虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

着物/幸田文

2006年01月29日 | 
 昨日BS放送で成瀬巳喜男監督の「流れる」をやっていた。
 いい映画なのだが、苦い後味の映画で、女、いや人間というものが底に持っているよどんだ冷えたものが舌に残る…感覚の映画。大女優競演で素晴らしい映画だとは思うもののやはり苦い。

 映画「流れる」原作者の幸田文の、この「着物」という小説も苦い。
 幸田文という人は実にキツイ目を持った人であり、きつい表現を持った人だとどの小説を読んでも思う。実に潔癖な人柄だと思わされ、文章自体もそれにふさわしいものなのだが、そのきつさ・潔癖さに、私はどうも締めつけられる思いがして、主人公に距離をおかずにいられない。
 この「着物」というのは、3人姉妹と男一人の兄弟の末っ子の少女がほぼ大正時代を背景に成長し、結婚するまでを描いた一種教養小説で、その折節に主人公や家族の着る着物、姉たちや自分の嫁入り支度などの着物に、それぞれの状況が反映される。
 私は着物が好きだし、それなりに着ているのだが、読んでいると女の衣装に対する思いいれみたいなものに息苦しくなる。何を着るかというのは重要な自己表現であることは認識しているものの、今の時代は選択肢も多くあり、何よりも繊維自体が潤沢な時代なので、今ひとつぴんと来ない部分も多い。幸田文の主人公にしばしば感じる「今の状況を変えたくて、とりあえず見えているほうへ突き進んでしまう」様な状況はこの本でも幾度も登場し、それはとても私には怖い。
 しかし、この本の中の生活の知識をしっかりと次世代に伝えようとする賢い祖母と、家庭内の些事に普段は口出しをしないようだが家族の要としていざという時に事態を収拾できる父のありようというものは実に理想的なものに思う。

 主人公の結婚式で小説は終わるが、それは主人公の結婚生活の不幸を暗示する終わり方であり、本当に読後感の苦さは決定的になる。
 しかし本当にうまい小説であると思う。


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