消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(156) 新しい金融秩序への期待(156) クレジット・デリバティブという怪物(13)

2009-05-14 07:03:30 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

 (15) スティグリッツは、FRB議長のベン・バーナンキ(Ben Shalom Bernanke)のインフレ・ターゲット論を念頭に置いているようである。バーナンキはグリーンスパン(Alan Greenspan)後の金融政策のあり方のひとつとして、インフレ・ターゲット政策を採用すべきだと主張し、事実、FRB議長指名を受けての上院銀行委員会の公聴会においてグリーンスパン路線の継承を約束した(〇五年一一月一五日)。その理由は、物価水準の目標値を決めて、目標値を上回れば金利上げ、下回れば金利下げというFRBの行動が金融関係者に自動的に伝わるという形で市場とのコミュニケーションを円滑にするという点にあった(FRB, Testimony of Ben S. Bernanke, Nomination hearing Before the Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs, U.S. Senate, November 15, 2005; http://www.federalreserve.gov/boarddocs/testimony/2005/20051115/default.htm)。

 彼の証言を要約しておく。

 <一層透明性を増すための可能なステップの一つは、FOMC(Federal Open Market Committee=連邦公開市場委員会)が長期的な価格安定性の目標に合致していると考えるインフレ率、あるいはインフレ率の範囲の数値を明示的に提示することであり、これは世界の多くの中央銀行によって現在採用されている手法です。私は学術的な文書や、理事会の委員としてのスピーチにおいて、この考え方を支持してきました。「長期的価格安定性」の意味に関して数値的指標を提示することには、金融政策に対して一般の感じる不確定性をさらに低下させ、長期的なインフレ期待をより効果的に固定できるなど、いくつかの利点が存在します。私は、長期的なインフレ目標の明示的な提示は、政策形成において判断および柔軟性がもつ役割に対する適度な強調も含めて、連銀の現在の政策アプローチと完全に一貫性をもったものであると見ています。もっとも重要なことは、このステップは政策目標としての雇用の最大化の重要性を決して損なわないということです。実際、このアクションの主要な根拠は、インフレおよびインフレ期待をさらに安定化させることにより、より強固でより安定的な雇用の成長に寄与し得る可能性があるということです。いずれにせよ、私の指名が承認された場合は、長期的な価格安定性の定義の数値化に向けた拙速なステップはとらないということを、この委員会に保証します。この事項に関しては連銀によるさらなる研究、および多大な議論と協議が必要です。このようなステップ(明示的なインフレ率の提示)を取ることにより、価格安定性および持続可能な雇用最大化の両者を達成するという二つの義務を満足させるFOMCの能力がより強化されるというコンセンサスが形成された場合にのみ、私はさらなるアクションを提案します。>

(16) 金商法の「第二四条の五」(半期報告書及び臨時報告書の提出)
 「第二四条第一項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社(第二三条の三第四項の規定により有価証券報告書を提出した会社を含む。第四項において同じ)のうち、第二四条の四の七第一項の規定により四半期報告書を提出しなければならない会社(同条第二項の規定により四半期報告書を提出した会社を含む。第三項において同じ)以外の会社は、その事業年度が六月を超える場合には、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該事業年度が開始した日以後六月間の当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「半期報告書」という)を、当該期間経過後三月以内に、内閣総理大臣に提出しなければならない」。

 「第二四条第一項(同条第五項において準用する場合を含む)の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社は、その会社が発行者である有価証券の募集又は売出しが外国において行われるとき、その他公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める場合に該当することとなつたときは、内閣府令で定めるところにより、その内容を記載した報告書(以下「臨時報告書」という。)を、遅滞なく、内閣総理大臣に提出しなければならない」。

 「第七条、第九条第一項及び第十条第一項の規定は半期報告書及び臨時報告書について、第二二条の規定は半期報告書及び臨時報告書並びにこれらの訂正報告書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合について、それぞれ準用する」。

 半期報告書、臨時報告書、有価証券届出書の虚偽記載の場合の役員等に対する損害賠償責任の規定、提出会社の役員に対して賠償請求、等々が問題になる。

 アーバンコーポの場合、正確にはすべてを開示していなかったということなので、「重要な事実の記載がかけている場合」の方に該当すると思われる。

 ライブドア事件判決でも適用された損害賠償額の推定規定が第二一条第二項である。市場価格の下落分(前後一か月の平均)が賠償額と推定される。しかし、賠償額の立証まで必要となるところに難点がある(http://japanlaw.blog.ocn.ne.jp/japan_law_express/2008/09/bnp_b9bf.html)。

(17) オフバランスとは、会計上のリスクが存在する取引をバランスシートの外に出すことであり、それによって、企業価値を高めることができる。オフバランスとは、事業運営に活用している資産・負債でありながらも、貸借対照表に計上されないことを意味する。一九七〇年代の米国において、バランスシート上の負債として計上されない資金調達の方法として、オフバランス取引が使われるようになった。当初は、非連結金融子会社を通じての取引や、証券化による債権譲渡取引などから始まり、八〇年代の金融自由化の中でデリバティブ取引へと拡大していった。バランスシートから資産・負債を消す(オフにする)ことで、外部からの評価(格付け)を高め、借入・金利負担を軽減し、資産利益率を向上させる効果がある。その際、対象資産としての債権や不動産を裏づけに、SPC(特定目的会社)を通じて証券を発行し売却することで借入金を返済することになる。その資産を担保とした証券のことを資産担保証券(ABS)と呼ぶ。証券化とは、このABSを活用して債権の流動化を図ることを意味する(http://www.nri.co.jp/opinion/r_report/m_word/off_balance.html)。

(18) グリトニル(Glitnir)は、北欧神話に出てくる宮殿のことである。名前は「輝けるもの」の意味である(V.G.ネッケル, V. G. 他編、谷口幸男訳『エッダ 古代北欧歌謡集』、新潮社版、一九七三年、五八ページ)。アイスランド政府は〇八年九月二九日、同国第三位のグリトニル銀行(GLB.IC)株式の七五%を取得し、政府管理下に置いたと発表した。取得額は六億ユーロ。米国発の金融危機で米国の金融機関が相次いで破綻。影響は欧州の金融機関にも及んでいるが、北欧の銀行破たんはグリトニル銀が初めてであった(http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-33989820080929)。

 野崎日記(155) 新しい金融秩序への期待(155) クレジット・デリバティブという怪物(12)

2009-05-13 06:59:30 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

(9)フォワードとは、銀行間市場(外国為替市場)の外国為替取引の種類の一つで、フォワード取引(金利のフォワード取引とは異なるので注意)とも呼ばれ、一定期間の通貨の交換のことをいう。通常、二営業日後にスタートをして、一定期間後に反対売買を約束して行う取引である。機関投資家などは、二~三か月先の受渡しの為替予約をおこなう。その際の為替レートは、スポット取引のレートとは同一ではない。

 一ドル一一五円の時、ドルをもっている人と、円をもっている人が三か月間それぞれの保有通貨を交換するとする。三か月間のドルの金利を五%、円の金利を〇・〇二%とすると、三か月後に再び一一五円で交換する場合、三か月間ドルを手放し、円を保有する人は、金利が〇・〇二%しかつかないので、損をしてしまうことになる。そこで、どちらも損をせず、この契約を成り立たせるために、次のような計算の上、契約をする。

 一ドルを三か月間運用した場合の受取額は、1ドル×1.05 × 3÷12=1.0125ドル。
 一一五円を三か月間運用した場合の受取額は、115円×1.0002×3÷12=115.00575円。つまり、一・〇一二五ドル=一一五・〇〇五七五円で返還されるとき契約が成り立つ。115.00575円÷1.0125米ドル=113.58592。一ドル=約一一三・五八六円で三か月後に返還する約束をして、一ドル=一一五円で交換する契約となる(http://www.nomura.co.jp/terms/english/f/sakimono_gai.html)。

