知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

複製権の侵害の判断の方法

2007-12-01 12:19:26 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)7380
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成19年11月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水 節

原告は,本件プログラムの著作物性について,プログラムは,指令の組合せ方に作成者の個性が現れるので,誰が作成しても同様になってしまうという極めて単純なプログラム以外のプログラムについては,著作物性が認められるのであり,本件プログラムも,アプリケーションシステムの開発用に販売されているシステム開発用のソフトウェアであるアクセスを使用して作成されたプログラムであり,特徴的な機能を有するのであるから,著作物性を有するというべきである旨主張する

 しかしながら,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであり(著作権法2条1項1号),著作物性を肯定するためには,表現それ自体において創作性が発現されること,すなわち,表現上の創作性を有することが必要とされるものであるから,著作物性は,当該表現物の具体的な表現に即して,その創作性の有無を検討することにより判断されるべきものであり,具体的な表現を離れて論ずることは相当ではない

 そして,複製権の侵害が問題とされる場合には,当該表現物と複製物と主張されている対象物のうち,同一性を有する部分の創作性の有無が検討されるのであるから,プログラムを複製されたと主張する場合には,自己のプログラムの表現上の創作性を有する部分と,対象プログラムの表現との同一性が認められることを主張する必要がある
 すなわち,複製物であると主張する対象において,アイディアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,同一性を有するにすぎない場合には,既存の著作物の複製に当たらない(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)ことから,通常,表現の同一性のある部分を抽出して,同部分の表現の創作性の有無を検討することによって,著作物性及び複製権侵害の有無が並行して判断されるのである。

 この点につき,原告は,本件プログラムについて,機能面での特徴を指摘するのみで,被告らが使用するプログラムとの対比及びその同一性についての具体的な表現上の創作性について何ら主張するものではないから,本件プログラムについての複製権侵害を基礎付ける,本件プログラムの著作物性,被告らが使用するプログラムとの同一性の有無についての主張・立証がないものといわざるを得ない。』

特許請求の範囲の記載の同一性の判断事例

2007-12-01 12:18:45 | 特許法29条の2
事件番号 平成19(行ケ)10057
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年11月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『(4) 審決の取消事由
・・・
ほとんどの技術的評価がそうであるように,ある効果が生じるか生じないかを論じる場合は,その効果が享受できる(利用できる)程度に大きいか否かで判断すべきであって,もし生じてもそれが無視できる程度に小さい場合は,それは生じたといわないのが通常である(もっとも,その関心の程度に応じて,微量でも認識すべき場合のあることは,もちろんである。)。
この点,本願発明は,積極的に,「免疫応答を起こさせるタンパク質またはペプチド」として,積極的に利用できる程度の免疫応答を起こさせることを意味しているものである。』

『第4 当裁判所の判断
・・・
先願明細書に記載された発明は,本願発明の構成をすべて備えていると認められるから,本願発明は,先願明細書に記載された発明と同一である。
・・・
ウ 以上の記載のうち,本願発明である請求項1の記載(上記イ(ア))によれば,本願発明においては,トランスフォーメーションするための仲介物に付着させるべきポリ核酸配列が含んでいる遺伝子は,それが脊椎動物組織細胞中で発現した場合に,当該脊椎動物に免疫応答を起こさせるタンパク質又はペプチドである免疫源をコードするものであること,すなわち,当該遺伝子の特性として,免疫応答を起こす能力があることを必要としつつ,かつ,それで足りるものとされているのであるから,当該遺伝子について,免疫応答の程度は問題とならないものといわざるを得ない
・・・
実施例の記載その他において,免疫応答の程度に関する実証的なデータが見当たらないことからすれば,本願発明の構成上,遺伝子に免疫応答の能力ばかりでなく,それが一定程度のものであることが必須の構成であるとまでは解することができない。

