のら猫の三文小説

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次平の復讐 No.12

2012-11-22 18:16:04 | 次平の復讐

次平、おゆきと出会う。       



下関では5日間逗留し、薬種問屋の番頭は2人で山と海岸を調べ、三之助は町中の調査をしていた。海岸の漁村で、一人の女の子が、一人で寝ていた。母は数年前に亡くなり、父は漁に行っていた。近くの民家で聞くと、ずっと具合が悪く寝ていると薬種問屋の番頭が聞き込んできた。手が空いていた次平が、行ってみる事にした。まず近くの網元に行き、治療の了解を取った。網元は、とても治療代が払える家ではない。女の子は、具合のいい時は、父の面倒をしている。このまま放っておいてもらいたい。次平と一緒にいっていた薬種問屋の番頭は、次平に言った。治療代名目で女の子をさらっていく人がいる事があるのかも知れない。次平は私は医師で、金目当で来たものではない。大分具合が悪いと聞いたので、 
出来る事がないかと来たものである。網元は私も金払えないぞ、それでもいいなら勝手にしなさいといって奥に引っ込んでしまった。次平は近所の漁師でも立ち会って貰おうと思い、その少女の家に行った。父親が漁から帰ってきた所であった。次平はいった。私は医師で、お宅のお嬢さんが具合が悪いと聞いた。私で出来る事があればと思ってやってきた。診て貰うのは嬉しいが、とても治療代が払えないといった。ここでも治療代と言われた。治療代などどうでもいいと言って、次平は女の子は、診た。小児喘息か風邪がこじれたものか、それに栄養不良が重なっていた。次平は、持っていっていた薬を煎じるともに、薬の追加と京二に来るように薬種問屋の番頭に告げた。 



少女は呼吸も楽になり、眠り始めた。次平は少女の楽になった表情をみて安堵している漁師と話をした。この男は網元と仲が悪く、網元の目を恐れる周囲も援助を躊躇し、又この男自身も援助を拒んできたようであった。話をしていると京二は鍋やいくつの料理を持ってやってきた。京二は次平にここで食べられますねと聞いた。この男の家は汚いが、広かった。次平はここで食事したい旨を男に告げ、その了解を無理矢理とりつけて食事の準備を京二はしていた。暫くすると夕餉の匂いが家の中に充満してきた。男が取ってきた魚も焼かれ出した。少女も目を覚ますと、目の前に膳が置かれていた。次平はこれが薬だ、ゆっくり食べなさいといった。京二は色々と書き込んでいたが、後始末を連れてきた男に指示して去っていった。 



次平は男と酒を飲みながら、話をした。後かたづけした男も去り、少女の面倒を診いてる看護役と次平だけが残った。 
男が眠ると次平は少女の面倒をして看護役に休むように合図した。少女の様子を暫く見ていたが、次平も床についた。



次平が朝起きると少女の熱はすっかり下がっていた。父親は朝早く漁に出かけたようで、いなかった。次平が少女の面倒を見ていると、京二は米、味噌、醤油などを持って、朝の食事の準備をしていた。やがて三之助は、数人の男女を連れてきて、台所や部屋の掃除を指図した。数羽の鶏と小屋も運んできた。帰ってた父親は一変した家の様子に驚いていたが、構わず京二は男が取ってきた魚を見て、金を掴ませ、助手に幾つかの指示をして、魚を持って去っていった。朝食を少女と父親と一緒に取った次平は、薬といくつかの注意を与えた。少女が安定している様子を見て、まだ数日はゆっくり寝ているようにといった。次平は帰ろうとすると、男は堪らず、治療代はいかほどになるでしょうか。今は無理でも、働いてお支払いします。次平は言った。又来ます。その時あの子が笑っていてくれれば、それが治療代です。 



昼前に、京二は、気の短そうな男と三之助をつれてやってきた。京二は、少女のために昼食の準備を始めた。気の短そうな男は漁師に向かって、いくつかの魚の名前を上げ、取れないかと聞いた。そんなには取れないが、取れる事もあると答えた。取れた魚は最初に小崎亭の金治に持ってきてくれと言って、三之助と少し話をして去っていった。 



この時小崎亭は下関でも指折りの料亭で、板前は金治と言って気は短いが腕のいい板前でった。三之助は、漁師に言った。取りあえず魚代は、月に2両とした。魚によっては後で色を付ける。それで辛抱してくれと言って2両渡した。 