(10) スワップとは、二つの当事者間で、事前に合意された数式にしたがって求められたキャシュフロー(cash flow、後述)を、決められた期間において、決められた回数だけ交換する契約である。交換されるものによって、金利スワップ、通貨スワップやエクイティー・スワップなどと呼ばれる。これらは、固定であっても変動であってもよい。金利スワップのもっとも基本的なものは、プレイン・バニラ・スワップ(Plain Vanilla Swap)と呼ばれる。これは、同一通貨の固定金利と変動金利との交換である。一方の当事者(X)が契約締結時に決定しておいた想定元本に対して決められた固定金利分を他方の当事者(Y)に契約期間支払う。これと同時にYはXに対して同額の想定元本に対して変動金利分を支払う。スワップ(広義のスワップ)は、基本的に二当事者間での交換であるが、交換の回数、一方当事者に権利が付与されているかどうかによって次のように分類される。

 まず広義のスワップは交換回数によって、二つに分けられる。複数回交換がおこなわれるケースと、ただ一回の交換のみのケースである。前者が狭義のスワップである。後者は契約当事者の一方における権利の有無によって、さらに二つにわけられる。双方共に権利のないケースであるフューチャーと一方が権利を保有するケースであるオプション(後述)に分類される。

 通常スワップと呼ばれているのは、上記の分類のなかの狭義のスワップのことである。オプションを内蔵させたスワップも取引されている。リバース・フローターと呼ばれるスワップが一例で、キャップという金利オプションが内蔵されている。スワップとオプションを直接組み合わせたものとして、スワップを原資産としたオプションはスワップション(Swaption)と呼ばれる(http://www.nomura.co.jp/terms/japan/su/swappu.html)。

 キャッシュフローとは、文字通り「資金の流れ」を意味する。資金の流出をキャッシュ・アウトフロー、資金の流入をキャッシュ・インフローといい、両方あわせてキャッシュフローという。会計の場合には、企業活動におけるキャッシュの出入りを示し(ネットインカム+純利益)、証券分析の場合には、投資対象によって得られるすべてのキャッシュを総称する。企業の活動状況について、活動状況を会計処理して表すものを財務諸表と呼ぶが、金融商品取引法の財務諸表規則に則って作成される財務諸表において定義されるキャッシュフローとは、現金や現金同等物の増加または減少をさす。なお、一会計期間のキャッシュフローの状況を、一定の活動区分別に表示したものを「キャッシュフロー計算書」と呼ぶ(http://www.nomura.co.jp/terms/japan/ki/cash_f.html)。

(11) オプションとは、何かをする『権利』のことである。基本型としては、コール・オプション(Call Option)とプット・オプション(Put Option)の二つのタイプがある。コール・オプションは、「ある決められた日」に(までに)「ある決められた価格」で、原資産を購入する『権利』であり、プット・オプションは、「ある決められた日」に(までに)「ある決められた価格」で、原資産を売却する『権利』である。「決められた日」を満期日(Maturity Date)、権利行使日(Exercise Date)あるいは消滅日(Expiration Date)といい、「決められた価格」を行使価格(Exercise Price、Striking Price)という。オプションの価格をオプション・プレミアム(Option Premium)という。権利行使がいつできるかによって、ヨーロピアンタイプ(European Type)とアメリカンタイプ(American Type)に分かれる。ヨーロッピアンタイプは満期日にのみ権利行使が可能なタイプであり、アメリカンタイプはオプションの存続期間中いつでも行使可能なタイプである。オプションは純粋に権利であるためこれを行使しなければならぬ義務はない。この点がフューチャーやフォワードと異なった特徴である。オプションのプレミアムを算出する評価式は、ブラックとショールズにより裁定理論を用いて導かれた放物型の偏微分方程式の解であるブラック・ショールズ・モデルが代表的である。契約期間中の原資産価格に条件をつけたオプションも取引されている。これらは条件成就によって消滅するノック・アウト型と発生するノック・イン型に分けられる(http://www.nomura.co.jp/terms/japan/o/opusyon.html)。

 ブラック・ショールズ方程式とはデリバティブ(金融派生商品)の価格づけに現れる偏微分方程式(及びその境界値問題)のことである。 ブラック-ショールズモデルは一九七三年にフィッシャー・ブラック (Fischer Black) とマイロン・ショールズ (Myron Scholes) が共同で発表した理論であり、このモデルを使って当時の懸案であったヨーロピアン・コール(およびプット)オプションのオプション・プレミアムを計算してみせた。後にロバート・マートン(Robert Marton)が彼らの方法に厳密な証明を与えた。これらの理論は現代金融工学のさきがけとなったともいわれる。ブラック-ショールズ方程式はヨーロピアンオプションのオプション・プレミアムの計算には使用できるがアメリカンオプションには使用できない。満期日のみ行使可能なヨーロピアンオプションに比べて、アメリカンオプションは権利行使日が不確定なため、価格付けが難しく、その分アメリカンオプションのプレミアムは割高になっている。この点がアメリカンオプションの買い手にとってのメリットといえるが、良い計算方法はまだ理論化できていない(http://ja.wikipedia.org/wiki/)。

(14) 優先株とは、他の種類の株式に比べて優先的取扱を受ける株式のこと。多くの場合、配当や会社清算時の残余財産を普通株に優先して受ける権利を有する一方、議決権に一定の制限が付された株式のことを言う。一般的に優先株が上場されることはなく、事業会社に対する支配規制のある金融機関などが引き受けることが多い(http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_930.html)。


 野崎日記(154) 新しい金融秩序への期待(154) クレジット・デリバティブという怪物(11)

2009-05-12 07:06:02 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


(3) SIV(ストラクチャード・インベストメント・ビークル)とは、特別目的会社が銀行やファンドから出資を募り、さらにコマーシャルペーパー(CP)で負債を調達して、合成債務担保証券(CDO)などに投資するプログラム。資金調達の手段というより、証券化商品を積極的に運用する特別ファンドに近い。資産側のCDOなどを時価評価し、資本を食いつぶす恐れがある場合には解散トリガーが引かれることもある。そうなればCDOのほか、SIVが投資している企業のCPなども放出され、市場が混乱する可能性がある(http://nikkei225kuroiwa.blog90.fc2.com/blog-entry-1100.html)。

(4) バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision=BCBS)というものがある。一九七四年に中央銀行総裁らにより創設された機関である。四年に一度、定期委員会が開催されている。現在のメンバーは、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、スウェーデン、スイス、英国、米国、ルクセンブルグ、スペイン。事務局はスイスのバーゼル(Basel)にあり、国際決済銀行(the Bank for Internatioal Settlements=BIS)本部に同居している。定期委員会もこの地で開かれる。

 国際決済銀行(BIS)は、中央銀行間の通貨売買(決済)や預金の受け入れなどを業務としている組織で、一九三〇年に第一次世界大戦で敗戦したドイツの賠償金支払いを統括する機関として設立された。世界の中央銀行の中央銀行ともいえる役割をはたしている。 このバーゼル銀行監督委員会が、一九九八年七月に公表した「自己資本の計測と基準に関する国際的統一化」の内容を「バーゼル合意」(Basel Agreement)、「BIS規制」(the BIS Regulation )という。

 自己資本比率規制とは、自己資本を分子、リスクの大きさを示す数値を分母とする比率(自己資本比率)が一定以上の水準であることを求めるもので、銀行等の経営の健全性を確保するための重要な規制の一つ。バーゼル合意は、銀行の自己資本比率の測定方法、及び達成すべき最低水準(八%以上)に関する国際統一基準で、国際銀行システムの健全性と安全性を強化することや、国際業務に携わる銀行間の競争上の不平等の要因を軽減することを目的として定められた。日本では、平成四年度末(一九九二年度末)から、同基準が本格適用された(http://www.boj.or.jp/oshiete/pfsys/04102001.htm)。

 そして、新BIS規制が作成された。新BIS規定とは国際金融界の複雑化に対応して旧BIS規制を見直したものである。従来のBIS規制では自己資本比率を算定するさいに、信用リスクを考慮に入れるだけであったが、一九九六年には市場リスクを算定基準に加味した。二〇〇四年の新BIS規制では、自己資本比率は八%と、従来と変わらないが、自己資本比率を算定するときに考慮するリスクの範囲が、信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリスクと、広くなった。これはリスク管理の体制を強化するための措置である。これが、「自己資本の計測と基準に関する国際的統一化:改定された枠組」という「バーゼルII」、「新BIS規制」である。日本では、平成一八年度末(二〇〇六年度末)から新規制に移行した(http://m-words.jp/w/E696B0BISE8A68FE588B6.html)。


