それでも僕はテレビを見る

社会‐人間‐テレビ‐間主観的構造

フジファブリック「若者のすべて」を解説

2010-12-28 19:24:03 | コラム的な何か
理由は特に述べませんが、フジファブリックの「若者のすべて」という曲の構造を分解してみたいと思います。

とにかく、すごく良い曲です。



1、コードとスケール

調は最初から最後まで一貫して「D♭」。

Aメロは、 D♭/F G♭ という進行の繰り返しです。

すなわち、「Iの第一転回形」⇒IV というポップロックのAメロでは頻出のパターンです。

コードチェンジの位置は1小節ごとで、比較的ゆっくり。



そこからBメロは、G♭から一音ずつベースが下がる進行。Aメロよりも、色が鮮やかな展開です。

コードチェンジのタイミングがさらに遅くなって、基本的に2小節に一回に。

サビ直前で、ドリアン・スケール(たぶんね・・・)がシタールっぽい音で展開して、青春感が出ています。ちなみに同じスケールが、曲の最後の最後でも!これは非常に象徴的。



そこから、サビはさらに色が鮮やかに。

G♭M7  D♭/F  E♭m7  E♭dim  B♭m  D♭/A♭
G♭M7  D♭/F  E♭m7  D♭/F  G♭  A♭  D♭

この展開で注目したいのが、E♭dimの使い方。かなり抒情的にディミニッシュが使われています。そこだけ抜き出して見てみましょう。

II ⇒ IIのディミニッシュ⇒VI
E♭m7 E♭dim B♭m

抒情的だし、きわめてクラシックっぽい。本当、クラシックっぽい。バロック以来のディミッシュの伝統という気がします(詳しくないので分かりませんけど)。

フジファブの特徴は、幾つかの曲で見られる極めて抒情的なコード進行。これもその代表です。

さらにサビの後半、その最後では

Iの第一転回形⇒IV⇒V⇒I

という一気に上に登っていくコード進行が、2拍に一回の早い割合で展開します。ゆったりとした下がる展開が続いていたので、非常にドラマチックです。



2、リズム

Aメロ、Bメロは拍の頭を均等の強さで打っていく、淡々とした展開。

それに対して、サビは典型的な8ビートで、ガンガン押して行きます。

それまでの淡々としたリズムからこの展開によって、サビはサビであることを自己主張します。



3、歌詞

歌詞は解説しようがない・・・。ただ、これがまた抒情的なんだな・・・。

どう抒情的かっていうと、何か祭りが終わった感がすごい。


サビは、

「最後の花火が今年も終わったな

何年経っても思い出してしまうな

ないかな ないよな きっとね いないよな

会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ」


「ないかな・・・」の一節が特にすごい。独り言だし、その迷っている感じ、思い出している感じ、思いが残っている感じ、うーん、すごい。

この「ないかな・・・」の節がうまくはまっているのは、メロディと発声の関係のせいでもある。

フジファブのボーカル志村さんは、張るというよりは、粘る感じでひっぱりあげる発声法が特徴でした。ちょっと幼い感じもして、そこが抒情性のある歌詞と合う。

この「ないかな・・・」のメロディは、音の上下がかなり激しいダイナミックなものなんですが、この粘る発声がこの上下の連続の中で、すごく生きている。

それが「ないかな ないよな・・・」のナ行音が粘る感じと、また噛み合ってしまう。

このメロディ、発声、音声の3つどもえの関係が見事。

そこにあの色鮮やかなコード進行と組み合わさって、もうすごい効果ですょ。



4、音質

これは言っておきたい。フジファブのこの曲は基本的にアコースティックなサウンド。

特にアコースティック・ピアノの音がうまい。これがうまく使われています。

これが抒情性とぴったりなんだなあ・・・。

Aメロ、Bメロではこのアコースティック感が全開で、裏のエレキ・ギターのサウンドが効果音に。これも上手。

ところがサビで、エレキ・ギターのサウンドが全面に出てきて大盛り上がり。8ビート&エレキで、ロックです。

その盛り上がりのなかで、あのコードと歌詞。最高っす。



5、まとめ

抒情的なコードと、抒情的な歌詞。無敵です。・・・それだけかいッ!