 なお,上記イ(ア)のとおり,請求項1には「免疫応答」のほかに「免疫源」との語も使用されているが,本願明細書の発明の詳細な説明には,「免疫源」の用語は記載がないから,本願発明における「免疫源」は,特別な意味はなく,請求の範囲の直前の「脊椎動物に免疫応答を起こさせる」を言い換えただけのものと認められ,これが免疫応答の程度を殊更に限定するものでないことは明らかである。』

商標法3条2項の解釈

2007-12-01 12:18:01 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10127
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年11月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟

『3 法3条2項該当性の有無
(1) 法3条は,商標登録の要件を定めたものであって,同条1項は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については,次に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる。」とした上で,

 同項1号から5号まで自己の業務に係る商品又は役務についての識別力あるいは出所表示機能を欠く商標を列挙し,

 同項6号では,「前各号に掲げるもののほか,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と総括的な規定を置いている

 そして同条2項では,「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる。」として,同条1項3号から5号までに該当する商標についても,使用により識別力を取得したものにつき登録を受けることができるとされている。

 上記の規定振りからすると,法3条2項にいう「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」とは,法3条1項3号ないし5号に該当する出所表示機能を欠く商標であっても,永年使用されることにより,特定の者の出所表示としてその商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されるに至っている(特別顕著性がある)をいうと解される
 そこで,以上の見地に立って本件について検討する。

(2) 前記2の認定事実によれば,本願商標は,原告が営業する全国各地における多数の「白木屋」,「笑笑」の各店舗の看板に表示して使用されており,そのため,本願商標における「新しいタイプの居酒屋」との表示は,同店舗のある地域を往来する人や同店舗の利用者にとって目立つものということができる
 しかし,本願商標の内容は,赤地に白抜きの文字で「新しいタイプの居酒屋」と記載してなるものであり,それ自体からは,当該商標が付された飲食店である居酒屋が既存の居酒屋とは異なる新手のものであることを需要者に説明ないしアピールするという観念を想起するにとどまり,これが直ちに特定の出所を表示したものとは通常観念され難いものといわざるを得ない。
 のみならず,上記看板における本願商標の使用態様は,いずれも「白木屋」,「笑笑」の店舗名に併記されたものであり,それ自体が店舗名から切り離された単独のものとして使用された例は見当たらない(上記2(2)エ)のであって,本願商標の指定役務である飲食物の提供を行う店舗等において,他店と差別化するため,「新しいタイプの○○」という文句が宣伝等に用いられることは多く見られるところであること(上記2(2)ク)をも併せ考慮すると,本願商標における「新しいタイプの居酒屋」との語は,一般に居酒屋である「白木屋」や「笑笑」が,メニューやサービスの内容,店舗の内装等において,既存の居酒屋と異なる新しいタイプを採用しているという役務の特徴を表した宣伝文句と理解され,本願商標はいわばキャッチフレーズとしてのみ機能するといわざるを得ないのであるから,それ自体に独立して自他識別力があるということはできない。

 したがって,本願商標は法3条1項6号に該当し,商標登録を受けることができないというべきである。』

商標権の存在をもって侵害を構成しないと言えるか

2007-12-01 12:17:16 | Weblog
事件番号 平成18(ワ)17960
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成19年11月21日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 市川正巳


『(4) 被告商標の無効
ア 指定役務の同一
  前提事実(2)ア及び(4)のとおり,原告商標1と被告商標とは,指定役務が同一である。
イ 商標の類似
  前記(1)ないし(3)に検討したことからすれば,被告商標は,要部を「Epi」「エピ」とするものと認められ,原告商標1と外観,称呼,観念において類似し,取引の実情を併せ考慮しても,被告商標1及び2と原告商標1とは類似するものと認められる。
ウ 無効
  したがって,被告商標は,その登録出願前の出願に係る原告商標に類似し登録要件を欠き(商標法4条1項11号),無効とされるべきものであるから(商標法46条1項1号),被告商標権の存在をもって,被告の「Salon」標章の使用が侵害を構成しないとすることはできない

