消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

現代米国の黙示録 12 メガ・チャーチ(2)

2006-09-05 00:59:59 | 現代宗教

 メガ・チャーチの企業性を示すエピソードとして、イエス・キリストの生誕日とされている12月25日が日曜日と重なれば、クリスマスの集会を開かずに、従業員を休ませ、クリスマス行事をしないメガ・チャーチが増えたことが挙げられるハイベルズが司祭を務める「ウィロー・クリーク・コミュニティ・チャーチ」はそうした傾向に先鞭をつけた。 2005年のクリスマスがまさに日曜日であった。AP通信によれば、毎週約7000人が礼拝に参加するケンタッキー州レキシントン近郊の「サウスランド・ディサイプル・チャーチ」も12月25日の礼拝を休むことにした。教会職員やボランティアが自分の家族と聖日を過ごせるように考えたからであると言う。


 そのような教会として、AP通信は、シカゴの「ウィロー・クリーク・コミュニティ・チャーチ」、ミシガン州グランビルの「マースヒル・バイブル・チャーチ」、ジョージア州アルファレッタの「ノースポイント・コミュニティ・チャーチ」、ダラス近郊の「フェローシップ・チャーチ」といった福音派のメガ・チャーチを挙げている。


 カリフォルニア州パサデナの「フラー神学校」のロベルト・K・ジョンストン教授は、「今起きていることは、クリスマスが救世主の誕生を祝う信仰共同体の時としてよりは、むしろ家族の祝いの時としてクリスマスが再定義されているということを表している。しかし、それが、信仰の核心にあるキリスト教儀式を一つ失うことになる危険性がある」と嘆いた。 Finke & Stark[1992]によれば、米国の宗派ごとの信者数シェア(クリスチャンの内訳)は、正統派プロテスタント(統一メソジスト、米国長老派教会、米国聖公会)が、80年の12%から2000年には9%に低下している。これに対して、福音主義者(南部バプティスト、キリスト神教会、アッセンブリー・オブ・ゴッド教会)は、80年の13%から2000年には15%に上昇している。
 こうして、21世紀に入って、福音主義者が、米国宗教界で最大勢力にのし上がったのである。アクロン大学、ジョン・C・グリーンの資料によれば、2004年の米国人の宗派別人口のシェア(全人口に占める内訳)は、白人福音主義者が26%、黒人福音主義者(白人とは宗教的には違いはないが、政治的主張が異なるために、白人とは区別して扱われる)が10%、正統派プロテスタントが16%、無教会が16%、非キリスト教徒(仏教、ユダヤ教、イスラム教、その他)が5%、その他のキリスト教徒が5%(計100%)であった。
 米アラバマ州フローレンスの「神の第一教会」は、青年たちに生きた金魚を飲み込ませるという苦行を強いている。これを同教会は、「恐怖の要素」宣教と称している。青年たちに恐怖というものを教え込もうというのである。教会の青年担当アンソニー・マーチン牧師は言う。  「私たちは、聖書が恐怖に関して記していることを実際に受け止め、学校で私たちの信仰を共有することを恐れないようにする必要がある。私たちはそんな恐怖に人生を支配させられない用意をしておくべきである」。


 これぞ、「レフトビハンド現象」である。イエス・キリストの再臨があるまで、キリスト教徒たちは、トリビュレーションの艱難に苦しまなければならない。世の中は恐怖と苦難に満ちている。それと戦う強い気持ちをもたなければならない。恐怖を克服する意志をもたねばならないというメッセージを出して、メガ・チャーチの指導者たちは、次々と恐怖を製造するのである。  実際、米国の権力は、米国福音派教会のこうした姿勢を最大限利用してきた。 あまりにも不興を買ったために廃止されたが、2004年4月、占領政府はイラクの新国旗を作成した。これは、非常にイスラエル国旗と似たものであった。田中宇は、これを「米占領軍が米国内のキリスト教右派に向けて、イラクがイスラエルの一部になったことを示すために、こんな旗を作ったのではないか」と疑っているhttp://tanakanews.com/e0721secondcoming.htm)。


 米軍がイラクを占領した直後、米軍はイラク人の各派を集めて開催された最初の地が「ウル」であった。ウルは、聖書によるとアブラハムの故郷である。イスラエル人の始祖であるアブラハムは、ウルからカナンの地(イスラエル周辺)に移住した後、神からナイル川からユーフラテス川までの中東一帯の支配を任されたと聖書にはある。田中宇によれば、これも、米軍による米国福音派へのメッセージである。つまり、米軍が聖地イスラエルの領土を取り戻したということを米国の福音派にアッピールしたのであると、田中宇は言う。


 「かつてアメリカが入植・建国されていく過程で、イギリスからアメリカ大陸への移住を、イスラエルの再建になぞらえたキリスト教徒の勢力がいくつもあった。彼らは、自分たちの行動力でアメリカにイスラエルが再建され、それをきっかけにして歴史が聖書の記述通りに展開してイエスの再臨が起き、千年の至福の時代を早く実現させたいと考えた」。


 聖書に書かれている通りに歴史が動くなら、早く千年王国が到来するように、聖書の預言を自分たちで実現させよう、つまり、戦争を起こそうというのである。再び、田中を引用しよう。


 「大昔から自然に形成された伝統のある社会に住む日本人など多くの国の人々にとって、歴史は『自然に起きたこと』の連続体であるが、近代になって建国されたアメリカでは『歴史は自分たちの行動力で作るもの』という考え方が強い」。


 その意味において米国は特殊な存在なのである。つまり、彼らは、自分たちの行動力で国際政治を動かし、最終戦争状態を作り出そうとしているのである。キリストの再臨を促すのは、イスラエルをまず強大にさせ、敵のイスラムへの攻撃を誘発し、最後に米国とイスラエルの共同戦線によって、中東からイスラム勢力を一掃することがキリスト教徒の責務となるという歴史観に福音派は浸っている。そんな馬鹿なという思うのが常識というものであろう。しかし、レフトビハインド現象の蔓延、福音派による露骨なイスラエル支持、さらには、米国の権力者がイスラエルを支えることによって米国内の福音派の支持を得るという構造を見るとき、荒唐無稽なシナリオがもしかして米国民の心の奥底を捉えてしまっているのではないかとの恐怖感を私などは抱いてしまう。


 しかし、米国内にも冷めた目があることを急いで付け加えなければならない。『ニューヨーク・タイムズ』のコラムニスト、ビル・ケラーが、2004年5月17日、「神とジョージ.W.ブッシュ」という題の記事を書いていて、そこでは、キリスト教右派の影響力はすでに無に等しいと断じている。これが、米国の良識というものだろう。しかし、私は、レフトビハインド現象を、もっと深刻に捉えている。


現代米国の黙示録 11 メガ・チャーチ(注と文献)

2006-09-05 00:58:10 | 現代宗教

 注 (一) LaHaye & Jenkins[1995]は、シリーズ物である。第一巻は、全米で六五〇万部、シリーズものすべての合計で全世界で六〇〇〇万部売った。ティム・ラヘイ(Tim LaHaye)は、二三歳で牧師資格を取り、二五年間、サンディエゴの「サドルマウンテン・バプティスト教会」(Suddle Mountain Baptist Chrch)というメガ・チャーチの牧師を務めている。クリスチアン・ヘリテージ大学(Christian Heritage University)も創設している。このラヘイのアイデアを基に、ジェンキンズが書き下ろしたのが、この小説である。 Warren[2002]も二三〇〇万部という超ベストセラーになった。ウォーレン(Rick Warren)も、カリフォルニア州レークフォレスト(Lake Forest)のメガ・チャーチ、「サドルバック・バレー・コミュニティ・チャーチ」(Suddleback Valley Community Chrch)の創設者であり、後述するが、ブッシュ大統領の名代として、ウォーレンは、しばしば韓国を訪れ、北朝鮮当局とも接触しようとしている。 Osteen[2004]も、二五〇万部を売っている。オスティーンは、おそらく、全米で最大のメガ・チャーチ「レイクウッド・チャーチ」(Lakewood Church)の司祭である。二〇〇五年七月、ヒューストンの「コンパック・センター」(Compaq Center)、つまり、全米プロバスケット・ボールチームのヒューストン・ロケッツ(Houston Rocket)の本拠であった施設をコンピュータ会社のコンパックが買収していたものを、今度は、オスティーンが買収し、その巨大施設をメガ・チャーチに改造した。週末の集会には一〇万人を集める自信があると、オースティンは『ビジネス・ウィーク』に語った(Symonds[2005], p. 46)。

