知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

一部の構成要件が実施できない場合

2007-09-29 19:12:54 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10511
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『1 取消事由1(本願発明の内容の認定の誤り)について
 原告は,審決が,「デジタルコンテンツを,・・・コンテンツ提供者が望む再生内容を表す再生ルールに従って関連付けて編集する」というような,本願発明を把握する上で重要な規定を除外して,本願発明の把握を行っており,本願発明の認定を誤ったものであると主張する
 しかしながら,審決の本願発明の認定は,原告の主張する「デジタルコンテンツを,・・・コンテンツ提供者が望む再生内容を表す再生ルールに従って関連付けて編集する」との部分を含め,特許請求の範囲の請求項1に基づいてなされており(審決書1頁下から7行~2頁12行),この本願発明の認定に誤りがないことは明らかである。

 したがって,原告の上記主張は,審決の本願発明の認定に関するものではなく,審決が,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項のいわゆる実施可能要件を具備するか否かを判断するに当たり,その前提として,本願発明に係る発明特定事項を「請求項1の記載からは,複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムとを一つの時間帯に一斉に配信すること,制御プログラムの実行環境を形成して実行することにより,複数種類のデジタルコンテンツのいずれかを選択して再生すること,を発明を特定する事項として把握することができる」(審決書6頁12行~15行)とした点を誤りであると主張するものであると解される

 しかるところ,1個の発明は,通常,まとまりのある複数の部分に区分することができ,この場合には,区分されたそれぞれのまとまりのある部分を構成する各構成要件が,それぞれの部分を特定する発明特定事項となるところ,そのようにして特定された各部分は,必ずしも,特許出願人又は特許権者が,当該発明において重要と考える構成要件を含むものとは限らないが,そのような構成要件を含むと否とに関わらず,一つでも実施可能ではない部分があれば,当該発明は,全体として実施可能でないことになる

 本件についていえば,審決が特定した発明特定事項は,「複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムとを一つの時間帯に一斉に配信すること,制御プログラムの実行環境を形成して実行することにより,複数種類のデジタルコンテンツのいずれかを選択して再生すること」というものであり,これに,原告の挙げる「デジタルコンテンツを,・・・コンテンツ提供者が望む再生内容を表す再生ルールに従って関連付けて編集する」との要件が含まれていないとしても,この発明特定事項によって特定される部分が実施可能でなければ,本願発明全体が実施可能でないことになることは明らかである。

 そして,審決は,上記発明特定事項によって特定される部分が実施可能でないと判断するものであるところ,そうであれば,他の発明特定事項(例えば,原告の挙げる要件を含む発明特定事項)によって特定される部分が実施可能であるか否かは,審決の結論に影響を及ぼすものではないから,当該他の発明特定事項によって特定される部分を摘示し,これについて,実施可能であるか否かを判断する必要がないことも明白である。』

『そして,原告は,この点に関して,「MPEG-4」ないしその規格である「BIFS」,「Flash」,「JavaApplet」,「JavaScript」,「ActiveX」,「SMIL」等の規格又は技術を挙げ,これらの技術は,プログラムのファイルサイズが小さく,実行環境の形成に要する時間も短いから,受信装置がデジタルコンテンツを受信して再生が可能となるまでには,すでにプログラムが実行されていることが,本件特許出願当時の技術水準であったことを示すものであると主張する
 
 しかしながら,これらの技術事項が,本件特許出願日である平成13年8月7日当時において,技術水準を形成しており,したがって,当業者にとって自明な事項であるとの点につき,当事者間に争いがあれば,立証を要することはいうまでもなく,また,この場合に立証責任を負う者は,出願人(原告)であるものと解すべきであるところ,本件において,この点に関して提出されている証拠は,・・・のみである。
 ・・・
 すなわち,上掲各証拠によっても,甲第5号証に記載された技術事項が,本件特許出願日当時,公知であったと認められるのみである。
 ・・・
 そうすると,仮に,甲第5号証に記載された公知の技術事項が,本件特許出願日当時の技術水準を示すものであったとしても,本願発明の制御プログラムのファイルサイズが数10バイト~数kバイト以下である点,制御プログラムが受信された後,実行環境が形成されるまでの時間は,一般には数ミリ秒以下である点,制御プログラムと複数のデジタルコンテンツとを多重化して配信した場合,受信装置では,ほとんど例外なく,デジタルコンテンツが再生可能になる前に制御プログラムによる実行環境は形成されている点が,本件特許出願日当時の技術水準であり,当業者にとって自明な事項であったと認めることはできない。』

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