(5) ちなみに、LIBOR(London Inter-Bank Offered Rate、ライボー)とは、ロンドンにおける銀行間の取引金利のことである。一般的には英国銀行協会(British Bankers' Association=BBA)が複数の銀行の金利を午前一一時の時点で集計して毎日発表するBBALIBORのことを指す。LIBORは、は、国際的な金融取引の際に金利の基準とされる。たとえば、プロジェクト・ファイナンスなどの国際的な融資契約をおこなうさいには「LIBORに何%上乗せ」という表記で金利が決定されることが多い。一般に信用力の高い企業はLIBORより低い金利で融資を受けることができ、企業のリスクが高ければ高いほどLIBORよりも割増しな金利を払う必要がある。なお、LIBORと同水準で資金の調達がおこなわれた場合には「LIBORフラット」または「Lフラット」と呼ばれ、LIBORよりも低い金利で資金調達がおこなわれた場合には「サブLIBOR」と呼ばれる。類似のものとしてはTIBOR(Tokyo Inter-Bank Offered Rate、チボー)があげられる。これは東京の市場における銀行間の取引レートを毎日午前一一時に全国銀行業界が集計して発表しているものである(http://m-words.jp/w/LIBOR.html)。

(6) パススルー証券(Pass-through securities)とは、同種複数の債権をプールし証券化したものである。証券化したものを、投資家に売却することで、債権を保有する金融機関が、その債権をもとに、資金調達することが可能となる。代表的なものとして、モーゲージ証券がある。一般に、ファニーメイやフレディマックなどにより保証されたものが多かった(http://www.nomura.co.jp/terms/japan/ha/pass-through.html)。

(7) 米大手商業銀行のJ・P・モルガン・チェース(JP Morgan Chase)が、〇八年三月一六日夜、資金繰り難から経営危機に陥った米投資銀行第五位のベア・スターンズを救済買収すると発表した。株式交換によって、前週末に一株三〇ドルだったベア社の株を約二ドルで買い取り、事業や債務を引き継ぐことになった。Fedも、最大三〇〇億ドルをJ・P・モルガン・チェースを迂回しての、ベア・スターンズへの資金支援を表明した。商業銀行と違って、投資銀行にFedは公的資金を直接に融資することはできなかったからである。

 ベア社は、〇八年三月一〇日頃から「資金繰り難に陥っている」との風評が広がり、同月一三日には一七〇億ドルもの運転資金が流出した。また、大手格付け会社が相次いで格付けを引き下げたことから、資金調達が困難になっていた。ベア社の価値は、前週末の時価総額の約一五分の一に相当する約二億三六〇〇万ドルにまで低下した(『讀賣新聞』〇八年三月一七日)。

(8) フューチャーとは、先物取引のことである。先物取引は、ある特定の商品を対象として、買付時に買付代金を支払わず、将来の一定の期日まで代金の支払いが猶予される取引である。通常、価格の上昇を予測して買い注文を出す。同様に売り注文を出すということは、通常、価格の下落を予測してのことである。先物取引は、ある特定の商品を対象として、売付時に受渡しをおこなわず、将来の一定の期日まで、受渡しが猶予される取引である。このようにあらかじめ決められた受渡日に、現時点で取り決めた約定価格で取引することを約束する契約を先物取引という。受渡日までに反対売買(買い方は転売、売り方は買い戻し)をすれば、当初の契約価格と反対売買価格との差金の授受によっても決済することもできる。買い方は、予測通り相場が上昇した時に反対売買をすると利益を得ることができるが、反対に下落した時には損失が生じる。売り方は、予測通り相場が下落して、反対売買をすると利益を得ることができるが、反対に上昇した時は損失が生じる(http://www.nomura.co.jp/terms/japan/sa/sakimono.html)。


野崎日記(153) 新しい金融秩序への期待(153) クレジット・デリバティブという怪物(10)

2009-05-11 07:00:54 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


 投資家は、証券会社に売買注文を出す。注文を受けた証券会社は、それを「カバー先」と呼ばれる金融機関に渡す。カバー先は、反対注文を出したり、他の金融商品でヘッジしたりして、投資家の注文に応じたポジション(持ち高)を確保する。時間が経過し、投資家が反対売買で決済すると、カバー先もそれに沿って損益を確定する。値動き分から手数料を差し引いた分が、投資家の損益である。この取引は、「売り」から入っても「買い」から入ってもよい。

 これは、FX(外国為替証拠金取引)のように、ネット取引であり、預け入れた証拠金の数倍のレバレッジを利かせることができる。株式投資のうち、信用取引もレバレッジを利かせることができるが、信用取引なら最大限三倍である。CFDはそれ以上のレバレッジを利かせることができる。

 五倍のレバレッジなら、二万円の証拠金で時価一〇万円の株式に投資することができる。その時価が一一万円に上がれば、手数料を差し引く前の投資家の利益は一万円であり、証拠金二万円の元手で、五〇%もの利益が得られる計算になる。

 当然、損失を被るリスクはある。

 ロスカット(Loss Cut)といって、預けた証拠金の一定割合が毀損するほど損を出せば、強制的に手仕舞いさせられるルールがある。FXにもこのルールはある。しかし、CFDの方が損失を出す危険性が高い。  

 まず第一に、FXが対象とする外国為替は、二四時間連続して取引ができる。したがって、時事刻々と値動きを追うことができる。ところが、CFDの場合、原資産を必要としないといっても、その日の取引終わりと翌日の取引開始との間に中断がある。その間、値段が突如、大きく変化してしまうこともある。

 第二に外国為替の値動きは、一日せいぜい三~四%程度なのに、CFDの対象である株式や株式指数は、一日に五%を超える変動をしている場合が大きい。一日に五%以上の値動きをすることも珍しくない。

 そして、最大のリスクが第三のもの、つまり、CFD取扱業者の資本面での規制や、顧客の預かり資産の管理方法などぼ明確なルールがいまだできていないということである。CFDといっても、証券関連のものについては金融庁、商品関連は経済産業省と農林水産省と監督官庁はバラバラである。

 第四に、取引所を通す取引ならば、取引相手が破綻しても、取引の清算が保証されているが、CFDの場合、カバー先が投資家の注文に対してどんな取引でヘッジしているのかが不透明である。つまり、CFDの安全性に対する不安がある。

 CFDは、二〇〇〇年にロンドン市場で発祥した。ロンドン市場では、取引される金融商品の三割以上をCFDが占める。しかし、取引参加者はほとんどがプロの投資家である。

 米国では、五〇〇万ドル以上の所得のない人のCFD市場への参加は禁止されている。

 CFDはあくまでも危険な取引なので、素人の個人が手を出すべきではないというのが、英米のルールである。ところが、日本では、次の成長商品として、証券会社は個人に売り込んでいるのである(『東洋経済新報』二〇〇九年一月一七日号、二六~二七ページ)。


 


(1) CDOについて詳しく解説しておきたい。MBSといわれる不動産担保証券住宅(Mortgage Backed Security)がある。不動産ローンの支払いを受け取る権利を証券化して転売される証券のことである。そして、MBSをさらに再証券化し、よりハイリスク・ハイリターンの金融商品に組み替えたのがCDOである。

 そもそも信用度の低いローンを担保とした証券化には、信用力を補完する必要がある。信用補完の手段としては、高格付の保険会社による付保や超過担保の設定などがあるが、それ以外にも債権の優先・劣後構造への組み直しということがこなわれている。この組み直しをしたものがCDOである。しかし、シニア、メザニン、エクイティといった分配金の優先順位により切り分けるようなCDO自体がいかがわしものであった。たとえば、投資適格ぎりぎりの格付けはトリプルBであるが、そのグループを、分配金を最優先で受け取れるCDO(シニア)、次順位以降のCDO(メザニン)、最劣後のCDO(エクイティ)に区分けする。CDO全体の数%に過ぎないエクイティは無格付であり、これは、投資銀行の手元に置かれ転売はされないはずであった。しかし、それ以外の、シニアは最上位のトリプルAを、メザニンについても当初のトリプルB以上という格付を得て転売されていただけでなく、エクイティ部分が極めて高リスクの商品として販売されていた。高リスクのCDO(エクイティをシンセティックしたCDO)すら発行されていた。金利を高くするためである。