(二) 注(一)で紹介したウォーレン(Rick Warren)は、自著の販売方法を「連続花火的マーケッティング」(pyro marketing)と呼ぶ。つまり、「もっとも乾いた火のつきやすい層」(driest tinder)にまず、売り込む。彼らが、それに夢中になってくれて、自らの感動を他人に伝えたく、世界中にそれを広げてくれる、というのである。これが急速にベストセラーを生む方法である。 ウォーレンが言うには、一二〇〇戸を超える福音主義教会が、この本の唱える四〇日間の魂の内省儀式を行う場所として、自分たちの教会を提供してくれた。そして、これら司祭たちが、集会参加者たちにこの本を配った。司祭たちが配るために購入した数は四〇万部であった。定価二〇ドルのものを七ドルで出版社は司祭たちに提供した。内省儀式に参加し、司祭から本を配られた教会参加者たちは、一人平均五冊を定価で買い、友人に配った。この連鎖で、この本は世界の一六二か国の二万戸の教会で説教用に使われた。売上部数は、世界全体で二三〇〇万部を超えた(Symonds[2005], p. 50)。 マーケットリサーチ会社のアービトロン(Arbitron)によれば、宗教関係書の売り上げは、一九九八年二六億ドルであったが、二〇〇四年には三三億ドルにまで増加した。こうした売上増加には、キリスト教伝道のラディオ局の激増も寄与した。ラディオ局数は、一九九八年には一〇八九であったが、二〇〇四年には二〇一四にまで増えた(ibid., p. 46)。


(三) クリスチャンの中には、将来イエス・キリストが再臨するが、再臨前に「大艱難時代」(Tribulation)がくる。そうした大艱難が始まる前にイエス・キリストを心から信じた信者たちがイエスの下に招き入れられる(この世から消える)。イエスの御子たちに苦しみを与えないためのイエスの心から出たのがこの「携挙」である。

 『旧約聖書』に当たる「エゼキエル書」第三八、三九章には、北の果てから敵の大軍が、ペルシャ、リビア、エチオピアという敵側同盟軍を引き連れてイスラエルを攻めてくるが、神の御業によって、敵軍は壊滅し、その武器は燃料になり、敵側兵士は鳥の餌食になり、敵の死体は大きな墓に埋葬されると預言されている。
 「イザヤ書」第九章第一、二節で、メシアが主としてガリラヤで宣教するが、「彼はさげずまれ、のけ者にされ、悲しみの人である」とした。「詩編」では、メシアが裏切られ、ゼカリヤは、メシアが銀三〇枚で売られると預言した。
 新約聖書「コリント人への手紙」第一、第一五章五一~五七節には、いわゆる「携挙」のことが書かれている。これは、使徒パウロが、コリントという町の教会のクリスチャンに宛てた手紙である。そこでは、イエスが、「私はまた来て、あなた方を私の元に迎えます。私のいる所にあなた方を置くためです」とある。パウロも言う。「私はあなた方に奥義を告げましょう。私たちは皆が眠ってしまうのではなく、変えられるのです。終わりのラッパとともに、たちまち、一瞬のうちにです」。


 さらに聖書では、「反キリスト」(the AntiChrist)の悪魔のペテン師が現れ、多くの人たちの心を掴み、世界的指導者と自称して地上に戦乱を巻き起こすと預言されている。イエスは言った。 「私は私の父の名によて来ましたが、あなた方は私を受け入れません。他の人がその人自身の名によって来れば、あなた方はその人を受け入れるのです」と。 ヨハネ「黙示録」では、携挙の日から七年間、残されたもの(レフトビハインド)の苦難が続く、その期間は、最初の一年九か月の「封印の審判」、その後に続く同じく一年九か月の「ラッパの審判」、そして残り三年半の「鉢の審判」となる。これは、「大艱難時代」(トリブーレイション)といって、もっとも過酷な時代である。艱難は、時を追って厳しくなる。この七年を生き延びたとき、イエスが救済にくる。そして平和な「先年王国」(ミレニアム)がイエスによってもたらされると言われている。  

「黙示録」第五章に、「七つの封印のある巻物」のことが書かれている。七つの封印のうち、最初の四つは、白い馬、赤い馬、黒い馬、青ざめる馬である。第一の封印の白い馬は、それに乗る反キリストを暗示する。「反キリスト」が平和を人類に約束しながら体制を整える一か月から三月間を指す第二の封印である赤い馬は戦争である戦争自体は三か月から半年で終息する。第三の封印は黒い馬で、飢饉を意味する。そして、第四の封印が、飢饉と疫病の結果、生み出される死を暗示する青いざめた馬である。
 「黙示録」第六章第八節「私は見た。見よ。青ざめた馬であった。これに乗っている者の名は死といい、その後にはハディスが付き従った。彼らに、地上の四分の一を、剣と飢饉と死病と地上の獣によって、殺す権威が与えられた」とある。
 五つめの封印は、回心したユダヤ人の布教者たちの殉教、第六の封印は聖者たちの虐殺そして、第七の封印は「黙示録」第一一章三節から一四節に記されている二人の証人の反キリストによる虐殺である。


(四) イスラエルのどのような非道をも米国のメガ・チャーチに拠点をもつ福音主義者たちは、米国政府とともに、イスラエルを即座に支持する。 レバノンのシーア派(Shi'a)民兵組織「ヒズボラ」(Hezbollah)とイスラエル軍の戦闘について、ブッシュ大統領とコンドリーザ・ライス国務長官は、イスラエルには自衛権があり、ヒズボラのゲリラ行為に対処せずに戦闘を停止することが永遠の平和には通じないと述べた。そして、二〇〇六年七月一八、一九の両日、福音派キリスト者三五〇〇人以上が、イスラエル支持のためにワシントンに集結した。「私たちはイスラエルのために主張するようイザヤに命令されている。イスラエルにあらゆる手段で応じる能力があって欲しい」と、テキサス州サン・アントニオ(San Antonio)で会員一万八〇〇〇人のメガ・チャーチ、「コーナーストーン・チャーチ」(Cornerstone Church)を主宰するジョン・ハギー(John Hagee)牧師は言った。 同年七月二〇日、米下院は、対ヒズボラ交戦でイスラエルを支持し、その敵を非難する決議を四一〇対八で採択した。下院の与党共和党指導者、ジョン・ベーナ(John Baner)議員が、イスラエルと米国の「独特な関係」によるものだと語った。このように、米政府と福音派キリスト者の双方が、中東論議や紛争の際には、即座にイスラエルとその行動を支持する傾向がある(「世界キリスト教情報」、第八一四信(週刊・総合版)、http://cjcskj.exblog.jp/m2006-08-01/)。

 もっと衝撃的なことがある。インド洋沿岸諸国を襲った大津波は、イスラム教徒に対するイエス・キリストの怒りであると受け取る人は、米国南部の福音主義者たちの半数を超え、カトリックでは一割あったという調査結果が出た(GMI, January 19, 2006)。

