(19) ランズバンキ銀行はアイスランド第二位の銀行であった。〇八年一〇月七日の国有化と同時に、アイスランド政府は、同行系列のネット銀行アイスセーブ(Icesave)の口座を凍結。アイスセーブには三〇万人の英国民が四〇億ポンドを預金していた。英国のブラウン首相は「アイスランド政府はアイスランド国民だけでなく、英国までも裏切った」と発言し、翌八日、英国民の預金保護を目的として反テロ法を引き合いに出し、ランズバンキ銀行を含む英国内のアイスランド系銀行全ての資産を凍結した。金融危機後アイスランドはロシアに資金提供を求め急接近しており、英国の迅速な対応は、ロシアを嫌悪する英国の思惑もあるとされる。
アイスランドは〇八年一一月一六日、EUの一部加盟国と、これら諸国の預金者がアイスランドの銀行の凍結口座に保有する預金の返還方法で合意した、と明らかにした。これを受け、滞っていたアイスランドへの数十億ドル規模の資金援助が動き出した。EU非加盟のアイスランドと、加盟国の英国とオランダとの凍結口座をめぐるあつれきにより、アイスランドへのIMF主導の最大六〇億ドルの資金援助は遅延していた。アイスランド政府は声明で「合意したガイドラインに従い、アイスランド政府は欧州経済地域(EEA)法に準拠し、アイスセーブ口座の被保険預金者の預金を保証する」とし、今後の協議はこの「共通の理解」に基づく、と述べた。アイスランドの政府報道官によると、EEA法は、リテール、およびホールセール預金者ともに一口座につき約二万ユーロの支払いを受ける権利を有すると規定している(http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-34937720081116)。
(20) カウプシング銀行は、アイスランドで最大の銀行であり、一時、時価総額は北欧で七番目の規模を誇っていた。国外においてもノルウェーなどの北欧諸国や米、スイス、ベネルクス三国など一三か国で業務を展開していた。〇七年末時点での総資産は、五八〇億三〇〇〇万ユーロであった。〇八年一〇月九日に国有化されたのに、同月一〇月二七日、国有化された銀行としては珍しく債務不履行に陥った。不履行した債券はいわゆるサムライ債(円建て債券)で、金融危機以降、円キャリートレードの巻き戻しによりアイスランド・クローナは日本円に対しては約五〇%下落していた。アイスランドの中央銀行が債務の肩代わりをしなかったのは、クローナ安で膨れ上がった債務支払いに十分な外貨を保有していなかったためだとされる(ウィキペディアより)。
世界的金融危機の直撃を受け国家破綻寸前とされるアイスランドのグリムソン(Ólafur Ragnar Grímsson)大統領は、〇八年一一月一三日、カウプシング銀行が発行し債務不履行となったサムライ債について、償還は容易でないとの見方を示した。また、行き詰まった金融立国路線に代え、豊富なクリーンエネルギーなどの資源を活用し経済再建を目指す考えを表明した。大統領はアイスランド国内で銀行の株式や債券への投資は保護されなかったことを指摘し、「(日本の債権者は)アイスランド国民が多大な損失を被ったことを理解することが重要」と述べた。カウプシング銀行は〇六年一〇月、五〇〇億円のサムライ債を発行したが、〇八年一〇月末の期限内に利払いせず、事実上の債務不履行となった。〇七年にも三回、計二八〇億円分を発行していた(http://www.47news.jp/CN/200811/CN2008111401000650.html)。
(21) モノラインではサブプライムローン関連が含まれる資産担保証券(ABS)を再証券化した商品ABSCDOのスーパーシニア(最上級格付け)部分に対し、証券会社や銀行を相手に、CDSを使って多くの保証をおこなった。だが、ABSCDOの格下げに伴い、保証しているモノラインの財務にも不安が高まったとして、格付け会社がモノライン自身の格下げを実施した。確実な金融保証をおこなうために、モノラインの経営はトリプルA格付けの維持が前提とされている。格下げとなれば、保証をより確実にするために担保を差し出す必要が生じる。その事態が大量に発生し、モノライン危機が高まった。また、AIGは、子会社のAIGFP(AIG Financial Producs)がモノラインと同じ業務をおこなっていた。〇八年六月末の開示資料では、その想定元本額が四四一〇億ドルと巨額に達していて、ポジションがあまりにも売りに偏りすぎていた。AIGに対する政府融資枠の設定で救われた背景には、CDS市場における存在感の大きさも多分にあったといえるだろう(「AIGを押し潰した”CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)”のカラクリ」〇八年一〇月九日;(http://www.toyokeizai.net/business/international/detail/AC/9d9bb1f676f7e62135444e3f6f6f9dbb/)。
(22) SPV(Special Purpose Vehicle)とは、匿名組合や特定目的会社等のように自らは利益獲得などの目的を有することなく、単に投資家からの資金調達や資産の小口化のための道具立てあるいは器として設立される事業体の総称である。SPVのうち、法人格を有するものはとくにSPC (Special Purpose Company=特別目的会社)とも呼ばれる(http://zai-k.com/2006/01/post_94.html)。そして、SPCとは、金融機関や事業会社が債権や不動産など保有する資産を本体から切り離し、有価証券を発行して資金を調達するために設立するペーパーカンパニーのこと。その多くはケイマンやバミューダなど税制上の優遇措置のある地域で設立されている。特定目的会社とも呼ばれる。SPCは、たとえば、企業等が所有している資産を担保に債券を発行して資金調達する場合などに利用される場合がある。具体的には、資金調達しようとする企業などが担保資産をSPCに一旦譲渡することで、資産を企業から分離し、企業等の倒産リスクから隔離するための役割を担う。金融機関にとっては保有資産を圧縮し、財務体質を強化できるメリットがある。日本では、一九八八年に施行されたSPC法によって、設立が可能となった。二〇〇〇年に証券化できる対象資産を広げる法改正がされ、現在は通常の不動産や企業の売掛債権のほか、ノンリコースローン(返済原資を担保資産に限定する借り入れ)などにも幅広く活用されている(http://m-words.jp/w/SPC.html)。
(23) たとえば、ある格付け会社が、Cypherという会社が発行したシンセティックCDOについて、次のように表現している。「Cypher はシリーズ一〇債券(以下「本債券」)を発行し、投資家より支払われた債券の発行代わり金等で日本国債を購入する」( http://www.jcr.co.jp/release/pdf/06d511.pdf?PHPSESSID=99a38d664bb8b207c92758e7ae208915)。