消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(70)新しい金融秩序への期待(70)ランド研究所

2009-01-31 01:00:48 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

 米国は、軍事力だけでなく、思考回路によっても世界を支配することに成功した。

 人間は合理的に行動するものであるというのがその回路である。合理的とは、経済的利益を得ることである。

  利益の分配を数値的・合理的に行うことを社会編成の原理にしなければならない。その意味で、社会を集団=階級を基本として編成させようとする共産主義は間違っている。人間は集団によって規定されるのではなく、あくまでも個人の主体性によって自己を確立するものである。

 こうした合理的人間像を理論的に生み出し、世界に発信し続け、巨大な成功を収めたのが米国のシンクタンクの「ランド」である。

 ランドとは、「研究・開発」(R&D)の頭文字(RAD)から取られた名前である。それは、戦時に世界の俊秀を集めて大きな成果を収めたマンハッタン計画のようなものを平時にも作ろうと、新しく陸海軍から分離された空軍によって企画され、具体的な軍事戦略ではなく、共産主義を否定できる人間の基本的な思考回路を形成するという使命を託されたものである。戦略ミサイル・核開発という特権を付与された空軍や国防総省から豊富な研究費を支給されたランドは、共産主義に対決できる目覚ましいイデオロギー開発に成功した。

 社会科学を支配することになる「オペレーショナル・リサーチ」(OR)は東京大空襲の経験からランドで発展させられた思考回路である。ORから「システム分析」の手法が開発された。

 
それは、政策の選択肢を見極め、為政者をして合理的・客観的に採用させる基準を提供する思考回路である。核開発の手続きと配備の方法にシステム分析は大きく貢献した。

 ゲームの理論」もランドで開発されたものである。「合理性の兵士」であるランドの研究員たちの思考回路を本書は見事に描き切っている。

野崎日記(69)新しい金融秩序への期待(69)史上最大の国家にすがる金融機関(3)

2009-01-30 00:55:09 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


 


(1) 潜在リスク八兆ドルの内訳は以下の通り。①FDICの保証額一兆九〇〇〇億ドル、②FRBのCP買入一兆八〇〇〇億ル、③FRBの住宅ローン・消費者ローン対策八〇〇〇億ドル、④資本注入を含む不良資産救済プログラム七〇〇〇億ドル、⑤MMF向け資金供給六〇〇〇億ドル、⑥シティグループの不良資産に対する政府保証二五〇〇億ドル、⑦ファニーメイ、フレディマック支援二〇〇〇億ドル、AIG支援(政府とFRB合計)一五〇〇億ドル、⑧MMF元本保証五〇〇億ドル、⑨ベアスターンズ救済二九〇億ドル、⑩FRBの公定歩合による直接貸出、無制限、⑪ECBや日銀などとFRBによる資金融通、無制限。

 (2) 米国が採用した金融機関救済の政策のうち、金融機関の資金調達に政府が信用保証を与えるという方法は、閉塞感の打破につながる可能性がある。
 少なくとも、米国政府がおこなおうとしていることは、政府保証によって、金融機関の資金調達を保証することである。FDIC(米連邦預金保険公社)が〇八年一〇月に打ち出したTLPG(暫定流動性保証制度)がその一つである。これは、〇八年九月以降、銀行間の取引が細ったことへの対処手段であった。金融機関は、九月以降、が長期の資金を調達できなくなっていた。したがって、TLPGは、資金調達をする金融機関の信用を補完しようとするものである。

 この機構を最初に利用したのが、ゴールドマン・サックスである。〇八年一一月二五日、ゴールドマン・サックスは五〇億ドルの社債を発行した。償還期日は二〇一二年六月である。FDICによる元利払いの保証で、ゴールドマン・サックスはトリプルAを取得できた。米政府による信用補完がようやく効き始めたと『日経新聞』がこれを評価した(〇八年一一月二七日付)。

(3) 農林中金は一九二三年に設立。全国の農協、漁協が会員となって出資・預金しているJAグループの中央金融機関的位置にある。JAグループの金融構造は、農協、信連、農林中金という三重構造になっている。農協は、農業者から預金を預かる市町村単位の組織。信連は、農協から資産を預かる都道府県単位の信用農業協同組合連合会。そして、農林中金は、農協や信連から余剰資産を預かり、国内外の有価証券に投資している。その収益をグループに還元している。同行の資産は約五八兆円であるが、うち、貸出は一五%に止まり、有価証券などの市場で運用する資産は七〇%弱を占めている。つまり、金融市場が混乱すればすぐさま業績に大きく影響するという構造になっている(『日経新聞』〇八年一一月二八日付)。

(4) 農林中金が保有する証券化商品の内訳は以下の通り。①ABS(資産担保証券)二兆八八〇五億円。②RMBS(住宅ローン担保証券)七五五四億円。③CMBS(商業用モーゲージ担保証券)六七〇一億円。④CDO(債務担保証券)二兆四四一六億円。⑤その他七五二億円。合計六兆八二三〇億円(『日経新聞』〇八年一一月二八日付)。

