知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許法101条2号の「日本国内において広く一般に流通しているもの」の適用事例

2012-11-11 22:26:11 | 特許法その他
事件番号 平成23(ワ)6980
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年11月01日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康,西田昌吾
特許法101条2号

(2) 特許法101条2号
 ・・・
ウ 一方,被告は,ハ号スタイラスにつき,間接侵害(特許法101条2号)の除外要件である「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たる旨主張する。

 確かに,ハ号スタイラスの用途は,これを備え付けた場合に本件特許発明の技術的範囲に属することになるイ号検出器及びロ号検出器に限定されているわけではなく,本件特許発明の技術的範囲に属さない内部接点方式の位置検出器とも適合性を有するものではある(甲2~4)。

 しかし,結局のところその用途は,位置検出器にその接触体として装着することに限定されており,この点,ねじや釘などの幅広い用途を持つ製品とは大きく異なる。また,そのような用途の限定があるため,実際にハ号スタイラスを購入するのは,位置検出器を使用している者に限られると考えられる。
 このような事情を踏まえると,ハ号スタイラスは,市場で一般に入手可能な製品であるという意味では,「一般に流通している」物とはいえようが,「広く」流通しているとは言い難い。また,そもそもこのような除外要件が設けられている趣旨は,「広く一般に流通しているもの」の生産,譲渡等を間接侵害に当たるとすることが一般における取引の安全を害するためと解されるが,上記のように用途及び需要者が限定されるハ号スタイラスにつき,取引の安全を理由に間接侵害の対象から除外する必要性にも欠けるといえる。

 したがって,ハ号スタイラスは「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たらず,この点に関する被告の主張は採用できない。

(3) 小括
以上によると,被告によるハ号スタイラスの製造,販売は,本件特許発明との関係において,平成22年12月6日以降,特許法101条2号の規定する間接侵害の要件を満たすものといえる。

引用文献に開示はないが、すでに解決されている課題

2012-11-11 22:18:32 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(ワ)6980
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年11月01日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康,西田昌吾

(5) 原告の主張について
 この点,原告は,通電,非通電を繰り返すことで接触体が磁化することに伴う測定誤差発生の防止という本件特許発明の掲げる課題が,乙12文献ほか,本件特許出願前のどの文献にも開示されておらず,本件特許発明に至る動機付けに欠ける旨主張する。

 しかし,この課題は,乙12文献の開示する乙12発明の構成,つまり,「接触体の接触部を非磁性部材とする」ことで既に解決されているのであるから,当該課題にかかる動機付けがなければ本件特許発明の構成に至ることができないなどというものではない言い換えれば,通電方式の位置検出器において,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構成は,主引例である乙12文献に開示されているのであるから,かかる構成へ至るための課題の開示,動機付けの有無を問題とする必要はないといえる。

 また,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構成の具体的な材料選択をする前提として,そのような上位概念で表現された構成を維持することへの動機付けが求められると解したとしても,あくまで既に公知となっている構成を維持するだけの動機付けがあるか否かの問題であり,新規の構成へ至る動機付けがあったかが問われるわけではない
 通電方式の位置検出器において,「接触体の接触部を非磁性部材とする」ことでその磁性化を防止できることは,乙12文献でその構成に触れた当業者にとって明らかであるが,通電方式の位置検出器における測定対象は通電性のある物質であること,乙12文献中の上記構成は強磁性の環境下における位置検出器で採用されたものであることからして,接触体の接触部の磁性化を避けることができれば,切削加工等で生じた切粉の付着など磁性化に伴う不都合を回避する効果が得られることも,乙12文献に触れた当業者が予測し得る範囲内にある。そのため,「接触体の接触部を非磁性部材とする」構成を採る技術的意義は,その構成自体が示唆するものといえ,これを維持するだけの動機付けがあるといえる
 なお,同様の理由により,当業者の予測し得ない顕著な作用効果や用途を見出したともいえず,かかる観点から本件特許発明の進歩性を肯定することも困難である。
 したがって,課題の示唆がないことを理由として本件特許発明の容易想到性を否定する原告の主張は採用できない。

一の請求項にかかる発明を特許できない場合、特許出願全体を拒絶査定することの適法性

2012-11-11 21:52:49 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10248
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年10月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗,古谷健二郎

 原告は,請求項1に係る本願発明につき特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決の判断については争っておらず,審決が,その他の請求項に係る発明について検討することなく出願全体を拒絶した点について,請求項3~10に係る発明が進歩性を有することを理由として取り消されるべきであると主張する。

