消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(153) 新しい金融秩序への期待(153) クレジット・デリバティブという怪物(10)

2009-05-11 07:00:54 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


 投資家は、証券会社に売買注文を出す。注文を受けた証券会社は、それを「カバー先」と呼ばれる金融機関に渡す。カバー先は、反対注文を出したり、他の金融商品でヘッジしたりして、投資家の注文に応じたポジション(持ち高)を確保する。時間が経過し、投資家が反対売買で決済すると、カバー先もそれに沿って損益を確定する。値動き分から手数料を差し引いた分が、投資家の損益である。この取引は、「売り」から入っても「買い」から入ってもよい。

 これは、FX(外国為替証拠金取引)のように、ネット取引であり、預け入れた証拠金の数倍のレバレッジを利かせることができる。株式投資のうち、信用取引もレバレッジを利かせることができるが、信用取引なら最大限三倍である。CFDはそれ以上のレバレッジを利かせることができる。

 五倍のレバレッジなら、二万円の証拠金で時価一〇万円の株式に投資することができる。その時価が一一万円に上がれば、手数料を差し引く前の投資家の利益は一万円であり、証拠金二万円の元手で、五〇%もの利益が得られる計算になる。

 当然、損失を被るリスクはある。

 ロスカット(Loss Cut)といって、預けた証拠金の一定割合が毀損するほど損を出せば、強制的に手仕舞いさせられるルールがある。FXにもこのルールはある。しかし、CFDの方が損失を出す危険性が高い。  

 まず第一に、FXが対象とする外国為替は、二四時間連続して取引ができる。したがって、時事刻々と値動きを追うことができる。ところが、CFDの場合、原資産を必要としないといっても、その日の取引終わりと翌日の取引開始との間に中断がある。その間、値段が突如、大きく変化してしまうこともある。

 第二に外国為替の値動きは、一日せいぜい三~四%程度なのに、CFDの対象である株式や株式指数は、一日に五%を超える変動をしている場合が大きい。一日に五%以上の値動きをすることも珍しくない。

 そして、最大のリスクが第三のもの、つまり、CFD取扱業者の資本面での規制や、顧客の預かり資産の管理方法などぼ明確なルールがいまだできていないということである。CFDといっても、証券関連のものについては金融庁、商品関連は経済産業省と農林水産省と監督官庁はバラバラである。

 第四に、取引所を通す取引ならば、取引相手が破綻しても、取引の清算が保証されているが、CFDの場合、カバー先が投資家の注文に対してどんな取引でヘッジしているのかが不透明である。つまり、CFDの安全性に対する不安がある。

 CFDは、二〇〇〇年にロンドン市場で発祥した。ロンドン市場では、取引される金融商品の三割以上をCFDが占める。しかし、取引参加者はほとんどがプロの投資家である。

 米国では、五〇〇万ドル以上の所得のない人のCFD市場への参加は禁止されている。

 CFDはあくまでも危険な取引なので、素人の個人が手を出すべきではないというのが、英米のルールである。ところが、日本では、次の成長商品として、証券会社は個人に売り込んでいるのである(『東洋経済新報』二〇〇九年一月一七日号、二六~二七ページ)。


 


(1) CDOについて詳しく解説しておきたい。MBSといわれる不動産担保証券住宅(Mortgage Backed Security)がある。不動産ローンの支払いを受け取る権利を証券化して転売される証券のことである。そして、MBSをさらに再証券化し、よりハイリスク・ハイリターンの金融商品に組み替えたのがCDOである。

 そもそも信用度の低いローンを担保とした証券化には、信用力を補完する必要がある。信用補完の手段としては、高格付の保険会社による付保や超過担保の設定などがあるが、それ以外にも債権の優先・劣後構造への組み直しということがこなわれている。この組み直しをしたものがCDOである。しかし、シニア、メザニン、エクイティといった分配金の優先順位により切り分けるようなCDO自体がいかがわしものであった。たとえば、投資適格ぎりぎりの格付けはトリプルBであるが、そのグループを、分配金を最優先で受け取れるCDO(シニア)、次順位以降のCDO(メザニン)、最劣後のCDO(エクイティ)に区分けする。CDO全体の数%に過ぎないエクイティは無格付であり、これは、投資銀行の手元に置かれ転売はされないはずであった。しかし、それ以外の、シニアは最上位のトリプルAを、メザニンについても当初のトリプルB以上という格付を得て転売されていただけでなく、エクイティ部分が極めて高リスクの商品として販売されていた。高リスクのCDO(エクイティをシンセティックしたCDO)すら発行されていた。金利を高くするためである。

 この危険なエクイティ部分が売買される事情は、金利だけでなく、オフバランスの必要性からも出ていた。とくに、商業銀行がそうである。銀行は、資産を増やすと、自己資本規制によって資本も増やす必要が生じる。そこで銀行は、自分の保有する資産を帳簿から消す(オフバランス化する、off-balance)ため、銀行の資産だったローンや債権を片端から簿外に移してオフバランス化してきた。この債権を移されたのが、銀行が設立した特定目的会社(Special Purpose Company=SPC)である。このSPCが、ABCP(Asset Backed Commercial Paper=資産担保短期債券)という短期のCP(Commercial Paper、企業の短期の運転資金を調達する手段)の一種を発行する。そこで得た資金で親分の銀行からCDOを買い取り、それを顧客に販売し続けてきたのである。このABCPが売れなくなり、CDOの価値が暴落したことから、米国発の金融危機が世界中に広まったのである(http://blog.goo.ne.jp/tbinterface/8c34373ca798f6889d6cf862d2729c2e/8f )。

(2) AIGは、一九一九年創業。本社・ニューヨーク。一三〇以上の国・地域に進出し、従業員は約一一万人。保険業務のほか、デリバティブ取引や金融商品の保証などを幅広く展開してきた。日本では、生命保険三社(アリコジャパン、AIGスター、AIGエジソン)と損害保険二社(アメリカンホーム、AIU)を運営。富士火災とジェイアイ傷害火災の最大株主。破綻した旧千代田生命保険など国内生保の積極的な買収を進めるとともに、格安の保険料を売り物に業績を伸ばし、生保三社の保険料等収入は国内大手四社に次ぐ規模であった(http://mainichi.jp/select/today/archive/news/2008/09/17/20080917k0000e020044000c.html)。


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