 (5) 日本経済新聞、共同通信によると、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)と農林中金は、〇六年一二月一八日、FRBからFHC (Financial Holding Company) の資格を取得した。FHCは、BHCA(Bank Holding Company Act=銀行持株会社法)に基づく資格で、日本の金融機関としては二社が初の取得である。みずほFG傘下のみずほコーポレート銀行は、みずほ証券との協業により、欧米金融機関のような投資銀行業務の拡大を図っている。一方、農林中金は、日本全国のJAバンクの中央金融機関として資金運転を担っており、運用選択肢の拡大を模索していた。両者は米国に現地法人と支店を設置しているものの、銀行・証券の兼営に関して制約が多いBHC(銀行持株会社)の資格しかなかった。しかし、FHCヘの格上げにより、債券・株式の引き受けを幅広く扱えるようになり、両者の戦略にとって大きな利点となる。日本の金融機関では三菱UFGフィナンシャル・グループもFHC取得を目指していたが、同時期に米国金融当局から資金洗浄(マネーロンダリング)の監視を怠ったとして業務改善命令を受けたため、取得できなかった(「金融持ち株会社、米で設立認可・みずほコーポ銀と農中」『日本経済新聞社』二〇〇六年一二月一九日)。

(6) 自己資本比率とは、銀行の企業向け融資などの資産(リスクアセット)に占める自己資本の割合。数字が大きいほど健全性が高いと判断される。国際業務を営む銀行は八%以上に保つことが必要である。自己資本のうち、資本金や利益剰余金などが「中核的自己資本」、劣後ローンなどが「補助自己資本」と呼ばれる(『讀賣新聞』二〇〇八年一一月三日付)。

(7) 〇八年一〇月一六日、米銀の資産規模で、JPモルガン・チェースが、長年首位だったシティグループを抜いた。シティグループが同日発表した〇八年九月末時点の資産は二兆〇五〇〇ドル。JPモルガンが前日に発表した九月末時点の資産は二兆二五〇〇億ドルであった。JPモルガンは、〇八年九月二五日に、全米最大の貯蓄金融機関だったワシントン・ミューチュアル(WM.N)の銀行部門を一九億ドルで取得したことで、資産規模でシティグループを抜いた。一方、シティグループは、一年間で二〇〇億ドル超の純損失を計上したことから、コスト削減と効率化に向けて資産縮小を進めていた。同グループの資産は、〇七年九月末時点の二兆三六〇〇億ドルから三〇〇〇億ドルも減少した。ただし、バンク・オブ・アメリカは、〇九年第一・四半期に予定されているメリルリンチの買収完了により、資産規模でJPモルガンを抜く可能性がある。ロイターのデータによると、JPモルガンは、時価総額でも米銀首位で、これにバンカメ、ウェルズ・ファーゴ(WFC)、シティグループが続いている(http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-34367820081017)。

(8) 米政府は、〇八年一一月二三日遅く、シティグループの救済策を発表した。同社が保有する高リスク資産三〇六〇億ドルに多額の損失が発生した場合、損失の大半を政府が肩代わりするほか、先に実施した二五〇億ドルの資本注入に加え、新たに二〇〇億ドルの資本を追加注入するとされた。政府はシティの優先株を取得する。優先株の配当利回りは八%。シティの株価は、資本不足に対する懸念から〇八年一一月一六日から始まる一週間で六〇%も急落していた。救済策に伴い、シティは、その後の三年間、四半期ベースで一株〇・〇一ドルを超える株式配当を、政府の同意なしに実施することが不可能になる。事実上、減配を強いられることになる。パンディット最高経営責任者(CEO)など現経営陣の留任は認められるが、経営幹部の報酬については政府が最終的な発言権をもつ。救済策では、シティが保有する高リスク資産三〇六〇億ドルに損失が発生した場合、最初の二九〇億ドルまでをシティが負担する。さらに追加損失が発生した場合、シティは一〇%を負担するが、シティの負担額は最大五六七億ドルに限定される。

  政府の負担額は、財務省が最大五〇億ドル、FDIC(連邦預金保険公社)が最大一〇〇億ドル。これを超える損失が発生した場合は、FRBの負担になる。優先株は、財務省が二四〇億ドル相当、FDICが三〇億ドル相当を取得するが、総額二七〇億ドルのうち七〇億ドルは、政府保証の手数料とする。政府は、普通株二七億ドルを買い取ることができるワラントも取得する。FRB、財務省、FDICは、この救済策について「金融システムを強化し、納税者と米経済を守るために必要な措置だ」との共同声明を発表した(http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-35065820081124)。


野崎日記(68)新しい金融秩序への期待(68)史上最大の国家にすがる金融機関(2)

2009-01-29 00:05:40 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


 三 金融機関に嫌がられる公的資本注入


 〇八年一一月二七日に発表された〇八年九月中間期決算で、農林中金(農林中央金庫)(3)の純利益は、対前年比で九二%も減少したことが明らかになった。保有有価証券の価格が取得時のそれより、一定以上下落したときには、損失が計上される。同行では、九月期に一〇一七億円の損失処理をおこなった。損失処理をしなくてもよい有価証券の含み損は、〇八年九月末で一兆五七三七億円にもなった。この大きさは、〇八年三月末の三・六倍であった。中でも、証券化商品の含み損が大きい。同行の保有する証券化商品は約六兆八〇〇〇億円もある(4)。