 この危険なエクイティ部分が売買される事情は、金利だけでなく、オフバランスの必要性からも出ていた。とくに、商業銀行がそうである。銀行は、資産を増やすと、自己資本規制によって資本も増やす必要が生じる。そこで銀行は、自分の保有する資産を帳簿から消す(オフバランス化する、off-balance)ため、銀行の資産だったローンや債権を片端から簿外に移してオフバランス化してきた。この債権を移されたのが、銀行が設立した特定目的会社(Special Purpose Company=SPC)である。このSPCが、ABCP(Asset Backed Commercial Paper=資産担保短期債券)という短期のCP(Commercial Paper、企業の短期の運転資金を調達する手段)の一種を発行する。そこで得た資金で親分の銀行からCDOを買い取り、それを顧客に販売し続けてきたのである。このABCPが売れなくなり、CDOの価値が暴落したことから、米国発の金融危機が世界中に広まったのである(http://blog.goo.ne.jp/tbinterface/8c34373ca798f6889d6cf862d2729c2e/8f )。

(2) AIGは、一九一九年創業。本社・ニューヨーク。一三〇以上の国・地域に進出し、従業員は約一一万人。保険業務のほか、デリバティブ取引や金融商品の保証などを幅広く展開してきた。日本では、生命保険三社(アリコジャパン、AIGスター、AIGエジソン)と損害保険二社(アメリカンホーム、AIU)を運営。富士火災とジェイアイ傷害火災の最大株主。破綻した旧千代田生命保険など国内生保の積極的な買収を進めるとともに、格安の保険料を売り物に業績を伸ばし、生保三社の保険料等収入は国内大手四社に次ぐ規模であった(http://mainichi.jp/select/today/archive/news/2008/09/17/20080917k0000e020044000c.html)。


野崎日記(152) 新しい金融秩序への期待(152) クレジット・デリバティブという怪物(9)

2009-05-10 07:01:25 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


  具体的なシンセティックCDOの仕組みについて、日本格付研究所(JCR=Japan Credit Rating Agency)が格付けをした「Cypher Limited シンセティックCDO」について見よう(http://www.jcr.co.jp/release/pdf/06d511.pdf?PHPSESSID=99a38d664bb8b207c92758e7ae208915)。

 ①このシンセティックCDOの名称は、「債券シリーズ一〇債券」である。

  ②その格付けは、ダブルAマイナス(AA-)。

  ③発行金額は、一〇億円。

  ④裏付け資産は、本邦企業一〇〇社を参照プールとするクレジットデフォルトスワップ、金利スワップならびに日本国債(第二三五回一〇年債)。

  ⑤信用補完措置は、優先劣後構造。

  ⑥発行日は、二〇〇六年九月二八日。

 ⑦予定償還期日は、二〇一一年一二月二九日。

 ⑧金利支払い方式は、クーポン・タイプ変動型。

 ⑨利払日は、毎年六月二九日・一二月二九日。

 ⑩元本償還方法は、満期一括償還。

 ⑪発行会社は、サイファー(Cypher Limited)。

 ⑫スワップカウンターパーティは、野村證券式会社。

 ⑬トラスティーは、HSBC Trustee(C.I)Limited。

 ⑭計算代理人は、ルクセンブルグ・ノムラ・バンク(Nomura Bank(Luxembourg)S.A)。

 ⑮サイファーは、ケイマンのSPC。債券の種類は、スタティック型のシンセティックCDO。

 ⑯サイファーは、参照プールに係るCDS及び担保債券からの固定金利を変動金利に変換する金利スワップ(IRS)を含む、スワップ契約を野村證券株式会社と締結する。

 ⑰本スワップ契約によって得られるキャッシュフローが、本債券の利払い(年二回)の原資となる。

 ⑱本債券の信用補完は、参照プールに対する優先劣後構造である。

 ⑲サイファーが野村證券と締結しているスワップ契約は、二〇〇三年ISDA定義集に準拠している。スワップ契約の中で定義されているクレジット・イベントは、倒産(Bankruptcy)、支払い停止(Failure to Pay)、リストラクチュアリング(Restructuring)の三種類であり、そのうちリストラクチュアリングについては、いわゆる「オールド・リストラクチュアリング」(Old Restructuring)によるものである。

 ⑳クレジット・イベントの発生の認識は、野村證券からの通知(Credit Event Notice)、または公開情報(Publicly Available Information:二つ以上の公開情報源による情報を含む)を充足するものとする。

 21、本件のCDSに係る参照プールは、本邦法人一〇〇社を対象としたスタティックなプールである。一社あたりの想定元本は一〇億円、合計一〇〇〇億円となる。

 上記①~④までは説明の必要はないであろう。⑤の優先劣後構造という信用補完措置について説明する。優先劣後構造とは、対象資産から生じるキャッシュ・フローを優先的に受け取ることができる部分と、劣後して(優先順位が低く、後回しになる)受け取る部分にとに分けて、優先順位を設けることをいう。予想通りにキャッシュ・フローが生じなかった場合のリスクを劣後部分が吸収することによって、優先部分の元利払の確実性が高まるという仕組みである(24)。

 ⑤⑥からシンセティックCDOの期限が五年間程度であることが分かる。⑦~⑨から利払いが変動性であることが分かる。クーポンとは利息のことであり、利付きであるという意味である(25)。利息は半年ごとに支払われるという契約であることが分かる。償還は一括方式である。⑩は、プロテクション(CDS)の売り手にしてシンセティックCDOの組成者でもあるサイファーは、日本の金融当局が十分監督ができないタックス・ヘイブン(Tax Haven=税金逃避地)で登記されたSPVであることが示される。もうこの段階から、日本の金融当局は詳細な資金の流れが掴めない構造になっている。⑪はカウンターパーティが証券会社であることを示している。カウンターパーティとはスワップの相方を指す。シンセティックCDOの組成者であるサファーは、CDS(プロテクション)を野村證券に売る(プロテクションをスワップする)。ただし、野村證券はCDS(プロテクション)の対象である債券をもっているわけではない。

 しかし、CDSが対象としている企業の返済支払いが困難になったときに、対象債券がないのに、CDSを組成者から買った野村證券は支払い保証を受ける。その代わり、野村證券はサイファーにプレミアムを支払わなければならない。サイファーは、野村から支払ってもらえるプレミアムをクーポン型の変動金利に変えてもらう(スワップする)。その相手が野村證券である。これは、カウンターパーティが、図抜けて信用度の高い企業に集中しがちであることを示している。野村が、プロテクションを実行したもらうために、CDSを買ったのではないだろう。野村がカウンターパーティであるという信用度の高さから、サイファーは、シンセティックCDOの組成面で有利になる。保証を支払う信用度が十分に高くないCDSの売り手が、信用度の高い企業にカウンターパーティを集中させてしまえば、一つ二つの少数のカウンターパーティの経営破綻が、一挙に世界を破滅させかなない可能性を大きくしてしまうのである。

 おわりに


 米国発の金融危機は、バフェットのいう「金融版大量破壊兵器」が使用された結果でもある。金融当局が、投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻を黙認する一方で、AIGの救済に踏み切った背景には、デリバティブの急成長分野、CDSに原因があった。AIGのCDS契約残高は四五〇〇億ドル(四五兆円)に上っていた。そのため、当局は、AIGが破綻すると、CDSを通じて無数に広がる取引相手に影響が及び、金融恐慌につながりかねないと判断されたためである。 AIGはCDS市場では保険の売り手として目立った存在であった。保険の買い手である取引相手は、サブプライム・ローンを積極的に拡大してきた銀行になるはずであったが、銀行の多くはサブプライム・ローンをひとまとめにしたうえで証券化し、それを投資家へ転売することでリスクを回避していた。証券化されたサブプライム・ローンを購入した投資家は、CDSという保険を買うことで、リスクをAIGなどの第三者へ転嫁していた。第三者は「保険の売り手」としてリスクを引き受け、デフォルトのさいには元本を補填しなければならない。しかし、本来ならばリスクを回避する手段であるはずのデリバティブが、逆にリスクを助長する結果を招いてしまった。他人の資産に保険をかける行為が一般化してしまったからである(牧野洋「他人の資産に勝手に保険をかけた綻び、『金融版大量破壊兵器』を拡大させた米国」、http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20081015/173935/?P=2)。

