消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

現代米国の黙示録 08 パット・ロバートソン

2006-08-31 19:32:46 | 現代宗教

 2004年の大統領選では、米国の白人の福音主義者たちの78%がブッシュに投票した。再選された子ブッシュ大統領は2005年2月2日に「一般教書演説」を行い、翌、3日に「朝食祈祷会」を開いたが、「一般教書演説」の草稿を書いたのは、マイケル・ガーソンという当時40歳の福音主義者であった。翌日の朝食祈祷会の主催者も、同じく、福音主義者のダグラス・コーであった。彼は、当時、76歳であり、「フェローシップ・ファンデーション」の総裁である。

 

  『タイム』(2005年2月7日号)は、初めて、もっとも影響力のある米国の福音主義の指導者25人を選んだ。上記2人はその中に含まれていた。『レフトビハインド』の著者、ティム・ラヘイも選ばれた。同誌が初めてこのような特集を組んだのは、子ブッシュの再選に福音主義派教会、とくにメガ・チャーチが大きく貢献したと見なしたからである。同誌の表紙は、25人の顔と十字架が描かれていた。そして、「ブッシュが彼らから受けた恩恵はなにか?」、「民主党に必要なものはより多くの宗教ではないのか?」という見出しが付けられた。

 

  その他、選ばれた25人の中には、大物の伝道者、ビリー・グラハムとその息子のフランクリン・グラハム、ワシントンに本拠を置く保守系シンクタンク「宗教と自由研究所」の所長、ダイアン・ニッパーなどが含まれていた。

 

  しかし、大物のパット・ロバートソンジェリー・フォルウェルの2人が選に漏れた。 2004年時点で、代表的な福音主義者を選ぼうとすれば、パット・ロバートソンを外すことはできなかったはずである。彼は、1988年の共和党大統領予備選に出馬した経験があり、2004年の子ブッシュ大統領再選に大きく貢献した人である。彼は、全米で数百万人の会員を抱える「クリスチャン連合」の創設者でもあり、さらに、国民的人気のあるケーブル・テレビ(クリスチャン放送網=CBN)を運営し、自らも宗教番組、「700クラブ」に出演して、福音主義の拡大の原動力になっている人でもある。

 

  『タイム』の副編集長、スティーブ・コープは、彼を外したことについて、すでに地位を築いた人よりも、これから影響力を増すような新人を選んだと弁明した。確かに彼は、当時75歳であったが、選ばれた人の中には、彼よりも年長者が結構いたので、年齢は理由にならない。むしろ、ロバートソンの、かずかずの、あまりにも過激な米国・イスラエル擁護発言のせいであろうと思われる。

 

  最近では、血栓症などで2005年1月4日に入院したイスラエルのアリエル・シャロン首相を評して、ロバートソンは、自らの番組で、聖書の「ヨエル書」を引用して「イスラエルがガザ地区の入植地を撤退したことに神の罰が下ったのだろう」と発言した。 これには、米国民はもとより、イスラエル政府も直ちに不快感を表明した。

 

  ロバートソンは、ガリラヤ湖畔に「クリスチャン・テーマ・パーク」の建設を願っていた。イスラエル政府も、協力を申し入れていたのに、ロバートソンの発言に抗議する意図を込めて、支援の打ち切りと協力の撤回を決めた。

 

  いずれにせよ、福音主義者たちが、ことイスラエルに関するかぎり、一切の批判を許さないという姿勢を堅持していることは確かである。そして、彼らの支持が子ブッシュの背骨になっているのである。

 

  このロバートソンは、「進化論」を支持する人たちを非難したことがある。これまで米国では、進化論支持者と、旧約聖書創世記にあるように神が天地を創造されたとする天地創造説支持者の対立が続いてきた。

 

 米国民の過半数が「創造説」を信じていると言われる米国では、公立学校で「創造説」を教えることの是非が問われてきたが、憲法には政教分離原則が盛り込まれており、1987年に最高裁が「聖書の創世記を授業で教えることは、政教分離に反する」との判断を示して以来、公立学校で「生命は神が作った」とは教えられない。同時に、公然と「進化論」を教えることにも抵抗があり、生命誕生問題は、公教育の現場ではタブーとなっている。

 

  しかし、「創造説」へのこだわりは大きく、最近では、生命の誕生にはなんらかの知的計画が関与したとする「インテリジェント・デザイン」(知的計画)を授業で教えようとする動きが米国に出てきた。


 ダーウィンの「進化論」では生命誕生のなぞに答えられない、「時間をかけたからといって、複雑な生物は生まれ得ない」、「より高度な『力』が、生物を創造した」など、生物が誕生して固有の形をもつようになった背景には、なんらかの知的計画があると主張するのが、「インテリジェント・デザイン説」である。


 この説は、「神」や「創世記」といった言葉を用いてはいないものの、「創造説」の1つであることは間違いない。進化論支持派は、「インテリジェント・デザイン」について天地創造説の「神」を「知的計画」に置き換えただけだと批判している


 2005年11月8日、東部ペンシルベニア州と中部カンザス州でこの問題に関して、対照的な、異なる2つのできごとがあった。

 

 ペンシルベニア州南部のドーバー市では、教育委員会の選挙で「インテリジェント・デザイン」を支持する8人が落選した。2004年、この町で、生物の授業において、「進化論には『穴』があり、インテリジェント・デザイン説は穴を埋める理論の1つだ」とする文書を教師が読み上げることを教育委員会が決めた。しかし、これは、政教分離の原則に反するとして法廷論争が続いていた。

 

  一方、カンザス州の教育委員会は、同じく8日、公立学校を対象とした「生命誕生をめぐる科学的な論争」を教えるとするカリキュラム改訂案を賛成6、反対4で可決した。直接言及していないが、授業で進化論だけでなく「インテリジェント・デザイン説」も合わせて教えようとしたものである。「創造説」を授業に取り入れるかどうかは、各学校の判断に委ねられるが、福音主義者の圧力があったことは確かである。  ドーバーで、「創造説」的な「インテリジェント・デザイン説を」支持する人たちが教育委員会選挙に8人も落ちたことをロバートソンは激怒し、10日には、ドーバー市が「神」を拒絶したと批判し、「神が怒りを下すだろう」と語ったとロイターが伝えた(2005年11月11日)。