 農林中金は、みずほコーポレート銀行とともに、国内勢としてはじめてFHC(フィナンシアル・ホールディング・カンパニー、金融持ち株会社)として、米国での株式投資で大幅な規制緩和の認可を得た(〇六年末)(5)。

 
これによって、積極的に海外投資に乗り出したのだが、〇八年九月中間決算で計上した有価証券の損失の大半はこの海外投資が裏目に出たのである。〇八年九月末の同行の自己資本比率(6)は一一・三二%だが、損失計上や含み損でこの比率の低下は必至であることから、同行は、〇八年度中にJAグループに出資を要請して一兆円超の資本増強を実施すると発表した。

 〇八年末に参院で審議中の「金融機能強化法改正案」では、農林中金への公的資金注入の是非が焦点になっているが、同行は、公的資金の注入を受けず、自力で資本増強をおこなう積もりであるとの意向を示していた(『日本経済新聞』二〇〇八年一一月二八日付)。

 米国では、「金融安定化法」に基づいて、七〇〇〇億ドルの公的資金が準備されることになっていて、うち、二五〇〇億ドルが銀行への資本注入枠である。〇八年一〇月下旬、すでにその半分の一二五〇億ドルが主要九銀行に注入された。 

 資本注入には、二つの狙いがある。金融市場には大手金融機関の財務体質に強い不信感があり、その不信感から株価下落などが継続すれば、預金の取り付けを引き起こしかねない。そうした信用不安を一掃するのが第一の目的。さらに、金融商品で多額の損失を計上しなければならなくなった金融機関が、自己資本比率低下を恐れて、顧客への貸し渋りを始めていまえば、実体経済に悪影響が出る。自己資本比率の低下を防いで貸し渋りを阻止しようとするのが、資本注入の第二の目的である。注入される公的資金は、資本金や利益剰余金と同格の「中核的な自己資本」と見なすというのが米財務省の姿勢である。

 ただし、第二の目的が達成されるには時間がかかる。そもそも、対象の金融機関の正しい財務内容を算定することが困難であることから注入額は一律の同額になりがちである。資産規模において、シティグループよりも二〇〇〇億ドルも多いJPモルガン・チェースとシティグループ(7)が同額の二五〇億ドルであったことは、当局も正しい数値を把握していないことを示している。っまず、これだけの公的資金注入では足りず、増額を余儀なくさせられるであろう(8)。

 日本でも、一九九八年に大手銀行に資本注入したが、このときも財務体質の正確な悪化度への把握がないままに、公的資金を一律一〇〇〇億円ずつ注入し、都市銀行・信託銀行を含めた一八行に総額一兆八〇〇〇億円になった。しかし、足りずに次ぎ次と増額せざるをえなかったという経験をしている。それでも、貸し渋り阻止には効果がなかった(『讀賣新聞』二〇〇八年一一月三日付)。


野崎日記(67)新しい金融秩序への期待(67)史上最大の国家にすがる金融機関(1)

2009-01-28 00:38:06 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

 はじめに


  〇八年一一月二五日、FRBは、証券化商品の買い取りを柱とした約八〇〇〇億ドル(約七七兆円)にもなる新たな金融危機対策を打ち出した。買い取る証券化された金融商品の内訳は、住宅ローン関係で六〇〇〇億ドル、その他消費者ローン(自動車、クレジットカード、学資など)と小企業向けローン関係でで二〇〇〇億ドルである。

 住宅ローン関係の証券化商品は、ファニーメイ(米連邦住宅抵当公社)とフレディマック(米連邦住宅貸し付け抵当公社)がもつMBS(住宅ローン担保証券)が中心である。これを、FRBが、五〇〇〇億ドルまで買い取る。残り一〇〇〇億ドルは住宅ローンなどの債権(まだ証券化されていないもの)の買い取りに当てられる。 

  消費者ローンと小企業向けローン関係では、それらローンをまとめて証券化したABS(資産担保証券)をその保有者から買い取る。ニューヨーク連銀が二〇〇〇億ドルを提供する。最初は、これら資金は、「金融安定化法案」で決められた七〇〇〇億ドルから出される予定であったが、七〇〇〇億ドルは金融機関の資本注入に当てられることになったので、FRBは、新たな資金を作って、これら証券化商品の保有に踏み切ったのである。 こうしたABSの購入にFRBが踏み切った背景には、米国経済の七割を占める個人消費が落ち込むことが確実になったからである。そもそも、米国の住宅ローン、クレジットカード、自動車ローンなどの専門会社は、預金を受け入れることができない。そたがって、ローンを組めば、すぐに原資がなくなってしまう。そのために、すでに実行したローンの債権を裏付けとした証券を発行し、それを投資家に売りつけて日々の授業資金を調達してきた。この証券がABS(資産担保証券)である。MBS(住宅ローン担保証券)も住宅ローンに限定されたABSの一つである。ところが、米国では金融危機でABSが売れなくなった。そのために、ローン会社は、個人へのローンを渋りはじめ、個人消費が冷え込んでしまったのである。

 しかし、既発行のABSは投資家や金融機関に塩漬けされている。これをFRBが買い取れば、これら金融機関に資金が供給されることになるので、金融機関が再び貸出や新規のABSno買い取りに動くようになるだろう。これで個人消費の落ち込みも阻止できるかもしれないと米国政府は判断したのであろう。事実、一一月二五日の記者会見で、ポールソン財務長官は、「新制度は米国民の毎日の資金繰りを支援する目的である」と語ったという(『日本経済新聞』二〇〇八年一一月二六日付)。

