朴槿恵政権も、SM3導入の決定には踏み切れなかった。同ミサイルが朝鮮半島の作戦環境に合致するかどうかをめぐり、軍内部の意見が分かれた上、政府が韓中関係に及ぼす悪影響を懸念したためだ

2024-05-06 09:13:25 | 韓国を知ろう
 

韓国が導入するSM3ミサイル、

北からの「直接的な脅威」には対応できない

登録:2024-05-04 06:18 修正:2024-05-06 08:08

 

[クォン・ヒョクチョルの見えない安保]
 
 
2012年10月25日、米海軍イージス駆逐艦「フィッツジェラルド」(DDG62)が合同弾道ミサイル防衛訓練の一環としてSM3ミサイルを発射している=米海軍ウェブサイトよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 先月22~25日、京畿道の招請で韓国を訪問した中国遼寧省のカク鵬(カク=赤におおざと)党書記は、ハン・ドクス首相をはじめチョ・テヨル外交長官、キム・ドンヨン京畿道知事らと相次いで面会した。韓国政府は、中国地方政府の党書記としてはコロナ禍以降初めて韓国を訪れたとしてこの訪問を意味付けした。カク書記の訪韓を機に、韓国政府が尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足以来、2年間にわたり行き詰っていた中国との関係改善を図るというシグナルを中国側に送ったのだ。

 同書記が韓国訪問を終えた翌日の26日、政府は第161回防衛事業推進委員会を開き、次世代イージス駆逐艦「正祖大王」級に搭載する海上配備型弾道弾迎撃ミサイルを有償援助(FMS:米国政府が武器輸出管理法等に基づき、外国または国際機関に対し装備品等を有償で提供する安全保障援助の一環)調達で確保するため、事業推進基本戦略案を審議・議決した。海軍の次世代イージス駆逐艦に使用する弾道ミサイル迎撃システムを米国のSM3に決め、同ミサイルを米政府の保障を受ける形で購入するということだ。SM3の導入は、韓国と中国関係において高高度防衛ミサイル(THAAD)に匹敵するほど刺激の大きい事案だ。2016年から中国官営メディアはこのミサイルについて「海上のTHAAD」だと非難してきた。

 
 
ハン・ドクス首相(右)が先月25日、ソウル鍾路区の政府ソウル庁舎で、中国遼寧省のカク鵬党書記に会って握手を交わしている=首相室提供//ハンギョレ新聞社

 カク書記の訪韓と時期がかぶったSM3の導入決定は、コントロールタワーなしに外交・安保部署(省庁)が別々に仕事をしているという印象を与える。通常、SM3のように戦略的意味のある兵器の導入は、まず軍当局が北朝鮮の軍事的脅威など南北の対峙状況と朝鮮半島の地形の特性などに基づき、兵器システムごとの長所と短所を考え最適な案をまとめ、その後、外交・安保のコントロールタワーである大統領室が費用対効果など経済的側面、韓米同盟と周辺国との関係などを慎重に考慮し、総合的な判断を下す、という過程を踏む。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権がこのような過程を経てSM3の導入を決めたのかはまだ不明だ。

 SM3の導入は11年以上の長きにわたる懸案だ。朴槿恵(パク・クネ)政権時代の2013年10月14日、国防部に対する国会国政監査でSM3の導入が取り沙汰されたことを受け、キム・グァンジン国防長官は2日後の10月16日に記者会見を自ら開き、このように述べた。「これまで導入を検討したことはなく、今後も検討する計画はありません」

 安保をかなり強調していた朴槿恵政権も、SM3導入の決定には踏み切れなかった。同ミサイルが朝鮮半島の作戦環境に合致するかどうかをめぐり、軍内部の意見が分かれた上、政府が韓中関係に及ぼす悪影響を懸念したためだ

 海軍にとってはSM3の導入は宿願の事業だが、陸軍と空軍はこれをコストパフォーマンスが悪く、朝鮮半島の戦場環境では使い道が明確でない兵器という見解を示してきた。軍当局は北朝鮮が保有・開発する数種類のミサイルのうち、実際に朝鮮半島で脅威となるミサイルが何かを見極めたうえで、これを阻止する兵器体系や軍事力建設の方針などを設計する。

