知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

反論の機会(拒絶査定の理由にない理由で審決)

2006-09-14 02:16:34 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10030
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年09月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美

『原告は,審決が,本願発明について,引用例発明に基づく容易想到性を理由に特許法29条2項により特許を受けることができないとしたことについて,新たな拒絶理由通知をせずに,査定と異なる理由によって,本件審判の請求が成り立たないとしたものであり,特許法159条2項,50条に違反している旨主張する。

特許法159条2項は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には,同法50条の規定を準用し,拒絶査定不服審判請求を不成立とする審決をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならないと規定している。この規定の趣旨は,審査手続において通知した拒絶理由によって出願を拒絶することは相当でないが,拒絶理由とは異なる理由によって拒絶するのが相当と認められる場合には,出願人が当該異なる理由については意見書を提出していないか又は補正の機会を与えられていないことが通常であることにかんがみ,出願人に対し改めて意見書の提出及び補正の機会を与えることにあるものと解される。
また,同法158条により,審査においてした手続は,拒絶査定不服審判においても,その効力を有し,審査官がした拒絶理由通知は,審判手続においても効力があり,出願人が提出した意見書及び補正書も審判手続において効力を有する。
これらのことを併せ考えると,拒絶査定と異なる理由による審決をする場合であっても,審決の理由が既に通知してある拒絶理由と同趣旨のものであり,出願人に対し意見書の提出及び補正の機会が実質的に与えられていたときは,改めて拒絶理由が通知されなかったことをもって,特許法159条2項において準用する同法50条の規定に違反する違法があるとまではいえないと解するのが相当である。』


『原告は,特許・実用新案審査基準第Ⅳ部の「9.拒絶査定」の項に,「(2) 拒絶査定を行う際には,先に通知した拒絶理由が依然として解消されていないすべての請求項を指摘する。(3) 拒絶査定を行う際には,意見書における出願人の主張及び補正内容に対する審査官の判断とともに,解消されていないすべての拒絶理由を明確に記載する。記載にあたっては,可能な限り請求項ごとに行うことが望ましい。」との記載があることを挙げ,上記審査基準に照らせば,本願発明について,拒絶査定において触れられなかった拒絶理由1は解消され,特許法29条2項に基づく拒絶の理由は,査定の理由にならないものと理解され得るとして,審決には,新たに引用例発明に基づく容易想到性に係る拒絶理由を通知しなかった同法159条2項,50条違反の違法がある旨主張する。
確かに,審決の理由とした本願発明(本願補正前発明2)の引用例発明に基づく容易想到性(特許法29条2項)が拒絶査定の理由に掲げられていないことは上記(4)のとおりであり,拒絶査定の記載は,上記審査基準に必ずしも則ったものでないといわざるを得ない。
しかし,特許・実用新案審査基準は,特許要件の審査に当たる審査官にとって基本的な考え方を示すものであり,出願人にとっては出願管理等の指標としても広く利用されているものではあるが,飽くまでも特許庁内において特許出願が特許法の規定する特許要件に適合しているか否かの特許庁の判断の公平性,合理性を担保するのに資する目的で作成されたものであるから,尊重されるべきではあるが,法規範性を有するものでないことは明らかであり,本件の審判手続が特許法159条2項,50条に違反しているといえないことは,上記(4)のとおりである。』

『原告は,本件追加請求項は,拒絶理由通知後に追加されたものであり,最後の拒絶理由通知がされることなく,拒絶査定がされ,本件追加請求項については何ら触れられておらず,審査段階においてその審査結果が示されていないにもかかわらず,審判において,本件追加請求項に関し,新たな拒絶理由通知を発することなく,本件出願を拒絶したものであるから,審決は,特許法159条2項,50条に違反する旨主張する。この主張は,要するに,本件追加請求項に対する拒絶の理由が示されていないこと自体を問題とするものであり,そもそも,複数の請求項からなる特許出願を拒絶するためには,すべての請求項に記載された発明について,審査審判の段階において,それぞれ拒絶の理由を通知しなければならないことを前提とするものであると解される。
しかし,特許法49条は,柱書において,「審査官は,特許出願が次の各号の一に該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定し,2号において「その特許出願に係る発明が第25条,第29条,第29条の2,第32条,第38条又は第39条第1項から第4項までの規定により特許をすることができないものであるとき。」と規定しているとおり,複数の請求項からなる特許出願について,特許出願に係る発明のうちの一つについて上記拒絶の理由があれば,当該特許出願を拒絶査定しなければならないことは明らかである。そして,同法50条により,審査官は,拒絶査定をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知することが必要であるが,特許出願に係る発明のうちの一つについて上記拒絶の理由があれば,当該特許出願は拒絶査定されるのであるから,特許法の規定上は,審査官は,特許出願に係る発明のうちの一つについて拒絶の理由を通知すれば足りるというべきであり,それぞれの請求項について拒絶の理由を通知しなければ違法であるとする原告主張の上記前提は失当というほかはない。』