相対性理論のミス・パラレルワールドの解説

2010-12-28 16:48:00 | コラム的な何か
みなさん、特段興味はないと思いますが、今日は相対性理論の「ミス・パラレルワールド」の構造を少し分解してみたいと思います。

この曲は僕が今年イチオシの曲のひとつでしたが、どういう構造になっているのか分解しながら、その魅力に迫りたいと思います。



1、コードとスケール


ではまず、ミス・パラレルワールドのコードを耳コピしてみたので、それを見てみましょう。

イントロ
G♭M7 A♭ B♭m

Aメロ
E♭m9 Fm7 G♭ B♭m

Bメロ
A B E A B G#

サビ
BM7 C# D#m

適当に耳コピしたので、普通に間違っているかもしれません。


*イントロのコードは、ベース音からすれば違うと思う方もいると思いますが、あれはベースのラインの問題で、コード自体はこの3つの展開であっていると思います。

*M7とか9とかは、ここでは厳密には考えていません。



ここから次のようなことが分かります。

まず、イントロのキーはD♭。それ自体は特別ではありません。

押さえておきたいのは、イントロのコードの展開で、これがIV⇒V⇒VI。

いわゆる、ポップスやロックでよく出てくる展開なのですが、非常に味が強い。ベタな感じになりやすい展開です。

この曲の特徴は、転調しながらこれが繰り返される点です。味が強いコード進行をとにかく押してくる。

さらに、イントロで耳を引くのがペンタトニックのスケール。いわゆる五音音階です。東アジアっぽい音の響きです。

相対性理論は、とにかくこのペンタトニックをやたら使います。それがこのバンドの特徴です。



次にAメロですが、ここでのキーもD♭。

コードの進行は、II⇒III⇒IV。普通です。味が強いイントロの展開を維持しながら、一旦おさめる進行という感じでしょうか。



興味深いのはBメロで、Aメロから上に2度転調してE♭になります。

2度上の転調はいわば浮遊感が強い効果を持ちます。

味の強いイントロから、それを維持しつつ、少し抑えたAメロ。このストレートな展開を2度の転調で浮遊させます。

浮遊させることで、サビへ展開する力をためます。

すなわち、サビに展開したときに、浮遊している間にたまった力を一気に解放し、聴き手に溜飲を下げさせる狙いです。

浮遊している間もコードはIV⇒V⇒VI。

先に言っちゃいますが、サビもこの展開で、イントロ=Bメロ=サビ、ということになります。

浮遊しながら、調違いで同じ進行をすることによって勢いを維持し、サビにつながりやすいようにします。




ここから、サビで上に短3度転調転調してF#。そして、コードはまたIV⇒V⇒VI。

短3度上の転調は非常によく使われるもので、きれいです。

テンションが一気に上がる展開と言えるでしょう。

さらに、サビのメロディ「パラレル、パラレル、パラレル・・・・ワールド」は見事なペンタトニック。

そこにほぼ一貫した味の強いコード進行。

まさに相対性理論らしさ全開です。



2、リズム

「ミス・パラレルワールド」のリズムは、全体に少しバックビートが強め。

ちょっとファンクっぽいです。

イントロはまさにそういう感じで、Aメロはその展開を抑えます。

Bメロは完全にバックビートが弱く、浮遊感全開。

サビはファンクっぽいバックビートの強いリズムでがんがん押してきます。



3、歌詞

最後に歌詞を分析してみましょう。

Aメロの最初はこうです。

「秘密の組織が来て 8時のニュースが大変 都会に危機が迫る 巨大な危機が迫る」

わずかに韻を踏みつつ、内容は完全にファンタジーです。

聴き手はまず「秘密の組織って?」と思うでしょう。

次がポイントで、Aメロはさらにこうなります。

「暇ならわたしと来て こわれた世界を体験 時代の危機が迫る 希代の事態となる」

暇ならわたしと来て、で聴き手はちょっと惹きつけられます。どういうわけか、来るように呼びかけられてしまったわけですから。


Bメロでは、浮遊感に合わせて場面が大転換。

「放課後 ふとよぎるテレパシー(シンパシー) 
わたし 遠い未来にあなたとまた出会う」

浮遊感が「テレパシー」という語句とぴったり合っています。

そのあと、「あなたとまた出会う」と来るので、また聴き手は呼びかけられているわけですが、さっきの「わたしと来て」よりも、「また出会う」は運命に引き寄せられる印象が強い。

運命といった何か巨大な流れを連想をさせつつ、次のサビの怒涛の展開を待つ音の状態が、パラレルな関係にあるように見えます。


サビは、

「東京都心は パラレル パラレル パラレル パラレル パラレル パラレル ワールド」

とにかくパラレルを繰り返しまくります。同じ言葉を何度も繰り返すことには非常にインパクトがあるだけでなく、

パラレルの音の響きと3つのコードの繰り返しが混じって、ぐるぐる回っている感じを聴き手に与え、タイムスリップするようなファンタジー感を生じさせているように思えます。



4、結論

この曲の特徴は強い味のコード進行です。この味の強さはアニメっぽいです。

そして、歌詞の内容もファンタジー。

かなり二次元感が強いと言えます。それにボーカルのアニメ声が混ざるから、もはやこの曲全体がアニメと言っても過言ではない。

そういう意味で日本のポップカルチャーらしいし、それを求める大衆がいるので需要もある。

しかし、これだけ濃い構造にもかかわらず、転調とリズムのメリハリが巧みなので、聴き手を飽きさせないようになっています。ここがポイントです。