(五) この集会で、グラハムは、次期民主党大統領候補と目されるヒラリーを持ち上げたし、集会の前日に、NBCテレビのケイティー・カーリック(Katie Curlick)とのインタビューで、自らを生涯の民主党員だと明らかにした。これに、福音派指導者のロブ・シャンク(Rob Shank)が不快感を表明した。

 シャンクは、グラハムの伝道学校に出席したり、巡回伝道者会議に参加したこともある。シャンクは言った。「私の二五年間にわたる手本とも言うべき人が、妊娠中絶と同性間結婚の拡大を認める党の党員資格を保持していたことには失望した。グラハム氏の後任者は、この最高の道徳的な問題で明確な基準をもつべきだ」と言った。 それでもシャンクはクルセード(伝道)にワシントンから参加したが、その第三夜、グラハムがマイクをビル・クリントン(Bill Clinton)前大統領に手渡したことに、シャンクは衝撃を受けたという。グラハムの行為は、講壇近くに座っていたヒラリー(Hillary Rodham )・クリントン上院議員を支持していることを示唆したものと受け取られた。クリントン一家が「老グラハム」を利用するのを見て、シャンクは説教を聴くのに堪えられず、一家をグラハム氏が称賛している中、会場から出たという。

 「これは二〇〇八年の大統領選で福音派の票を分割し、ヒラリー勝利を確実にするクリントン一家の慎重で狡猾、全く政治的な動きだ」とシェンクは言う(「世界キリスト教情報」、第七五六信(週刊・総合版)、二〇〇五年六月二七日(月)、http://cjcskj.exblog.jp/m2005-06-01/

 おそらく、シャンクは正しいだろう。保守的な福音主義者を敵に回してしまったことから、二〇〇四年の大統領選に敗れた民主党は、福音主義者の切り取りに大きなエネルギーを割くはずだからである。その際、福音主義教会が民主党に近づくのではなく、民主党が復員教会に近づくようになるであろう。結局は、民主党は共和党との差異を示すことができなく、二〇〇八年も共和党に破れるものと思われる。


 引用文献 Carnes, Ann[1995],"Neighbors Pray for Containment," Atlanta Business Chronicle, September. Chandler, Russel[1989], "Customer Poll Shaped a Church," Los Angeles Times, December  一一 Finke, Roger & Rodney Stark[1992], The Churching of America, 1776-2005: Winners and Losers in Our Religious Economy, Rutgers University Press. LaHaye, Tim & Jerry B. Jenkins[1995], Left Behind: A Novel of the Earth's Last Days , 16vols. Tyndale House Publishers.; 邦訳は、いのちのことば社から出されてい る。上野五男訳『レフトビハインド』(第一巻)二〇〇二年、松本和子訳『ト リビュレーション・フォース』(第二巻)二〇〇二年、松本和子訳『ニコライ』 (第三巻)二〇〇三年、松本和子『ソウルハーベスト』(第四巻)二〇〇三年、 伊藤肇訳『アポリュオン』(第五巻)二〇〇四年、伊藤肇訳『アサシンズ』(第 六巻)二〇〇五年、伊藤肇訳『インドウェリング』(第七巻)二〇〇六年。 Niebuhr, Gustav[1995a],"Where Shopping-mall Culture Gets a Big Dose of Religion?," The New York Times, April 16. Niebuhr, Gustuf[1995b],"Religion Goes to market to Expand Congregations?" The New York Times, April 18. Osteen, Joel[2004], Your Best Life Now: 7 Steps to Living at Your Full Potential, Warner Faith. Sammonds, Mary Beth[1994], "Full-service Church," Chicago Tribune.


現代米国の黙示録 10 メガ・チャーチ(1)

2006-09-02 23:58:01 | 現代宗教
 メガ・チャーチとは、日曜日の礼拝に参加する人数が2000人を超える教会を指す。メガ・チャーチの特徴は、牧師がケーブル・テレビで専用の番組をもち、ベストセラーとなる宗教本を作り出し、教会内をロック・コンサートのような雰囲気に作り変える点にある。メガ・チャーチは,1955年前後に誕生したが、急成長したのは、レーガン大統領が福音派教会を利用し始めた1980年代に入ってからである。以後、年率5%の水準でメガ・チャーチは増えてきた。 とにかく、メガ・チャーチは、巨大になるのに、長期間を要しなかった。例えば、著名なメガ・チャーチの1つ、「アナハイム・ビネヤード・チャーチ」などは、信者ゼロから3000人にするのに、5年しかかからなかったと創設者のジョン・ウィンバーは自慢している


 巨大化することで、社会の関心を集め、信者を集め、それがさらに巨大化に拍車をかける。アトランタの「ワールド・チェンジャーズ・ミニストリー」の牧師、クレフロ.A.ダラーは、信者席を8000席設けた。その工事だけで、近隣の人々の関心を呼び、そのことが、新聞、ラディオ、テレビで報道され、さらに多くの人々が見に来るという相乗作用を、巨大化は生み出す。


 規模と並んで、メガ・チャーチの地理的位置も共通点がある。メガ・チャーチの75%は、サンンベルト州に立地している。中でも、カリフォルニア州がもっともメガ・チャーチの教会数が多く、後、テキサス、フロリダ、ジョージアの各州が続く。


 つまり、米国で人口の増加率の大きい州の州都にメガ・チャーチが集中しているのである。不規則に急拡大する町を米国ではスプロール・シティというが、ヒューストン、オーランド、ダラス、ロサンゼルス、アトランタ、フェニックス、オクラホマ・シティなどがそうした町である。そして、これらメガ・チャーチは、郊外に位置し、高速道路を使うと容易に行ける場所にある。


 メガ・チャーチの集会はとにかく楽しい。元々教会に行きたがらない人々を獲得することにメガ・チャーチが腐心してきたからである。教会を敬して遠ざける人は、内気で人付き合いが苦手なタイプが多い。したがって、メガ・チャーチは、とにかく楽しく、すぐに周囲の雰囲気に適合できるような工夫が凝らされている。まるで、劇場の中にいるように物事が進行させられている。演出は凝ったものになり、教壇の振り付けもプロによるきらびやかで楽しいものが目指される。牧師は、難しい言葉は一切使わないことを原則にしている。


 メガ・チャーチは、ブームに乗ってフル操業をしている企業そのものである。食堂から喫茶店、日用雑貨店に薬局、運動クラブに各種文化的催し、等々、イベントが目白押しである。まったく休日なしに教会は営業している(Scaller[1990], pp. 20-24)。  メガ・チャーチの特徴は、カリスマ的な人気のある司祭たちが、抜群の経営センスをもっていることである。宗教上の教理への理解よりも、経営センスの方が重視されているとも思える。その証左が、メガ・チャーチの運営者の3分の1は、伝統的な教会で訓練を受けたことのない人たちであるという点にある。


 イリノイ州(Illinois)サウス・バリングトン(South Barrington)にある同州最大の「ウィロー・クリーク・コミュニティ・チャーチ」(Willow Creek Community Church)の運営責任者のハイベルズ(Bill Hybels)は、一度も牧師としての訓練を受けたことのない人である(Niebuhr[1995a])。


 教会を建てる時には厳密なマーケッティング調査をするが、教義上では専門家でもなんでもない経営者のハイベルズが、聖書に書かれたものこそが、真実であるという「レフトビハインド現象」そのものの言葉で語るのである。


 この教会のウェブ・サイトで、ハイベルズは言う。 「私たちは、もっとも今風の言葉、音楽、劇を使って、今日の文化に合う神の御言葉を伝えます。しかし、私たちのメッセージは、聖書と同じ程度に旧いものです。私たちは、すべての教義に関する、歴史的なキリスト教の教えを重視します。イエス・キリストが死で贖って下さったこと、悔い改めることによる救済、神の恵み、受難時の神の御言葉が書かれた聖書を重視します」。


