知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

組み合わせの動機付け

2006-06-13 22:21:03 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10660
事件名 特許取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成18年06月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長 塚原朋一
特許法29条2項 組合せの動機付け

『刊行物3に接した当業者は,より強固な二面拘束を実現することを期待して,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項の適用を試みると考えられる。そうであれば,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することの動機付けはあるということができる。原告の上記主張は,採用の限りでない。』

(一言)
 第一線で活躍する研究者が、ある文献に接して、あ、この技術、自分の発明のこの部分に使えるじゃないか、と思えば組み合わせの動機があるというような感じか。

反論の機会

2006-06-13 22:16:25 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10710
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年05月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長 塚原朋一
特許法29条2項(反論の機会)

 『審決で刊行物として引用されている特開平11-088521号公報(甲7)は「引用文献2」として,請求項2及び3の関係で引用されているにすぎない。したがって,本願発明との関係では,審決で引用されている刊行物は,拒絶理由通知及び拒絶査定においては引用されておらず,審決において初めて引用されたものであるから,審決は,本願発明について,拒絶査定とは異なる理由により容易想到性の判断をしたものであり,特許法159条2項にいう「拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるというべきである。』

(一言)
 拒絶査定は不意打ちとならないようにされなければならないのは当然。文献が示されていることで、安心し、確認が不十分であったのではないか。

特許請求の範囲の用語の明確性

2006-06-13 22:12:18 | 特許法36条6項
事件番号 平成17(行ケ)10212
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長 三村量一
特許法36条6項2号

『特許請求の範囲の当該請求項の記載に「個別情報」が「数字データ」であることの特定がない以上,その差の意味するところが明確でないとした審決の判断に誤りがあるとはいえないし,仮に原告承継人の主張するように「個別情報」が「数字データ」であることを前提として解すべき,であるとしても,電子制御技術における「数字データ」として扱われることが理解できるにとどまり,本願補正発明において扱われる「個別情報」がいかなるものであるかが不明であることに変わりはないから,いずれにしても審決の判断に
誤りがあるということはできない。』

(一言)
 一見して、厳しすぎると感じるかもしれないが、特許権が第三者の権利を制限するものであることを考えると、その権利範囲を確定する特許請求の範囲の記載は、厳しく扱われるべきものだと考える。
 さらに、裁判所による無効が許される現在では、特許法36条は、限定解釈などの対処療法にたよらず、厳格に解釈されるべきである。
 これらの点から、この判決は妥当であると考える。

発明の詳細な説明を参酌しても不明確な用語の解釈

2006-06-13 22:05:53 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10564
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年06月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長 佐藤久夫
特許法29条1項3号,同法同条2項

『特許請求の範囲に記載された用語の技術的意義が,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,一義的に明確に理解することができず,広義にも狭義にも解しうる場合には,当該特許発明の新規性及び進歩性について判断するに当たっては,当該用語を広義に解釈して判
断するのが相当である。
広義に解した場合の特許発明について,新規性及び進歩性が肯定されれば,狭義に解した場合には当然にこれらが肯定されるし,逆に,広義に解した場合の特許発明について,新規性又は進歩性が否定されるならば,もはや狭義に解した場合にそれらが肯定されるかどうかを検討するまでもなく,当該特許発明の新規性又は進歩性を認める余地はないからである(仮に狭義に解した場合に新規性及び進歩性が認められるとしても,それが広義にも解しうるものである以上,狭義に解した場合のみを前提に当該特許発明の特許性を肯定することができないことはいうまでもない。)。』

(一言)
 リパーゼ判決を、さらに、補充する判決。発明の詳細な説明を参酌しても不明瞭であれば、広義に解釈する。バランスのとれた妥当な考えだと思う。

独自の用語の明確性の判断

2006-06-13 22:01:53 | 特許法36条6項
事件番号 平成17(行ケ)10662
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年06月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長 佐藤久夫
特許法36条6項2号

『「原告は,「左布裁断」,「右布裁断」,「左バイヤス」,「右バイヤス」,「バイヤス裁断左側」,「バイヤス裁断右側」,「左-右裁断」,「右-左裁断」等の用語の意義は明瞭であると主張する。
しかし,これらの用語の意義を記載した一般的文献等が存在すると認めるに足りる証拠はなく,これらの用語は,用語自体からその意義を当業者が一義的に理解することのできる文言ではないことは明らかである。また,甲第3及び第4号証によれば,本願の特許請求
の範囲又は明細書において,これらの用語の定義がされていないことが認められる。
原告が特許請求の範囲を記述するために用いた用語は,当業者が正確な意味を一義的に理解し得ない,原告独自の用語ないし表現というべきものであって,これらについて,特許請求の範囲又は本願明細書において定義付け等がされておらず,図面を参照しても,一義
的に用語の意義を確定することが困難である。
したがって,これらの用語の意義が不明瞭であるとした審決の判断に誤りはない。』