知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許権侵害行為が継続し,そのために損害も継続して発生する場合

2010-08-15 18:54:43 | Weblog

事件番号 平成19(ネ)10032
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年07月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

(2)ア 被告は,平成18年1月1日以降の期間の原告の損害賠償請求につき,平成21年2月19日付け訴え変更申立書が送達された日(平成21年2月23日)までに,消滅時効が完成した部分がある旨主張し,消滅時効の抗弁を出している
 本件のように,特許権侵害行為が継続して行われ,そのために損害も継続して発生する場合においては,損害の継続・発生する限り,日々新しい不法行為に基づく損害として,各損害を知った時から,別個に消滅時効が進行すると解されるところ,原告は,平成18年1月1日以降の損害につき,平成21年2月19日付け訴えの変更申立書を提出するまでの間,損害の発生を知りつつ,請求しなかったことになるから,平成18年1月1日から同年2月23日までの損害に対応する賠償請求権は,時効により消滅したことになる(当裁判所は,必ずしもこのような見解を是としているわけではなく,権利者が将来にわたって差止請求をしながら,既経過分の実施料相当額の請求のみにとどめるのは,将来分の請求権適格性に疑問があることによるものと思われるところ,このような場合には,未経過分についても,事情に変更がない限り,訴訟係属により時効管理がされているものと解する余地がある
 しかしながら,本件では,原告が,被告による消滅時効の援用があれば,当然に時効消滅するものと解して予備的請求を設定している経緯にかんがみ,上記のように判断したものである。)。

イ 原告は,これに備えて,予備的に,同期間の損害(損失)につき,不当利得に基づく返還請求をしている。
 特許権は民法703条にいう『財産』に該当するところ,無断実施者がこれによって『利益』を得て特許権者たる他人に損失を及ぼしている場合には,不当利得として同利益を返還すべき義務を負うといえる。もっとも,不当利得返還請求については,特許法102条の規定の適用はなく,専ら民法703条,704条の規定に基づくことになるが,その際の不当利得の額(実施料相当額)自体については,特許権侵害に基づく損害賠償の場合と特段の違いはない。

ウ これに対し,被告は,自らは善意の受益者であるから,少なくとも本判決確定までの間は,利息を支払う義務を負わない旨主張する。確かに,民法703条ないし704条に基づく不当利得返還請求において,利得者の悪意が推定されるものでもなく,その他,本件特許1,3,4,5に関して,特許庁でも,少なくとも一部につき無効と判断され,訂正が繰り返されたこと等の本件での諸事情を考慮すれば,被告が,本件での特許権侵害につき悪意であるとまでは認められない

 したがって,上記の損害賠償請求権が時効消滅した期間に対応する不当利得額については,利息は発生しない。

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