のどのど日記

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明日は…?

その人の背中には大きな羽が見えた

2012-10-14 | のどのどぬ人

10月14日 向井山朋子+ニコル・ボイトラー+ジャン・カルマン「シロクロ」@スパイラル・ホール

ダンス・トリエンナーレ・トーキョー最終日。
1列目の"アドベンチャー・シート"に陣取って、何が始まるのかしらと思っていたら、
真っ暗闇の中、私の右を、すーっと誰かが掻き分けて舞台へ。それは向井山さん、その人でした。
真っ黒なロングスカートに、上半身には何も着けず、夜叉のような長い黒髪に表情は見えず…。

静かに踊るピアニストが定位置に付き、背中を向けたまま暗闇で突如、弾きだしたのは、
破壊的な、なんとも痛々しい、叫びのような、ピアノ。
本当にピアノが壊れてしまうのではないかしら、というくらいに力任せに弾く(ように見える)。
…かと思えば、とてもメロディックな、幸せな音楽。
でも、やはりそれはすぐに、狂気に引き摺られていきました。

実を言えばもう途中で、耐え難く、というのか、
この物語は一体どうなっていってしまうのと苦しくなってしまった。
それでも、どの場面も、なんだかどこを切り取っても美しい絵のようで…。

そうして続く狂気の中、
途中から舞台に登場していた、男性ダンサー(この方も同じ出で立ち)が、
不意に音に踊らされるのを止めて、一瞬で、
ピアノから向井山さんを引き剥がしたのです。

そこに残されたのは、息を呑むような、静寂。耳の中にはさっきまでの轟音の余韻。
さらわれたままの恰好で、抱きかかえられた向井山さんは、
儚くも、哀れでも、幸せそうでもあって、どれでもないようにも見えました。

向井山さんの舞台は、いつも、どこかで自分と向き合うことが必要になる舞台。
だから怖い。だけれど、何か、今私が見るべき理由が、あるのだろうな、と思えるのです。
終わった後、しばらく、席を立てずに、深呼吸さえままならず。
アーティストとは、こういう人のことを、きっと言うのでしょうか。

(ゆ:南青山の裏道を歩いていたらSHOZOのお店。あったかいカフェオレ、おいしかった~。)