 金融危機は金融機関の資産を不良化させる。そのために、FRBが政策金利を〇七年始めの五%から〇八年一一月の一%に下がっても、不良債権処理に集中しているために、新規貸出に踏み切れないでいる。こうした状況下では、FRBが民間金融機関に塩漬けされているあらゆる資産を買い入れる政策が有効であろう。

 しかし、上記『日経新聞』が危惧しているように、FRBは一連の金融危機対策で〇八年一一月二五日までに二兆ドルもの資産を抱え込んでしまっていた。ここに、新たに八〇〇〇億ドルの資産が加わるおとになったのである。これは、国債発行で埋め合わせなければならない。しかし、それだけの国債を消化することが可能であろうか。可能であったとしても、それが大きなドル安要因になるであろうことは間違いない。

 FRBだけではない。世界の中央銀行が史上空前の膨大な資産を抱えてしまった。いずれの国も国債発行でその資金を賄わなければならない。「小さな国家」イデオロギーは完全に破壊されてしまった。なりふり構わぬ資産買い取りに各国中央銀行は邁進し、国家は、一世を風靡した「小さな国家」をかなぐり捨てて「大きな国家」に突き進まざるを得なくなっているのである。


 一 金融機関救済手段の変化


 米国が金融機関の資産買い取りに踏み切った〇八年一一月二五日、FRBの政策金利は史上最低に並ぶ一%であった。日銀は〇・三%であった。ECB(欧州中央銀行)は二年ぶりの三・〇%に下がっていた。BOE(イングランド銀行)は約五〇年ぶりの低金利、三・〇%であった。BOEの場合、〇八年一一月六日に一挙に一・五%も下げたのに、株価はまったく反応しなかった。それは、英国以外の諸国でも同じであった。はっきりしたのは、「政策金利の下げ」が「市場金利の下げ」を促し、これが「長期の貸出金利の下げ」を導いてきた伝統的な金利政策がまったく作用しなくなったことである。金融危機によって、市場金利も貸出金利も中央銀行の政策金利引き下げにまったく反応せず、高止まりのままだったのである。

 金利政策がきかなくなってくると各国の中央銀行は、市場に短期資金を積み上げる政策に傾斜する気配である。それは、市中銀行をして中央銀行を頼るようにさせる。つまり、銀行間同士での資金のやりとりが影を潜め、市場が機能しなくなるのである。事実、日本の〇一年~〇五年では、市中銀行は日銀から資金を直接に得ようとし、銀行間取引が極端に細ったのである(「悩める中央銀行1、金融政策・手詰まり感」『日経新聞』上記日付)。 FRBによる資産買取も金利政策が有効でなくなったことへの対応ではある。しかし、まず、買取価格をどの程度に設定するかに危険性がある。すでに市場価格は存在していない。FRBが買い取っても、金融危機が緩和して、その資産を売りたくても、損失なく売却することも至難の業である。膨大な三兆ドル近くもの棒だな資産買取はそれだけFRBが引き受けるリスクが大きくなることである。『日経新聞』(〇八年一一月二七日付)の報じるところによれば、米国政府とFRBがとった一連の救済措置で、両者は八兆ドル程度の潜在的リスクを抱えることになった(1)。八兆ドルとは、米国のGDPの約六割、日本のGDPの一・五倍の規模である。しかも、リスクの規模はさらに大きくなる可能性をポールソン財務長官は否定しなかった(同紙)。

 既述のように、FRBの資産は、〇八年末に三兆ドルにまで増加しそうである。これは、米国のGDPの約二割に相当する。これは、ダラス連銀総裁、フィーシャーが〇八年一一月初めに出した警告の中の数値である。

 リーマン・ブラザーズが破綻する直前の〇八年九月上旬のFRBの資産は九四〇〇億ドルであった。それが、〇八年一一月中旬には二兆二〇〇〇億ドルになっていたのである。わずか二か月半でFRBの資産は二・四倍にもなったのである。

 諸国の中央銀行も同様に資産を急増させた。〇八年の初めから同年一一月中旬までの間にBOEは四割弱、ECBは約三割、日銀は約一割、それぞれ増やした。

 資産内容も劣化している。FRBでは、以前には、資産の九割が国債であった。ところが、〇八年では国債は二割に低下している。新しく民間の債権や証券を受け入れたからである。いずれにせよ、FRBの資産規模がGDPの二割を占めるという現実は不気味である。FRBが、資産の劣化によって、損失を負えば、ドルがまず安くなるだろう。政府がFRBの損失の穴埋めをしても、今度は財政が悪化し、同じくドルが安くなるだろう。いまのところ、こうした恐怖への脱出口は見えていない(「悩める中央銀行2、新たな懸念に警鐘」『日経新聞』〇八年一一月二七日付)(2)。

 国債発行で必要資金を調達できないというゆき詰まりを打破すべく、各国の中央機関がドル資金供給で連携をしたことも、FRBのドル資金調達の隘路を打破する有力な手段になっている。

