日本の賠償は肩代わりの尹政権、米政府の盗聴にも「太っ腹」理解?
米政府が認めたのに韓国政府「悪意を持ってやったという情況なし」
米国の情報機関が作成したとみられる100件あまりの機密文書が流出した。「春季大攻勢」を準備中だったウクライナ軍当局が急きょ作戦計画を全面修正するほど、その内容は具体的だ。同盟国と友好国に対する米情報機関の盗聴・通信傍受をうかがわせる内容も含まれている。対象国には韓国も含まれる。にもかかわらず大統領室は「龍山(ヨンサン)の大統領室に対する盗聴・通信傍受疑惑は根拠のない偽の疑惑」だと語った。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権特有の「太っ腹外交」であり、米国に対する「無限の信頼」の典型だと言える。
ディスコード・ユーザー掲示板が発端
今回の文書流出事件は、2010年のウィキリークス、2013年のエドワード・スノーデンによる暴露とは根本的な違いがある。まず、文書流出の目的。ウィキリークスの暴露は、イラクに派兵され、現地で民間人虐殺事件などを目撃した米軍の情報分析官チェルシー・マニングの公益情報提供から始まった。米国中央情報局(CIA)などに勤務していた技術専門家のスノーデンも、国家安全保障局(NSA)が全世界に対して無差別な盗聴・通信傍受活動を行っていることに怒り、関連資料の一切を公開した。文書の性格も異なる。両者とも長期間にわたって作成された包括的な内容であり、作成からかなり経過してから流出した。今回は状況が全く異なる。
「ネコの首に鈴をつける」という寓話から取った「ベリングキャット」という名でオランダのアムステルダムを基盤に活動する探査報道専門メディアの2023年4月9日の報道によれば、今回の文書流出事件は3月初めにビデオゲーム専門ソーシャルメディア「ディスコード」の特定のゲーム(マインクラフト)ユーザーの掲示板からはじまった。この掲示板でウクライナの戦況をめぐりユーザーの論争が起き、あるユーザーが自身の主張を裏付けるために「1級機密」印の押してある文書の出力本を写した複数の写真ファイルをアップしたのだ。その後、ツイッターやテレグラムなどのソーシャルメディアや匿名のイメージ掲示板「4chan」などを通じて似たような内容が広がり、「ニューヨーク・タイムズ」が4月6日(現地時間)にインターネット版に「米国防総省が関連調査に着手した」とする内容を報道したことで世に知れわたった。ベリングキャットは、複数のディスコード・ユーザーの話を引用して「1月にも機密文書が掲示板に上がってきていた。ここ数カ月の間に、これまで知られているものよりはるかに多くの機密文書が掲示板で共有された」と伝えた。
最初の報道以降に相次いだ米国メディアの報道を総合すれば、流出した文書の作成には米国の主な情報機関のほとんどがかかわっていた。4月8日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」は「流出した文書にはロイド・オースティン国防長官とマーク・ミリー統合参謀本部議長に伝えられる日日情報報告をはじめ、国防情報局(DIA)とCIAが作成した現場報告書、(『空のCIA』と呼ばれる)国家地理空間情報局(NGA)のスパイ衛星データの分析資料、NSAの盗聴・通信傍受報告書などが含まれていた。一部は統合参謀本部が自ら作成したもの」だと伝えた。
ウクライナは「春の大攻勢」計画を全面修正
流出した文書は、内容によって大きく3種類に分けられる。第1にウクライナ戦争に関する情報。2023年2月28日に作成されたと表示されている文書には「ウクライナ軍が現在のような頻度で消耗を続ければ、ブーク地対空ミサイルは4月13日、S-300防空ミサイルは5月3日には底をつくだろう」との内容が記されている。同日に作成された別の文書には「5月までには、首都キーウと西南部の2地域を除くウクライナ全域の重要国家基幹施設の対空防衛網に穴が開くだろう」との見通しが示されている。文書流出後、ウクライナは早ければ5月中に開始されると予想されていた「春季大攻勢」計画を突如変更したという。作戦に動員される部隊、兵器システム、訓練度などの情報が詳細に公開されてしまったからだ。
第2に、米国がロシア側の情報網に深く浸透していることを示す内容もある。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻してからわずか4週間でウクライナ軍がロシア軍の10人あまりの高位現場指揮官を射殺したことで、米国が関連情報を提供したとの疑惑が持ち上がっている。米国防総省のジョン・カービー報道官(現ホワイトハウスNSC戦略広報調整官)は同年5月、「情報事案に具体的に言及するのは不適切だ」としながらも、「米国はウクライナが自主防衛に利用しうる情報や機密を提供している」と述べた。ニューヨーク・タイムズは「(流出した文書の内容から考えて)米国の情報当局はこのかんロシアの日々の攻撃計画などをリアルタイムで確保してきたことが分かる」と伝えた。このようなレベルの情報を確保するためには、盗聴・通信傍受などの「シギント(SIGINT、信号情報)」のほかに「ヒューミント(HUMINT、人的情報)」が欠かせない。CIAの元諜報(ちょうほう)員で諜報活動の専門家のグレン・カール氏は、4月12日に「アルジャジーラ」に出演し、「今回の文書流出で米国の対ロシア情報収集能力は相当な打撃を受けるだろう」、「(米国とつながっているロシア側の情報員の)一部は命の危険にさらされているだろう」と述べた。