 しかしながら,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与されるという基本構造を前提としており,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,その特許出願全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかない。したがって,一部の請求項に係る発明について特許をすることができない事由がある場合には,他の請求項に係る発明についての判断いかんにかかわらず,特許出願全体について拒絶査定をすべきことになる。

* 類似事件はこの検索

商標法4条1項6号の解釈

2012-11-11 21:36:32 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10125
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年10月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本 岳,武宮英子

イ 審決は,「公的な機関である地方自治体を表彰するために用いられる都道府県、市町村の章は、制定時に告示が行われるものであり、そして、告示は、広く一般に知らしめるものであることから、商標法第4条第1項第6号にいう「著名なもの」として扱うのが相当である」(2頁17行~20行)として,日南市章の実際の著名性について認定することなく,「著名なもの」と認めた

 しかしながら,商標法4条1項6号は,「国若しくは地方公共団体……を表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」と規定しているから,同号の適用を受ける標章は「著名なもの」に限られると解すべきであり(告示された国又は地方公共団体を表示する標章が当然に著名なものとなるわけではない。),著名であるか否かは事実の問題であるから,告示されたことのみを理由として「著名なもの」とした審決の判断手法は,是認することができない
 そして,同号は,同号に掲げる団体等の公共性に鑑み,その信用を尊重するとともに,出所の混同を防いで取引者,需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものと解されるから,ここに「著名」とは,指定商品・役務に係る一商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていることを要すると解するのが相当である。

商標法4条1項7号に該当するとした事例

2012-11-11 20:06:39 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10120
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年10月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本 岳,武宮英子
商標法4条1項7号

 「公的機関によって設置・運営される富士山の世界文化遺産に関する施設の名称」と認識される本願商標について,一私人である原告の登録を認め,「建物の管理」,「土地の管理」,「建物又は土地の情報の提供」等を含む指定役務について,その使用する権利を専有させることは,国又は地方公共団体等の公的機関による,富士山の「世界遺産」に関連する施策の遂行を阻害するおそれがあると認められる。そして,これら施策の高度の社会公共性に鑑みれば,本願商標の登録を認めることは社会公共の利益に反するというべきであり,本願商標は,商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものと認められる。

間接侵害の成立を認めた事例

2012-11-11 19:35:25 | 特許法その他
事件番号 平成23(ワ)24355
裁判年月日 平成24年10月30日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田史,石神有吾
特許法101条2号

(2) 以上のとおり,被告製品1又は被告製品2を装着した原告製プリンタは,本件訂正発明2の技術的範囲に属するところ,被告各製品は,物の発明である本件訂正発明2の「その物の生産に用いる物」であって,共通バス接続方式を採用しつつも,インクタンクの搭載位置間違いを検出するという本件訂正発明2による「課題の解決に不可欠なもの」に該当するといえるから,被告による被告各製品の輸入及び販売について,特許法101条2号の間接侵害が成立するというべきである。

禁反言の法理の適用を否定した事例-最も重要な相違点と付随的な相違点

2012-11-11 19:32:42 | 特許法その他
事件番号 平成23(ワ)24355
裁判年月日 平成24年10月30日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田史,石神有吾

 ・・・原告は,本件前訴において,「本件特許発明の構成が備える最も重要な機能」は,「各インクタンクを所定の位置(例えば受光手段の正面位置)で発光させることにより,インクタンクが正しい位置に搭載され,かつ正しく機能していることを確認できること」,すなわち,「光照合処理」(前記(ウ)b)を採用した点にあり,この点が,設定登録時の請求項1及び5に係る各発明あるいは本件各訂正発明と被告主張の引用文献記載の発明との最も重要な相違点であると主張していたものと認められ,「ユーザーへの報知も発光部によって実現する機能」は,「多様な利用価値」の一つとして付随的な相違点として主張していたにすぎないものとうかがわれる。

 したがって,被告が指摘する「原告第1主張書面」ないし「原告第5準備書面」の記載箇所をもって,原告が,本件前訴において,本件訂正後の請求項1及び3の「光」の用語を可視光に限定して解釈すべきことを明示していたということはできないし,また,このような限定解釈を前提に被告が本件前訴で主張した本件特許の無効理由を回避しようとしたということもできない

 以上によれば,原告が本訴において本件訂正後の請求項1の「光」に赤外線も含まれると主張することは禁反言の法理に照らし許されないとの被告の上記主張は,理由がない。