のら猫の三文小説

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次平の復讐 No.28

2012-11-30 10:30:55 | 次平の復讐

お香、次平に会う。



次平は江戸に来ると直ぐにお香に会いに来て、婚礼の祝いを言った。お香は始めて次平と会った。名医で官位も賜ったというのに、まだ若い純粋な青年だった。次平は、鉄平の嫁と言うだけで、私の過去も聞かず、気さくに、丁寧に話をしてくれる。 



こんな人が鉄平を変えたのだ。一人でも自分が直せるものならば、治したいと熱っぽく語るこの人は純粋と善意が、世の中の汚れを全く浴びず、大きくなったような人だ。鉄平はこんな人が、人を殺そうとしていたと言った。本当の事だろうか? おゆきも次平を慕い、細々と世話をしている純情そのもの若い娘と行ってもいい。純粋と純情の夫婦なのだ。

私は違う。世の中をうまく泳ごうとして、盗賊の手先にもなり、人には言えない事もしてきた女だ。付き合っていけるだろうか? お香は、思い直した。私は私なのだ。下品と言われようと、あばずれと言われようと、私は私なのだ。繕っても仕方ない。私なりに、鉄平と一緒に進んでいくしかないのだと、お香は思っていた。 



お香は、今までの髪結いを5年間の期限で、鴻池の指定する者に五百両で貸す事になった。これは、破格の条件であった。売ってもいいとお香はいったが、吉太郎は、お香さん自身の財布と資産を持っている事は大切だと言った。

鴻池の屋敷で、お香の選んだ着物と帯は呉服屋が持ってきた。素晴らしい出来上がりだった。お勘定といっても、結構です。次回はお買いあげ下さい。といって帰った。次ぎに買った時は相当高かった。初めの着物や帯は、鴻池が払ったのか、呉服屋が持ったのか、分からなかったが、お香は、大変な状況に置かれている事は理解した。 



鉄平とお香の式は盛大に行われた。江戸の店は内祝いといって各藩邸や得意先に色々な贈物を配っていた。忠助にとっては、これも商売の手段だった。馴染みの少ない薬屋や医者への販路拡大に利用していた。 



次平は、幕府から江戸での屋敷を賜った事もあり、直ぐに京に帰る事は憚れたし、鉄平夫婦の邪魔をする気もなかったので、鉄平には、創立後の大坂での薬種問屋を見るために、先に大坂に行く事を勧めた。 


鉄平とお香、大坂へ行く。



鉄平は江戸では、お香との話も十分取れず、大坂の薬種問屋や物産問屋を見に行く事を名目に、お香と二人で大坂に向かおうとしていた。忠助は、それは困りますと言って、連絡役と荷物持ちを付けた。連絡役は、宿場についたら、必ず居場所と今後の予定について江戸の店に連絡するようにと厳命されていた。 


次平、京に戻ろうとする。



鉄平夫婦が大坂に去った後、江戸の医院で患者を診たり、江戸城に行ったり、御殿医などとも意見交換したりしていた。田宮と共に黒田公の若君である黒田道直の診察をしていた。

開胸して調べる事は出来ないものの、道直の心臓の異状はほとんど感じられなくなっていた。外科的処置が必要と思ったのに、これはどういう事だろうか、試行錯誤で様々な薬を使用してきたが、田宮と色々と話をした。いくつかの仮案を考えて、試案ではあるがとの前提で各医院と京二と中山に連絡した。

人間の身体の可能性は我々の考えているよりも多様で不思議なものである事を決して忘れてはならないと付記しておいた。江戸の医院で、かなりの青年が医師を志すために医院を訪れ、医院で働き、有為の青年に医学を勉強させるために、長崎に派遣した事もあった。もう長崎だけが西洋への窓口とは言えないものの、青雲の志を持った青年医師には希望の扉を開けておく方が良いのだ。

江戸医院は石原の元に、効き目のある鉄平の薬を使い、医師を増やし、病院は大きくなっていた。病人に取っては命がけの選択なのだ。医師はその思いを受け止められる技術と志が必要なのだ。、各医院でもいくつかの試みをしてみようと思った。

次平自身も再び長崎に行ってみよう。石部との約束の三年は守られそうにないが、やはり行ってみようと思った。禁裏にも帰らなくてはいけない。良庵や医事方筆頭にも了解を取り、おゆきとともに旅に出る事にした。田宮と江戸の医院の筆頭である石原は、相談して長崎行きを希望していた若い医師を1人付けて、次平先生の手助けと連絡先を必ず江戸の医院にするようにと厳命していた。 


空に雲が浮かんでいた。



おゆきと医師2人、荷物役などをつれて旅に出た。途中伊豆の海岸を歩いている時に、海に早苗の顔が浮かんだように思えた。次平は、胸の中で言った。「早苗の敵はこの手で討てず、申し訳ない。こんな事でお前の恨みは晴らせないかもしれないが、その代わり、一人でも多くの患者が助ける事を、私は考えてきた。それしか私には出来なかった」、早苗の顔が頷いたように、次平には思えた。おゆきが怪訝そうにこちらを見た。

すると早苗の顔が急に怒ったような顔になっているように思えた。「ごめんね」と誰に聞かせるともなく、次平はつぶやいた。 



次平の挑戦に続く。



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