(5) まとめ
したがって,原告商標権1に基づき,被告標章の使用の差止め及び店舗看板等の廃棄を求める原告の請求は理由がある。』


『2 争点(2)(損害の不発生)について
 登録商標に類似する標章を第三者がその提供する役務に使用した場合であって,当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず,登録商標に類似する標章を使用することが第三者の役務の売上げに全く寄与していないことが明らかなときには,使用料相当額の損害も生じないものというべきであるが(最高裁判所平成6年(オ)第1102号平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁),前記1のとおり,被告の脱毛美容の役務の提供と原告の美容役務の提供とは,被告の営業範囲内において完全に競合し,原告商標1と被告標章とはその要部を同一にし,被告自身,原告商標1をその中に含む被告標章を多額の費用をかけて広告宣伝していたのであるから,原告商標1に顧客吸引力がなく被告の売上げに全く寄与していないとは到底認められない
したがって,被告の損害不発生の抗弁は採用することができない。

3 争点(3)(損害)について
(1) 売上高
 原告が再生債権の確定を求める平成15年10月1日から平成18年9月30日までの3会計年度内の被告の売上高合計額が,45億7778万4466円であることは,当事者間に争いがない。

(2) 相当使用料率
ア 弁論の全趣旨によれば,エステティックの分野においては,広告宣伝により形成されたイメージや安心感などが顧客獲得の有力な手段であると認められる。そして,前記1のとおり,原告商標1が簡潔で,明るく,きびきびした音感を有し,かつ脱毛を連想させるようになってきていることは,その商標としての価値を高める要素である。
 また,原告は,原告商標1を他にライセンスせずに,警告により他社の使用を中止させていたものである


 他方,前記1のとおり,原告商標1は,その実際の使用においては,原告の提供する脱毛美容について使用され,原告の提供する脱毛美容を含むエステティックサービスの出所表示は,著名な「TBC」の商標によるところが圧倒的に大きいものである

 これらの事実によれば,原告商標1の相当使用料率は,売上高の約2%とみるのが相当であり,原告が原告商標1の使用に対して受けるべき金銭の額に相当する額を9000万円と認めるのが相当である

・・・

4 争点(4)(謝罪広告の必要性)について
ア 被告が原告商標1と類似する被告標章を使用して脱毛美容の役務を提供するに際して,粗悪な役務を提供したなど信用回復措置を命じることを相当とする事情を認めるに足りる証拠はない
イ この点は,原告商標2又は3に基づいても同様である。
ウ したがって,信用回復措置を求める原告の請求は理由がない。』

標章の要部による類似の判断事例

2007-12-01 12:16:34 | Weblog
事件番号 平成18(ワ)17960
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成19年11月21日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 市川正巳

被告標章目録
1 Epi Salon,2 エピ・サロン,3 エピサロン,
4 エピスタジオ,5 Epi Studio


『1 争点(1)(商標の類似及び登録商標の使用)について
(1) 被告標章の要部
ア「epi」
・・・
したがって,「EPI」「Epi」「エピ」は,取引者,需要者に対し,意味はよく分からないが,明るく,かつきびきびしたイメージを与える単語として受け止められるものと認められる。
イ「salon」
・・・特に,美容に関連する場面では,その需要者によって,「ビューティーサロン」に関連付けて,「店」や「美容院」の意味に理解されるものと認められる。
・・・
ウ「studio」
・・・その需要者によって,技術に優れたブティック的でトレンディな「仕事場」「美容院」の意味に理解されるものと認められる。
・・・

エ 被告標章の要部
(ア) 「Salon」標章
 上記アないしウによれば,「Salon」標章に接する脱毛美容の役務の需要者は,「Salon」標章のうち「Salon」「サロン」の部分は,被告が役務を提供する場所を意味すると理解し,「Epi」「エピ」の部分を独立して認識して,ここから出所を識別するものと認めるのが相当であり,「Salon」標章の要部は「Epi」「エピ」であると認められる。
(イ) 「Studio」標章
上記アないしウによれば,・・・Studio」標章の要部も「Epi」「エピ」であると認められる。

