消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(92) 新しい金融秩序への期待(92) 世界金融危機の構造(1)

2009-02-23 23:06:57 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


管理できなくなった危機──金融構造の推移


   本山美彦 大阪産業大学に勤めております本山美彦です。大阪産業大学は、大東市にありまして、昔は河内湖という大きな湖だったところです。その名残りの深野池(ふこのいけ)という池は、非常に大きな湖のような池でした。ルイス・フロイスの「日本史」によると、この池の周辺に、戦国時代はクリスチャンが多くて、四〇〇〇人ほどいたそうです。日本では一番クリスチャンの多いところでした。それが戦国時代にクリスチャンが虐殺されて一掃されました。湖のほとりに角堂(すみどう)という教会が立っていて、クリスチャンが一掃された後には、住道(すみのどう)という名前に変わり、それが地名になりました。

 そして、この地が大干拓地になりました。鴻池新田とか平野屋新田がそれです。そうした歴史的な場に大学が位置しております。


希望のない若者たち


  大学に身を置く私は、いま、辛い思いをしております。希望のない若者たちの顔が引きつっているからです。彼らの悩み、つらさは、就職先のなさからきています。

 
就職が決まっても、三年間はパート、非常勤社員の地位に苦しみます。今新聞紙上をにぎわしておりますように、内定取り消しが続出しています。これは、我々大人の責任であります。そういう若者たちの希望のない人生を我々が与えてしまっている。なんとかせねばと痛切に思います。今後、世界中で、まず貧しさからくる暴動というのが起こるでしょうし、我が日本も例外ではないでしょう。近い将来、私たち大人は、若者たちから、あなた方は何をしたのかと、突き上げられるだろうと思います。これから皆さんも交えてどうしたらいいのかを考えたいと思っています。

 今こその世の中ががらっと変わっていく、いい方向に進むチャンスだろうと思います。いたずらに恐怖心におののくのではなくて、時代がどういう方向に動こうとしているのかを見定めるのが、我々大人の務めであろうと思っています。



   プラトンは、一つの共同体の中で所得格差が八倍あれば、共同体はつぶれる、と言いました。六〇年代、七〇年代の高度成長ごろには、社長と平社員の給料差はせいぜいその程度だった。ドラッカーは、二〇倍ぐらいが限度だろうと言いました。今は天文学的な格差です。ボーナスだけで何億円も貰う人がいる、他方で、年収二〇〇万以下という非正規社員たちがいます。比較するだけでも嫌になります。この数値一つ見ても、、現在は、システムとして維持できないというように私は思っております。金融危機の真の原因はこの非人間的な所得格差、金融資産格差にあります。

  「シッコ(Sicko)」という医療保険の映画をつくったマイケル・ムーアは、自分のブログで、アメリカのトップ四〇〇人の持っている資産が、アメリカ人のビリから数えて一億五〇〇〇万人の資産に匹敵するのだ、ということを紹介しています。金融自由化を野放図にやり過ぎて、お金を扱うことにたけた連中たちと、物をつくっていく技術を磨くのに必死になっている連中との間には、物すごい格差ができてしまったのです。この格差の累積は、必ず大きな不満を生み出します。一緒に机を並べて仕事をしている隣の人が自分の一〇〇倍もの給料もらっていることを知れば、私などは、それだけで生きるのが嫌になります。世の中はそういうものなのだろうと私は思っています。

   今是正すべきことはこの格差です。昔は会社の経営者は、「従業員の首を切らない」というのが誇りでした。どんなにつらいことがあっても従業員の首は切らないという倫理観が経営者にはありました。それがいつの間にか、リストラというカタカナ言葉が当然視されるようになり、従業員の首を経営者は平気で切るようになりました

  従業員を、資本ではなくてコストとして位置づけ、次々にその首を切っていくというのが決断力のある経営者という風に受け取られるようになってしまいました。そして、人を縮少させて企業の効率性を高めていくという風潮が一般化して、派遣労働が急速に拡大してきました。これが本当に歴史の進歩といえるのでしょうか。

   金融を問題にするときに、常に底辺で生きている人間にとって現在の金融システムがプラスに働いているのかという疑問をを失ってはだめだと私は思うのであります。


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1 コメント

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Unknown (三毛猫)
2009-03-11 23:00:19
>就職が決まっても、三年間はパート、非常勤社員の地位に苦しみます。
私が大学を卒業した頃(今から約25年前)は、
就職=正社員という構図が常識でした。当時は
「一億総中流」が喧伝され、今日の「格差社会」が到来するとは予見出来ませんでした。
2年程前の「世界銀行」のデータによれば、日本
のジニ係数の低さは、デンマークに次いで2位だそうです。またまた、ご冗談を。世界銀行もIMFのデータも日本に関して信用出来ないと思いました。
特に、小泉内閣が発足してから、日本では「格差社会」が拡大したように認識していますが、
かつて所得税の累進課税率が最高70%くらいから今は40%です。高額所得者の累進課税減額と
反して、消費税が導入され3%から5%になり、また増税するようです。
竹中平蔵慶大教授は確か「人頭税」を唱えておられたと思います。
2005年911の衆議院選挙は、郵政を民営化するか否かを問う選挙で、自民公明は圧勝しましたが、確か、景気回復させるには、郵政を民営化するべしというのが小泉元総理と竹中元大臣
の「主張」なのでしたが、郵政が民営であろうと国営であろうと景気循環とは因果関係がない
と思って私は反対票に投票しましたが、小泉元
総理も竹中平蔵慶大教授も、当時自民党を支持
した有権者も郵政を民営化すれば、景気が回復
すると思っていたのでしょうか?冗談ですよね?
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