goo blog サービス終了のお知らせ 

知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標の類否判断時に要部を抽出する場合

2008-01-03 18:23:38 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)6214
事件名 商標権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成19年12月21日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

『(3)一般に,商標の類否の判断については,商標を全体的に観察してするのが基本であるものの,常に一体として観察しなければならないものではなく商標のうちの特定の部分が注意をひきやすく,その部分が存在することによって初めてその商標の識別機能が認められるときは,全体的観察と並行して商標を機能的に観察し,その中心的な識別力を有する部分,すなわち要部を抽出して対比の判断をすることが必要である
 そして,いくつかの文字と文字,文字と図形又は図形と図形の結合などによって構成される結合商標の類否の判断をするに当たっては,結合の強弱の程度,結合した各構成部分の大小や意味内容等によって,構成部分の一部のみが要部となり,あるいは,各構成部分がそれぞれ要部となることがある。

 そこで,このような見地から,被告各標章との対比の前提として,本件商標を観察すると,本件商標は,「MACKINTOSH」と「Made in Scotland」の各文字と紳士の図形とから構成される結合商標であり,これらの各文字と図形については,外形的にみて,全体が不可分一体となって1個の統一的な外観,称呼や観念を形成しているとは特に認められないから,常に一体として観察されなければならないものではなく,各構成部分を各別に分離して観察することは何ら妨げられないというべきである。
 そして,上記の各文字及び図形のうち,「MACKINTOSH」の文字部分は,本件商標の中央部に大きな文字により全体の横方向の7割程度の大きさで横書きされており,小さい文字により書かれた「Made in Scotland」の文字部分や図形部分と区別されて,注意をひく部分であるということができるから,本件商標の要部となり得る構成部分として抽出することができる。』


『(4)本件商標と著名商標について
 被告らは,平成9年に他社が本件商標と同一の商品等区分についてした「Macintosh」の各商標登録出願について,それぞれ,米国アップル社のコンピュータに使用する同一の著名商標との商品出所の混同のおそれがあることを理由に拒絶査定がされていることを挙げて,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分について,米国アップル社の有する「Macintosh」(マッキントッシュ)の著名商標と類似するから,本件商標の要部でない旨を主張する

 被告らのこの主張は,元来,原告の本件商標は,「MACKINTOSH」の文字部分の単体では,米国アップル社の有する著名商標である「Macintosh」と類似するため,商標法4条1項15号によって拒絶されるべきものであったのを,紳士の図形及び「Made in Scotland」の文字と結合したことによって,はじめて登録を許されたものであるから,「MACKINTOSH」の文字部分だけを取り出して,これを識別力のある要部ととらえることはできない,との趣旨であると解することができる

 しかしながら,本件商標とは異なる他の商標登録出願についての特許庁による前記審査の判断があったことから,直ちに本件商標の登録が結合商標であるがゆえに登録をされたものであるということができないことは明らかである。仮に,原告が本件商標の文字部分の「MACKINTOSH」を単体で商標登録出願をしていたとすれば,登録を拒絶された可能性があったと考えられるとしても,被告らの前記主張は,本件商標について,無効事由の存在を指摘するものではなく,当該文字部分に関する識別力の有無を問題とするものであるから,侵害訴訟における類否判断のための基準時は,あくまでも口頭弁論終結の時であり,商標の登録審査の時と状況が異なることは十分にあり得るところである

 そこで,この点についてみるに,特許庁が「Macintosh」を米国アップル社の著名商標と判断した平成9年から既に10年が経過していること,平成9年から平成19年までの間における米国アップル社及びその日本法人による「Macintosh」のロゴの使用形態については,何ら主張,立証がなく,かえって,証拠(甲84~86)及び弁論の全趣旨によれば,現在,「Macintosh」のロゴは実際の商品に関して使用されておらず,汎用のパーソナルコンピュータの主たるブランドとして「iMac」が使用されていること,米国アップル社のロゴ戦略として,「iPod」,「iTunes」,「iPhone」などのように,「i」をキーワードにした統一ブランドの構築を企図しているものと窺えることがそれぞれ認められるから,米国アップル社の「Macintosh」が本件の口頭弁論終結時である平成19年の時点においても著名であると認めることはできない

 そうすると,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分について,米国アップル社の有する「Macintosh」の著名商標と類似しているとして,本件商標の要部でないとする被告らの主張は失当であり,採用することができない。』


『(5)本件商標と普通名称について
 次に,被告らは,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分について,ゴム引き防水布地又はゴム引き防水布地製コートを意味する普通名称であって,本件商標の要部でない旨を主張する

 商標法3条1項1号,26条1項2号にいう「普通名称」については,取引界において,その商品の一般的な名称と認められていることが必要であり,また,その判断にあっては,辞書,事典その他の刊行物で普通名称であるかのように使用されているだけでは足りず,商品自体の名称として普及して使用された事実が認められることが必要である。結合商標から抽出された文字が普通名称性との関係で識別力のある要部であるか否かについても,その検討の方法は基本的に同様であると考えられる。

 そこで,前記第2の1の前提となる事実及び前記(2)の認定事実を総合して,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分が普通名称といえるか否かについて検討する。

・・・
しかしながら,我が国においては,英国におけるようにゴム引き防水布地製コートが国内に広く普及したことを示す証拠はない。
・・・
このようにしてみると,本件商標における「MACKINTOSH」の文字部分について,商品の一般的な名称であることを指す普通名称であるとまでいうことはできない

 以上のとおりであるから,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分を,ゴム引き防水布地又はゴム引き防水布地製コートを意味する普通名称であるとして,本件商標の要部でないととらえることはできない。』


『4 争点(4)〔本件商標権の行使が権利濫用となるか否か〕について被告らは,原告の本件商標権の行使による被告各標章の使用差止請求について,原告において,第三者が商標出願した「Macintosh」の文字商標につき特許庁によって米国アップル社の著名商標との混同が生ずることを理由に拒絶査定された関係で,本件商標にも商標法4条1項15号の無効事由があることを熟知しながら,本件商標の一部にすぎない「MACKINTOSH/マッキントッシュ」の部分に基づいて請求するものであること,米国では,権利不要求の制度に基づいて「MACKINTOSH」につき単独で権利主張をしないことを条件に登録されていて,日本に権利不要求制度がないことを奇貨とする請求であることを理由に,権利の濫用である旨主張する

 しかしながら,これらの被告らの指摘のうち,現時点において,米国アップル社がコンピュータについて有する「Macintosh」の商標が著名であるとは言い難いことは,前記2(4)で述べたとおりであり,また,仮に,本件商標の登録時点において,何らかの無効事由に該当する瑕疵があったとしても,本件商標については,既に登録後5年間の除斥期間を経過し,もはや無効審判を請求することができないものであることは明らかであるから,これを権利濫用の抗弁の根拠とすることはできないというべきである。
 さらに,権利不要求の制度は,我が国においては,現行の商標法に改正された際,撤廃されて存在しない制度である上,米国で「MACKINTOSH」につき権利不要求としたことの理由は証拠上明らかでなく,米国での取扱いが英語を母国語としない我が国で直ちに通用するものでないことは明らかである。

 したがって,本件商標権の行使が権利濫用であるとの被告らの主張は,理由がない。』

最新の画像もっと見る