 韓国にとって直接的な脅威となる北朝鮮の弾道ミサイルは、射程1000キロメートル以下の短距離ミサイルだ。南北の長さが1000キロメートルほどで、北朝鮮がこれより飛行距離が長いミサイルを発射すれば、朝鮮半島をはるかに越えて海へと向かう。北朝鮮の中長距離ミサイルは日本と米国を狙ったものだ。

 
 
2013年5月16日、SM3ブロック1B迎撃ミサイルが米海軍のイージス巡洋艦「レイク・エリー(CG70)」から発射される様子=米海軍のウェブサイトからキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 北朝鮮の短距離弾道ミサイルの通常の最高飛行高度は100キロメートル以下だ。北朝鮮の短距離ミサイルの高度がSM3の迎撃高度範囲を下回っているため、SM3では北朝鮮の短距離ミサイルを撃ち落とすことができない。SM3は、迎撃する標的を探す探索機を守るために、発射後は探索機のカバーを覆って飛行し、高度90キロメートル以上でカバーを分離する。このような探索機の特性から、SM3は約100キロメートル以上でのみ使用できるという。SM3ブロック1Bは迎撃高度が150~500キロメートルであり、米日が共同開発する改良型SM3ブロック2Aは迎撃高度が1000キロメートルだという。

 「SM3は朝鮮半島の作戦環境に合わない」という指摘に対し、防衛事業庁の関係者は先月26日、「北朝鮮が韓国を攻撃するために高角で発射した中距離弾道ミサイル(IRBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などを迎撃するのにSM3が使われる可能性がある」と主張した。北朝鮮は中長距離ミサイルを発射する際、米国を刺激しないようにわざと飛行距離を短くするため、正常発射角度(30~45度)より高い高角発射を行っている。有事の際、北朝鮮が中距離ミサイルを高角発射すれば、飛行高度は高くなり、飛行距離が短くなるため、韓国に落下する恐れがあり、現在はこれを迎撃するミサイルがないので、SM3がその役割を果たせるということだ。例えるなら、北朝鮮が「牛刀をもって鶏を割く(小さなことを処理するのに大げさな方法・手段などを用いる)」こともあり得るという話だ。

 
 
2022年1月31日付の北朝鮮労働新聞は「地上対地上中長距離弾道ミサイル『火星12型』の検収射撃試験(発射実験)を30日に行った」と報道した/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 しかし、北朝鮮が相対的に安価で簡単な技術で作れる短距離ミサイルを十分保有しているにもかかわらず、難しい技術で作った高価な中長距離ミサイルを韓国に使用する可能性がどれだけあるのかという反論も少なくない。鶏を割く刀がない場合は牛刀を使うこともあるかもしれないが、すでに鶏用の刀が十分にあるのにあえて牛刀を使う理由があるのか、という疑問だ。高角発射の可能性に関する主張は、各国が用途と作戦環境を考慮して短距離、中距離、長距離に分けて開発する弾道ミサイルという兵器システムの本質的な機能を無視しているという指摘もある。

 北朝鮮は2019年以後、「北朝鮮版イスカンデル」など最大飛行高度が50キロメートル前後の新型短距離ミサイルと超大型放射砲を開発し、戦術核弾頭を装着しようとしている。これらの兵器は高度が低すぎてSM3では迎撃できない。北朝鮮がこのような兵器を開発すれば、韓国を狙って中距離ミサイルをあえて高角発射する必要性はさらに低くなる。

 SM3はこれまで導入が取り上げられるたびに、韓国の防衛ではなく、在日米軍やグアム基地の米軍の保護に使用されるのではという疑念の声があがってきた。北朝鮮がこれらの地域を打撃する際に使う中距離ミサイルの飛行高度が150キロメートル以上であるため、東海(トンヘ)に配備された韓国海軍のイージス艦から、日本やグアムに向かうこれらのミサイルを迎撃することができる。この場合は、米国が進めているミサイル防衛システム(MD)に韓国が組み入れられることを意味する。

 北朝鮮の核・ミサイルによる脅威に備えた3軸体系の一つである韓国型ミサイル防衛システム(KAMD)で、「韓国型」に注目する必要がある。これは、米国のMDとは別に、韓国領土を敵国のミサイルの脅威から守る防衛システムを構築するという意味だ。韓国型ミサイル防衛システムは原則として、韓国の領土内の作戦地域を限定して考慮しなければならない。尹錫悦政権がSM3の導入を決定し、多くの争点に対する公論化の手続きをきちんと踏まなかったことで、国会の予算編成と審議の過程での議論が避けられなくなった。

クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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