知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法4条1項7号該当性(一般道徳観念に反する)を否定した事例

2012-11-24 22:43:02 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10222
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権(HPは特許権となっているが誤り。)
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大,裁判官 部眞規子,齋藤巌

3 商標法4条1項7号該当性について
 前記2(1)アに認定したところによれば,・・・,本件審決は,本願商標は社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものであると判断しているので,以下においては,本願商標を本件指定商品について使用することが社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するものといえるかどうかについて検討する。

(1) まず,前記2(1)アのとおり,本願商標は,「北斎」との筆書風の漢字と,葛飾北斎が用いた落款と同様の形状をした本件図形からなるところ,前記2(4)に認定した審判段階における原告の主張からすると,本願商標が商標登録された場合において,原告が本件指定商品について本願商標に基づき主張することができる禁止権の範囲は,「北斎」との筆書風の漢字と本件図形からなる構成に限定されると考えられることから,例えば,「北斎」との漢字文字のみからなる商標について,これが本願商標の禁止権の範囲に含まれるなどと主張することは,信義誠実の原則に反し許されないといわなければならない。

(2) また,前記2(2)のとおり,葛飾北斎の出身地である東京都墨田区や国内各地のゆかりの地においては,・・・,「北斎」の名称は,それぞれの地域における公益的事業の遂行と密接な関係を有している。したがって,原告が本願商標の商標登録を取得し,本件指定商品について,本願商標を独占的に使用する結果となることは,上記のような各地域における公益的事業において,土産物等の販売について支障を生ずる懸念がないとはいえない。
 しかしながら,前記(1)のとおり,原告が本件指定商品について本願商標に基づき主張することができる禁止権の範囲は,「北斎」との筆書風の漢字と本件図形からなる構成に限定されると考えられることからすれば,当該公益的事業の遂行に生じ得る支障も限定的なものにとどまるというべきである。

(3) さらに,前記2(2)のとおり,葛飾北斎は,日本国内外で周知,著名な歴史上の人物であるところ,周知,著名な歴史上の人物名からなる商標について,特定の者が登録出願したような場合に,その出願経緯等の事情いかんによっては,何らかの不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるため,当該商標の使用が社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反する場合が存在しないわけではない。
 しかしながら,原告による本願商標の出願について,上記のような公益的事業の遂行を阻害する目的など,何らかの不正の目的があるものと認めるに足りる証拠はないし,その他,本件全証拠によっても,出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない。

(4) 以上のとおり,本願商標の商標登録によって公益的事業の遂行に生じ得る影響は限定的であり,また,本願商標の出願について,原告に不正の目的があるとはいえず,その他,出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない本件においては,原告が飾北斎と何ら関係を有しない者であったとしても,原告が本件指定商品について本願商標を使用することが,社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するものとまでいうことはできない

先願発明が本件特許の特許請求の範囲に含まれる実施例と同じものである場合

2012-11-24 22:15:27 | 特許法29条の2
事件番号 平成24(行ケ)10051
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
特許法29条の2

イ 原告は,審決は,本件特許発明1の実施例1,2と先願当初明細書の実施例1とが同じものであると認定しているが,仮に,実施例どおしが同じであるとしても,それをもって本件特許発明1が先願発明と同一の発明であると結論付けることはできないと主張する。

 しかし,先願発明が本件特許の特許請求の範囲に含まれる実施例と同じものであれば,先願発明が本件特許の特許請求の範囲に含まれることは当然であり,この場合,本件特許発明1は先願発明と同一の発明であるということができる。

顕著な効果を認めた事例

2012-11-24 21:49:46 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10004
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
特許法29条2項

 これに対し,本件発明1は・・・クラックが発生することを防止できるという効果を奏するものであり,特に,以下のとおり,本件特許出願時の技術水準から,当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものと認められる。

 すなわち,本件明細書(甲10)によると,実施例において,・・・クラックが発生するまでの往復回数(耐久回数)を測定したことが記載されており(【0089】)・・・同試験の結果は,硬化剤として,DMTA(ジメチルチオトルエンジアミン(ETHACURE300))を用いたサンプル1~3と,MOCAを用いたサンプル4~6とを比較すると,耐久回数について,後者が10万回~90万回であるのに対して,前者は250万回~2250万回であったことが記載されており(【表1】),その差は顕著である
 上記記載によれば,硬化剤として,ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用いることにより,クラックの発生が顕著に抑制されることが認められる。
 そして,このような効果について,甲第1号証及び同第2号証には何らの記載も示唆もなく,ほかに,このような効果について,本件特許出願当時の当業者が予測し得たものであることをうかがわせる証拠はない。そうすると,硬化剤として,ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用いることにより,クラックの発生が顕著に抑制されるという効果は,甲第1号証及び同第2号証からも,また,本件特許出願時の技術水準からも,当業者といえども予測することができない顕著なものというべきである。

ウ(ア) この点に関し,審決は,「甲第2号証は,熱硬化性ポリウレタンの硬化剤としてMOCAに代えて引用発明2を用いることを強く動機づける刊行物といえ」るとした上,「仮に被請求人(判決注・原告)主張の効果が認められるとしても,引用発明1において,その硬化剤であるMOCAに代えて引用発明2を用いることは,格別な創作力を発揮することなく,なし得るのであるから,前記効果は,単に,確認したに過ぎないものといわざるを得」ないとの見解を示している。また,被告は,容易想到性の判断における「動機付け」について詳細な主張を展開しているので,以下,この点について検討する。
・・・
(オ) 以上によれば,甲第2号証に接した当業者が安全性の点からMOCAに代えてETHACURE300を用いることを動機付けられることがあるとしても,ETHACURE300をシュープレス用ベルトの硬化剤として使用した場合に,安全性以外の点(例えば耐久性)についてどのような効果を奏するかは不明である上,安全性の点からみても他にも選択肢は多数あり,その中から特にETHACURE300を選択する理由はなく,かえって,他の代替品を選択する可能性が高いといえるため,ETHACURE300の使用を強く動機付けられるとまでいうことはできない。