虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

原色の街/吉行淳之介

2004年05月26日 | 
まだまだ虫干し月間で古い本の読み返しを続けている。
三島はちょっとお休み。
谷崎の「文章読本」吉行淳之介「原色の街・驟雨」(新潮文庫 初版昭和41年 昭和54年21刷)アンデルセン「絵のない絵本」など。

 吉行淳之介の「原色の街」は売春防止法以前の娼婦の町の物語。
 吉行淳之介もけっこう読んだ筈だけれど、あまり中身を覚えていない。でもこれを読んだ時のため息みたいな感覚は覚えている。
 主人公は自己破壊衝動があるとしか思えない娼婦。何か人間の心の底の苛立ちみたいなものを抱えてしまい、自分にとって負の結果しかもたらさないことがわかっていて、そういう行動をせずにはいられないよう。
 これは絶対私の感覚はシンクロしない、と思いつつ、この底の底まで自分で自分を引きずるみたいな衝動は人間に確かにあるんだろうか、どうしてこの人はそれから眼をそむけて生きられないんだろう、と考えてしまう。
 良家の子女で、感情・感性がまったくつるんとした、今の自分だけを大事に生きられる女性も登場する。肉体や感情の昂ぶりがあくまでその場限りのものであり、いつでも捨て去ることが出来る。そして精神に痕跡を留めない。娼婦的といえば、そちらのほうが娼婦的。吉行はそのどちらが男にとって好ましいとか、どっちが好きとか読者が判断出来るようには書かない。

 この中の風俗的な記録も貴重なものかもしれないが、読後に残るのは作者の暗くて鋭い眼差し。性描写も全然扇情的には感じないし。

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