 最初は、金融危機が深刻になる前の〇七年一二月一二日というかなり早い段階で最初の協調体制が築かれた。米欧の五中銀が連携を開始したのである。〇八年九月一八日、これに日銀が加わった日米欧の六中銀が総額一八〇〇億ドルを米国に緊急供給すると発表した。同二四日には、この六中銀に、オーストラリア、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーの四中銀が加わる一〇中銀体制ができた。そして、同二九日には一〇中銀で総額六二〇〇億ドルの供給枠ができた。ところが、一〇月七日、金利協調利下げの各国中銀の打診があったが、日銀は利下げを見送り、日銀が不参加のまま、欧米の六中銀が協調利下げに踏み切った。このときの日銀は、一九八五年のプラザ合意の後遺症を思い出していたのではないかと『日経新聞』(「悩める中央銀行3,新局面の国際協調」、〇八年一一月二八日付)は推測している。

 プラザ合意は、日本はドイツとともに、協調利下げを迫られて、結果的に金融緩和がゆき過ぎ、バブルを発生させ、そしてバブル破裂後に長期停滞を招いたという記憶が日銀にはある。それ以降、金融政策は国内優先の原則が生まれたと同紙は推測する。事実、協調利下げを見送った〇八年一〇月七日、日銀総裁・白川方明は、「各国の経済情勢に照らして金融政策をおこなうのが適当である」と記者会見で説明した。ところが、協調利下げを見送った二週間後、株価がバブル後の最安値になり、円も一ドル=九〇円台に急騰してしまった。協調利下げしなかったために、米国との金利差が縮まったので、円高になり、それが輸出を抑えることになるだろうとの観測から株安が引き起こされたのかも知れない。あわてた日銀は同月三一日、政策金利を〇・五%にまで下げたのである。

 いずれにせよ、各国中銀によるドル資金供給は、〇八年一〇月一三日、ECB、BOE、スイス中銀がドルの無制限供給を発表した。翌一四日、日銀もドルの無制限供給を発表した。

 そして、一〇月二八日、FRBの姿勢に大変化があった。それまでは、米国が他の先進国中銀からドル供給を受ける立場であったのに、この日から、なんとFRBが他国にドルを供給するという取り決めをおこなったのである。FRBがニュージーランド中銀とスワップ協定を結んだのである。スワップとはスウェーデンの通貨(クローネ)とドルとを交換するというものである。つまり、FRBはスウェーデン中銀からスウェーデン・クローネを受け取り、その対価にドルをスウェーデン中銀に渡し、スウェーデン中銀が自国企業にそのドルを融資するというスワップ協定が結ばれたのである。翌二九日には、FRBはスウェーデン中銀は、ブラジル、メキシコ、韓国、シンガポールの中銀と同じようなスワップ協定を結んだ。

 一年前には、FRBがスワップで得た外貨は四〇〇億ドルしかなかった。ところが、〇八年一一月には、六〇〇〇億ドルと五六〇〇億ドルも保有外貨を増やしたのである。それに相当するドルが、輸入ではなく、単なるスワップによって、世界に供給されたのである。

 米国政府がタイミングよくこうしたドルを回収しないかぎり、ドルは米国の財政赤字とあいまって大幅な価値低下を引き起こすであろうことは間違いない。それは、市場をますます不安定にさせるであろう(同紙)。


野崎日記(66)新しい金融秩序への期待(66)CDS(13)

2009-01-27 00:47:30 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


(16) カウプシング銀行は、アイスランドで最大の銀行であり、一時、時価総額は北欧で七番目の規模を誇っていた。国外においてもノルウェーなどの北欧諸国や米、スイス、ベネルクス三国など一三か国で業務を展開していた。〇七年末時点での総資産は、五八〇億三〇〇〇万ユーロであった。〇八年一〇月九日に国有化されたのに、同月一〇月二七日、国有化された銀行としては珍しく債務不履行に陥った。不履行した債券はいわゆるサムライ債(円建て債券)で、金融危機以降、円キャリートレードの巻き戻しによりアイスランド・クローナは日本円に対しては約五〇%下落していた。アイスランドの中央銀行が債務の肩代わりをしなかったのは、クローナ安で膨れ上がった債務支払いに十分な外貨を保有していなかったためだとされる(ウィキペディアより)。

  世界的金融危機の直撃を受け国家破綻寸前とされるアイスランドのグリムソン(Ólafur Ragnar Grímsson)大統領は、〇八年一一月一三日、カウプシング銀行が発行し債務不履行となったサムライ債について、償還は容易でないとの見方を示した。また、行き詰まった金融立国路線に代え、豊富なクリーンエネルギーなどの資源を活用し経済再建を目指す考えを表明した。大統領はアイスランド国内で銀行の株式や債券への投資は保護されなかったことを指摘し、「(日本の債権者は)アイスランド国民が多大な損失を被ったことを理解することが重要」と述べた。カウプシング銀行は〇六年一〇月、五〇〇億円のサムライ債を発行したが、〇八年一〇月末の期限内に利払いせず、事実上の債務不履行となった。〇七年にも三回、計二八〇億円分を発行していた(http://www.47news.jp/CN/200811/CN2008111401000650.html)。

