虫干し映画MEMO

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われらが英雄スクラッフィ / ポール・ギャリコ

2006年05月27日 | 
山田 蘭訳/創元推理文庫

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』のジブラルタルの項にも

岩山の猿

アフリカから連れてこられた猿達が岩山に棲息している、この猿達がジブラルタルからいなくなったら英国がジブラルタルから撤退するとの伝説があるという。この猿達の世話は英国陸軍砲兵隊の管轄だそうである。また第二次世界大戦中に物資不足から猿の個体数が減少したがチャーチル首相が直々に猿の保護を命じたという逸話が残っている。


という記載があります。
 実際にチャーチルが猿の個体数維持の命令をしたは事実で、イギリス人と猿に関する伝説があるのも本当のことですが、「その他は、すべて私の想像が勝手に生み出した物語である」と冒頭にギャリコの言葉があります。

 個性豊かな動物たちに、わが道を行く素敵な変人たちなど、ギャリコの小説に登場する魅力的なキャラクターの総動員といった感のある巻を置くあたわずな小説。
 タイトルの「スクラッフィ」というのはサル山の猿の中でも飛び切り大きくて醜くて乱暴で、エサをくれる人間には必ず噛み付き、嫌がらせと破壊が何より好き、という手のつけられない猿。
 そして猿担当にされてしまったお人よしの陸軍大尉ティム・ベイリー。しかし彼は猿たちに、特にスクラッフィの誰にも馴れない孤高の姿に魅入られてしまう。そして20年も猿の世話をしてきたラブジョイ砲兵とともに真剣に猿のために働いてしまう。
 ところがその努力はうるさがられるだけで報われぬまま、ある事件が原因でベイリーは猿担当もはずされ、それ以下の最低の冷や飯喰いの地位に追いやられる。
 そして第二次世界大戦に突入、スペインがドイツにつくかどうかという危ういところ。なんと放って置かれた猿とイギリス人の伝説がスペインの去就を決定しようかという事態に!!!

 大戦中の話であり、背景にドカンドカンと大砲の音は鳴り響くがとりあえずは猿の命が先決問題な小説。

 そしてスクラッフィに鬘をとられて恥をかかされ、真剣に反イギリス工作をしてしまうラミレス氏。
 猿仕官ベイリーに恋をするぽっちゃり少女から最高の美女となる海軍提督の娘フェリシティ。
 緻密で高度な作戦を猿のために展開する情報部の頭脳クライド少佐
など、今風の言葉でいえば「キャラの立った」登場人物。
 しかし何よりも、人間様が自分たちの都合で猿相手に右往左往する中で、そんなことには超然とあくまで気難しく乱暴で頑固で孤高の猿であるスクラッフィがやはり英雄なのです。大団円にほっとしてギャリコのほかの小説のように爽やかな気持ちで本を閉じることができます。そして岩山の上に大きな醜い猿の哀愁に満ちた姿が浮かび上がるような気がします。


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