えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・没収されることば

2021年01月16日 | コラム
 放送禁止用語のことではない。電源を入れたときに「更新をインストール中です」と不穏なメッセージを出したのちに日本語の入力を受け付けなくなった道具の話である。

 パソコントラブルに見舞われた人のほぼ全員が言うだろう「自分は何もしていない」を信じ込むには心が擦れっ枯らしてしまった身の上が振り返っても覚えがなかった。唯一それらしき原因はWindowsが自動的に行なった「更新」だが、更新内容を元に戻したところで気がついたときに再度インストールされている可能性を考えてやめた。何度「半角/全角」のキーを押そうが、「カナ/かな」キーを押そうが、「変換」「無変換」キーを殴ろうが、キーボードの入力を画面は受け付けず半角英字だけを執拗に表示し続ける。同様の現象に見舞われた被害者たちの戦いの記録を当てにして検索した方法を試してもメモ帳を開いて恐る恐る叩いた母音のキーは無慈悲に「あ」ではなく「a」を表示し続ける。「つい先日まで何もなかった」PCの体たらくがこれだ。

 思い返さずともGAFAにMicrosoftを足した世界の中で、パソコンへ日本語をタイプする権利というそれすらも彼らに握られていることはとどのつまりこういうことで、いつ何時気まぐれでローマ字から日本語へ変換する機能が失われたとしてもおかしくはないのだ。おかしくはないとはいえ、レジストリの怪しい値の削除から言語の基本設定の見直し、キーボードの配置設定から日本語IMEの再インストールを試みてまで四時間の格闘の挙げ句におっかなびっくり押したキーから表示される「a」は、本格的に言葉が奪われたときの日本語の現実を突きつけるものだと再確認させられる。なお、そう簡単に直らない場合のパソコントラブルの対処法としてレジストリの操作はありふれた手段の一つとして紹介されているが、レジストリに保管されているファイルはどの記事でも必ず赤字と太字で注意されている通りOSの起動に関わる部分なので、パソコンを物理的にもソフト的にもOS的にも壊すことに慣れていなければ素直に修理を頼むほうが懸命だ。

 最終的に私のパソコンはGoogleの提供するIMEをインストールすることで日本語の入力を取り戻したが、支配者がちょっと変わっただけでいち企業に日本語の入力権利が握られていることに変わりはない。幸いGoogleのIMEのインストールは公式サイトからダウンロードできるドライバを使用すれば簡単にインストールできるので、同じ症状にお悩みの方は試してみてはいかがだろうか。いつかまた来るだろうWindowsの「更新」に邪魔されるまでは日本語入力を手元においておくことはできる。
コメント
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