 ロバートソンは1998年には、フロリダ州オーランド市が同性愛者団体の活動を許可したことを批判し、同市にハリケーンや地震、テロ攻撃などの災害が発生するであろうと警告した。

 

  彼は、2005年8月22日にも物議を醸す発言をした。米国との対立が深刻化しているベネズエラのチャベス大統領を暗殺すべきだとまで言ってしまったのである。

 

  同氏は自分の番組「700クラブ」で、チャベス大統領「共産主義とイスラム原理主義を米大陸に広めている」と批判した上で、チャベスが繰り返し言及してきた「米国によるチャベス暗殺計画」に触れ、「もしそれが本当なら、我々は暗殺を実行すべきだ」、「独裁者を始末するのに(イラクのように)2000億ドル(約22兆円)も使って戦争をやる必要はない。秘密工作員に仕事をやってもらう方がずっと楽だ」、暗殺には情報機関の数人の活動で十分と述べたのである。

 

  ベネズエラのランヘル副大統領は、翌、23日の会見で「米国は対テロ戦争を説く一方、このような影響力のある人物にテロリスト的発言を許している」、「この発言は明らかな犯罪だ」と米国に対処を求めた。

 

  これに対しマコーマック米国務省報道官は同日、「不適切な発言だが、米政府の政策ではない」と、ローバートソンの発言を単なる一市民のものにすぎないと強調した。

 

  ロバートソンの発言は、予想以上に波紋を広げ、24日、ロバートソンは記者会見で謝罪した。しかし、謝罪はしたものの、イラクのフセイン元大統領やヒトラーを引き合いに出し、「無実の傍観者の群れに車が突っ込もうとしているとき、ただ惨劇を待つことはできない。ドライバーからハンドルを奪い取らねばならない」と、比喩的にチャベス大統領を改めて批判した。

 

  南米最大の産油国ベネズエラは、米国にとって原油の主要な輸入国だが、チャベスは南米でもっとも目立つ反米主義者で、米州自由貿易構想をはじめ、イラク戦争のほか、米国の政策にことごとく反発してきた。ロバートソンの発言は、チャベス政権に対する米国内の保守派の苛立ちを示したものであろう。

 

  パット・ロバートソンは、過激な発言のゆえに、『タイム』では選ばれなかったが、福音派拡張の大きな力であったという事実は否めない。


現代米国の黙示録 07 宗教を取り込むことに成功した子ブッシュ

2006-08-30 23:23:08 | 現代宗教

 米国の「福音派キリスト者」は、イスラム過激派集団「ハマス」の指導者アハメド・ヤシンをイスラエルが殺害したことを、イスラエル人自身より強く支持していることが、世論調査で明らかになった。

 ヤシンは、イスラエル人側に死者375人、負傷者約2100人を出させたテロ攻撃を425回にわたって指揮したとされている。


 調査は福音派の「キリスト者とユダヤ人国際フェローシップ」によって、2004年3月22、23の両日、福音主義者を対象に、インターネットを通じて行われたものである。回答者1630人のうち、89%の1457人が、ヤシンを殺すというイスラエルの決定を支持した。反対は41人(2.5%)、「どちらとも言えない」が132人(8.1一%)であった。

 

  一方、イスラエル人側への調査は、イスラエル紙『マアリヴ』が行った。その結果は、ヤシン殺害支持が61%、反対が21%であった。結果は、両者ともに2004年3月23日に発表された。


 EP通信によると、こうした雰囲気を敏感に察知した子ブッシュ大統領は、「全世界反ユダヤ主義認識法」に署名した。この法案は、米議会ではただ1人ホロコーストの経験者、民主党のトム・ラントス議員が提出していたものである。この法律は、国務省が特別コミッショナーを任命して、世界中で反ユダヤ主義の動向を調査させ、年次報告を行うというものである。


 2004年の大統領選挙ではっきりしたのは、キリスト教の取り込み、とくに福音主義者を取り込めた子ブッシュが、米大統領に再選されたということである。主要な宗教グループのほとんどが共和党を支持した。それまでは民主党の強力な支持層だった黒人プロテスタントにまで共和党は食い込んだ。


 PBSテレビの「週刊・宗教と倫理ニュース」番組が行った出口調査によると、教会に通う人ほど、ブッシュに投票し、無宗教の人はほとんどがジョン・ケリーに投票した。これは前回2000年の選挙でも示されていた傾向である。


 「宗教ギャップが一層明確になった。これは今後数年間の米政治の特色になろう」と、アクロン大学のジョン・C・グリーン教授が同番組で語った。2004年の選挙でのブッシュの勝利は、福音派とカトリック信徒を中心にした広範な「宗教連合」の支持を取り付けたことにある。


 さらにブッシュは、福音派だけでなく、主流プロテスタントの取り込みにも成功した。プロテスタントの過半数がブッシュに票を投じた。これも2000年の時と同じである。しかし、実数としては、2000年の時よりは微減した。


 大きな変化が起こったのは「黒人プロテスタント」の動きであった。これまでは、この層には、圧倒的に民主党支持の伝統があった。黒人プロテスタントの16%がブッシュ支持に回った。これは、2000年の時の倍である。


 カトリック票を見ると、2004年、ブッシュは52%を獲得、自身がカトリック教徒のケリーは48%であった。2000年の選挙では、カトリック教徒ではない、バプテスト(Baptist)のアル・ゴア(Albert Arnold Gore, Jr)ですら、カトリック票の半分を獲得し、ブッシュが46%であったことからも、2004年には、カトリックを味方につけたこともブッシュに勝利をもたらした。1週間に1度以上教会に通うカトリック信徒の58%はブッシュに投票した。ケリーを支持したのは、ミサには行かないカトリック信徒か、年間数回だけミサに出席すると言う人たちだけであった。


 伝統的に民主党支持のスペイン系カトリック信徒の票の58%はケリーが獲得した。しかし、ブッシュは、ここでも2000年の30%から2004年には39%へと大きく得票を伸ばした。 同様に民主党の有力基盤であるユダヤ人社会にも共和党が食い込んだ。2000年、ブッシュの得票は20%であったが、2004年には、24%に上昇した。