 怪しげな金融商品が、金融危機の進行中にも台頭してきている。CFD(Contract For Difference=差益決済取引)といわれるものである。証券取引所などの市場を通さない店頭デリバティブ(金融派性商品)の一種である。証券会社は、株式、株式指数、債券、商品先物などの各種金融商品を顧客に売りつける。この売りつけられた金融商品は、顧客から見れば原資産である。CFDの場合、原資産なく取引される。値動きそのものが投資対象になっている。


野崎日記(151) 新しい金融秩序への期待(151) クレジット・デリバティブという怪物(8)

2009-05-09 07:04:47 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

 CDSの原理は、あくまでも支払い保証対象の債券がCDSの買い手によって保有されているということにある。債券がデフォルトすれば、債券の保有者はその債券をCDSの売り手に渡す。CDSの売り手は、その債券を受け取るとともに、約束の保証額をCDSの買い手に支払い。受け取った債券にはまだわずかではあるが価値が残っているので、CDSの売り手は、支払額から債券の残存価値を差し引いた額を損失額とする。

 この状況であると問題は分かりやすい。常識的な意味での保険支払い取引だからである。問題が分かりにくくなるのは、CDSの買い手、したがってCDSの支払い保証の実行を迫る側が、支払い対象となっている債券を実際に持っていないときである。CDS取引が始められたときには、CDS支払い請求者は、当該の債券を調達する必要があった。これを「現物決済」という。

 ところが、CDS市場が大きくなると、「現金決済」が出現することになった。この方式に従うと現物(対象債券)をCDSの売り手に渡さなくてもよくなる。その代わりに保証額の取り決めが買わされる。対象債券の額面が一〇〇億円であるとしよう。対象債券がデフォルトしても、債券を発行した企業が消滅せず、民事再生を申請しておれば、債券も幾分の価値が残っている。それを、たとえば、四〇億ドルとしよう。現物決済ならば、CDSの売り手は支払い額は一〇〇億円であるが、債券の残存価値が四〇億円であるので、実質的には六〇億円の損失である。

 現物を渡さない「現金決済」方式になると、額面の六〇%のみ保証するという契約となる。プレミアムは年間で数%程度であるので、実際にデフォルトが発生すれば、CDSの購入者は大儲けする。ここから倫理なき投機が横行する。対象となる債券を発行した企業が倒産すればするほど、CDSの購入者は投機的に儲かるので、あらゆる情報を流して当該企業を倒産に追い込みかねない。そのことは金融市場を混乱に陥れる。金融システムの安定化のために開発されたCDSが逆に金融システムを不安定化させてしまうのである。

 そして、CDS自体がさらに転々と売られる。CDSの所有者は契約期間(通常五年間に一〇回は代わるといわれている。

 二つ目の論点に進む。プロテクションの売買ではなく、プロテクションから得られる「プレミアムの売買」という局面がCDSの第二の恐ろしさである。CDSのデリバティブ取引といわれているものがこれである。プレミアムを得る権利が売られ。この権利を、プロテクションという保証金支払い義務をなくして、CDSの組成者が、第三者に売るのである。支払い義務とプレミアム取得権利とが分離されて取引されるようになっている。シンセティックCDOはその典型である。

 三つ目の局面は、CDSのデフォルトの定義が、プロテクションの対象となる債券のデフォルトとはまったく異なるということである。

 CDS取引は、市場を通さない当事者間の相対取引である。この取引の契約時に保証額の取り決め以外に、デフォルトの条件を決めておく。対象となる債券を発行した企業が公的管理に入ればCDSはデフォルトとされる。つまり、CDSの売り手は買い手に対して保証額を支払わなくてもよい。当該企業の経営者が交代すればデフォルトになるという場合すらある。

 〇八年九月七日、ファニーメイとフレディマックの優先株を米財務省が引き受けた時点で、これら二つの住宅公社は公的管理に入ったと見なされ、これら公社を対象とするCDSはデフォルトした。同月二九日、グリトニル銀行(Glitnir Banki)(18)が公的管理に入って同社対象のCDSがデフォルト、〇八年一〇月七日のランズバンキ銀行(Landsbanki)の公的管理によって(19)、同行を対象としたCDSがデフォルトした。同月九日には、カウプシング銀行(Kaupþing Banki)(20)対象のCDSもデフォルトした。

 検討されるべき第四の論点は、シンセティックCDOの契約条件の厳しさである。ソフトバンクは、組み込まれている全銘柄(一六〇)のわずか五%のデフォルトによって、全額の損失、つまり、七五〇億円のすべてを失ってしまうという契約であった。以下、シンセティックCDOの仕組みを検討する。

 CDSの流れの最初は、プロテクションの売りにある。売るの銀行、保険会社やモノライン(monoline=支払い保証のみを専業とする保険会社)(21)だけでなく様々な機関である。売り手は、銀行が最大の比率であり、四〇%弱、その次がモノラインで、一五%である(CRMNG[2005], Chart 3, A-11)。

 プロテクションの取引は、CDSを売る目的で作られたSPV(22)を通じておこなわれる。

 SIVは、自社の社債などの債券を発行し、投資家に買ってもらい現金を得る。この受け取り代金が、業界用語として、「代わり金」という。発行した債券売却代金は、「債券発行代わり金」と呼ばれる。おそらくは、現金の受取が、債券売買契約を「代わりに」表現しているという意味なのであろう(23)。この代わり金を原資として、裏付けになる日本国債をSPVは購入し、一〇〇銘柄のCDSをまとめる。このCDSはプロテクションである。当然、プレミアムを得ることができるが、デフォルトすれば契約した保証を実行しなければならない。このプロテクションをカウンターパーティという取引相手に買ってもらう。カウンターパーティからプレミアムを得ることができるようになる。このプレミアムと金利をスワップする。

  オリジナルではなく、転売されてきたプロテクションの買い手がそれを売るさいには、プレミアムの大きさを決定することはできない。そこで、変動するプレミアムをある程度決めることのできる金利とのスワップ協定が、シンセティックCDOの組成者とカウンターパーティとの間で交わされる。こうして、CDSが生み出す金利と裏付け担保債券である国債を合成して、シンセティックCDOが組成されて、証券として発売されるのである。

野崎日記(150) 新しい金融秩序への期待(150) クレジット・デリバティブという怪物(7)

2009-05-08 07:04:38 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


 六 シンセティックCDO

 〇八年一〇月二九日、〇八年第二・四半期の決算説明会で、ソフトバンクは、保有する、CDSを組み込んだCDO(Synthetic CDO=シンセティック(合成)CDO)の最大損失額が七五〇億円になりかねないことを報告した。

 ここで、CDOに組み込まれたCDSという表現には注意が必要である。ソフトバンクが保有するシンセティックCDOに組み込まれたCDSはプロテクションとは無関係のCDSである。

 CDSとは債券の価値保証にまつわる取引という行為の総称である。CDS取引には、価値保証をする取引がまずある。繰り返しになるが、重要なことなので、再解説しておきたい。価値保証をすることを「プロテクション」という。最初に保険会社などが、プロテクションを売る。たとえば、債券の価値一〇〇億円を保証するプロテクションを売る。買い手は、一〇〇億円を支払うわけではない。一〇〇億円のうちの数%のプレミアム(保証料)をプロテクションの売り手に支払う。また、実際に一〇〇億円が取引されるのではない。デフォルトがあれば、プロテクションの売り手が一〇〇億円を支払うことになるが、デフォルトがなければ一〇〇億円を支払わなくてもよい。