(17) モノラインではサブプライムローン関連が含まれる資産担保証券(ABS)を再証券化した商品ABSCDOのスーパーシニア(最上級格付け)部分に対し、証券会社や銀行を相手に、CDSを使って多くの保証をおこなった。だが、ABSCDOの格下げに伴い、保証しているモノラインの財務にも不安が高まったとして、格付け会社がモノライン自身の格下げを実施した。確実な金融保証をおこなうために、モノラインの経営はトリプルA格付けの維持が前提とされている。格下げとなれば、保証をより確実にするために担保を差し出す必要が生じる。その事態が大量に発生し、モノライン危機が高まった。また、AIG(American International Group)は子会社のAIGFP(AIG Financial Producs)がモノラインと同じ業務をおこなっていた。〇八年六月末の開示資料では、その想定元本額が四四一〇億ドルと巨額に達していて、ポジションがあまりにも売りに偏りすぎていた。AIGに対する政府融資枠の設定で救われた背景には、CDS市場における存在感の大きさも多分にあったといえるだろう(「AIGを押し潰した”CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)”のカラクリ」〇八年一〇月九日;(http://www.toyokeizai.net/business/international/detail/AC/9d9bb1f676f7e62135444e3f6f6f9dbb/)。

(18) SPV(Special Purpose Vehicle)とは、匿名組合や特定目的会社等のように自らは利益獲得などの目的を有することなく、単に投資家からの資金調達や資産の小口化のための道具立てあるいは器として設立される事業体の総称である。SPVのうち、法人格を有するものはとくにSPC (Special Purpose Company=特別目的会社)とも呼ばれる(http://zai-k.com/2006/01/post_94.html)。そして、SPCとは、金融機関や事業会社が債権や不動産など保有する資産を本体から切り離し、有価証券を発行して資金を調達するために設立するペーパーカンパニーのこと。その多くはケイマンやバミューダなど税制上の優遇措置のある地域で設立されている。特定目的会社とも呼ばれる。SPCは、例えば企業等が所有している資産を担保に債券を発行して資金調達する場合などに利用される場合がある。具体的には、資金調達しようとする企業などが担保資産をSPCに一旦譲渡することで、資産を企業から分離し、企業等の倒産リスクから隔離するための役割を担う。金融機関にとっては保有資産を圧縮し、財務体質を強化できるメリットがある。日本では、一九八八年に施行されたSPC法によって、設立が可能となった。二〇〇〇年に証券化できる対象資産を広げる法改正がされ、現在は通常の不動産や企業の売掛債権のほか、ノンリコースローン(返済原資を担保資産に限定する借り入れ)などにも幅広く活用されている(http://m-words.jp/w/SPC.html)。

(19) 例えば、ある格付け会社が、Cypherという会社が発行した合成CDOについて、次のように表現している。「Cypher はシリーズ一〇債券(以下「本債券」)を発行し、投資家より支払われた債券の発行代わり金等で日本国債を購入する」(     http://www.jcr.co.jp/release/pdf/06d511.pdf?PHPSESSID=99a38d664bb8b207c92758e7ae208915)。

(20) 対象資産が毀損・消滅した場合や、対象資産が下落した場合などには、投資家に対する元利金の返済ないし償還が困難になる怖れがある。このような備えて、投資家が許容するリスク水準に応じて、対処資産の信用力を部分的に補完し、投資家に対して当初の契約どおりに元利返済ないし償還される可能性を高める措置を「信用補完措置」いう。信用補完措置には、①優先劣後構造、②超過担保、③スブレット・アカント、④キャッシュ・コラテラル、⑤第三者の保証・保険などがある。①の優先劣後構造については、本文で説明したので、それ以外を説明する。②超過担保とは、SPVが調達する資金の額を超える額の資産を、SPVを作った本体(オリジネーター)からSPVに譲渡することをいう。超過部分については、オリジネーターがSPVに対して延払債権を計上することになる。予想どうりにキャッシュ・フローが生じなかった場合のリスクを延払債権相当額にて吸収することになるから、投資家から調達した資金の元利払の確実性が高まることになる。③スブレット・アカントとは、対象資産から生じるキャッシュ・フローから投資家に弁済する元利金その他の経費を控除した残金を、SPVの現預金として積み立てておくことをいう。④キャッシュ・コラテラルとは、SPVが調達した資金の全部を対象資産の代金としてオリジネーターに支払うのではなく、その一部をSPVの預金とするなどにより、現預金をSPVに留保することをいう。⑤第三者の保証・保険としては、銀行による保証や損害保険会社による保険などがある(http://www16.ocn.ne.jp/~ino/page005.html)。

(21) 債券に支払われる利息のことを、クーポンあるいは利札(りふだ)という。クーポン付きの債券を「利付債」、クーポンのない債券を「割引債」(ゼロ・クーポン債)という。利付債は、毎年決まった時期(半年ごと)に利息が支払われる債券。クーポンによる利息収入を「インカムゲイン」という。債券本体にクーポンという小紙片が付されていて、支払われる利息の金額と利息の支払い年月日が記載されている。クーポンにはミシン目が入っていて、切り取れるようになっている。このクーポンと引換えに利息が支払われる。例えば、一〇年物の国債であれば、利息は、年二回、半年ごとに支払われるので、国債の本体に二〇枚のクーポンが付いている。利付債には、固定利付債券と変動利付債券がある。固定利付債券は、利率は変動しない。変動利付債券は利率は変動する。割引債(ゼロクーポン債)は、額面より少ない金額で発行される債券。つまり、額面金額に対して割引した金額で売り出される債券という意味。一般に、額面と購入価格の差額から、購入時の単価よりも売却時の単価が高いことによる利益をキャピタルゲイン(償還差益)、購入時の単価よりも売却時の単価が低いことによる損失をキャピタルロス(償還差損)という。海外では、割引債のことをクーポン(利息)がゼロの債券であるところから、「ゼロクーポン債」と呼んでいる(http://www.findai.com/yogo/0209.htm)。