 「聖書と同じ程度に旧い」メッセージとは、携挙やトリビュレーションの到来を信じ、ハルマゲドンとの戦いに立ち上がれというものである。ハイベルズは豪語する。

 「私たちは、王国の歴史を作りつつある。完全に新しい世代に向けての新しい方法で事に当たっている」。


 フル操業のメガ・チャーチは、多様で豊富な業務を遂行するために、非常に多くのスタッフを抱えなければならない。ハイベルズの教会は、1995年時点ですでにフルタイムの司祭助手を20人前後抱えていた。さらに、フルタイムの事務員260人、ボランティアも2000人はいた。年間予算も、1235万ドルもあった。予算の63%が従業員の給料に、残りが施設維持費と活動費に使われた。建物を含む施設の総資産は、3430万ドルであった。


 『ビジネス・ウィーク』誌の最新の推計によれば、同教会の2004年の年間予算は4800万ドル、純資産1億4300万ドル、日曜集会の参加者数は2万1000名を超えるようになった。雇員は、427名にまで増加した。ボランティアも1万人になった。教会の事業は、100を超えている。


 ビル・ハイベルズは、1975年にこの教会を創設した後、グレグ・ホーキンズを雇い入れた。ホーキンズは、スタンフォード大学でMBAを取得し、マッキンゼーの元コンサルタントであった。彼が日々の教会運営に携わっている。


 この教会のコンサルティング部門は強力である。「ウィロー・クリーク協会」がそれである。このコンサルタント業務は、ハーバード・ビジネス・スクールのMBA、ジム・メラドが責任者になっている。主たる顧客は、他のキリスト教会である。固定的顧客の教会数は、90の宗派を横断する1万500にも及ぶ。「ウィロー・クリーク・メソド」という効率的な教会の運営方法の伝授を行っている。固定的顧客ではなく、1回だけのコンサルティングを含めると、料金を払って、その方法を学んだ教会数は、2004年の1年間だけで11万件を超えている。


 年間収入の内訳は、献金が2600万ドル、コンサルティング収入が1700万ドル、書籍販売320万ドル、コーヒー・ショップとレストランの売上250万ドル、自動車修理100万ドル、サマー・キャンプ収入30万ドルであった。


 これでは、もはや教会ではない。れっきとした企業であると決め付けられても仕方のない態様である。

現代米国の黙示録 09 ジェリー・フォルウェルとビリー・グラハム

2006-09-01 21:57:53 | 現代宗教

 ロバートソンと同じく『タイム』の選に漏れたジェリー・フォルウェルも、これまたロバートソン同様、米国の著名なテレビ説教者である。フォルウェルは、1979に「モラル・マジョリティ」を創設した。これが、保守的な道徳観念を米国民に与えた影響も、共和党が躍進する大きな原動力であった。そのフォルウェルが、「21世紀のモラル・マジョリティの復活」と銘打って、新組織「モラル・マジョリティ連合」を2004年11月に打ち上げた。新組織は、中絶反対の判事を任命し、同性間結婚禁止への連邦レベルでの法修正を実現させ、2008年の保守派大統領選出に取り組むなどの政治活動を展開すると言う。当時、71歳であったフォルウェルは、2008年までの4年間は新組織の全国委員長としての役目を果たすと語っている。


 ロバートソンやフォルウェルよりもはるかに目立つ福音主義者がビリー・グラハムである。2006年8月14日号の『ニューズウィーク』が、グラハム特集を組んだ。キリスト教徒の多くが、イスラム教やヒンズー教などの異教徒でも神によって救済されるという考え方を「万人救済論」であるとして警戒している。グラハムにはつねにそうした危惧がつきまとうという非難が存在するが、グラハムは最大のカリスマになっている(神学的意味におけるカリスマではなく、通俗的表現としてのカリスマ)。彼は、「ビリー・グラハム伝道教会」の創設者である。2006年3月12日、その前年にハリケーンの大被害を受けたニューオーリンズで伝道集会を開いた際には、会場に1万6300人、会場に入ることができなかった人数は1500人いた。この時き、彼は、これが最後の伝道になるだろうと言った。87歳であった。



  2005年6月24日から3日間、グラハムは、ニューヨークで大勢の前で伝道を行った。会場となったクイーンズ地区の「フラッシング・メドウズ・コロナ公園」には、約6万人が参加し、3日間で延べ23万人が彼の説教を最後のものとして聴いた。世界の10数か国から700を超えるメディアが集まった。


 グラハムは高齢のうえ、前立腺がんやパーキンソン病を患っている。この集会が彼が行った大衆伝道の417回目であった。伝道前の6月22日に行った記者会見では「健康と体力の衰えで私のできることは限られてきた。伝道の日々はまもなく終わる」と述べた。


 グラハムは世界185か国を訪問、約2億人に伝道した。1992年と94四年には北朝鮮を訪れ、当時の金日成主席とも会談した。またトルーマン以来、ブッシュ父子を含め米歴代大統領とも親密な関係を築いた。ブッシュ大統領はグラハムとの出会いが信仰を深める転機になったと言った。ただ、グラハムは、政治的な問題に関しては、歴代大統領と一定の距離を置いてきた。


 米国の出版社、パトナムは、グラハムのこの6月24日から26日にかけてニューヨークで行った最後のクルセードのメッセージ(説教)集『神の愛に生きる=ニューヨーク・クルセード』(仮題)を出版すると発表した。グラハム自身が序文とあとがきを執筆する。著者名は息子である。編集はペンギン・グループのジョエル・フォティノス宗教書部長が担当する。パトナムは「アライブ・コミュニケーションズ」のリック・クリスチャン)から版権を獲得した。


 2004年11月18日から21日までの4日間、グラハムはロサンゼルスで「カリフォルニア・クルセード」を開いた。この伝道集会には延べ31万人が参加し、1万1000人を超える人々が洗礼の決意を示した。


 
以上に見られるように、グラハムを除いて、著名な福音派の指導的牧師たちは、非常に積極的に共和党の党勢拡大の活動を行ってきたのである。


現代米国の黙示録 08 パット・ロバートソン

2006-08-31 19:32:46 | 現代宗教

 2004年の大統領選では、米国の白人の福音主義者たちの78%がブッシュに投票した。再選された子ブッシュ大統領は2005年2月2日に「一般教書演説」を行い、翌、3日に「朝食祈祷会」を開いたが、「一般教書演説」の草稿を書いたのは、マイケル・ガーソンという当時40歳の福音主義者であった。翌日の朝食祈祷会の主催者も、同じく、福音主義者のダグラス・コーであった。彼は、当時、76歳であり、「フェローシップ・ファンデーション」の総裁である。

 

  『タイム』(2005年2月7日号)は、初めて、もっとも影響力のある米国の福音主義の指導者25人を選んだ。上記2人はその中に含まれていた。『レフトビハインド』の著者、ティム・ラヘイも選ばれた。同誌が初めてこのような特集を組んだのは、子ブッシュの再選に福音主義派教会、とくにメガ・チャーチが大きく貢献したと見なしたからである。同誌の表紙は、25人の顔と十字架が描かれていた。そして、「ブッシュが彼らから受けた恩恵はなにか?」、「民主党に必要なものはより多くの宗教ではないのか?」という見出しが付けられた。

 

  その他、選ばれた25人の中には、大物の伝道者、ビリー・グラハムとその息子のフランクリン・グラハム、ワシントンに本拠を置く保守系シンクタンク「宗教と自由研究所」の所長、ダイアン・ニッパーなどが含まれていた。

 