 当然だが、もっとも劇的に変化したのは、イスラム教徒の動向であった。92%がケリーに投票し、ブッシュはわずか6%であった。2000年の選挙では、イスラム教徒の大部分がブッシュに投票していたのである。


 ブッシュ氏の宗教界取り込みが広がる中で、福音派と保守的なカトリック信徒が今後も選挙の決め手になると思われる。


 「ロナルド・レーガン大統領が始めた福音派プロテスタントの政治的動員は、この4半世紀に米国の選挙戦に起きたもっとも重要な変化である。信仰者の多くが、自分たちの要求や関心を受け止めてくれる唯一の党は共和党だと見なすようになった」と、クレムソン大学ローラ・オルソン准教授は言う。


 多くのアナリストが、民主党と宗教界の大グループとの間の溝の大きさを指摘する。


 「米国人の約40%が、毎週教会に通うことからすれば、民主党は、その人たちの関心にもっと敏感にならなければ、大統領を選出に苦労することだろう」と、カルバン大学ヘンリー研究所「政治学におけるキリスト教徒」部門でペッパーダイン大学でスティーブン・モンスマが講演した。


 テキサス大学オースティン校(ブッシュ夫人の母校)のマーク・レグネルス教授は、民主党が国政選挙に勝てる唯一の方法は、妊娠中絶や同性愛者間結婚などの社会問題で、基本路線を再考することだ、として「党員にはショックをかもしれないが路線を修正すべきだ。今回の傾向から見ると、中絶反対の民主党だったら、多くの宗教保守派、とくにカトリック信徒を取り込めただろうに、逆に民主党は彼らを噛み砕いて、吐き出し続けた」と語った。


現代米国の黙示録 06 宗教的国際政治?――米国務省の宗教報告書

2006-08-29 21:53:41 | 現代宗教
 USTR(米通商代表部)が毎春発表する『外国貿易障壁報告』(NTE)が、米国の通商政策の強力な武器であることは、つとに知られている。しかし、外交政策についても、『宗教の国際的な自由に関する年次報告書』があることは意外に知られていない。米国にとってのやっかいな国を、米国政府が威嚇する手段として、この報告書が使われているのである。この報告書は、米国務省(U.S.Department of State)によって毎年発行されている。

 最近のものは、2005年11月に出された。それは、世界197か国の宗教の自由に関する報告書である。2005年版で7回目の年次報告書になる。毎年、7月から翌年6月までを調査対象期間にしている。

2005年の報告書は、ミャンマー(報告書ではBurmaと表記されている)、中国、エリトリア、イラン、北朝鮮、サウジアラビア、スーダン、ベトナムの8か国を「特に懸念のある国」(Countries of Particular Concern)に指定して、状況の改善を強く求めている。『外国貿易障壁報告書』で指定された国には、「通商法スーパー301条」を発動して経済制裁が科されるのと同様に、『世界の宗教の自由に関する年次報告書』で「懸念のある国」に指定されると、経済を含むあらゆる政策への圧力が科されるのである。

 報告書は、北朝鮮について、弾圧が続き、事態が悪化しており、「宗教の自由は存在しない」と指摘した。対テロ戦争の同盟国であるサウジアラビアに関しても、宗教的自由の法的保障が全く存在しないと断言し、政府が公認した宗派以外のものに対する宗教警察の摘発も増えていると指摘した。

 コンドリーザ・ライス国務長官は、2004年に、法律や政策を修正して、宗教の自由を尊重することを目指す措置を取った国もあるとし、ベトナムなどは、このまま改善が進めば、近い将来指定を撤回する可能性があることを示唆した。

 サウジアラビアが「懸念のある国」に指定されたのは、2004年が最初である。これは、対イラク戦争面でサウジアラビアを特別扱いされているのではないかとの世論に配慮したものであろう。

 2004年の年次報告書も紹介しておこう。それは、2004年9月15日に発表された。

 宗教弾圧を行っている「特に懸念のある国」には、2003年に引き続いて、北朝鮮、中国、ミャンマー、イラン、スーダンの5か国が指定され、さらに、2004年にサウジアラビアとベトナム、エリトリアが新たに加えられ、指定国は計8か国となった。

 また、イラクは、2003年版では「特に懸念のある国」に指定されていたが、この年、米軍によるイラク占領が実現し、米国が事実上管理する暫定政府ができたことから、イラクには状況変化があったとして、2004年版では指定が解除された。

 さらにこの年、ラオスとキューバが、「宗教的信条、活動を統制しようとする全体主義、独裁主義」の国とされた。

サウジアラビアは、米国にとって、対テロ戦の遂行上も重要な中東の主要同盟国ではある。しかし、政府が認めたイスラム教の宗派しか宗教活動ができないうえ、モスクでは、政府に雇われているイスラム教指導者たちがユダヤ教やキリスト教を攻撃していると、報告では非難された。ただし、石油利益のためにサウジアラビアを大目に見ているという批判を回避する狙いがあって「懸念のある国」に指定されたのであるが、実際には、なんらの制裁も科されていない。

 ベトナムについては、政府が宗教活動を管理し、一部のキリスト者や仏教徒の活動を厳しく取り締まっていると指摘された。

 気功集団「法輪功」や新疆ウイグル地区のイスラム教に対する中国の強圧政策も批判されている。北朝鮮については、報告書は「キリスト者が投獄、拷問され、生物兵器の実験の対象にもなっている」とする脱北した人権活動家の証言を掲載した。しかし、そうした証言の信憑性を裏付ける根拠は、明示されなかった。

 米国には、宗教担当大臣がいる。2004年当時の担当大臣は、ジョン・ハンフォードであった。彼は、年次報告書発表の記者会見で、「世界では、宗教的理由で投獄されている人がもっとも多い」と批判した