 引用文献

CRMPG II[2005], Toward Greater Financial Stability: APrivate Sector Perspective, The Report
     of the Counterparty Risk Management Policy Group II, July 27;
     http://www.crmpolicygroup.org  


野崎日記(65)新しい金融秩序への期待(65)CDS(12)

2009-01-26 00:45:48 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

(12)金商法の「第二四条の五」(半期報告書及び臨時報告書の提出)
 「第二十四条第一項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社(第二十三条の三第四項の規定により有価証券報告書を提出した会社を含む。第四項において同じ。)のうち、第二十四条の四の七第一項の規定により四半期報告書を提出しなければならない会社(同条第二項の規定により四半期報告書を提出した会社を含む。第三項において同じ。)以外の会社は、その事業年度が六月を超える場合には、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該事業年度が開始した日以後六月間の当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「半期報告書」という。)を、当該期間経過後三月以内に、内閣総理大臣に提出しなければならない。」

 「第二十四条第一項(同条第五項において準用する場合を含む。)の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社は、その会社が発行者である有価証券の募集又は売出しが外国において行われるとき、その他公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める場合に該当することとなつたときは、内閣府令で定めるところにより、その内容を記載した報告書(以下「臨時報告書」という。)を、遅滞なく、内閣総理大臣に提出しなければならない。」

 「第七条、第九条第一項及び第十条第一項の規定は半期報告書及び臨時報告書について、第二十二条の規定は半期報告書及び臨時報告書並びにこれらの訂正報告書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合について、それぞれ準用する。」

 半期報告書、臨時報告書、有価証券届出書の虚偽記載の場合の役員等に対する損害賠償責任の規定、提出会社の役員に対して賠償請求、等々が問題になる。
 アーバンコーポの場合、正確にはすべてを開示していなかったということなので、「重要な事実の記載がかけている場合」の方に該当すると思われる。

 ライブドア事件判決でも適用された損害賠償額の推定規定が第二一条第二項である。市場価格の下落分(前後一か月の平均)が賠償額と推定される。しかし、賠償額の立証まで必要となるところに難点がある(http://japanlaw.blog.ocn.ne.jp/japan_law_express/2008/09/bnp_b9bf.html)。

(13) オフバランスとは、会計上のリスクが存在する取引をバランスシートの外に出すことであり、それによって、企業価値を高めることができる。オフバランスとは、事業運営に活用している資産・負債でありながらも、貸借対照表に計上されないことを意味する。一九七〇年代の米国において、バランスシート上の負債として計上されない資金調達の方法として、オフバランス取引が使われるようになった。当初は、非連結金融子会社を通じての取引や、証券化による債権譲渡取引などから始まり、八〇年代の金融自由化の中でデリバティブ取引へと拡大していった。バランスシートから資産・負債を消す(オフにする)ことで、外部からの評価(格付け)を高め、借入・金利負担を軽減し、資産利益率を向上させる効果がある。その際、対象資産としての債権や不動産を裏づけに、SPC(特定目的会社)を通じて証券を発行し売却することで借入金を返済することになる。その資産を担保とした証券のことを資産担保証券(ABS)と呼ぶ。証券化とは、このABSを活用して債権の流動化を図ることを意味する(http://www.nri.co.jp/opinion/r_report/m_word/off_balance.html)。

(14) グリトニル(Glitnir)は、北欧神話に出てくる宮殿のことである。名前は「輝けるもの」の意味である(V.G.ネッケル, V. G. 他編、谷口幸男訳『エッダ 古代北欧歌謡集』、新潮社版、一九七三年、五八ページ)。アイスランド政府は〇八年九月二九日、同国第三位のグリトニル銀行(GLB.IC)株式の七五%を取得し、政府管理下に置いたと発表した。取得額は六億ユーロ。米国発の金融危機で米国の金融機関が相次いで破たん。影響は欧州の金融機関にも及んでいるが、北欧の銀行破たんはグリトニル銀が初めてであった(http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-33989820080929)。

(15) ランズバンキ銀行はアイスランド第二位の銀行であった。〇八年一〇月七日の国有化と同時に、アイスランド政府は、同行系列のネット銀行アイスセーブ(Icesave)の口座を凍結。アイスセーブには三〇万人の英国民が四〇億ポンドを預金していた。英国のブラウン(Brown)首相は「アイスランド政府はアイスランド国民だけでなく、英国までも裏切った」と発言し、翌八日、英国民の預金保護を目的として反テロ法を引き合いに出し、ランズバンキ銀行を含む英国内のアイスランド系銀行全ての資産を凍結した。金融危機後アイスランドはロシアに資金提供を求め急接近しており、英国の迅速な対応は、ロシアを嫌悪する英国の思惑もあるとされる。