  しかし、大物のパット・ロバートソンジェリー・フォルウェルの2人が選に漏れた。 2004年時点で、代表的な福音主義者を選ぼうとすれば、パット・ロバートソンを外すことはできなかったはずである。彼は、1988年の共和党大統領予備選に出馬した経験があり、2004年の子ブッシュ大統領再選に大きく貢献した人である。彼は、全米で数百万人の会員を抱える「クリスチャン連合」の創設者でもあり、さらに、国民的人気のあるケーブル・テレビ(クリスチャン放送網=CBN)を運営し、自らも宗教番組、「700クラブ」に出演して、福音主義の拡大の原動力になっている人でもある。

 

  『タイム』の副編集長、スティーブ・コープは、彼を外したことについて、すでに地位を築いた人よりも、これから影響力を増すような新人を選んだと弁明した。確かに彼は、当時75歳であったが、選ばれた人の中には、彼よりも年長者が結構いたので、年齢は理由にならない。むしろ、ロバートソンの、かずかずの、あまりにも過激な米国・イスラエル擁護発言のせいであろうと思われる。

 

  最近では、血栓症などで2005年1月4日に入院したイスラエルのアリエル・シャロン首相を評して、ロバートソンは、自らの番組で、聖書の「ヨエル書」を引用して「イスラエルがガザ地区の入植地を撤退したことに神の罰が下ったのだろう」と発言した。 これには、米国民はもとより、イスラエル政府も直ちに不快感を表明した。

 

  ロバートソンは、ガリラヤ湖畔に「クリスチャン・テーマ・パーク」の建設を願っていた。イスラエル政府も、協力を申し入れていたのに、ロバートソンの発言に抗議する意図を込めて、支援の打ち切りと協力の撤回を決めた。

 

  いずれにせよ、福音主義者たちが、ことイスラエルに関するかぎり、一切の批判を許さないという姿勢を堅持していることは確かである。そして、彼らの支持が子ブッシュの背骨になっているのである。

 

  このロバートソンは、「進化論」を支持する人たちを非難したことがある。これまで米国では、進化論支持者と、旧約聖書創世記にあるように神が天地を創造されたとする天地創造説支持者の対立が続いてきた。

 

 米国民の過半数が「創造説」を信じていると言われる米国では、公立学校で「創造説」を教えることの是非が問われてきたが、憲法には政教分離原則が盛り込まれており、1987年に最高裁が「聖書の創世記を授業で教えることは、政教分離に反する」との判断を示して以来、公立学校で「生命は神が作った」とは教えられない。同時に、公然と「進化論」を教えることにも抵抗があり、生命誕生問題は、公教育の現場ではタブーとなっている。

 

  しかし、「創造説」へのこだわりは大きく、最近では、生命の誕生にはなんらかの知的計画が関与したとする「インテリジェント・デザイン」(知的計画)を授業で教えようとする動きが米国に出てきた。


 ダーウィンの「進化論」では生命誕生のなぞに答えられない、「時間をかけたからといって、複雑な生物は生まれ得ない」、「より高度な『力』が、生物を創造した」など、生物が誕生して固有の形をもつようになった背景には、なんらかの知的計画があると主張するのが、「インテリジェント・デザイン説」である。


 この説は、「神」や「創世記」といった言葉を用いてはいないものの、「創造説」の1つであることは間違いない。進化論支持派は、「インテリジェント・デザイン」について天地創造説の「神」を「知的計画」に置き換えただけだと批判している


 2005年11月8日、東部ペンシルベニア州と中部カンザス州でこの問題に関して、対照的な、異なる2つのできごとがあった。

 

 ペンシルベニア州南部のドーバー市では、教育委員会の選挙で「インテリジェント・デザイン」を支持する8人が落選した。2004年、この町で、生物の授業において、「進化論には『穴』があり、インテリジェント・デザイン説は穴を埋める理論の1つだ」とする文書を教師が読み上げることを教育委員会が決めた。しかし、これは、政教分離の原則に反するとして法廷論争が続いていた。

 

  一方、カンザス州の教育委員会は、同じく8日、公立学校を対象とした「生命誕生をめぐる科学的な論争」を教えるとするカリキュラム改訂案を賛成6、反対4で可決した。直接言及していないが、授業で進化論だけでなく「インテリジェント・デザイン説」も合わせて教えようとしたものである。「創造説」を授業に取り入れるかどうかは、各学校の判断に委ねられるが、福音主義者の圧力があったことは確かである。  ドーバーで、「創造説」的な「インテリジェント・デザイン説を」支持する人たちが教育委員会選挙に8人も落ちたことをロバートソンは激怒し、10日には、ドーバー市が「神」を拒絶したと批判し、「神が怒りを下すだろう」と語ったとロイターが伝えた(2005年11月11日)。


 ロバートソンは1998年には、フロリダ州オーランド市が同性愛者団体の活動を許可したことを批判し、同市にハリケーンや地震、テロ攻撃などの災害が発生するであろうと警告した。

 

  彼は、2005年8月22日にも物議を醸す発言をした。米国との対立が深刻化しているベネズエラのチャベス大統領を暗殺すべきだとまで言ってしまったのである。

 

  同氏は自分の番組「700クラブ」で、チャベス大統領「共産主義とイスラム原理主義を米大陸に広めている」と批判した上で、チャベスが繰り返し言及してきた「米国によるチャベス暗殺計画」に触れ、「もしそれが本当なら、我々は暗殺を実行すべきだ」、「独裁者を始末するのに(イラクのように)2000億ドル(約22兆円)も使って戦争をやる必要はない。秘密工作員に仕事をやってもらう方がずっと楽だ」、暗殺には情報機関の数人の活動で十分と述べたのである。

 

  ベネズエラのランヘル副大統領は、翌、23日の会見で「米国は対テロ戦争を説く一方、このような影響力のある人物にテロリスト的発言を許している」、「この発言は明らかな犯罪だ」と米国に対処を求めた。

 

  これに対しマコーマック米国務省報道官は同日、「不適切な発言だが、米政府の政策ではない」と、ローバートソンの発言を単なる一市民のものにすぎないと強調した。

 

  ロバートソンの発言は、予想以上に波紋を広げ、24日、ロバートソンは記者会見で謝罪した。しかし、謝罪はしたものの、イラクのフセイン元大統領やヒトラーを引き合いに出し、「無実の傍観者の群れに車が突っ込もうとしているとき、ただ惨劇を待つことはできない。ドライバーからハンドルを奪い取らねばならない」と、比喩的にチャベス大統領を改めて批判した。

 

  南米最大の産油国ベネズエラは、米国にとって原油の主要な輸入国だが、チャベスは南米でもっとも目立つ反米主義者で、米州自由貿易構想をはじめ、イラク戦争のほか、米国の政策にことごとく反発してきた。ロバートソンの発言は、チャベス政権に対する米国内の保守派の苛立ちを示したものであろう。

 

  パット・ロバートソンは、過激な発言のゆえに、『タイム』では選ばれなかったが、福音派拡張の大きな力であったという事実は否めない。


現代米国の黙示録 07 宗教を取り込むことに成功した子ブッシュ

2006-08-30 23:23:08 | 現代宗教

 米国の「福音派キリスト者」は、イスラム過激派集団「ハマス」の指導者アハメド・ヤシンをイスラエルが殺害したことを、イスラエル人自身より強く支持していることが、世論調査で明らかになった。

 ヤシンは、イスラエル人側に死者375人、負傷者約2100人を出させたテロ攻撃を425回にわたって指揮したとされている。


 調査は福音派の「キリスト者とユダヤ人国際フェローシップ」によって、2004年3月22、23の両日、福音主義者を対象に、インターネットを通じて行われたものである。回答者1630人のうち、89%の1457人が、ヤシンを殺すというイスラエルの決定を支持した。反対は41人(2.5%)、「どちらとも言えない」が132人(8.1一%)であった。

 

  一方、イスラエル人側への調査は、イスラエル紙『マアリヴ』が行った。その結果は、ヤシン殺害支持が61%、反対が21%であった。結果は、両者ともに2004年3月23日に発表された。