この年次報告書は、1998年の「国際的宗教自由法」に基づき、国務省が作成するもので、1999年から刊行されている。

 しかし、ここで注意されなければならないのは、「宗教の自由」とは、宗教全般を云々したものではないということである。事実上は、キリスト教徒とユダヤ教徒に限定されている。彼らが自由に自らの信仰を保持し、伝道する自由をもって「宗教の自由」と言うのである。キリスト教徒とユダヤ教徒たちが、どれほど非キリスト教徒、非ユダヤ教徒たちを弾圧しても、そうした行為に対して、米国の「国際的宗教自由法」は発動されないのである。

 そして、2005年8月19日、子ブッシュ米大統領は、北朝鮮の人権問題を担当する特使にジェイ・レフコウィッツ元大統領副補佐官を起用すると発表した。同氏は熱心なキリスト教保守派として知られ、ジュネーブの国連人権委員会の米代表団メンバーも務めてきた。今後、人権問題や宗教の自由の改善を北朝鮮に求めて行くという。

 見られるように、ブッシュ大統領の外交政策、とくに、彼の言う「ならず者国家」に対する外交は、米国流キリスト教の伝道の自由を要求することを大きな梃子にしているのである。

現代米国の黙示録 05 聖地イスラエルと『レフトビハインド』

2006-08-24 00:38:10 | 現代宗教

 小説は、神が起こす奇蹟を多用する。『レフトビハインド』第2巻の『トリビュレーション・フォーズ』では、「嘆きの壁」でイエス・キリストを認めよと説く2人の証言者が起こす奇蹟を書く。証言者たちは、ヘブライ人にはヘブライ語で聞こえるように、米国人には英語で聞こえるように、スペイン人にはスペイン語で聞こえるように説教した。

  これら証言者たちに、自動操縦をもった1人の若者が襲いかかる。そこでは、イスラム教徒への剥き出しの憎悪が記される。

  「金のネックレス、もじゃもじゃの黒い髪と髭。凶悪なその両目をかっと見開くと、男は空に向かって2、3度、発砲した」。

 

  男は、まっすぐに説教者たちに向かって進み、自らをアッラーの使者だとわめいた。

 

 発砲しているのに、2人の証言者は玉が当たらず、身じろぎもしなかった。接近したとき、男は透明の壁に跳ね返されたように、体が跳ね返り、頭がつぶれた。説教者(証言者)の1人が口から火の柱を吹いた。男は瞬時に黒こげの骸骨になってしまった。銃は熔け、金のネックレスもしずくになった。

 

  イスラムへの憎悪は、ユダヤの伝説の中にもあると小説は紹介する。世の終わりのとき、メシアとエリヤがユダヤの民を、東の門から神殿に導き、ユダヤの民に勝利を与えるという伝説がある。しかし、司祭であるエリヤは墓地を通れば汚れて神通力を失う。それを知ったイスラム教徒たちが、エリヤの進路に墓地を作ったと高名なラビに語らせている。

 

  カルパチアは、ユダヤ教の最高権威者のシオンというラビにカルパチアがメシアであると証言させたく、自らが完全に掌握した全メディアの前で語らせた。

 

  しかし、ラビのシオンはカルパチアが単なる政治的指導者であって、メシアではないと証言してしまった。ただし、その証言は、イスラエルの地がなによりも増して尊い聖地であることを熱っぽく語った。

 

  シオンによれば、アダムの罪深い種を受け継ぐ男子の種によって生まれるのではなく、男子の種によらない処女からしか、メシアは生まれない。メシアを生む処女は、しかし、イスラエルの父祖の血を受け継ぐものでなくてはならない。預言者ミカがユダヤ人の中でもベツレヘムのエフラテ族からからしかメシアは生まれないと言ったことをシオンは強調した。

 

  シオンは解説する。イザヤ書第9章第1、2節で、メシアが主としてガリラヤで宣教するが、「彼はさげずまれ、のけ者にされ、悲しみの人である」とした。詩編では、メシアが裏切られ、ゼカリヤは、メシアが銀30枚で売られると預言した。そして、シオンは言う。メシアこそイエス・キリストである。そして、イエスが7年後に再臨されるが、それまでは苦しみの日々が続くとの言葉でシオンはテレビでの演説を終えた。それは、カルパチアへの明確な反抗声明であった。

 

  ブルース・バーンズという牧師が最初にカルパチアを偽物だと見破った。シオンが世界統一教会を創設したカルパチアと全面的に対決することになった。嘆きの壁の2人の証言もシオンと行動を供にすることになった。彼らの説教を聴きに来る群衆が日を追って激増した。

 

  このような、シナリオによるこの小説は、メガ・チャーチの自己宣伝の書である。つまり、世界政府、世界宗教を樹立するという輩はキリストの敵である。彼らとの闘いで宗教の側から立ち上がっているのが、メガ・チャーチである。しかし、メガ・チャーチはユダヤ教を敵に回すのではなく、その良心分子を見方に惹き付けることに心がけている。なぜなら、イスラエルはメシアを生んだ聖地だからである。イスラエルを攻撃する国た人は反キリストであって、正義を叩きつぶす悪魔たちでえあるということになる。メガ・チャーチが周到に練った人民の心を収奪するシナリオがこの小説である。

 

  カルパチアの操り人形であることに憤った米国大統領が、米軍に命令してワシントンにいるカルパチアの宿泊しているホテルを攻撃させた。世界政府軍は即座に反撃してワシントンを壊滅させた。第2巻段階ではカルパチアの消息は不明。英国とエジプトが米国に同調した。世界政府軍は、英国とエジプトに報復攻撃した。こうして、赤い馬が登場することになった。戦士、牧師ブルースがこの戦争で死んだ。


現代米国の黙示録 04 白い馬と『レフトビハインド』 2 

2006-08-23 00:13:34 | 現代宗教

 「ヨハネ黙示録」第6章第8節「私は見た。見よ。青ざめた馬であった。これに乗っている者の名は死といい、その後にはハディスが付き従った。彼らに、地上の4分の1を、剣と飢饉と死病と地上の獣によって、殺す権威が与えられた」とある。青ざめた馬に乗っている者は、黙示録にある4つの馬上の者のうちの最後に出てくる死のことである。これを荒唐無稽なものでなく、聖書の預言に従って歴史は進行しているとの立場から書かれた小説『レフトビハンド』が全米で650万部を超す第ベストセラーになり、しかも、この小説の仕掛け人がメガ・チャーチの現役の司祭であるという点に、現在の米国人のもつ特異なナショナリズム(=正義を世界に伝導し、実現させる自由米国の義務感)の構造が如実に現されている。

