知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

積極的な記載がなければ阻害要因?

2006-09-24 19:32:53 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(ネ)10001
事件名 実用新案権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成18年09月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 中野哲弘

『ア 控訴人は,引用刊行物1(乙2),同2(乙4)のいずれにも,テレビとともにビデオデッキも傾けることの動機付けとなる記載はなく,また,本件出願当時そのような意義が見いだせなかったのであって,テレビハンガーを傾けるものではない引用刊行物1のビデオハンガー部分に,テレビの転倒を防止するために設けられた引用刊行物2のテレビ固定具を転用することは,明らかに動機を欠いており,その意義も認められないのから,原判決の相違点②についての判断は誤りであると主張する。
イ しかし,引用刊行物2(乙4)に記載された考案は,テレビハンガーの両側板に,内方を突出させた上押さえ片を有するテレビ固定金具を,上下にスライド自在に取り付け,載置したテレビ上面から押圧して固定可能としたというものであると認められること,テレビハンガーは,天井,壁等からつり下げて人の頭上に設置するものであり,地震等に際し,テレビやビデオデッキがハンガー内から外部に落下することを防止する固定機能を具備していることが必要不可欠であることは自明の課題であるから,引用刊行物2に接した当業者が,同刊行物に記載されたテレビハンガーにおける前記テレビの固定構造を引用刊行物1のビデオデッキに適用して,相違点②に係る本件考案1の構成を想到することは,きわめて容易と認められることは,原判決(21頁下第2段落~22頁第2段落)の説示するとおりであり,引用刊行物1(乙2)のビデオハンガー部分に引用刊行物2のテレビ固定具を適用することには,ビデオデッキがハンガー内から外部に落下することを防止するための動機付けがあり,その技術的意義も認められる。』

『審決(甲15)は,「本件考案1は「傾動可能に連結する」および「下面に併設する」を採用することから,テレビとビデオデッキが一緒に傾くことになることは,前記のとおりである。他方,甲第1号証に記載された「詰め部材54の配置」は,キャビネットの向きを水平そのままにテレビのみを下方に傾けるものであり,キャビネットを傾けないことを前提とした構成である。また,テレビを傾けて載置する一方でビデオデッキを水平に載置する構成によれば,テレビとビデオデッキを一緒に傾けるという考えは排除されている。加えて,シャフトの下端にキャビネットの上面を直接連結する構造を採用しており,両者の間に別途の連結部材を介在させる余地はない。以上によれば,甲第1号証は,キャビネット自体を傾けること,テレビとビデオデッキを一緒に傾けること,以上は想定されていないと言うべきである。……そうすると,甲第2号証に「傾動可能に連結する」構成の開示があるとしてもこれを甲第1号証に適用することはできず,したがって,上記相違点に係る構成は,きわめて容易になし得るとは言えない」(審決13頁第3段落~下第3段落),すなわち,引用刊行物1(乙2)はキャビネットを傾けないことを前提とした構成であるから,引用刊行物2(乙4)に開示された「傾動可能に連結する」構成を適用することには阻害事由があるとするものである。
しかし,引用刊行物1には,「詰め部材54」につき,「テレビジョンセットの画面の下方に向かう角度位置を調整するために,セットの後部に,滑ることができる詰め部材54が配置される。詰め部材は,画面角度を視聴に最適な位置に調節することができるように動かすことができる」(審決〔甲15〕11頁第2段落の引用による)との記載があり,同記載によれば,「詰め部材54」は,テレビを下方に傾けるものであると認められるが,キャビネットを傾けないことを前提にした構成であるとまでは認められない。そして,テレビを下方に傾ける手法としては,本件遡及出願当時,引用刊行物2の上記「テレビを載置するハンガー本体を前後に傾動可能に連結したテレビハンガー」が既に公知であったのであるから,引用刊行物1のように「詰め部材54」を使用するか,引用刊行物2のようにハンガー本体を「傾動可能に連結する」構成を採用するは,当業者が必要に応じ適宜選択し得る程度の事項というべきであり,引用刊行物1の「テレビハンガー」に,引用刊行物2に開示された「傾動可能に連結する」構成を適用することに阻害事由があるということはできない。』