京二は、色々と少女に出す食事に注意をしていた。鶏の世話の仕方まで言っていった。
 



その日次平は奉行に呼ばれ、奥方の診察をした。そんな大病ではなかったが、色々な事から風邪をこじらせたようであった。次平の薬で大分熱が下がった。診察後奉行と話をしているとあの漁師の話となった。岡部屋時次郎という名前で、代々網元の家であったが、就任間もない奉行と衝突し、網元を今の網元に譲った。自分だけの漁場を確保する条件で譲り、一人だけで生きている男であった。娘はおゆきという。奉行は若い時の事を悔やんでいるようで、今の網元は、人間が狭く、面倒見がよくないとこぼしていた。次平は小崎亭との約束の話をした。自分だけの漁場を確保しているので、問題ないが、今の網元を呼んで漁場の確定をしておこうといった。長府のお城からの使者が到着して、次平の到着が遅れているがいつ着くのかと催促があった。尚病後の確認したい患者もあるが、数日後には出立致しますと返事した。 




翌日 時次郎の家に行くとおゆきは起きあがっていた。しばらく寝ているように注意して診察したが、もうすっかり良くなっており、笑顔が心に残った。時次郎は治療代といって1両だしたが、次平と一緒についてきていた鉄平は、受け取らなかった。「次平先生は治療した。それは病で苦しんでいる人をそのままには出来ないからだ。今、治療代でそのお金を受け取ったら、またおゆきさんが熱をぶり返した時、どうするのか。お金はいつでもいい。貴方がお金に苦労しなくなったら、十分に貰います。施しじゃない。誰の世話にもならず生きて行く事は出来まい。人と人とは支え合って暮らしていくしかない。人に支えられたら、今度は人を支える事をしなくてはならない。明後日出立するので、明日の昼に魚を宿に届けてくれないか。それが貴方の今の治療代になる。」と言った。鉄平は、次平の復讐を止めさせるために、多大の費用をかけていた。次平に医師として、人を助けるのを優先させるための費用と考えたのか、それとも自然と出た言葉なのか、鉄平自身にも、まだ判っていなかった。それに朝網は小崎亭に届ける約束とも聞いていた。



時次郎は翌日 朝暗い内から漁に出た。大漁と言えよう。まず朝一番小崎亭に持っていった。金治は驚いたが、持っていった約半分を受け取った。これで十分といった。後は自由にしてくれといった。金治は次平との話を知っており、わざと形のいい鯛も返した。時次郎は、又漁に出るからと言ったが、金治はおゆきの面倒を見てやれ。今日はこれでよいと言った。 



その後 時次郎は次平の宿を訪ね、次平に魚を渡した。次平は京二に渡した。 京二は一行の夕食を作ったが、何故か2人多い量を作った。次平は最後のおゆきの診察を行ったが、何故か料理人の助手が手提げの箱を持ってついていった。次平は2種類の薬を持っていき、小さい袋は熱が出た時だけの薬、もう一つは熱が治まっている時を飲むようにと言った。そして時次郎に貰った魚の礼を言って、病人用料理ではない料理人 京二の料理を見てやって欲しいといって膳をだした。器は返さなくていいから、必要なら使って欲しいといった。 



時次郎とおゆきは、食べてこの夕食に驚いた。京二の料理は熱が出ていても食べられるほど、あっさりとした美味しいものであったが、この料理は本当に美味しかった。時次郎は取ってきた魚がこんなに美味しい料理になるのかと感動した。 



時次郎は、翌日魚を届けた。金治に昨晩の京二の料理が美味しかったという話をしていた時に、金治は言った。「京二さんは、本当は医師で次平先生の元では料理人であっても、次平先生から離れれば医師になるかもしれないが、恐らく屈指の板前であろう。その人の料理を何日も食べるとは、恐らく最高の贅沢であろう。」時次郎は、次平は1両も受け取らなかったのは金額的に少ないからでしょうかと聞いたら、最後の腕を見てくれという料理だけで、二人1両なら、私なら喜んで払う。その料理について細かく質問していた。料亭の女将さんが来て金治にどうしたのと聞いたら、女将さんまでも繰り返し質問して時次郎を閉口させた。やがて金治は思いついた事があるようで、一人で思案し始めていた。 



女将さんは、その料理を盛った器があると聞いて、膳とその器を見せて欲しいと云いだした。時次郎は持ってきますと言ったが、早く見たいといって、時次郎を引っ張るように家に急いだ。金治も付いてきた。 時次郎の家でまた料理の話を催促された。おゆきも起きて話に加わった。女将さんは、帰る間際に、この腕や陶器は大事に扱うようにといった。これは1人前 1両どころではない。5両出しても買えないだろうと言った。 





時次郎は、そんな高価のものなら、いっそ売りますと言いたかったが、おゆきは大事そうに見つめているのを見て、声を殺した。女将さんは又言った。おゆきさんにとっては大切なものですしねと付け加えた。よくみると 湯飲み茶碗は、おゆきと時次郎とでは、形も焼きも違っていた。 



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