 

  小説では、改心した牧師に「艱難時代」(トリビュレーション)の到来を語らせている。

 

  「7年の艱難時代はすでに始まっている。・・・この7年の間に、神は3つの審判を下されます。それは、封印の審判と呼ばれる巻物の7つの封印、7つのラッパ、7つの鉢のことです。・・・巻物が開かれ、封印が解かれると、審判が明らかになります。・・・最初の4つは、黙示録の4人の馬に乗った者によって現されます。・・・皆さんの中で、まだ聖書の預言の教えがただの象徴だと考える人はいますか」。

 

最初に来るのは、白い馬に乗ったものである。ヨハネ黙示録第6章第1・2節は言う。

 

「また、私は見た。小羊が7つの封印の1つを解いたとき、4つの生き物のうちの1つが、雷のような声で『来なさい』というのを私は見た。見よ。白い馬であった。それに乗っている者は弓をもっていた。彼は冠を与えられ、勝利の上にさらに勝利を得ようとして出て行った」。

 

 「艱難時代」を生き抜くには、こうした聖書の預言を聞けというのが、この小説のメッセージである。そこには、じつに注意深く米国人の正義が盛り込まれている。 牧師は言う。「白い馬に乗っている者は反キリストで、平和を約束し、世界を統一する詐欺師として世に姿を現します。旧約聖書のダニエル書第9章第24節から27節には、彼がイスラエルとの条約に署名すると記されています。彼は、初めはイスラエルの友人にして守護者として現れます。しかし最後には、征服者、破壊者になります」。 

 

  小説は、そのイスラエルのことを、ユダヤ教徒で改心した一人のラビにイスラエルの神殿のことについて語らせる。ダビデが神のために神殿を建てようとしたが、あまりにも血で汚れたダビデにそれを許さず、ソロモンの手でエルサレムの地に建てさせた。それは壮大な神殿であった。人々は神殿があるかぎりエルサレムは難攻不落であると信じていた。しかし、この神殿は、ネブカデネザル王によって破壊された。その70年後に再建されたがみすぼらしいものであった。その神殿は、ヘロデ大王によって建て替えられた。これはヘロデ神殿として知られるようになっていた。その後、ローマの将軍ティトスがエルサレムを包囲した。ユダヤ人たちは、異教徒の手に渡るよりは自分たちで壊した方がいいとして、ヘロデ神殿は破壊された。ところが、この神殿があった山はイスラムによって占領され、岩のドームという彼らの寺院になってしまっている。この神殿の復活こそがユダヤ人の夢であったと。

 

   最大の悪魔=反キリストのカルパチアが、イスラエルと7年期限の平和条約に調印した。カルパチアは国連を「グローバル・コミュニティ」(世界共同体)に変え、世界の武器の10%を独占し、世界の金融機関とメディアを掌握し、事実上の世界政府の総統になっていた。イスラエルのミラクル肥料の管理権を彼はイスラエル政府から得た。イスラエルとの和平を条件として、その魔法の肥料を各国に与えた。さらに彼は世界統一宗教の樹立に成功した。自らをメシアとして世界の宗教に君臨するようになった。その上で、イスラエルに岩のドーム寺院を撤去してイスラエルの神殿建設に協力するとまで言い切ったのである。米国大統領ですら、カルパチアを世界政府の指導者として宣言させられてしまった。

 

 しかし、先ず国家元首として米国大統領がカルパチアの偽物性に気づいた。それを察知したカルパチアは米国の主要都市を攻撃した。ここに、第三次世界大戦が始まった。2番目の赤い馬に乗った戦争がやってきたのである。そして、米国の正義が執拗に語られる。イラクに設立されたニュー・バビロン(世界政府の首都)が米国民にとっての主要な敵になる。この小説が政治的な1つの方向性を新しい宗教意識の高揚によって占めそうとしていることはあまりにも明らかである。しかも、荒唐無稽な形で。にもかかわらず、この小説が多くの米国人に受け入れられた。


現代米国の黙示録 03 白馬と『レフトビハインド』 1

2006-08-22 03:05:25 | 現代宗教

 白馬に乗る反キリストのニコライ・カルパチアは、世界最大の金融業者の主導者(ロックフェラーロスチャイルド)の力を背景に、ルーマニアの下院議員からいきなりルーマニア大統領になった。前任者は大統領職を辞任した。そして瞬く間に国連事務総長の地位も手に入れた。カルパチアは権力の座を上り詰めた。

 

 権力を手に入れた「反キリスト」(アンチ・キリスト)のカルパチアは、世界を単一通貨使用国に仕立て挙げることに成功する。

 

 各国の武器の90%を廃棄させ、残りの10%の武器を国連に集め、国連の本部をバビロンに移したカルパチアは、イスラエルと7年間の平和協定の締結、イタリアに世界統一宗教を設立させた。バビロンは、金融王からの膨大な融資で都市開発が行われ、それをニューバビロンと称した。国連事務総長就任演説で、カルパチアは世界共通言語、そして世界統一政府の建設を宣言した。

 

 そして、カルパチアは、国連事務総長としての披露の席で、恩人の金融王を多くの人が見ている前で射殺した。その上で、臨席者たちの記憶を改造して、世界の金融王者が自殺したと思いこませることに成功した。居合わせた人のうち、世界的ジャーナリストのキャメロンだけは、神に祈っていたので、そうした催眠術にはかからなかった。このことが、キャメロンをしてカルパチアとの闘争を決心させる。

 

