知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

就業規則が法的規範の性質を有し従業員に対する拘束力を生じる要件

2011-09-25 21:46:10 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)29497
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年09月14日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 大須賀滋

2 争点(2)(被告B及び被告Cに,就業規則所定の秘密保持義務違反及び競業避止義務違反が認められるか)について
(1) 使用者は,就業規則を,常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること,書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって,労働者に周知させなければならないとされており(労働基準法106条1項),就業規則が労働者に拘束力を生ずるためには,その内容を,適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する平成15年10月10日最高裁第二小法廷判決最高裁判所集民事211号1頁)ところ,原告は,平成20年6月21日に開催された社員講習会で,社員教育の一環として,就業規則について説明した旨主張し,原告代表者は同旨の供述をするが,・・・,上記講習会で,原告の就業規則について説明がされた旨の原告の主張は直ちに信用し難い。このほか,原告代表者の供述からは,上記講習会のほかに,就業規則を原告従業員に周知させるための手続をとっていることはうかがわれないし,被告B及び被告Cも,就業規則について見聞きしたことはない旨主張しているのであるから,原告の就業規則(甲1)について,その内容を,適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られたものと認めることはできず,上記就業規則につき,法的規範の性質を有するものとして従業員に対する拘束力を生じていると認めることはできない




引用明細書の阻害事由と見える目的よりも開示技術の性質を評価して動機付け等を認めた事例

2011-09-25 21:09:01 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10302
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 そして,請求項1にかかる発明(本願発明)は,駆動トランジスタが導通したときに流れる電流量を小さくするための具体的手段として,ドレインオフセット領域のドーピング濃度を変更することを選択したものということができる。

(2) 引用発明
 刊行物1の記載によれば,引用発明は,電極間にEL素子を用いた発光装置に関するものであり,電流制御用TFT602は,過剰な電流が流れてEL素子603が劣化しないよう,そのチャネル長が長めに設計され,電流値が小さく設定されたものであることが認められる。

(3) オフセット領域の目的について
 刊行物2及び3,特開平9-219525号公報(乙2),特開平10-189998号公報(乙3)には,オフセット領域を具備した薄膜トランジスタにおいて,オフセット領域の不純物濃度が低いと電気抵抗が高いため,オフセット領域のない薄膜トランジスタと比べて,薄膜トランジスタを流れるドレイン電流が小さくなることが記載されており,かかる技術的事項は技術常識であると認められる。
 そうすると,刊行物2及び3の記載は,いずれもオフセット領域によってオン電流を減らすことを積極的に使うという内容はなく,むしろそうなるのを避けることを説いているとしても,その記載は,オフセット領域を具備した薄膜トランジスタにおいて,オフセット領域の不純物濃度が低いと電気抵抗が高いため,オフセット領域のない薄膜トランジスタと比べて,薄膜トランジスタを流れるドレイン電流が小さくなるという技術常識を背景としているから,そこには上記周知の技術的事項が示されていると理解することができる。
・・・

(4) トランジスタの使い方の違いについて
・・・
そこで,オフセット領域を具備した薄膜トランジスタにおける前記(3)の技術的事項と,薄膜トランジスタの動作領域との関係について検討するに,オフセット領域を具備した薄膜トランジスタが,線形領域(非飽和領域)と飽和領域のいずれで動作する場合でも,薄膜トランジスタを流れるドレイン電流の経路に不純物濃度が低く電気抵抗が高い上記オフセット領域が存在すると,ドレイン電流はオフセット領域による影響を受けるから,オフセット領域のない薄膜トランジスタと比べてドレイン電流が小さくなる。このことは,技術常識ということができ,刊行物2(甲2)の表1(3)及び(4)の測定結果からも推認できるものである。

・・・
 また,前記のとおり,オフセット領域を具備した薄膜トランジスタが,線形領域(非飽和領域)と飽和領域のいずれで動作する場合でも,薄膜トランジスタを流れるドレイン電流が制限されることは,当業者には自明であるから,引用発明に上記周知の技術的事項を適用して引用発明における「電流制御用TFT602」を構成した際に,「電流制御用TFT602」を線形領域(非飽和領域)と飽和領域のいずれで動作させるかは,当業者が必要に応じて適宜選択し得たものであることも明らかであって,このように認めることをもって後知恵とするのは相当でない

 加えて,引用発明に,オフセット領域を具備した薄膜トランジスタにおける上記周知の技術的事項を適用する際に,オフセット領域の不純物濃度を調整することにより,「電流制御用TFT602」に流れる電流値を制御することができ,その結果,「EL素子603」の輝度を調整できることは,当業者であれば容易に認識し得たものであって,格別のものとはいえない。

意味的な結び付きが強いとはいえず、識別力も大差ない結合商標の観念と称呼

2011-09-25 20:49:07 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10085
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年09月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 本願商標は,「TV」の欧文字と「プロテクタ」の片仮名文字を結合した商標であって,標準文字からなる「TVプロテクタ」の文字を一連の横書きで表記したものである。

 本願商標は,「TV」と「プロテクタ」を組み合わせた造語と解されるところ,「TV」部分は,英単語である「television」の略語と一般に理解されるから,テレビジョン受信機の観念が生じる(乙4「コンサイスカタカナ語辞典第4版」参照)。また,「プロテクタ」部分は,英単語である「protector」の片仮名表記と一般に理解され,一般人にとって,保護するもの,保護する装置,防御物,防護用具,保護者,後援者等の観念が生じる(甲8「英辞郎 on the Web」,乙12「ベーシックジーニアス英和辞典」等参照)。

 そうすると,「TV」部分と「プロテクタ」部分の意味的な結び付きが強いとはいえないから,これらの単語を組み合わせた本願商標「TVプロテクタ」の全体からは特定の観念が生じないというべきであり,生じるとしても,テレビジョン受信機を保護する何らかの装置との観念を生じさせるにとどまり,指定商品の機械器具,部品の分野でみても,「TV」と「プロテクタ」のいずれかの部分に強い識別力が伴うものとすべき事情を認める証拠はない。そして,双方の部分ともに冗長ではなく一連に発音しても違和感のないものであるから,本願商標からは,全体として「ティーヴィープロテクタ」の称呼が生じるものと認めることができる。