(ウ) 被告の主張に対する判断
被告は,「Salon」標章は,前半の「Epi」等と後半の「Salon」等とが外観上まとまりよく一連のものとして捉えられ,これより生ずると認められる称呼も5音と少なく,観念上も,「Epi」等それ自体は,日本人に馴染みのない意味不明な語で一種の造語と認識されるから,「Epi」等の文字部分のみが独立して認識され,「エピ」との称呼等が生ずることはない旨主張する
 しかしながら,被告の上記主張は,美容とはかけ離れた役務の場合であればともかく,脱毛を含む美容の役務との関係で使用されている「S alon」標章についての認識としては到底採用することができない。
 以上の点は,「Studio」標章についても同様である。
・・・

(2) 外観等の類似
上記(1)エのとおり,被告標章の要部が「E pi」「エピ」の部分にあるとすると,被告標章の要部は,原告商標1とは「P」「I」部分が大文字か小文字かの違いしかないから,被告標章と原告商標1とは,外観,称呼,観念において類似すると認められる。

『(3) 取引の実情
ア被告標章
(ア) 被告は,取引の実情から見て「Salon」標章が脱毛美容の役務に使用されても,原告商標1と出所の混同が生じるおそれはない旨を主張する
(イ) 確かに,被告が・・・主張する(宣伝広告),(来店者数)及び(アンケート調査)の事実が認められる(・・・)。
(ウ) これらの事実によれば,被告は,首都圏においてはある程度の周知性を獲得したことが認められる。
 しかしながら,被告の宣伝広告費用の推移をみると,平成12年度(第12期)から平成14年度(第14期)にかけて1億1千万円弱から1億3千万円余であったのが,平成15年度(第15期)に前年度の約2倍の2億7000万円弱,平成16年度(第16期)には前年度の約1.5倍の4億2千万円弱,平成17年度(第17期)には前年度の約1.5倍の6億7000万円弱と急増させており,「Salon」標章がある程度の周知性を獲得しているとしても,それは,最近数年間における広告宣伝による効果が大きいものと見られる

イ原告商標
(ア) さらに,原告が・・・主張する(原告による継続的使用)の事実が認められる(・・・)。
 これらの事実によれば,原告は,一貫して,「EPI」「エピ」が「脱毛」の意味として使用されること,男女を問わず,原告の脱毛サービスには「EPI」「エピ」の名称が付されること,「EPI」「エピ」は原告の登録商標であることの周知を図っていたものである
(イ) そして,上記(ア)に認定の事実及び弁論の全趣旨によれば,原告は,男性に対する脱毛美容を含むエステティックサービスも提供しているが,女性に対する脱毛美容を含むエステティックサービスの比重が高いことが認められる。
(ウ) 原告が前記第2,4(1)ア(イ)b(取引の実情)(a)(原告商標)で主張する(侵害警告)の事実が認められる(同項に記載の証拠及び弁論の全趣旨)。
(エ) 原告は,原告商標は,英語の「depilation」のうち視覚的にも聴覚的にも印象的な「Epi」を特に取り出したものであり,独創的である旨主張するが前記1(1)アのとおり,フランス語には「脱毛」を意味する単語として「epilation」(エピラシオーン)があり,英語にも「脱毛」を意味する単語として「epilation」があることからすると,その冒頭の「epi」を取り出したことをもって独創的であるとまで認めることはできないが,「脱毛」を意味する英語,フランス語の単語から案出したにもかかわらず,商標法3条1項1号等により拒絶されないぎりぎりのものの商標登録を得たものであり,その後,原告の広告宣伝もあって,「epi」が脱毛を意味することが知られるようになってきているという意味で,価値の高いものと認められる

ウまとめ
 これらの事実によれば,著名な「TBC」の商標を有し全国でエステティック店を運営する原告が,主として原告の提供する役務の一つを識別させるためとはいえ,被告に先行して原告商標1を使用していたものであるから,「Salon」標章が需要者に被告の出所のみを識別させるものとなっていたものとは到底いえない
 よって,取引の実情からみても,原告商標1と「Salon」標章とは類似するといわなければならない。』