さて、大の甲斐バンドファンでいらした栗本薫さんの著書「翼あるもの」ですが
この上下巻を「上梓するにあたって「通しタイトルとして『翼あるもの』とつけた
これは、書いた時点ではなかったものであり
甲斐よしひろの同名の曲から借りている」と記されているものの
その装幀には、栗本さんご自身が、竹宮恵子さんの「風と木の詩」のイラストを…
と熱望なさったという「天使」の画が使われていたり
上巻を執筆なさった後に書かれ、この「翼あるもの」と同じ世界観を持ち
なおかつ、先に出版された作品が「真夜中の天使」だったということを考えると
甲斐さんのお書きになった歌詞のイメージというより「翼」繋がりの感が強く(苦笑)
強いて言えば、この作品の主人公「今西良」は
音楽の神「ミューズ」に選ばれし天才シンガー…
彼にとっては、歌っている時だけが真実であり
それ以外の時間は、ただ呼吸しているに過ぎない…と評されていて
その唯一、自由に生きられる「飛翔」の時間の彼のことを指しているんじゃないかと…?
で、その今西良が「最大限に持ち味を生かす役を作るから」と
引っ張り出されたテレビドラマが「裏切りの街路(笑)」で
その内容が「悪魔のようなあいつ」とよく似ている…っていうか
栗本さんご自身が「ほぼそのまま」とおっしゃっているので(笑)
「8割の男性読者には、なるべく読まないでくれるようお願いしたい」という
この上下巻に手を伸ばした次第です(笑)
その「いくぶん特異な…というか特殊なテーマと世界を持っている」
まあ、今で言うところの「BLもの」の小説を、単に「倒錯的な世界」という風に捉えると
確かに、イチ男性としては、むず痒さしか感じられなかったであろう作品が
「悪魔のようなあいつ」の中の「加門良(沢田研二さん)」と
「野々村修二(藤竜也さん)」の関係を踏まえると、ちょっと判る気がするというか…
といっても、お二人は同じ養護施設で育った兄弟みたいな関係という設定で
別にラブシーンなんかがある訳じゃないんだけど(笑)
栗本さんが「翼あるもの」や「真夜中の天使」など
「沢田研二という歌手のことをモデルにした小説を10本近くも書いたり考えたりした」のは
「ある『超越的な力』…すなわち、ひと組の人間の結びつきを
私にとっては、愛…恋愛もそうでないのも…もまたその一部に過ぎないような
あらゆる『変形された情熱』の強さを示すために
最も抵抗のある設定を探し出す必要があった」ためらしく
「なぜ、ロミオとジュリエットではなく
ハムレットとホレーシオでなければならないかといえば
ロミオとジュリエットには、根本的な『負』の関係の畏怖が欠けているからだ
モンタギュー家とキャピュレット家が仲直りをしさえすれば
二人は心中する代わりに似合いの花婿花嫁として受け入れられたであろう
しかし、ホレーシオがハムレットを追いかけたところで当のハムレットが最も嫌悪を示すであろう
最も無償で、意味のない、しかも最も激しく執着される情念
私が必要としていたのは、たぶんそれである
最もすげない拒否と反発が、その忠実な求愛者の得られる最も穏やかなものだろう
しかし、人間がもし全身全霊をかけて何かを手に入れようと欲するとしたら
その人間は、その相手の人格を果たして認めるだろうか」という部分に
この「悪魔のようなあいつ」が重なったのかなあと…?
クラブのホステスや友人の妻、コールボーイの客、実の妹にまで言い寄られるわ
3億円を狙う男たちや執念深い警部に追い回されるわで
重苦しい「しがらみ」しかない中、不治の病で余命を宣告された男にとって
唯一信頼するに値するはずの男もまた「しがらみ」でしかないのか?と…(汗)
常に良のことを気にかけ、ここぞという時には、どんな手を使ってでも守ってやり
良の病気のことを知らされて動揺のあまり殺人まで犯しながら、何の見返りも求めることなく…
ただ、良に体を売るよう指示した相手が、5人の男性のお妾さんで
また、自分の別れた妻だと後から告げる辺り
なかなか屈折したものがありますが…(苦笑)
ともあれ…久世光彦さんによって、ジュリーの頽廃的な美しさが前面に押し出され
「確かに、ジュリーじゃなきゃ成立しないよなあ」というダークヒーロー像を観て
先日の「名曲!お宝音楽祭」で、伊集院光さんが
曲の間奏を長くして「ジュリーを魅せる時間」を作るという編曲家の方の言葉を紹介され
その後に流れたのが【カサブランカ・ダンディー】だったのを思い出しました(笑)
3億円の隠し場所を知られたと思うや、肉体関係を結んで口を封じたり
自分の子供を妊娠し「絶対に生む!」と言う人妻のお腹を殴る蹴るしたり(汗)
フツーならイメージダウンもいいトコだけど
【時の過ぎゆくままに】の弾き語りシーンはもちろん
そのアコギをめちゃくちゃに叩き壊すシーンや
毎朝の日課…日めくりカレンダーをちぎり「(時効まで)あと〇〇日」と呟いて
部屋の壁に並べたショートホープの1つをダーツの矢で射抜く…とか
クラブから出て行こうとする良に、藤さん演じるオーナーが
カウンターに置き忘れていた帽子をヒョイと投げると、見事に頭に被さる…って
あのシーンは、テイクいくつだったんだろ?(笑)…とか、とにかく「カッコいい!」が満載(笑)
まあ、ボクは、尾崎紀世彦さんの酔っぱらいの演技が、志村けんさんのそれに見えたり(笑)
岸部一徳さん演じる取り立て屋のセリフが
関西弁のイントネーションは、さすがにバッチリながら、妙に優しく聞こえたり(笑)
ディブ平尾さんが「イヤだ!イヤだ!」と言いつつ
嬉々としてストーリーキングをなさるシーンで(笑)泣いたり笑ったりもしたけど
奥さんは、自分でグラスにジョニ黒を注ごうとするオーナーからボトルを奪い
注いでくれるのか?と思って、グラスを差し出すと
蓋だけ開けて、ボトルをカウンターに戻す良ちゃんの仕打ち(笑)に萌えたり(笑)
高熱を出し、記憶を失うほどの頭痛に苦しむ時の表情が
「まぢでヤバイ!アブナイ薬やってる人みたい」と絶賛したり
篠ひろこさんが、良ちゃんのベッドにわざと真珠のイヤリングを残し
次に訪れた時に、それが粉々に潰れて見覚えのないハンカチに包まれているのを
台所で見つけたと良ちゃんに差し出すシーンで
ユーミンの【真珠のピアス】を思い出したらしく「怖っ!」と呟いたり…(笑)
脚本は、このドラマの後に水谷豊さん主演の「青春の殺人者」や
ジュリーの「太陽を盗んだ男」をお撮りになった「ゴジ」こと長谷川和彦さんで
このドラマのDVD化の際に、インタビューに答えておられるんですが
前述の2本の映画も含め「普通の人の非日常」に興味があるというコメントが印象的でした
…にしても、あのイヤリングの件は、実際に体験なさらない限り
男性には思いつかないんじゃないかと…?(笑)