  それでも、プレミアムをプロテクションの買い手から得ることができる。この場合、一〇〇億円が想定元本といわれるものである。「プロテクションの売り」とは、プレミアムを得る権利を売ることである。そに代わりにデフォルトが発生した場合には想定元本を支払うという契約が交わされる。「プロテクションの買い」とは、プレミアムを支払うことである。いざデフォルトが発生、という場合には、買い手は、売り手から想定元本を支払ってもらえる。契約は通常、五年以内。プレミアムの支払いも四半期ごと。

 CDSという単一の用語を使用するさいに混乱が生じるのは、この取引が「CDSの売買」と表現されるからである。「プロテクションの売り」が「CDSの売り」と表現され、「プロテクションの買い」が「CDSの買い」と表現される。

 混乱が生じやすいというのは、ここで説明したCDSと、ソフトバンクが購入したシンセティックCDOに組み込まれたCDSと意味内容が異なるということである。

 シンセティックCDOに組み込まれたCDSは、上記のプロテクションとは無縁のものである。そもそも、ソフトバンクは、オフバランス(Off-Balance)(17)のために、シンセティックCDOをゴールドマンサックスから購入したと報じられている。ソフトバンクは、ボーダーフォンを買収した。そのさい、ソフトバンクは、ボーダーフォンが発行していた社債の利払い義務を引き受けた。発行した社債総額は七五〇億円である。その社債は、ソフトバンクが保有しているものではなく、すでに投資家たちに売られたものである。つまり、ソフトバンクは、七五〇億円の社債という現物を手元に持たず、七五〇億円の元利返済という負債を抱えている。したがって、バランスシート(貸借対照表)には、負債項目に社債七五〇億円を記載しなければならない。当然、これはバランスシートの内容を悪化させる項目である。これを消す(オフ)するために購入したのが、シンセティックCDOである。七五〇億ドルで買った。そして、シンセティックCDOは金利を受け取る権利を持つ。シンセティックCDOによって受け取る金利で、ボーダーフォンの社債の金利を支払える。七五〇億円の社債とシンセティックCDOの元本とは金額的に釣り合う。したがって、社債もシンセティックCDOもバランスシートから外すことは合法的である。

 しかし、ソフトバンクによるシンセティックCDOの購入は、オフバランス化のためであるという理屈が成り立つためには、シンセティックCDOにより金利収入が期待できるということにならなければならない。しかし、購入したシンセティックCDOには、一六〇種類ものCDSが組み込まれているが、これは、プロテクションを伴うCDSではない。これは、ゴールドマンサックスが、他で売った一六〇銘柄のプロテクションを資産の裏付けとしてCDOという金融商品に仕立て上げられたものである。ゴールドマンサックスは、他に売りつけたCDS(プロテクション)からプレミアムを得ている。このプレミアムからソフトバンクに売りつけた一六〇銘柄のCDS(CDSそのものをソフトバンクに渡しているわけではない、あくまでも、他人がもっているだけのものを担保にしているのにすぎない)を組み込んだ七五〇億円のシンセティックCDOに金利を支払うという仕組みである。しかも、ソフトバンクにとってきわめて厳しい条件であった。

 ソフトバンクは、組み込まれたCDS銘柄のうち、七銘柄がデフォルトすれば、四五〇億円の損失、八銘柄が倒産すれば、購入したシンセティックCDOのすべての価値がゼロになる。つまり、ソフトバンクは七五〇億円の損失となると報じられたことである。組み込まれているCDSの対象企業がデフォルトすれば、ゴールドマンサックスはプロテクションの買い手に対して契約金額を支払わなければならない。そのために、ソフトバンクに売ったシンセティックCDOの基礎になっている仮想のCDSは無価値になってしまう。八銘柄のデフォルトでソフトバンクのシンセティックCDO自体が無価値になってしまうという非情なものである。こういう非常に厳しい条件のシンセティックCDOを買ったのは、デフォルトの危険性の強いCDSを含むからこそ、高い金利を得ることができたからであろう。ここに、CDSが「金融の大量破壊兵器」であると恐れられている真の内容がある。

 ソフトバンクの事例には、CDSのもつ危険な側面がすべて凝縮されている。一つには、対象になる債券がないのに、CDSが売買されているということ。二つには、プロテクション以外にプレミアムを受け取る権利が売買されているということ。三つには、債券のデフォルトとは異なるCDS自体のデフォルトがあるということ。四つには、シンセティックCDOは、デフォルトの危険性を増幅するということ。八銘柄のデフォルトがプロテクションとは関係のないCDOのデフォルトを生み出してしまう。しかも、シンセティックCDOの条件は、売り手に対して極端に有利、買い手に対して極端に不利になっていること。五つには、不利な条件のシンセティックCDOを購入する企業もあるということ。以上の五点が解明されなければならない論点である。

 まず、第一の債券をもたずにCDSが購入されるという側面を検討する。支払い保証をしてもらう対象である債券がないのに、プロテクションを買うという行為は、完全に投機である。保有債券のデフォルト・リスクを軽減するためにCDSを買う(プレミアムを支払う)のではなく、対象債券がないのにCDSを買い、プレミアムをCDSの売り手に払い続けるということは、買ったCDSの実際の支払いを期待しているからである。CDSが対象とする債券が現実にデフォルトすれば、CDSの支払い約束が実行される。しかし、CDSの保有者は当該債券をもっていない。CDSの恐ろしさの一つがここにある。


野崎日記(149) 新しい金融秩序への期待(149) クレジット・デリバティブという怪物(6)

2009-05-07 07:08:10 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)



 五 闇の金融


 デリバティブはカジノそのものである。サイコロの代わりに賭けるのは特定の企業の破産の可能性である。カジノで遊ぶには、チップを買わなければならないが、貸し手はデフォルトに対するリスク保険を第三者から買う。保険料を払ってもリスクを避けたい貸し手とリスクを買うことによって利益を得ようとする保険者との間でリスクがスワップ(交換)されるのである。デリバティブには、フューチャー(Futures)(8)、フォワード(Forwards)(9)、スワップ(Swaps)(10)、オプション(Options)(11)等々があり、これらが組み合わされて非常に複雑な形をとり、ますます取引が不透明になってしまう。

 レーガン(Reagan)政権以降、GOP(Grand Old Party、共和党の愛称)は、規制のない自由な市場というイデオロギーを米国政治の基本に置いてきた。しかし、このことが、米国を金融危機に追いやったのである。米国は、「金持ちには社会主義、そうでない人々に資本主義、というのが経済的真実である。富者には『心優しい保守主義』、貧者には『市場の規律』が適用されているのである」(Gonsalves, Sean,"Financial Weapons of Mass Destruction, September 22, 2008, http://www.alternet.org/story/99812/)。

 デリバティブが猛威をふるった〇八年の金融恐慌は、それがなかった一九二九年の大恐慌よりも深刻さの度合いが大きい。〇八年のデリバティブは全世界で五〇〇兆ドルを超えていたとされている。米国のGDPが一五兆ドル、全世界のGDPが五〇兆ドルであるのだから、デリバティブ契約は全世界のGDPの一〇倍もある。全世界の有価証券保有高が一〇〇兆ドルであったので、デリバティブはその五倍あったのである(Stock Marketwatch, Monday October 6, 2008)。

  ジョセフ・スティグリッツ(Joseph Stiglitz)は、ベルリンの壁崩壊が共産主義を終わらせたように、〇八年九~一〇月に生じた金融の動乱は、市場原理主義(market fundamentalism)の終わりを意味すると断定した(Stiglitz[2008b])。

 〇八年九月の金融動乱で米国では失業者が一六万人増加した。〇八年中には七五万人の失業増になるだろうとされている。

 米国経済は、貯蓄がゼロなのに、旺盛な消費によって支えられてきた。消費を支えるために、米国人は借金を増加させてきた。資本不足に陥った米国の銀行は、国民にカネを貸さなくなった。借金ができなくなるとき、国民の消費は当然抑制される。米国経済の需要は減少し、それは世界の経済を停滞させる。