 EP通信によると、こうした雰囲気を敏感に察知した子ブッシュ大統領は、「全世界反ユダヤ主義認識法」に署名した。この法案は、米議会ではただ1人ホロコーストの経験者、民主党のトム・ラントス議員が提出していたものである。この法律は、国務省が特別コミッショナーを任命して、世界中で反ユダヤ主義の動向を調査させ、年次報告を行うというものである。


 2004年の大統領選挙ではっきりしたのは、キリスト教の取り込み、とくに福音主義者を取り込めた子ブッシュが、米大統領に再選されたということである。主要な宗教グループのほとんどが共和党を支持した。それまでは民主党の強力な支持層だった黒人プロテスタントにまで共和党は食い込んだ。


 PBSテレビの「週刊・宗教と倫理ニュース」番組が行った出口調査によると、教会に通う人ほど、ブッシュに投票し、無宗教の人はほとんどがジョン・ケリーに投票した。これは前回2000年の選挙でも示されていた傾向である。


 「宗教ギャップが一層明確になった。これは今後数年間の米政治の特色になろう」と、アクロン大学のジョン・C・グリーン教授が同番組で語った。2004年の選挙でのブッシュの勝利は、福音派とカトリック信徒を中心にした広範な「宗教連合」の支持を取り付けたことにある。


 さらにブッシュは、福音派だけでなく、主流プロテスタントの取り込みにも成功した。プロテスタントの過半数がブッシュに票を投じた。これも2000年の時と同じである。しかし、実数としては、2000年の時よりは微減した。


 大きな変化が起こったのは「黒人プロテスタント」の動きであった。これまでは、この層には、圧倒的に民主党支持の伝統があった。黒人プロテスタントの16%がブッシュ支持に回った。これは、2000年の時の倍である。


 カトリック票を見ると、2004年、ブッシュは52%を獲得、自身がカトリック教徒のケリーは48%であった。2000年の選挙では、カトリック教徒ではない、バプテスト(Baptist)のアル・ゴア(Albert Arnold Gore, Jr)ですら、カトリック票の半分を獲得し、ブッシュが46%であったことからも、2004年には、カトリックを味方につけたこともブッシュに勝利をもたらした。1週間に1度以上教会に通うカトリック信徒の58%はブッシュに投票した。ケリーを支持したのは、ミサには行かないカトリック信徒か、年間数回だけミサに出席すると言う人たちだけであった。


 伝統的に民主党支持のスペイン系カトリック信徒の票の58%はケリーが獲得した。しかし、ブッシュは、ここでも2000年の30%から2004年には39%へと大きく得票を伸ばした。 同様に民主党の有力基盤であるユダヤ人社会にも共和党が食い込んだ。2000年、ブッシュの得票は20%であったが、2004年には、24%に上昇した。


 当然だが、もっとも劇的に変化したのは、イスラム教徒の動向であった。92%がケリーに投票し、ブッシュはわずか6%であった。2000年の選挙では、イスラム教徒の大部分がブッシュに投票していたのである。


 ブッシュ氏の宗教界取り込みが広がる中で、福音派と保守的なカトリック信徒が今後も選挙の決め手になると思われる。


 「ロナルド・レーガン大統領が始めた福音派プロテスタントの政治的動員は、この4半世紀に米国の選挙戦に起きたもっとも重要な変化である。信仰者の多くが、自分たちの要求や関心を受け止めてくれる唯一の党は共和党だと見なすようになった」と、クレムソン大学ローラ・オルソン准教授は言う。


 多くのアナリストが、民主党と宗教界の大グループとの間の溝の大きさを指摘する。


 「米国人の約40%が、毎週教会に通うことからすれば、民主党は、その人たちの関心にもっと敏感にならなければ、大統領を選出に苦労することだろう」と、カルバン大学ヘンリー研究所「政治学におけるキリスト教徒」部門でペッパーダイン大学でスティーブン・モンスマが講演した。


 テキサス大学オースティン校(ブッシュ夫人の母校)のマーク・レグネルス教授は、民主党が国政選挙に勝てる唯一の方法は、妊娠中絶や同性愛者間結婚などの社会問題で、基本路線を再考することだ、として「党員にはショックをかもしれないが路線を修正すべきだ。今回の傾向から見ると、中絶反対の民主党だったら、多くの宗教保守派、とくにカトリック信徒を取り込めただろうに、逆に民主党は彼らを噛み砕いて、吐き出し続けた」と語った。


現代米国の黙示録 06 宗教的国際政治?――米国務省の宗教報告書

2006-08-29 21:53:41 | 現代宗教
 USTR(米通商代表部)が毎春発表する『外国貿易障壁報告』(NTE)が、米国の通商政策の強力な武器であることは、つとに知られている。しかし、外交政策についても、『宗教の国際的な自由に関する年次報告書』があることは意外に知られていない。米国にとってのやっかいな国を、米国政府が威嚇する手段として、この報告書が使われているのである。この報告書は、米国務省(U.S.Department of State)によって毎年発行されている。

 最近のものは、2005年11月に出された。それは、世界197か国の宗教の自由に関する報告書である。2005年版で7回目の年次報告書になる。毎年、7月から翌年6月までを調査対象期間にしている。

2005年の報告書は、ミャンマー(報告書ではBurmaと表記されている)、中国、エリトリア、イラン、北朝鮮、サウジアラビア、スーダン、ベトナムの8か国を「特に懸念のある国」(Countries of Particular Concern)に指定して、状況の改善を強く求めている。『外国貿易障壁報告書』で指定された国には、「通商法スーパー301条」を発動して経済制裁が科されるのと同様に、『世界の宗教の自由に関する年次報告書』で「懸念のある国」に指定されると、経済を含むあらゆる政策への圧力が科されるのである。

 報告書は、北朝鮮について、弾圧が続き、事態が悪化しており、「宗教の自由は存在しない」と指摘した。対テロ戦争の同盟国であるサウジアラビアに関しても、宗教的自由の法的保障が全く存在しないと断言し、政府が公認した宗派以外のものに対する宗教警察の摘発も増えていると指摘した。

 コンドリーザ・ライス国務長官は、2004年に、法律や政策を修正して、宗教の自由を尊重することを目指す措置を取った国もあるとし、ベトナムなどは、このまま改善が進めば、近い将来指定を撤回する可能性があることを示唆した。

 サウジアラビアが「懸念のある国」に指定されたのは、2004年が最初である。これは、対イラク戦争面でサウジアラビアを特別扱いされているのではないかとの世論に配慮したものであろう。

 2004年の年次報告書も紹介しておこう。それは、2004年9月15日に発表された。

 宗教弾圧を行っている「特に懸念のある国」には、2003年に引き続いて、北朝鮮、中国、ミャンマー、イラン、スーダンの5か国が指定され、さらに、2004年にサウジアラビアとベトナム、エリトリアが新たに加えられ、指定国は計8か国となった。

 また、イラクは、2003年版では「特に懸念のある国」に指定されていたが、この年、米軍によるイラク占領が実現し、米国が事実上管理する暫定政府ができたことから、イラクには状況変化があったとして、2004年版では指定が解除された。

 さらにこの年、ラオスとキューバが、「宗教的信条、活動を統制しようとする全体主義、独裁主義」の国とされた。

サウジアラビアは、米国にとって、対テロ戦の遂行上も重要な中東の主要同盟国ではある。しかし、政府が認めたイスラム教の宗派しか宗教活動ができないうえ、モスクでは、政府に雇われているイスラム教指導者たちがユダヤ教やキリスト教を攻撃していると、報告では非難された。ただし、石油利益のためにサウジアラビアを大目に見ているという批判を回避する狙いがあって「懸念のある国」に指定されたのであるが、実際には、なんらの制裁も科されていない。