 いずれにせよ、カルパチアは、国連事務総長になり、イスラエルの神殿建設を支援し、ミラクル肥料の開発者の斡旋もあっって、イスラエルのミラクル肥料を自由に利用できる権利を得た。そうしたカルパチアにとって、金融王は邪魔になったのである。しかも、金融王の遺産相続者は、カルパチアだけであった。こうして、彼は、世界の金融も支配することに成功する。彼は、現代の救世主として世界中の人々から称賛を受けるようになる。携挙があって、わずか1か月後である。まさに、聖書の予言通りであった。、「反キリスト」、「大ペテン師」だと喝破したのが、ニュー・ホープ・ビレッジ教会のブルース・バーンズ牧師であった。携挙を自ら操縦する飛行機の中で目の当たりに見、妻と息子を携挙された機長のレイフォードと、その娘、クローイ、そして、ジャーナリストのキャロルが「反キリストへの戦い=大艱難に抗する戦士」(トリビュレーション・フォース)に立ち上がることを約束する。キャロルは、イスラエルを攻撃したロシアの戦闘機が一瞬のうちに炎上した事件の目撃者でもある。

 

 ちなみに、私は予言と預言との違いを知っているつもりである。しかし、私はあえて予言という表現を使いたい。理由は分かっていただけると思う。

 

 1巻から、『レフトビハインド』は機長のレイフォードが、妻がありながら、スチュワーデスのハティーに思いを寄せていたことを心から恥じる懺悔の言葉がじつに執拗に出される。後に、ハティーは、カルパチアの秘書となり、彼の子を孕む。そして、ハティーもまた、悪魔の子を産んでしまう恐怖心にさいなまれる。男女関係の倫理性を強調するメガ・チャーチの最大の主張が語られている。

 

 本書は、40冊を超える著作のあるラヘイが、初めての小説を書くべく、聖書の予言をちりばめた50頁程度に凝縮されたアイデアを提供して、ジェンキンズに書かせたものである。ジェンキンズは、ムーディ聖書学院から出される出版物の編集に携わっていた。ハンク・アーロンやノーラン・ライアンなどの有名スポーツ選手の人物伝を書いた経験のある人である。

 

 訳者の上野五男によると、処刑された後、三日目に蘇り、天に昇ったイエス・キリストが、クリスチャンを救うために、再び地上に降りてくることを再臨という。この再臨には三種の解釈があり、「大艱難時代」(トリビュレーション)の後に再臨して以後、千年の平和がくるという「千年期前再臨」(プリ・ミレニアリズム)、千年期の後に再臨があるという「千年期後再臨」(ポスト・ミレニアリズム)、イエスが誕生して再臨するまでの長い年月を象徴的に千年期というだけであるとする「無千年期再臨」(ア・ミレニアリズム)の三説がそれである。「千年期」という言葉は「ヨハネ黙示録」第20章に見られる。この小説は「千年前再臨」説を採用している。


現代米国の黙示録 02 黙示録と『レフトビハインド』 2

2006-08-21 02:34:38 | 現代宗教

 新約聖書コリント人への手紙」第1、第155157節には、いわゆる「携挙」のことが書かれている。これは、使徒パウロが、コリントという町の教会のクリスチャンに宛てた手紙である。そこでは、イエスが、「私はまた来て、あなた方を私の元に迎えます。私のいる所にあなた方を置くためです」とある。パウロも言う。「私はあなた方に奥義を告げましょう。私たちは皆が眠ってしまうのではなく、変えられるのです。終わりのラッパとともに、たちまち、一瞬のうちにです」。

 

 イエスを信じた人たちは、忌まわしこの地上からいずれイエスの元に連れていかれ、永遠の命を授けられるという信仰が「携挙」である。

 

 レフトビハインド』は、そうした携挙から取り残された人たちのことを書いたものである。神がこうした行為を見せるのは、これまで、神を拒絶してきた人たちに最後の注意を出すためであると、この小説は力説する。堕落した世界から神を信じる者たちを連れ去り、残された人たちに自らを悔い改めさせるべく、地上に大きな苦難をもたらすというのである。

 

 さらに聖書では、「反キリスト」(the AntiChrist)の悪魔のペテン師が現れ、多くの人たちの心を掴み、世界的指導者と自称して地上に戦乱を巻き起こすと予言されている。イエスは言った。

 

 「私は私の父の名によて来ましたが、あなた方は私を受け入れません。他の人がその人自身の名によって来れば、あなた方はその人を受け入れるのです」と。

 

 小説では、この携挙が、生じたことが執拗に書かれている。一瞬のうちに、敬虔なクリスチャンたちがこの世から消え去った。そのために、世界中で大混乱が起こった。

 

 小説では、携挙から取り残された牧師の口を通して、黙示録の解説が行われる。携挙の日から7年間、残されたもの(レフトビハインド)の苦難が続く、その期間は、最初の19か月の「封印の審判」、その後に続く同じく19か月の「ラッパの審判」、そして残り3年半の「鉢の審判」となる。これは、「大艱難時代」(トリブーレイション)といって、もっとも過酷な時代である。艱難は、時を追って厳しくなる。この7年を生き延びたとき、イエスが救済に来る。そして平和な「先年王国」(ミレニアム)がイエスによってもたらされる。しかし、それまでの間は、「反キリスト」の大ペテン師によって、第三次世界大戦を初めとした様々な第艱難が起こされると説かれる。

 

 大ペテン師とは、一夜にしてルーマニアの大統領になり、その後、日をおかずして国連事務総長になるニコライ・カルパチアである。彼は、国連の公用語をすべて話し、世界統一政府を作るために、各国がそれぞれの保有武器を9割廃棄し、1割を新世界統一政府に供出し、国連の本部もイラクのバグダッド近郊に移し、その地を新バビロンと呼ぶという大構想を掲げて国連事務総長の地位を得たと説明される。

 

 また、大ペテン師が人類にもたらす大災害を、小説は、黙示録第5章との絡みで解説する。それは、「7つの封印のある巻物」のことである。7つの封印のうち、最初の4つは、白い馬、赤い馬、黒い馬、青ざめる馬である。5つめの封印は、回心したユダヤ人の布教者たちの殉教、第6の封印は聖者たちの虐殺、そして、7の封印は黙示録第113節から14節に記されている2人の証人の虐殺である。

 

 1の封印の白い馬は、それに乗る反キリストを暗示する。大ペテン師が平和を人類に約束しながら体制を整える1か月から3月間を指す。2の封印である赤い馬は戦争を暗示する。これが第三次世界大戦である。戦争自体は3か月から半年で終息する。3の封印は黒い馬で、飢饉を意味する。そして、5の封印が、飢饉と疫病の結果、生み出される死を暗示する青いざめた馬である。