 輸出に経済停滞からの脱出口を求めようにも、米国はドル高に見舞われている。このドル高は米国への信頼が高いからではなく、ヨーロッパの方が米国よりも経済状況が悪いからである。

 銀行救済には、二つの方法が議論されている。一つは、ポールソン(Hank Paulson)財務長官が初期に採用しようとしたもので、政府が不良債権を銀行から買い取るというものである。しかし、買い取る債権の価格を決めることは困難である。そもそも、銀行がつけた証券の価格の妥当性に対しての不信感が蔓延している状況で、政府が価格を設定してしまうことは、政府と銀行との駆け引きになってしまう。銀行は政府になるべく高く不良債権を売りつけようとするであろう。しかし、証券がその後値下がりしてしまえば、政府は大損してしまう。つまり、国民の税金が無駄に使われてしまう。国民は貧乏籤を引いてしまう。こうした事態をスティグリッツは、「表が出たら私の勝ち、裏が出たら君の勝ち」(It is a heads I win, tailes you lose situation)、「籤で外れの短い棒を引く」(holding the short of the stick)という諺で表現した(Stiglitz[2008a])。

  もう一つは、英国首相、ブラウン(James Gordon Brown)の案で、政府が問題の銀行に資本を注入することである。資本注入とは政府が銀行の優先株(Preferred Stock, Preferred Share)(14)を取得することである。スティグリッツはこの優先株取得を推奨する。

 そもそも、米国の金融界を主導してきた経済学が間違っていた。情報の完全性を前提し、インフレ・ターゲット論(15)を主張してきたのが、これまでの誤った経済学である。中央銀行の責務は、金利を動かすだけでなく、もっと広く経済全体の安定化を図ることにあるはずである。価格の安定化だけに中央銀行の機能を限定してしまえば、金融機関に投機的なリスクをとることを許してしまう。こうして、経済全体を損なう危険性を大きくしてしまうのである。つまり、インフレ・ターゲット論とは中央銀行と金融組織との対話を促進するというが、実際には、投機に関しては規制などの行動をと一切とらないということを意味する。スティグリッツは、そういた苦言を呈したうえで、以下のように経済危機の歴史的意味を理解する。

 今回の金融危機は、経済関する転換点であることはもちろんであるが、経済学の考え方そのもについて当てはまる。私欲(self-interest)が競争を通じて社会全体の幸福(well-being)を増大させるというのが、アダム・スミスを始祖と仰ぐ経済学の基本的視点であったが、この二五年間で生じたことは、情報の不完全性からスミス的世界は妥当しないということである。それは市場全体にいえる。とくに、金融市場は不完全情報の典型である。エンロンやワールドコムは確かに私欲を追求した。しかし、その私欲は社会全体の幸福を増大させなかった。金融という産業が私欲を追求した結果、経済は底なし沼に沈みつつある。現代経済には政府が重要な役割を演じている。

  重要なことは根っからの市場主義者がいまや政府に頼っていることである。しかし、その前に、金融崩壊を未然に阻止することが政府の役割であったはずである。現在、金融における公私の間には奇妙な対照性が見られる。私である、金融組織は、利益を確保したまま金融混乱の出口から出ていくのに、公の政府は損失を引き受けて金融混乱のだ只中に残されてしまう。こうしたことを避ける均整のとれた制度設計がこれからは必要となる(Stiglitz[2008a])。

 六 詐欺まがいの金融取引


 〇八年八月に経営破綻したアーバンコーポレーションが、破綻前にBNPパリバ(
Banque Nationale de Paris Paribas)から食い物にされていたことが明らかになった。パリバに設置された外部検討委員会(委員長、松尾邦弘・元検事総長)が〇八年一一月一一日に公表した調査結果では、パリバの行動を「市場を軽視した極めて不適切な行為」であり、アーバンコーポレーションへのパリバの働きかけは「顧客であるアーバンコーポへの背信であり、(パリバ)の安田雄典・日本代表ら経営幹部の責任は免れない」との批判が出された。松尾委員長は、「(パリバの)内部管理体制が形骸化しており、顧客重視の姿勢も希薄であった」と記者会見で語った。不適切な行為とは以下のことである。

 パリバの働きかけによって、アーバンコーポが、〇八年六月二六日にCB(転換社債型新株予約権付社債)三〇〇億円を発行して、パリバに引き受けてもらう約束をした。その三〇〇億円で短期借入金などの債務返済に使うとアーバンコーポは発表していた。しかし、実際には、この三〇〇億円は返済に使われるどころか、パリバがCBを引き受けし三〇〇億円を支払うという約束日の〇八年七月一一日に、アーバンコーポはすぐに三〇〇億円をパリバに払い戻した。アーバンコープ側には一文も入らなかったのである。払い戻した事実をアーバンコーポは公表しなかった。これは関係者を欺く行為であった。少なくともパリバによる資金調達でアーバンコーポが一息ついたと関係者は判断したはずだからである。

 実際の取引は、パリバが得たCBを株式に転換し、それを市場で売ってその売却代金を分割して段階的にアーバンコープに支払うというものであった。アーバンコープの三〇〇億円支払いとパリバの株式売却代金の段階的支払いというスワップが組まれたものであるが、このスワップには、アーバンコーポ側にはなんの益もない。パリバは、三〇〇億円が支払われた段階でアーバンコーポ株を空売りしていたのである。三〇〇億円をパリバはすでに手にしているのであるから、アーバンコーポ株が下がっても、パリバの懐は痛まない上に、株価が下がれば、空売りした分だけ儲けが出る。結局、パリバはアーバンコーポに約九一億円を払っただけである。単純計算で、パリバは三〇〇億円から九一億円を差し引いた二一九億円もの濡れ手に粟であったし、空売りによる利益(推定一二億円)もそれに加わった。そして、アーバンコーポは破綻した。破綻したときに、アーバンコーポはこの裏取引の存在を明らかにした。当然、金融庁や証券取引委員会が事実調査に入るであろう(『日本経済新聞』〇八年一一月一二日)。

 調査のためパリバが設立した外部検討委員会(委員長・松尾邦弘元検事総長)は〇八年一一月一一日、パリバの行為は「投資家と市場を軽視して不適切」と認定した。動機については、自社の手数料が減ることへの懸念や「契約実績をあげなくてはならない担当部署の意識」を報告書で指摘した。アーバンの増資を巡っては、破綻直後から「不適切」との指摘が相次ぎ、金融庁が調査。アーバンには臨時報告書で虚偽記載があったとして金融商品取引法違反で課徴金の納付を命令済みで、パリバへの対応が焦点だった(http://www.asahi.com/business/update/1112/TKY200811110338.html)。

 民事再生法の適用を申請したアーバンコーポの株主が、適用申請時にはじめて開示された事項に関して金商法違反であるとして、役員に対して損害賠償請求を提起する方向であることが明らかになった。問題視された事項というのは、スワップ契約によって、発行額よりはるかに低い金額しか支払われなかったということである。これを金商法違反として問題視して、役員に対して損害賠償請求訴訟が提起されたのである。

 金商法違反というのは、年度途中のことなので、有価証券報告書ではなく、臨時報告書や半期報告書などの虚偽記載ということになる(16)。


野崎日記(148) 新しい金融秩序への期待(148) クレジット・デリバティブという怪物(5)

2009-05-01 07:43:38 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


 創業者のジョン・メリウェザー(John Meriwether)は、LTCMを清算した直後「JWMパートナーズ」(JWM Partners)という新しいヘッジファンドを開業し、二〇〇七年二月に起きた世界同時株安で円キャリーの撒き戻しによる為替取引で利益をあげた。メリウェザーは「JWMパートナーズ」の説明会で「自然災害に対して保険を掛けるのは理にかなっている。しかし、相場の暴落に対して保険を掛けるのは間違いである。なぜなら、彼ら(保険の契約相手)は暴落を引き起こす能力を往々にして持っているからだ。」と意味深なコメントを残している(ウィキペティアより)。

 ウォーレン・バフェットが、二〇〇三年に、デリバティブは「金融の大量破壊兵器」(Financial Weapon of Mass Destruction)と批判したとき、BBCがすぐにそのことを解説した(BBC,"Warren Buffett warns derivatives are 'financial weapons of mass destruction," March 4, 2003)。

 「急激に増大するデリバティブ取引は経済への巨大な破壊リスクである」。それは、売買をおこなっている当事者たちだけでなく、経済システム全体を傷つける「金融の大量破壊兵器」である。 デリバティブは、価値を保証された商品や株式を実際に買うことなく、将来の価格を予想した投機である。等々、バフェットの言葉を紹介していた。

 確かに、デリバティブはウォール街をカジノに変質させてしまった。今日、デリバティブの想定科学は一一四〇兆ドルもある。〇七年の米国の名目GDPは、一四・四兆ドルであったのだから、デリバティブを精算するには、GDPのすべてを使っても八〇年間もかかるのである(http://www.rawgreed.com/a-possible-economic-crash; http://polytricks.wordpress.com/2003/03/04/bbc-buffett-derivatives-warning/).


