する条件として,同法所定の期間内に翻訳文提出手続を完了させることを要求していることからも明らかであり,この点に関する控訴人の主張は採用できない。

関連事件判決 平成24(行コ)10001  平成24(行コ)10003


下級審(関連)判決
平成23(行ウ)542
平成23(行ウ)535

記載されていないが当業者が当然に認識する課題

2012-10-14 11:06:41 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10022
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人、荒井章光
特許法29条2項

イ この点について,被告は,本件考案は,請求項1考案又は請求項2考案の構成に,脚部の構成を有機的に組み合わせた構成を採用する点に特徴を有するものであって,単に周知技術を組み合わせたものではない,本件考案における脚部は,隙間から手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ操作を楽に行うという本件明細書に記載された格別の効果を奏するための重要な意義を有するものであるなどと主張する

 しかしながら,周知例1ないし3により開示された靴載置用板材においても,本件考案と同様に,床面との間の隙間に手を入れて靴載置用板材の跳ね上げ操作を楽に行うことができるものであることは,先に述べたとおりであって,周知技術における脚部においても同様の効果を奏するものということができる。したがって,被告が強調する「脚部間の隙間に手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ姿勢を楽に行う」との効果は,脚部を採用したことに伴う格別の作用効果といえるものではないというべきである。

 のみならず,仮に,周知例1ないし3が脚部を採用した目的と本件考案が脚部を採用した目的とが異なるとしても,靴載せ部を支持する構成として,「脚部」の構成が周知技術である以上,その適用が必ずしも困難であるということはできない。すなわち・・・。本件明細書には,脚部を採用した効果について,隙間から手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ操作を楽に行うことのみしか記載されていないが,本件考案において,脚部を設けなければ,靴載せ部を形成した板状部材が下方に収納した靴に接触することにより,下方に収納した靴が破損したり変形したりするおそれがあることは明らかであって,当業者が,そのような課題を認識し,これを解決すべき手段を検討することは,むしろ当然である
 そうすると,脚部を採用することにより生じる効果は,上下に目的物を収納する棚板における普遍的な効果(目的物の取り出し時に棚板を跳ね上げやすくするため及び下方に収納した目的物と棚板との接触を防止するために棚板と床面との間に隙間を生じさせること)にすぎないものというほかない。

発明の要旨の認定-発明特定事項の技術的意義の認定事例

2012-10-09 23:44:30 | 特許法70条
事件番号 平成23(行ケ)10405
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、古谷健二郎
特許法70条2項、特許法29条2項

1 取消事由1(補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定についての誤り)について
(1) 審決の当否について
 栞本体の形状に関して,補正後の請求項1には,「折山を有する折り曲げ可能な縦長状」のものであること,及び,「前記栞本体は前記折山によって二分された」ものであることが特定されている。これらの発明特定事項の技術的意義は一義的に明確で,誤記も存在しない。したがって,本願明細書や図面を参酌すべき特段の事情は存在しないから,補正発明の要旨は,原則どおり,特許請求の範囲の記載,すなわち本件補正後の請求項1の記載に基づいて認定すべきものである。そうすると,補正発明と引用発明とを対比する際,補正後の請求項1に記載された発明特定事項との関係において構成の異同を認定すれば足り,そこに記載されていない事項を考慮する余地はない。
 審決は,補正後の請求項1に記載された発明特定事項との関係において,栞本体につき「補正発明は『折山を有する折り曲げ可能な縦長状の』及び『折山により』二分され,と特定されているのに対し,引用発明は,湾曲部を有し,湾曲部で短延面(2)と長延面(3)が区分されているものの,補正発明のような折山を有するものとはいえず,折り曲げ可能な縦長状のものともいえない点」を相違点1として挙げている。この相違点1の認定は,特許請求の範囲の記載に則ったものであり,審決の認定に違法はない。

特許発明の用語の意義の解釈事例

2012-10-08 22:59:31 | 特許法70条
事件番号 平成23(行ケ)10253
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳、武宮英子
特許法70条1項、特許法29条2項

