消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(156) 新しい金融秩序への期待(156) クレジット・デリバティブという怪物(13)

2009-05-14 07:03:30 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

 (15) スティグリッツは、FRB議長のベン・バーナンキ(Ben Shalom Bernanke)のインフレ・ターゲット論を念頭に置いているようである。バーナンキはグリーンスパン(Alan Greenspan)後の金融政策のあり方のひとつとして、インフレ・ターゲット政策を採用すべきだと主張し、事実、FRB議長指名を受けての上院銀行委員会の公聴会においてグリーンスパン路線の継承を約束した(〇五年一一月一五日)。その理由は、物価水準の目標値を決めて、目標値を上回れば金利上げ、下回れば金利下げというFRBの行動が金融関係者に自動的に伝わるという形で市場とのコミュニケーションを円滑にするという点にあった(FRB, Testimony of Ben S. Bernanke, Nomination hearing Before the Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs, U.S. Senate, November 15, 2005; http://www.federalreserve.gov/boarddocs/testimony/2005/20051115/default.htm)。

 彼の証言を要約しておく。

 <一層透明性を増すための可能なステップの一つは、FOMC(Federal Open Market Committee=連邦公開市場委員会)が長期的な価格安定性の目標に合致していると考えるインフレ率、あるいはインフレ率の範囲の数値を明示的に提示することであり、これは世界の多くの中央銀行によって現在採用されている手法です。私は学術的な文書や、理事会の委員としてのスピーチにおいて、この考え方を支持してきました。「長期的価格安定性」の意味に関して数値的指標を提示することには、金融政策に対して一般の感じる不確定性をさらに低下させ、長期的なインフレ期待をより効果的に固定できるなど、いくつかの利点が存在します。私は、長期的なインフレ目標の明示的な提示は、政策形成において判断および柔軟性がもつ役割に対する適度な強調も含めて、連銀の現在の政策アプローチと完全に一貫性をもったものであると見ています。もっとも重要なことは、このステップは政策目標としての雇用の最大化の重要性を決して損なわないということです。実際、このアクションの主要な根拠は、インフレおよびインフレ期待をさらに安定化させることにより、より強固でより安定的な雇用の成長に寄与し得る可能性があるということです。いずれにせよ、私の指名が承認された場合は、長期的な価格安定性の定義の数値化に向けた拙速なステップはとらないということを、この委員会に保証します。この事項に関しては連銀によるさらなる研究、および多大な議論と協議が必要です。このようなステップ(明示的なインフレ率の提示)を取ることにより、価格安定性および持続可能な雇用最大化の両者を達成するという二つの義務を満足させるFOMCの能力がより強化されるというコンセンサスが形成された場合にのみ、私はさらなるアクションを提案します。>

(16) 金商法の「第二四条の五」(半期報告書及び臨時報告書の提出)
 「第二四条第一項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社(第二三条の三第四項の規定により有価証券報告書を提出した会社を含む。第四項において同じ)のうち、第二四条の四の七第一項の規定により四半期報告書を提出しなければならない会社(同条第二項の規定により四半期報告書を提出した会社を含む。第三項において同じ)以外の会社は、その事業年度が六月を超える場合には、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該事業年度が開始した日以後六月間の当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「半期報告書」という)を、当該期間経過後三月以内に、内閣総理大臣に提出しなければならない」。

 「第二四条第一項(同条第五項において準用する場合を含む)の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社は、その会社が発行者である有価証券の募集又は売出しが外国において行われるとき、その他公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める場合に該当することとなつたときは、内閣府令で定めるところにより、その内容を記載した報告書(以下「臨時報告書」という。)を、遅滞なく、内閣総理大臣に提出しなければならない」。

 「第七条、第九条第一項及び第十条第一項の規定は半期報告書及び臨時報告書について、第二二条の規定は半期報告書及び臨時報告書並びにこれらの訂正報告書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合について、それぞれ準用する」。

 半期報告書、臨時報告書、有価証券届出書の虚偽記載の場合の役員等に対する損害賠償責任の規定、提出会社の役員に対して賠償請求、等々が問題になる。

 アーバンコーポの場合、正確にはすべてを開示していなかったということなので、「重要な事実の記載がかけている場合」の方に該当すると思われる。

 ライブドア事件判決でも適用された損害賠償額の推定規定が第二一条第二項である。市場価格の下落分(前後一か月の平均)が賠償額と推定される。しかし、賠償額の立証まで必要となるところに難点がある(http://japanlaw.blog.ocn.ne.jp/japan_law_express/2008/09/bnp_b9bf.html)。

(17) オフバランスとは、会計上のリスクが存在する取引をバランスシートの外に出すことであり、それによって、企業価値を高めることができる。オフバランスとは、事業運営に活用している資産・負債でありながらも、貸借対照表に計上されないことを意味する。一九七〇年代の米国において、バランスシート上の負債として計上されない資金調達の方法として、オフバランス取引が使われるようになった。当初は、非連結金融子会社を通じての取引や、証券化による債権譲渡取引などから始まり、八〇年代の金融自由化の中でデリバティブ取引へと拡大していった。バランスシートから資産・負債を消す(オフにする)ことで、外部からの評価(格付け)を高め、借入・金利負担を軽減し、資産利益率を向上させる効果がある。その際、対象資産としての債権や不動産を裏づけに、SPC(特定目的会社)を通じて証券を発行し売却することで借入金を返済することになる。その資産を担保とした証券のことを資産担保証券(ABS)と呼ぶ。証券化とは、このABSを活用して債権の流動化を図ることを意味する(http://www.nri.co.jp/opinion/r_report/m_word/off_balance.html)。

(18) グリトニル(Glitnir)は、北欧神話に出てくる宮殿のことである。名前は「輝けるもの」の意味である(V.G.ネッケル, V. G. 他編、谷口幸男訳『エッダ 古代北欧歌謡集』、新潮社版、一九七三年、五八ページ)。アイスランド政府は〇八年九月二九日、同国第三位のグリトニル銀行(GLB.IC)株式の七五%を取得し、政府管理下に置いたと発表した。取得額は六億ユーロ。米国発の金融危機で米国の金融機関が相次いで破綻。影響は欧州の金融機関にも及んでいるが、北欧の銀行破たんはグリトニル銀が初めてであった(http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-33989820080929)。

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