 ベトナムについては、政府が宗教活動を管理し、一部のキリスト者や仏教徒の活動を厳しく取り締まっていると指摘された。

 気功集団「法輪功」や新疆ウイグル地区のイスラム教に対する中国の強圧政策も批判されている。北朝鮮については、報告書は「キリスト者が投獄、拷問され、生物兵器の実験の対象にもなっている」とする脱北した人権活動家の証言を掲載した。しかし、そうした証言の信憑性を裏付ける根拠は、明示されなかった。

 米国には、宗教担当大臣がいる。2004年当時の担当大臣は、ジョン・ハンフォードであった。彼は、年次報告書発表の記者会見で、「世界では、宗教的理由で投獄されている人がもっとも多い」と批判した

この年次報告書は、1998年の「国際的宗教自由法」に基づき、国務省が作成するもので、1999年から刊行されている。

 しかし、ここで注意されなければならないのは、「宗教の自由」とは、宗教全般を云々したものではないということである。事実上は、キリスト教徒とユダヤ教徒に限定されている。彼らが自由に自らの信仰を保持し、伝道する自由をもって「宗教の自由」と言うのである。キリスト教徒とユダヤ教徒たちが、どれほど非キリスト教徒、非ユダヤ教徒たちを弾圧しても、そうした行為に対して、米国の「国際的宗教自由法」は発動されないのである。

 そして、2005年8月19日、子ブッシュ米大統領は、北朝鮮の人権問題を担当する特使にジェイ・レフコウィッツ元大統領副補佐官を起用すると発表した。同氏は熱心なキリスト教保守派として知られ、ジュネーブの国連人権委員会の米代表団メンバーも務めてきた。今後、人権問題や宗教の自由の改善を北朝鮮に求めて行くという。

 見られるように、ブッシュ大統領の外交政策、とくに、彼の言う「ならず者国家」に対する外交は、米国流キリスト教の伝道の自由を要求することを大きな梃子にしているのである。

現代米国の黙示録 05 聖地イスラエルと『レフトビハインド』

2006-08-24 00:38:10 | 現代宗教

 小説は、神が起こす奇蹟を多用する。『レフトビハインド』第2巻の『トリビュレーション・フォーズ』では、「嘆きの壁」でイエス・キリストを認めよと説く2人の証言者が起こす奇蹟を書く。証言者たちは、ヘブライ人にはヘブライ語で聞こえるように、米国人には英語で聞こえるように、スペイン人にはスペイン語で聞こえるように説教した。

  これら証言者たちに、自動操縦をもった1人の若者が襲いかかる。そこでは、イスラム教徒への剥き出しの憎悪が記される。

  「金のネックレス、もじゃもじゃの黒い髪と髭。凶悪なその両目をかっと見開くと、男は空に向かって2、3度、発砲した」。

 

  男は、まっすぐに説教者たちに向かって進み、自らをアッラーの使者だとわめいた。

 

 発砲しているのに、2人の証言者は玉が当たらず、身じろぎもしなかった。接近したとき、男は透明の壁に跳ね返されたように、体が跳ね返り、頭がつぶれた。説教者(証言者)の1人が口から火の柱を吹いた。男は瞬時に黒こげの骸骨になってしまった。銃は熔け、金のネックレスもしずくになった。

 

  イスラムへの憎悪は、ユダヤの伝説の中にもあると小説は紹介する。世の終わりのとき、メシアとエリヤがユダヤの民を、東の門から神殿に導き、ユダヤの民に勝利を与えるという伝説がある。しかし、司祭であるエリヤは墓地を通れば汚れて神通力を失う。それを知ったイスラム教徒たちが、エリヤの進路に墓地を作ったと高名なラビに語らせている。

 

  カルパチアは、ユダヤ教の最高権威者のシオンというラビにカルパチアがメシアであると証言させたく、自らが完全に掌握した全メディアの前で語らせた。

 

  しかし、ラビのシオンはカルパチアが単なる政治的指導者であって、メシアではないと証言してしまった。ただし、その証言は、イスラエルの地がなによりも増して尊い聖地であることを熱っぽく語った。

 

  シオンによれば、アダムの罪深い種を受け継ぐ男子の種によって生まれるのではなく、男子の種によらない処女からしか、メシアは生まれない。メシアを生む処女は、しかし、イスラエルの父祖の血を受け継ぐものでなくてはならない。預言者ミカがユダヤ人の中でもベツレヘムのエフラテ族からからしかメシアは生まれないと言ったことをシオンは強調した。

 

  シオンは解説する。イザヤ書第9章第1、2節で、メシアが主としてガリラヤで宣教するが、「彼はさげずまれ、のけ者にされ、悲しみの人である」とした。詩編では、メシアが裏切られ、ゼカリヤは、メシアが銀30枚で売られると預言した。そして、シオンは言う。メシアこそイエス・キリストである。そして、イエスが7年後に再臨されるが、それまでは苦しみの日々が続くとの言葉でシオンはテレビでの演説を終えた。それは、カルパチアへの明確な反抗声明であった。

 

  ブルース・バーンズという牧師が最初にカルパチアを偽物だと見破った。シオンが世界統一教会を創設したカルパチアと全面的に対決することになった。嘆きの壁の2人の証言もシオンと行動を供にすることになった。彼らの説教を聴きに来る群衆が日を追って激増した。

 

  このような、シナリオによるこの小説は、メガ・チャーチの自己宣伝の書である。つまり、世界政府、世界宗教を樹立するという輩はキリストの敵である。彼らとの闘いで宗教の側から立ち上がっているのが、メガ・チャーチである。しかし、メガ・チャーチはユダヤ教を敵に回すのではなく、その良心分子を見方に惹き付けることに心がけている。なぜなら、イスラエルはメシアを生んだ聖地だからである。イスラエルを攻撃する国た人は反キリストであって、正義を叩きつぶす悪魔たちでえあるということになる。メガ・チャーチが周到に練った人民の心を収奪するシナリオがこの小説である。

 

  カルパチアの操り人形であることに憤った米国大統領が、米軍に命令してワシントンにいるカルパチアの宿泊しているホテルを攻撃させた。世界政府軍は即座に反撃してワシントンを壊滅させた。第2巻段階ではカルパチアの消息は不明。英国とエジプトが米国に同調した。世界政府軍は、英国とエジプトに報復攻撃した。こうして、赤い馬が登場することになった。戦士、牧師ブルースがこの戦争で死んだ。


現代米国の黙示録 04 白い馬と『レフトビハインド』 2 

2006-08-23 00:13:34 | 現代宗教

 「ヨハネ黙示録」第6章第8節「私は見た。見よ。青ざめた馬であった。これに乗っている者の名は死といい、その後にはハディスが付き従った。彼らに、地上の4分の1を、剣と飢饉と死病と地上の獣によって、殺す権威が与えられた」とある。青ざめた馬に乗っている者は、黙示録にある4つの馬上の者のうちの最後に出てくる死のことである。これを荒唐無稽なものでなく、聖書の預言に従って歴史は進行しているとの立場から書かれた小説『レフトビハンド』が全米で650万部を超す第ベストセラーになり、しかも、この小説の仕掛け人がメガ・チャーチの現役の司祭であるという点に、現在の米国人のもつ特異なナショナリズム(=正義を世界に伝導し、実現させる自由米国の義務感)の構造が如実に現されている。

 

  小説では、改心した牧師に「艱難時代」(トリビュレーション)の到来を語らせている。

 

  「7年の艱難時代はすでに始まっている。・・・この7年の間に、神は3つの審判を下されます。それは、封印の審判と呼ばれる巻物の7つの封印、7つのラッパ、7つの鉢のことです。・・・巻物が開かれ、封印が解かれると、審判が明らかになります。・・・最初の4つは、黙示録の4人の馬に乗った者によって現されます。・・・皆さんの中で、まだ聖書の預言の教えがただの象徴だと考える人はいますか」。

