2008年4月3日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> ヴィラ=ロボスのショーロ

 最近思いがけなく素敵なCDが手に入った。それは先日久しぶりにミューズ音楽館へ伺ったとき、山下さんが「こんなの興味ない?」といって勧めてくれたもので、私の大好きなピアニスト“クリスティーナ・オルティス”の参加したヴィラ=ロボスのショーロが3曲入ったCD。私としてはクリスティーナ・オルティスと聞いたら迷うことなく購入。彼女は以前にもここで紹介したことがあるが、かなり昔から私のお気に入りのピアニストで、彼女のCDは見つけて買わなかったことがない。LPの時代に2枚。そしてこれまでもっていたCD7枚と、それに今回のものが加わって計8枚。殆んどがヴィラ=ロボスをはじめ南米の作曲家の作品を演奏したものが多いのだけども、中にはベートーベンのピアノ協奏曲全曲という変り種もある。もっとも彼女の師匠はあの有名な巨匠“ルドルフ・ゼルキン”なので、ベートーベンは得意中の得意なんでしょう。とても素晴しい演奏で、私の持っているLP・CDの中でもミケランジェリのものに匹敵するくらい気に入っている。

 今回はそのクリスティーナ・オルティスの参加したショーロの入ったCDのほかに、ヴィラ=ロボスのショーロを沢山演奏したものがもう一枚あるので、合わせてそれもここに取り上げることにした。それにはヴィラ=ロボスのショーロが8曲収録されていて、ギターでは“トゥリビオ・サントス”が参加しているもの。
ヴィラ=ロボスはショーロと名づけた楽曲を知られているもので1番から14番までと、番号のない作品を2曲(VL+Vc)、全部で16曲残しており、皆さんご存知の通りその第1番がギター・ソロのために書かれている。これをトゥリビオ・サントス“が演奏している。しかしショーロの起源のことを考えると、サントスの演奏はとても上手いのだが、あまりに手堅くカッチリと弾いていて面白い演奏とは言いかねる。もうすこし与太ったというか、ブラジルのこぶしが効いていて欲しかった。とにかく楽譜に書いてあるとおりに弾くだけではなんだか脳がないような気がする。このCDではその他に2番から7番までと(6番が入っていないが)、番号無しの2曲のショーロとそのほかにちょっとした室内楽が収められている。ショーロというのは特定なリズムや形式を表しているものではなく、もともとは街角で仲間が持ち寄った楽器で自由に即興演奏する、いわば仲間内の音楽なんだが、ヴィラ=ロボスはその起源よろしくショーロという名前で様々な楽器を使って様々な音楽を書いている。一応ここに紹介すると、第1番がさきほどもいったギターソロ。第2番がFl+Cl。第3番が男性Cho+Cl+Sax+Fag+3Frn+Trn。第4番3Hr+Trn。第5番がピアノ・ソロ。第6番がVl+Vc。第7番がFL+Ob+Cl+Sax+Fag+ゴング+Vl+Vc。第8番がオーケストラと2Pf。第9番がオーケストラ。第10番が合唱とオーケストラ。第11番がPf+オーケストラ。第12番がオーケストラ。第13番がオーケストラ+吹奏楽というちょっと変わった組み合わせ。第14番はさらにオーケストラ+吹奏楽+合唱。そして最後に番号なしでVl+Vc。同じような連曲としては有名な「ブラジル風バッハ」があるが、それに比べてさすがにショーロの方は楽器編成がヴィラ=ローボスのきまぐれなのであろう。“出鱈目”といったらよいか、まさにその起源を表している。あたかも「おれに書かせりゃ、どんな楽器の組み合わせでもいい曲は書けるもんさね。とどのつまりは才能よ!」とでも言っているかのようだ。もっともブラジル風バッハにしたところが、ご存知第5番のようにチェロとソプラノだけという組み合わせもあるので、やっぱりヴィラ=ローボスはちょっと変わったというか、“天邪鬼”な作曲家なのかもしれない。

この2枚のCDで重複しているのはピアノ・ソロにあてられた5番のみ。もちろんクリスティーナ・オルティスの演奏が野性味あふれていて抜群に素晴しい。またサントスが参加している方はおおよそ小編成のものばかりであるが、めったに聴けない曲ばかりなのでとても興味深いものばかりだ。それに録音はちょっと古いがなかなかいい音で録音されていて、オーディオ的にも楽器奏者の位置関係がはっきり分かって、そのあたりもなかなか面白い。そして今回の新しいCDに収録されているピアノとオーケストラのために書かれた第11番は、演奏時間も62分52秒と通常のピアノ協奏曲よりもはるかに大曲となっていて、ヴィラ=ロボスには他にちゃんとしたピアノ協奏曲が5曲もあるので(これもクリスティーナ・オルティスは全曲録音している)、そちらに含めてもいいんじゃないかと思わせるくらいの大曲だ。またこちらのCDは最新の録音ということもあって、もーれつに音がいい。“BIS”からの発売なんだが、以前リュートの中川さんがBISの古楽の録音が抜群に素晴しいと言っていたけども、たしかにその通り。目の覚めるような鮮やかな音で録られている。
ヴィラ=ロボスにはそのほかにもチェロのための協奏曲やハーモニカのための協奏曲なんていう変り種もあって(これがなかなか素敵な曲)、結構興味の尽きない作曲家である。そのうちにそれらも紹介してもいいかな、とは思っておりまするが。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)

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