ア 本願明細書の請求項1の記載は,上記第2の2のとおりであり,その「リン光ドーパント材料」の「リン光」については,「黄燐を空気中に放置し暗所で見るときに認められる青白い微光」等の意味があり(甲9),一義的に定まらないから,その技術的意義は,本願明細書の発明の詳細な説明を参照して認定されるべきである。そして,上記(1) 認定の事実によれば,本願明細書の段落【0016】に「用語“リン光”は有機分子三重項励起状態からの発光を称し」(上記(1)ア )と記載されることから,本願発明の「リン光」とは,有機分子の三重項励起状態のエネルギーから直接発光する現象を指すものと理解され,この解釈は,当該技術分野における一般的な用法(同ウ)に沿うものである。
 ・・・
 一方,引用発明の発光材料は,・・・と記載されることから(上記(1)イ ),三重項励起子のエネルギーを希土類金属イオンに移行させ,当該イオンの励起状態から発光させるものであって,三重項励起状態のエネルギーを直接発光させるものではないと解される。そうすると,引用発明における発光は,本願明細書で定義され,当該技術分野における一般的な用法による「リン光」と同義とはいえない。
 ・・・
 上記アのとおり,引用発明は,三重項励起子エネルギーを希土類金属イオンに移行させて発光するという機構に基づく発光素子であるのに対して,本願発明は,当該技術分野で通常用いる意味での「リン光発光材料」の発光分子上で励起子を直接捕捉するものであるから,両者の発光機構は異なる。また,上記(1)イ 認定の事実によれば,引用発明の構成が,導電性有機材料及び希土類金属の有機金属錯体が使用された発光素子において,発光効率が高くかつ有効寿命の長い有機エレクトロルミネッセント素子を提供することを目的として採用されたものであり,当該素子に特有の構成であるから,引用例1において,その発光材料を,別の発光機構のものに変更する動機付けはないというべきである。

発明の技術的範囲の解釈事例

2012-10-08 20:54:23 | 特許法70条
事件番号 平成23(ネ)10074
事件名 特許権侵害不当利得返還請求控訴事件
裁判年月日 平成24年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香、知野明

 原判決は,被告両製品は,本件発明の構成要件Aを充足しているとは認められず,本件発明の技術的範囲に属するものとはいえないとして,原告の請求を棄却し,これに対し,原告がこの判断を不服として控訴したものであるが,本件においては,原審段階から,構成要件Aの充足性のみならず,構成要件Eの充足性が争点となっていた。
 当裁判所は,被告両製品は,本件発明の構成要件Eを充足せず,本件発明の技術的範囲に属さないから,本件控訴は理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。
 その理由は,以下のとおりである。

1 構成要件Eの解釈
 本件発明の構成要件Eは
「該成分(a)及び(b)は,該成分(a)における酸基または酸誘導体基が該成分(b)の微粉状の反応性充填剤とイオン的に反応し,セメント反応を受け得るように選ばれることを特徴とする重合可能なセメント混合物
というもの
である。この点,本件発明に係る明細書の「本発明は,一方では歯及び骨基質に対する良好な接着力及び組織適合性のような,ポリカルボン酸とサリチレートとを主成分とするセメントの本質的に有利な特徴を有し,他方では低い溶解性と大きな機械的強度のような,複合材料の有利な特徴を有し,複合材料と共重合することができ,はっきりした分野現象(判決注・「分解現象」の誤記と解される。)を示さない新規な歯科用混合物を開発すると云う課題に基づいている。」(甲2・4頁7段33行~39行)との記載に照らすと,構成要件Eにおいて,「成分(a)」は,その不飽和部分により互いに重合可能であるとともに,その酸基又は酸誘導体基が成分(b)とセメント反応をなすように選択されたものであることを要すると解される
 以下,被告両製品が,上記構成要件Eを充足するか否かについて検討する。
 ・・・
(4) 以上のとおり,被告両製品と本件発明は,歯科用アイオノマー系樹脂液体成分へのアプローチとしては別のタイプに分類される技術に基づいており,被告両製品は,エステル化反応を必要とせずに硬化するものであり,その液体成分中で経時的にエステル化が生じることがあるとしても,それは本来意図された反応ではなく,二重結合を有するポリカルボン酸は偶発的に生じた不純物にすぎないものといえる。そうすると,被告両製品は,偶発的にエステル化し,二重結合を有するポリカルボン酸が生ずる可能性があるとしても,その不飽和部分が互いに重合可能であるとともに,その酸基又は酸誘導基が成分(b)とセメント反応をなすように選択された成分(a)を含むものとはいえず,本件発明の構成要件Eを充足しない

原審 東京地方裁判所 平成20年(ワ)第32331号