第3に、米国の情報機関が同盟国と友好国に対して盗聴・通信傍受を含む諜報活動を行っていたことも明らかになった。3月1日にCIAが作成したとされる文書には、腐敗容疑で起訴されたイスラエルのネタニヤフ首相が自身を保護するために推進する「司法改革」に反対するデモを、情報機関「モサド」があおっているとの内容が記されている。CIAはこのような内容を「シギント」として確保したと明かした。モサドに対する盗聴・通信傍受が行われていたことを意味する。
韓国やイスラエルなどの友好国の情報も収集
4月9日付ニューヨーク・タイムズは、流出文書の内容を引用して「韓国国家安保室は3月初めにウクライナに砲弾を援助してほしいとする米国側の要求に苦悩している」と伝えた。やはり「シギント」として確保したということだが、当時のイ・ムンヒ国家安保室外交秘書官とキム・ソンハン国家安保室長が交わした会話内容が具体的に記されている。同紙は「イ秘書官はウクライナに殺傷兵器を提供する問題について、明確な立場を決めてこそ韓米首脳同士の通話ができ、殺傷兵器を援助しないという立場を変えることが唯一の選択肢だと強調した」と報じた。これに対しキム室長は、尹錫悦大統領の米国国賓訪問の発表時期とウクライナに対する殺傷兵器援助決定の発表時期が重なれば、「これらを交換する取引をしたという疑惑が生じうる」との懸念を示した。続けて「ウクライナに砲弾を早期に供給するのが米国の究極の目的なら、ポーランドに155ミリ砲弾33万発を輸出することも方法となりうる」として「迂回路」を提案したという部分もある。盗聴・通信傍受でなければ確保の難しい内容だ。イ秘書官とキム室長は3月に突如辞任している。
「提起された問題については、米国側と必要な協議を行う予定だ。過去の例や他国の例を検討しつつ対応策を考える」。米国の情報機関による大統領室盗聴疑惑が持ち上がった直後の4月9日、大統領室の幹部はこのように語った。同氏は翌日、記者団に対して「大統領室盗聴・通信傍受疑惑に関する報道は確定した事実ではなく、一部の内容は修正またはねつ造された可能性がある」とし「韓米首脳会談を控えた時期に今回の事件を誇張歪曲して同盟関係を揺さぶろうとする勢力があれば、国民的抵抗を受けることになるだろう」と述べた。
キム・テヒョ国家安保室第1次長も4月11日、尹大統領の国賓訪問を調整するために米国に出国する際、記者団に対して「公開された情報のかなりの数が偽造されている」、「(尹大統領)就任後の11カ月間、両国はすべての領域で情報を共有してきており、重要な情報活動を共にしている。世界最強の情報国である米国の力量は大きな資産」だと語った。同氏はワシントン到着後も「同盟国である米国が韓国に何らかの悪意を持って(盗聴・通信傍受を)したという情況は見つかっていない」と述べた。同日、当の米国は「事態を非常に深刻に受け止めている。出所と流出範囲を明らかにするために最善を尽くす」(オースティン国防長官)と述べ、流出文書が本物であることを事実上認める発言を行っている。
「信頼が必要だ。信頼を立て直さなければならない。いかなる状況においても友を内偵する行為は許されない」。2013年10月24日、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)は記者団にこのように述べた。米NSAが長期にわたりメルケル首相をはじめとする各国の30人あまりの指導者の携帯電話を盗聴していたことが、スノーデンの暴露で世間に知れわたった後のことだ。当時ドイツはジョン・エマーソン米国大使を呼んで抗議したが、米国はついに謝罪しなかった。NSAは「米国は他国と同様のやり方で海外情報を収集している」と発表した。当時、米国のバラク・オバマ大統領はメルケル首相に電話をかけ「現在は盗聴しておらず、今後もそのようなことはないだろう」、「米国民の安保のための活動と同盟国のプライバシー侵害の懸念との均衡点を探るため、情報収集体系を綿密に検討している」と述べた。
米国は謝罪せず流出捜査に着手
米司法省は国防総省の公式の要請を受け、4月7日に連邦捜査局(FBI)が中心となって今回の文書流出事件の捜査に着手した。リサ・モナコ司法副長官が陣頭指揮をとる見通しだ。かつて司法省の国土安保担当次官補を務めたモナコ副長官は、オバマ政権ではホワイトハウスNSC国土安保および対テロ担当補佐官を務めている。同氏は2013年10月25日付『USAトゥデイ』への寄稿で、「友好国を含む監視偵察能力に対する点検作業を行っている。我々ができるからではなく、我々にとって絶対に必要な時にのみ情報を収集するようにする」と述べている。10年を経てまたしても同じことをやっている。
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