 

 小説は、こうした黙示録の封印を忠実になぞりながら、ストーリーを展開し、さりげなく、父ブッシュを褒め、通貨統合、環境保護、世界政府を唱える勢力を反キリストとして断罪して行くのである。恐怖を煽り、米国に反対する世界の勢力を反キリストとしてクリスチャンの米国人は打倒しなければならないと、米国人の保守的心理を煽るのである。


現代米国の黙示録 01 黙示録と『レフトビハイインド』 1

2006-08-20 15:54:15 | 現代宗教

 

 『旧約聖書』に当たる「エゼキエル書」第3839章には、北の果てから敵の大軍が、ペルシャ、リビア、エチオピアという敵側同盟軍を引き連れてイスラエルを攻めてくるが、神の御業によって、敵軍は壊滅し、その武器は燃料になり、敵側兵士は鳥の餌食になり、敵の死体は大きな墓に埋葬されると予言されている。全米で650万冊を超すベストセラーとなり、「レフトビハンド現象」という言葉すら生んだテイム・ラヘイ&ジェリー・ジェンキンズレフトビハンドは、バイブルでの予言がことごとく的中し、悪魔に支配されるようになった世界を救うべく、イエス・キリストが再度、クリスチャンを救いに降誕してくるという黙示録的歴史観を前面に押し出したものである。

 

 

 経済破綻に苦しむロシアが、繁栄するイスラエルを攻めたが、神の怒りに触れて殲滅されてしまったという書き出しで始まる。

 

 

 イスラエルが繁栄するようになったのは、ハイム・ローゼンツバイクというユダヤ人植物学者が開発したミラクル肥料のお陰である。わざわざ灌漑しなくても、ミラクル肥料に水を加えるだけで、砂漠を肥沃な土壌に変えることができるようになったというシナリオである。この肥料のお陰で、大地には穀物が稔り、穀物輸出によって世界有数の富裕国になった。イスラエルは、周囲の石油輸出国よりも豊かになった。世界の国々がミラクル肥料の製法を知りたがったが、イスラエル政府はこの重要機密を外部に公開しなかった。開発者のローゼンツバイクは、外国勢による誘拐を防ぐために、イスラエル政府の厳重な警備体制下に置かれた。

 

 

 ロシアがこの肥料を略取するために、イスラエルに夜襲をかけた。ロシアは核弾頭を装備したミグ戦闘爆撃機や大陸間弾道ミサイルをイスラエルに送り込んだ。奇襲はロシア版パールハーバーと呼ばれた。誰もがイスラエルは破壊され尽くすだろうと覚悟した。

 

 

 しかし、奇跡が起こった。戦闘機やミサイルのことごとくは空中爆破されて、建物の上でなく空き地に墜落して炎上した。これは、イスラエル軍のミサイルで打ち落とされたものでなく、神の御業であった。地上が燃え盛り出したとき、大きな霰が、降ってきた。それで地上の炎熱地獄が解消され、つぎに雷鳴とともに激しい雨が降ってきた。火災は完全に収まった。ロシアの戦闘機とミサイルは一機残らず壊滅した。ロシア人の死体とともに、エチオピア人、リビア人の死体も混ざっていた。これはロシアが中東諸国と同盟を結んでいたことの何よりの証拠であった。しかし、イスラエル国民はかすり傷ひとつ負わなかった。

 

 

 戦闘機の残骸の中に残された燃料は、イスラエルの6年間分の燃料に匹敵するものであた。死体はハゲタカの餌食になった。疫病の蔓延を防ぐために、死体は急いで大きな墓に埋められた。これは、聖書の言葉を本に作り出された荒唐無稽な小説である。

 

 

 ここに、「レフトビハンド現象」が集約されている。現実に米国人の心理を脅かす国際的なテロリズムが存在する。米国人には強烈な仮想敵国への憎しみの感情がある。中近東諸国に追いつめられている(と見なす)イスラエルへの連帯感がある。荒唐無稽なこの種の小説のシナリオはあり得るという感情も米国人の多くがもつ。そうした感情に訴えたのがこの小説である。現在の現前で展開されている恐怖は、すでに、聖書、とくに「黙示録」で予言されていたものである。予言通り、歴史は進行している。米国人よ、そして、米国を中心とするクリスチャンよ、いまこそ、悪と闘う正義の戦争に立ち上がろうと、この小説は米国人に呼びかけた。

 

 

 この小説のアイデア提供者であるティム・ラヘイTim LaHaye)は、23歳で牧師資格を取り、25年間、サンディエゴの「サドルマウンテン・バプティスト教会」というメガ・チャーチの牧師を務めている。クリスチアン・ヘリテージ大学も創設している。ジェリー・ジェンキンズJerry B. Jenkins)が実際の執筆者である。原著は1995年、邦訳は2002年。


ノーと言えない日本から、自立する日本へ――沖縄に思う 7(終)

2006-08-20 01:14:55 | 世界と日本の今

軍事と経済は不可分
  日本を従属させる日米安保


 
 五月一日の日米安保協議委員会いわゆる2プラス2で、日米両政府は米軍再編の最終合意をしました。この時の共同発表は「日米同盟は、基本的人権、自由、民主主義及び法の支配といった両国が共有する基本的な価値を促進する上で、ますます極めて重要となってきている」とうたっています。日米が基本的な価値を共有していることに注意してください。

 

 その日米同盟、すなわち日米安保条約は、第二条で「経済政策における食い違いを除くことに努め、両国の間の経済的協力を促進する」とうたっています。「食い違いを除くこと」つまり「経済の一体化」です。日米安保条約の正式の名称は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」です。日米安保条約は軍事だけではありません。経済も政治もアメリカに従属する仕組みになっているのです。


 アメリカは「基本的な価値の共有」「経済の一体化」を盾に、市場開放、規制緩和、M&Aなど、経済面でも日本に様々な要求を押しつけることができる仕組みになっています。

 

