知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

実用品である装置の著作物性の判断事例

2011-09-10 15:29:21 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)5114
事件名 損害賠償等請求反訴事件
裁判年月日 平成23年08月19日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 大須賀滋

ア そもそも,著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならないとするものと解される。

イ そこで検討すると,反訴原告装置は,前記第4の1(1)の前提事実でみたとおり,人が中に入り,布の反力によって体が支えられる状態を体験することができる装置として考案されたものである。反訴原告装置は体験装置として使用され,人が中に入った状態では,様々な形態をとるし,また,中に入った人は日常生活では感じることのできない感覚を味わうことができる。このように,反訴原告装置は,体験装置として独創的なものと考えられるが,反訴原告が本訴において著作物として主張するのは,上記のような動的な利用状況における創作性ではなく,反訴原告装置目録において示された静的な形状,構成(反訴原告装置)の創作性である
したがって,以下では,反訴原告装置目録において示された反訴原告装置の著作物性について検討する。
 ・・・
 しかし,反訴原告装置の前記(1)ウの形状,構成は,次に述べるとおり,創作性を基礎付ける要素となっているものと考えられる。

d 反訴原告装置の創作性
 反訴原告装置の上辺部分の形状は本体部分及び二重化部分が一体となって,中央部分から両端部分にかけて反った形状として構成されており,神社の屋根を思わせる形状としての美観を与えている。さらに,反訴原告装置の左右両端部分は,垂直に対しやや傾いて上の方へ広がり,上辺の反りの部分と合わせて日本刀の刃先の部分を思わせる形状となっている
 反訴原告装置は,これらの点に独自の美的な要素を有しており,美術的な創作性を認めることができる

・・・

エ したがって,反訴原告装置は,前記イdでみた点における限りで創作性があるものとして,著作物性が認められ,反訴原告は,反訴原告装置の制作者として反訴原告装置について著作権を有する。

オ この点に関し,反訴被告は,反訴原告装置は実用品であって,著作物として保護されるためには,その機能性又は実用性から独立した美的創作性を有することを要するが,反訴原告装置の表現上の特徴として挙げることのできる点は,いずれも機能性又は実用性からの帰結にすぎないと主張する。
 確かに,前記のとおり,反訴原告装置は人が中に入り反力を体験することができる装置として考案されたものであり,この意味で実用性を有するものということができる。しかし,前記第4の1(1)前提事実ウでみた反訴原告装置の制作過程に照らすと,反訴原告装置は,各別にその形態(傾き,くびれ,曲線等)を調整して制作されるものと認められ,画一的かつ機械的な大量生産を予定しているものではないということができる上,反訴原告装置の具体的表現のうち,創作性が認められる部分は,反訴原告装置の機能又は目的から不可避の結果として生じたものではなく,その表現に選択の幅が認められるものであって,前記1ウ(ウ)のとおり,反訴原告自身が「日本的な美しさ」を表現するためにそのような形状を選択している旨述べるなど,美的表現の追求の結果として生じたものとみることができるものであるから,反訴被告の主張は当たらず,前記エの認定は左右されない。