 

最初に来るのは、白い馬に乗ったものである。ヨハネ黙示録第6章第1・2節は言う。

 

「また、私は見た。小羊が7つの封印の1つを解いたとき、4つの生き物のうちの1つが、雷のような声で『来なさい』というのを私は見た。見よ。白い馬であった。それに乗っている者は弓をもっていた。彼は冠を与えられ、勝利の上にさらに勝利を得ようとして出て行った」。

 

 「艱難時代」を生き抜くには、こうした聖書の預言を聞けというのが、この小説のメッセージである。そこには、じつに注意深く米国人の正義が盛り込まれている。 牧師は言う。「白い馬に乗っている者は反キリストで、平和を約束し、世界を統一する詐欺師として世に姿を現します。旧約聖書のダニエル書第9章第24節から27節には、彼がイスラエルとの条約に署名すると記されています。彼は、初めはイスラエルの友人にして守護者として現れます。しかし最後には、征服者、破壊者になります」。 

 

  小説は、そのイスラエルのことを、ユダヤ教徒で改心した一人のラビにイスラエルの神殿のことについて語らせる。ダビデが神のために神殿を建てようとしたが、あまりにも血で汚れたダビデにそれを許さず、ソロモンの手でエルサレムの地に建てさせた。それは壮大な神殿であった。人々は神殿があるかぎりエルサレムは難攻不落であると信じていた。しかし、この神殿は、ネブカデネザル王によって破壊された。その70年後に再建されたがみすぼらしいものであった。その神殿は、ヘロデ大王によって建て替えられた。これはヘロデ神殿として知られるようになっていた。その後、ローマの将軍ティトスがエルサレムを包囲した。ユダヤ人たちは、異教徒の手に渡るよりは自分たちで壊した方がいいとして、ヘロデ神殿は破壊された。ところが、この神殿があった山はイスラムによって占領され、岩のドームという彼らの寺院になってしまっている。この神殿の復活こそがユダヤ人の夢であったと。

 

   最大の悪魔=反キリストのカルパチアが、イスラエルと7年期限の平和条約に調印した。カルパチアは国連を「グローバル・コミュニティ」(世界共同体)に変え、世界の武器の10%を独占し、世界の金融機関とメディアを掌握し、事実上の世界政府の総統になっていた。イスラエルのミラクル肥料の管理権を彼はイスラエル政府から得た。イスラエルとの和平を条件として、その魔法の肥料を各国に与えた。さらに彼は世界統一宗教の樹立に成功した。自らをメシアとして世界の宗教に君臨するようになった。その上で、イスラエルに岩のドーム寺院を撤去してイスラエルの神殿建設に協力するとまで言い切ったのである。米国大統領ですら、カルパチアを世界政府の指導者として宣言させられてしまった。

 

 しかし、先ず国家元首として米国大統領がカルパチアの偽物性に気づいた。それを察知したカルパチアは米国の主要都市を攻撃した。ここに、第三次世界大戦が始まった。2番目の赤い馬に乗った戦争がやってきたのである。そして、米国の正義が執拗に語られる。イラクに設立されたニュー・バビロン(世界政府の首都)が米国民にとっての主要な敵になる。この小説が政治的な1つの方向性を新しい宗教意識の高揚によって占めそうとしていることはあまりにも明らかである。しかも、荒唐無稽な形で。にもかかわらず、この小説が多くの米国人に受け入れられた。


現代米国の黙示録 03 白馬と『レフトビハインド』 1

2006-08-22 03:05:25 | 現代宗教

 白馬に乗る反キリストのニコライ・カルパチアは、世界最大の金融業者の主導者(ロックフェラーロスチャイルド)の力を背景に、ルーマニアの下院議員からいきなりルーマニア大統領になった。前任者は大統領職を辞任した。そして瞬く間に国連事務総長の地位も手に入れた。カルパチアは権力の座を上り詰めた。

 

 権力を手に入れた「反キリスト」(アンチ・キリスト)のカルパチアは、世界を単一通貨使用国に仕立て挙げることに成功する。

 

 各国の武器の90%を廃棄させ、残りの10%の武器を国連に集め、国連の本部をバビロンに移したカルパチアは、イスラエルと7年間の平和協定の締結、イタリアに世界統一宗教を設立させた。バビロンは、金融王からの膨大な融資で都市開発が行われ、それをニューバビロンと称した。国連事務総長就任演説で、カルパチアは世界共通言語、そして世界統一政府の建設を宣言した。

 

 そして、カルパチアは、国連事務総長としての披露の席で、恩人の金融王を多くの人が見ている前で射殺した。その上で、臨席者たちの記憶を改造して、世界の金融王者が自殺したと思いこませることに成功した。居合わせた人のうち、世界的ジャーナリストのキャメロンだけは、神に祈っていたので、そうした催眠術にはかからなかった。このことが、キャメロンをしてカルパチアとの闘争を決心させる。

 

 いずれにせよ、カルパチアは、国連事務総長になり、イスラエルの神殿建設を支援し、ミラクル肥料の開発者の斡旋もあっって、イスラエルのミラクル肥料を自由に利用できる権利を得た。そうしたカルパチアにとって、金融王は邪魔になったのである。しかも、金融王の遺産相続者は、カルパチアだけであった。こうして、彼は、世界の金融も支配することに成功する。彼は、現代の救世主として世界中の人々から称賛を受けるようになる。携挙があって、わずか1か月後である。まさに、聖書の予言通りであった。、「反キリスト」、「大ペテン師」だと喝破したのが、ニュー・ホープ・ビレッジ教会のブルース・バーンズ牧師であった。携挙を自ら操縦する飛行機の中で目の当たりに見、妻と息子を携挙された機長のレイフォードと、その娘、クローイ、そして、ジャーナリストのキャロルが「反キリストへの戦い=大艱難に抗する戦士」(トリビュレーション・フォース)に立ち上がることを約束する。キャロルは、イスラエルを攻撃したロシアの戦闘機が一瞬のうちに炎上した事件の目撃者でもある。

 

 ちなみに、私は予言と預言との違いを知っているつもりである。しかし、私はあえて予言という表現を使いたい。理由は分かっていただけると思う。

 

 1巻から、『レフトビハインド』は機長のレイフォードが、妻がありながら、スチュワーデスのハティーに思いを寄せていたことを心から恥じる懺悔の言葉がじつに執拗に出される。後に、ハティーは、カルパチアの秘書となり、彼の子を孕む。そして、ハティーもまた、悪魔の子を産んでしまう恐怖心にさいなまれる。男女関係の倫理性を強調するメガ・チャーチの最大の主張が語られている。

 

 本書は、40冊を超える著作のあるラヘイが、初めての小説を書くべく、聖書の予言をちりばめた50頁程度に凝縮されたアイデアを提供して、ジェンキンズに書かせたものである。ジェンキンズは、ムーディ聖書学院から出される出版物の編集に携わっていた。ハンク・アーロンやノーラン・ライアンなどの有名スポーツ選手の人物伝を書いた経験のある人である。

 

 訳者の上野五男によると、処刑された後、三日目に蘇り、天に昇ったイエス・キリストが、クリスチャンを救うために、再び地上に降りてくることを再臨という。この再臨には三種の解釈があり、「大艱難時代」(トリビュレーション)の後に再臨して以後、千年の平和がくるという「千年期前再臨」(プリ・ミレニアリズム)、千年期の後に再臨があるという「千年期後再臨」(ポスト・ミレニアリズム)、イエスが誕生して再臨するまでの長い年月を象徴的に千年期というだけであるとする「無千年期再臨」(ア・ミレニアリズム)の三説がそれである。「千年期」という言葉は「ヨハネ黙示録」第20章に見られる。この小説は「千年前再臨」説を採用している。