 六〇年の安保締結交渉で、アメリカ側の責任者はクリスチャン・ハーター国務長官でした。ハーターは六二年、ケネディ政権下で新設された特別通商代表(STR)の初代代表に就任した。このSTRが一九七九年に改組されて現在の米国通商代表( USTR )になります。STR代表としてハーターは、後に『年次改革要望書』へと行き着く「日米貿易経済合同委員会」を主導しました。この合同委員会の設立趣意書には、安保条約第二条に基づいたものであることが明記されています。

 

 USTRは大統領直轄で、日本の経済政策にあれこれと注文をつけ、通商問題に関する交渉を一手に引き受けます。以前はUSTRの日本支部がありましたが今はありません。勝負がついたからです。今あるのは中国支部で、中国に通商問題でさかんに要求を突きつけています。

 

 STRの初代代表のハーターが、六〇年安保締結交渉のアメリカ側責任者だったその人でした。このことからも分かるように、米国の通商政策は軍事と不可分です。日本は軍事だけでなく、経済や政治でも、アメリカに従属する仕組みに組み込まれているのです。

 

 一部のエリート、特権的な人たちが、自分たちの私腹を肥やすために圧倒的多数の国民を貧乏に追いやる。若者たちはフリーターなど低賃金の不安定雇用に追いやられている。アメリカの志願兵と同じ構図が作られつつあるのではないかと思います。そういう若者をだましてこき使い金もうけをしている連中がいるのです。ミサイルは一基が何百億円です。日本はアメリカの指揮命令に従う米軍再編のために、三兆円を差し出します。その金に企業が群がっています。

 

 こういう話をぜひ周囲の人たちに広めてほしい。戦争体験ある年輩の人たちが、被爆体験のある長崎の人たちが、ぜひ若者にきちんと話をしてほしいと思います。

 

(完)


ノーと言えない日本から、自立する日本へ――沖縄に思う 6

2006-08-19 12:25:29 | 世界と日本の今

 前回の続き


  日米の軍事一体化

 

 イラク戦争の原因はいろいろありますが、何といっても石油資源をめぐる戦争です。国際石油資本に対抗して原油価格の決定権をとりもどそうと石油輸出国機構(OPEC)を作ったのはイラクのサダム・フセインです。そのフセインが石油の決済をドルからユーロに切り替えました。さらにサウジアラビアやインドネシアなどもこれに追随しはじめました。

 

 アメリカは膨大な貿易赤字を抱え、それが年々急増しています。それにもかかわらず、ドルが世界で君臨している最大の理由は三つあります。一つは世界の貿易の決済がドルで行われていること。二つ目は英語が世界の公用語として使われていること。三つ目は圧倒的なアメリカの軍事力です。だから、石油の決済をドルからユーロへ切り替えることは、ドルの世界支配に対する挑戦です。アメリカはフセインの行動を許せなかった。これがイラク戦争の原因の一つです。

 

 アメリカは大量破壊兵器を口実にイラク戦争に突入しました。それがウソだったことがばれたわけですが、イラク戦争を強行しました。しかし、イラク戦争は泥沼化し、有志同盟からポーランド、スペインなどが次々に脱落しました。頼みとしていたイタリアのベルルスコーニ政権も、選挙で負けました。イギリスのブレア政権の支持率も下がりっぱなしです。次の選挙で負けることは確実です。他方で、中国、ロシア、フランス、ドイツ、インドがアメリカのやり方に反対しています。中国、ロシアを中心とする上海協力機構などを通じて、反米戦線が構築されつつあります。

 

 こういう状態で、アメリカの友だちはいなくなりました。日本しかいないのです。とにかく日本をつかんでおかなければならない。米軍再編は、そういう背景があって出てきたのだと思います。

 

 アメリカがいう「不安定の弧」とは北東アジアから中央アジア、そして中東にいたる地域です。中央アジアで米軍基地を作ろうとしたが失敗しました。結局、イージス艦や空軍の力に頼るしかない。自衛隊の役割をもっと拡大する。現在のように沖縄に大量の米兵を貼り付けておくのは危ないから、海兵隊の司令部はグアムまで後退させる。その費用は日本に負担させ、グアムからローテーションで世界に対応する。極東やインド洋など主要な地域にはイージス艦を配置しておいて、いざという場合には、グアムから沖縄へ、グアムから岩国へという具合に臨戦態勢をとる。

 

 米軍再編の重要な特徴は、日米の軍事一体化です。日本の自衛隊は常に米軍の指揮系統に従わなければならなくなる。最近、ウィニーというソフトによって、防衛庁のデータが流出しました。佐世保での机上演習の内容です。国名は出していませんが、アメリカは緑色、日本は青色、中国が黄色、北朝鮮は茶色、韓国は紫色となっていました。シナリオは、中国と北朝鮮が結託して日本の領海を侵犯するというものです。場所はS列島(尖閣列島)。中国と北朝鮮の漁船が、日本の巡視船に体当たりする事態が発生。まず何をするか。「緑色の国(アメリカ)に従え」です。次は「中央即応集団司令部は各基地に指令を出して先制攻撃せよ」です。中央即応集団司令部というのは、米軍再編によって、自衛隊が新たに編成してキャンプ座間に同居させる部隊です。つまり、日本の自衛隊は、何かあれば「まずアメリカの指揮命令に従う」ということになっているのです。他国の軍隊の指揮命令に従うことを進める日本の政治とは何なのか。日本の自衛隊員がはたして米軍の指揮命令に従うだろうか。現場段階での反発が起きるのではないかと思います。

 

 これからは情報収集がますます重視されます。アメリカ国家安全保障局が運営するエシュロンは、世界中にはりめぐらされた通信傍受システムで、電話やインターネットなどの情報を盗聴傍受しています。アメリカの世界戦略の中で、敵国と友好国を分かたず情報を収集しており、日本政府、日本企業も監視の対象とされています。日本に関する情報収集の対象は主に経済分野と言われています。三沢に傍受施設がありますが、さらに新たな施設を作ろうとしています。キャンプ座間ではないかと思います。すでに盗聴法ができていますから違反でもない。さらに「共謀罪法」が準備されています。冗談話でも「そうだ」と同意すれば共謀罪が成立します。


 

以下次号