知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

複製権及び譲渡権の取得時効

2012-10-20 22:24:42 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)36664
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年09月27日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史、石神有吾

(2) 複製権及び譲渡権の取得時効について
 被告寿屋は,被告寿屋が,著作権の譲渡契約を原因として,昭和52年初めころから平成22年3月ころまで本件各イラストを被告寿屋の商品のパッケージに継続して使用し,自己のためにする意思をもって,平穏かつ公然に著作物である本件各イラストについて継続して複製権及び譲渡権を行使したから,上記使用開始時から10年を経過した昭和62年初めころ又は20年を経過した平成9年初めころ,上記複製権及び譲渡権の取得時効が成立した旨(前記第3の3(2))主張する。

 ところで,複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2第1項)は,民法163条にいう「所有権以外の財産権」に含まれるから,自己のためにする意思をもって,平穏に,かつ,公然と著作物の全部又は一部につき継続して複製権又は譲渡権を行使する者は,複製権又は譲渡権を時効により取得することができるものと解されるが,時効取得の要件としての複製権又は譲渡権の継続的な行使があるというためには,著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利又は譲渡する権利を専有する状態,すなわち外形的に著作権者と同様に複製権又は譲渡権を独占的,排他的に行使する状態が継続されていることを要するものというべきであり,また,民法163条にいう「自己のためにする意思」は,財産権の行使の原因たる事実によって外形的客観的に定められるものであって,準占有者がその性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権を行使しているときは,その財産権の行使は「自己のためにする意思」を欠くものというべきである(複製権につき,最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決民集51巻6号2714頁参照)。


 以上を前提に検討するに,被告寿屋は,被告紙パック又は被告寿屋が,「著作権の譲渡契約を原因として」,本件各イラストを被告寿屋の商品のパッケージに継続して使用した旨主張するが,前記(1)認定のとおり,原告が本件各イラストの著作権について譲渡契約を締結したことは認められないから,被告紙パック又は被告寿屋が,「著作権の譲渡契約を原因として」,本件各イラストの使用を開始し,これを継続したものということはできない。かえって,被告寿屋は,原告が,本件各イラストの原画(本件原画)を基に制作された被告イラスト・・・を被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾したことに基づいて,被告紙パックから納品を受けた上記各イラストが付された本件カートン・・・に箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始し,これを継続したものであるから(前記1(2)ウ,(3)ア),被告寿屋においては,その性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権(複製権又は譲渡権)を行使したものであり,「自己のためにする意思」を欠くものといえる。
 また,被告寿屋が,本件各イラストについて他者に利用許諾をして許諾料を得たり,他者による本件各イラストの利用の差止めを求めるなど,外形的に著作権者と同様に複製権又は譲渡権を独占的,排他的に行使していたことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はない。