 四 史上最大の政府介入


 「よく尋ねられる質問」という英語表現がある。'F.A.Q.'(Frequently Asked Questions)がそれである。シカゴ大学ビジネス大学院のダグラス・ダイアモンド(Douglas  W. Diamond)とアニル・カシャップ(Anil K. Kashyap)がリーマンとAIGについて、同僚のスティーブン・レービット(Steven D. Levitt)の聞き取りに答えた内容("F.A.Qs of Lehman and A.I.G")が『ニューヨーク・タイムズ』(二〇〇八年九月一八日付)にレービットによって紹介された。それによれば、〇八年の九月に金融市場への政府介入の規模は、史上最大のものであったと断定されている。

 政府介入は、九月八日の財務省によるファニーメイ(連邦住宅抵当金庫、Fannie Mae=Federal National Mortgage Association)とフレディックマック(連邦住宅貸付抵当公社、Freddie Mac=Federal Home Loan Mortgage Corporation)の国有化から始まった。これら二社は、米国最大のモーゲジ証券の保有者であった。いずれも、政府支援企業(GSE=Government Sponsored Enterprises)である。GSEとされるのは、政府による住宅取得促進政策の一部を担うべく、連邦議会により設立されていることから、住宅都市開発庁と連邦住宅事業監督局の二つの監督官庁が存在し、また公共的な目的が記された定款は、連邦議会による承認を必要とするなど、通常の民間企業とは性格が異なるからである(http://www.nomura.co.jp/terms/english/g/gse.html)。二社の保有債権価値は五兆ドルを超えていたであろう。

 〇八年九月一五日のリーマンブラザーズの倒産は、それまでの米国史上で最大規模の倒産であった。同社の資産は六〇〇〇億ドルを超え、世界で二万五〇〇〇人の従業員を抱えていた。それ以前の最大の倒産はワールド・コム(WorldCom)であった。当時は一〇〇〇億ドルという巨大な資産の企業倒産であったと騒がれたものである(〇二年七月二一日倒産)。それ以前の最大倒産は、エンロン(Enron Corp、〇一年一二月二日、資産六三三億ドル)、それ以前は、テキサコ(Texaco、一九八七年、三五八億ドル)であった。それぞれが史上最大規模の倒産であった。リーマンの倒産が桁外れに大きいことが理解できるだろう。とにかく驚くべき巨大な倒産であった。これだけの巨大な倒産を米国政府は傍観したのである。金融会のショックの大きさがそれであけでも理解できるであろう。

 そして、〇八年九月一六日(火)、FedがAIGのブリッジ・ローン(bridge loan、短期のつなぎ融資)八五〇億ドルを投入した。AIGは、マンチェスター・ユナイテッド・サッカー・クラブのシャツ・スポンサーとしてよく知られており、資産は一兆ドルを超え、世界中に一〇万人以上の従業員をもっていた。Fedには、AIG株の八〇%以内を購入するオプションがあり、以降、二年にわたってその資産を売却する。こうして、AIGはは縮小されることになっている。

 これら三つのケースに共通するのは「資金調達する能力をなくしてしまった」ということである。

 ファニーメイとフレディマックについては、銀行が保有するモーゲジ証券を二社に売り、二社は、さらにそれを元本として新たな金融派生商品や社債を発行して、世界中の金融機関にばらまいていた。両社は保証抵当(それらがある標準を満たしたと規定する)を支援し、自分の負債を出すことによってこれらの保証に資金を提供していた。この負債は政府による暗黙の保証があった。ただし、実際に政府が乗り出したことはなかった。要するに、両者は、政府による保証を受けることができるという市場の理解によって、強力な信用力をもち、両社の発行する証券の信用度を疑う者はいなかった。

 両者は、モーゲジ債権を購買することにおいて、厳しい基準を守らなかった。怪しげなモーゲジ債権をも買い取っていたのである。これがサブプライム・ローンに拍車をかけた。十分な資本の増強もおこなわれなかった。しかし、サブプライム・ローン問題が顕在化して、両社は保有債権の損失をカバーするに足る資本を十分にはもっていなかったことが〇七年に明らかになったのである。両社を破綻させれば、米国経済が完全に破綻すると読んだ米国政府は、両社の救済と完全管理下に置いたのである。政府管理下に置かれたことによって、両社に投資する投資家はいなくなってしまった。それとともに、米国の不動産価格の低下が急激に進むことになったのである。

 これら二社が、公的な性格を薄めて、普通の営利企業のような行動をとった背景は、かつての国有企業から民営企業に模様替えさせられたことと無関係ではない。
 ファニーメイは、一九三八年に設立された政府系金融機関である。しかし、一九六八年に民営化され、一九七〇念に株式がニューヨーク証券取引所に上場された。主に民間金融機関から直接住宅ローン債権を買い取って証券化していたため、サブプライムローン関連の影響をもろに被った(http://www.nomura.co.jp/terms/english/f/fannie_mae.html)。

 フレディマックは、ファニーメイと同じく議会の公認の下、一九七〇年に設立された。ファニーメイだけではモーゲージ市場で十分カバーしていなかったので、それを補完することが意図されていた。政府出資は受けておらず、株式がニューヨーク証券取引所とパシフィック証券取引所に上場されている民間会社である。フレディマックも、民間金融機関から直接住宅ローン債権を買い取り、それをもとにして、パススルー証券(6)の発行・保証をおこなっている。米国政府の公的保証は受けていないが、政府機関債として米国国債に次ぐ、信用力を保持している(http://www.nomura.co.jp/terms/english/f/fhlmc.html)。

 そして、不動産価格の急落がリーマンを直撃した。

 リーマンは、資金の借り換えができなくなったことによって破綻した。同社は、一か月に一〇〇〇億ドルの借り換えを必要としていた。しかし、借り入れが困難になった。借り入れに成功しても、返済期間は急速に短くなった。資金調達コストが激増し、株価も暴落した。格付けも引き下げられた。そして、資金が枯渇してしまい、リーマンは、破綻したのである。

 そして、サブプライム・ローン関連の損失は、AIGに波及した。AIGは、CDSの保証契約履行が迫られていた。さらに、米債券運用会社パシフィック・インベストメント・ マネジメント・カンパニー(PIMCO)が、AIGの債券を保証していた。相互に与え合う保証契約は、巨大で複雑に絡み合っていた。AIGが破綻すれば、金融システム自体が爆破されることは明白であった。こうして、FEDは、AIGに八五〇億ドルもの公的資金を注ぎ込むことを、〇八年九月一七日に決定した。同日、直ちに、Fedは、AIGの株式の八〇%弱の株取得権を得、実質管理下に置いたのである。

 重要なことは、破綻する可能性が大きくなるまでの速度であった。AIG.の危機があまりにも急速に進行したため、Fedは救済せざるを得なかったのである。

 なぜ、リーマンだけが救済されなかったのか。〇八年三月にベア・スターンズ(Bear Stearns)が救済されたのには(7)、Fedが投資銀行の業務に精通していなかったために、急激なベア・スターンズの行き詰まりに驚愕したからであるといわれている(http://marketplace.publicradio.org/display/web/2008/03/19/bear_investor/)。以後、投資銀行を消滅させるという方針にFedは転換していたと思われる。