 アイスランドは〇八年一一月一六日、欧州連合(EU)の一部加盟国と、これら諸国の預金者がアイスランドの銀行の凍結口座に保有する預金の返還方法で合意した、と明らかにした。これを受け、滞っていたアイスランドへの数十億ドル規模の資金援助が動き出す可能性がある。EU非加盟のアイスランドと、加盟国の英国とオランダとの凍結口座をめぐるあつれきにより、アイスランドへの国際通貨基金(IMF)主導の最大60億ドルの資金援助は遅延していた。アイスランド政府は声明で「合意したガイドラインに従い、アイスランド政府は欧州経済地域(EEA)法に準拠し、アイスセーブ口座の被保険預金者の預金を保証する」とし、今後の協議はこの「共通の理解」に基づく、と述べた。アイスランドの政府報道官によると、EEA法は、リテール、およびホールセール預金者ともに1口座につき約二万ユーロの支払いを受ける権利を有すると規定している(http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-34937720081116)。

野崎日記(64)新しい金融秩序への期待(64)CDS(11)

2009-01-25 00:44:28 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

(8)スワップとは、二つの当事者間で、事前に合意された数式にしたがって求められたキャシュフロー(cash flow、後述)を、決められた期間において、決められた回数だけ交換する契約である。交換されるものによって、金利スワップ、通貨スワップやエクイティー・スワップなどと呼ばれる。これらは、固定であっても変動であってもよい。金利スワップのもっとも基本的なものは、プレイン・バニラ・スワップ(Plain Vanilla Swap)と呼ばれる。これは、同一通貨の固定金利と変動金利との交換である。一方の当事者(X)が契約締結時に決定しておいた想定元本に対して決められた固定金利分を他方の当事者(Y)に契約期間支払う。これと同時にYはXに対して同額の想定元本に対して変動金利分を支払う。スワップ(広義のスワップ)は、基本的に二当事者間での交換であるが、交換の回数、一方当事者に権利が付与されているかどうかによって次のように分類される。

 まず広義のスワップは交換回数によって、二つに分けられる。複数回交換がおこなわれるケースと、ただ一回の交換のみのケースである。前者が狭義のスワップである。後者は契約当事者の一方における権利の有無によって、さらに二つにわけられる。双方共に権利のないケースであるフューチャーと一方が権利を保有するケースであるオプション(後述)に分類される。

 通常スワップと呼ばれているのは、上記の分類のなかの狭義のスワップのことである。オプションを内蔵させたスワップも取引されている。リバース・フローターと呼ばれるスワップが一例で、キャップという金利オプションが内蔵されている。スワップとオプションを直接組み合わせたものとして、スワップを原資産としたオプションはスワップション(Swaption)と呼ばれる(http://www.nomura.co.jp/terms/japan/su/swappu.html)。

 キャッシュフローとは、文字通り「資金の流れ」を意味する。資金の流出をキャッシュ・アウトフロー、資金の流入をキャッシュ・インフローといい、両方あわせてキャッシュフローという。会計の場合には、企業活動におけるキャッシュの出入りを示し(ネットインカム+純利益)、証券分析の場合には、投資対象によって得られるすべてのキャッシュを総称する。企業の活動状況について、活動状況を会計処理して表すものを財務諸表と呼ぶが、金融商品取引法の財務諸表規則に則って作成される財務諸表において定義されるキャッシュフローとは、現金や現金同等物の増加または減少をさす。なお、一会計期間のキャッシュフローの状況を、一定の活動区分別に表示したものを「キャッシュフロー計算書」と呼ぶ(http://www.nomura.co.jp/terms/japan/ki/cash_f.html)。

(9)オプションとは、何かをする『権利』のことである。基本型としては、コール・オプション(Call Option)とプット・オプション(Put Option)の2つのタイプがある。コール・オプションは、「ある決められた日」に(までに)「ある決められた価格」で、原資産を購入する『権利』であり、プット・オプションは、「ある決められた日」に(までに)「ある決められた価格」で、原資産を売却する『権利』である。「決められた日」を満期日(Maturity Date)、権利行使日(Exercise Date)あるいは消滅日(Expiration Date)といい、「決められた価格」を行使価格(Exercise Price、Striking Price)という。オプションの価格をオプション・プレミアム(Option Premium)という。権利行使がいつできるかによって、ヨーロピアンタイプ(European Type)とアメリカンタイプ(American Type)に分かれる。ヨーロッピアンタイプは満期日にのみ権利行使が可能なタイプであり、アメリカンタイプはオプションの存続期間中いつでも行使可能なタイプである。オプションは純粋に権利であるためこれを行使しなければならぬ義務はない。この点がフューチャーやフォワード(Forward)と異なった特徴である。オプションのプレミアムを算出する評価式は、ブラックとショールズにより裁定理論を用いて導かれた放物型の偏微分方程式の解であるブラック・ショールズ・モデルが代表的である。契約期間中の原資産価格に条件をつけたオプションも取引されている。これらは条件成就によって消滅するノック・アウト型と発生するノック・イン型に分けられる(http://www.nomura.co.jp/terms/japan/o/opusyon.html)。

 ブラック・ショールズ方程式とはデリバティブ(金融派生商品)の価格づけに現れる偏微分方程式(及びその境界値問題)のことである。 ブラック-ショールズモデルは一九七三年にフィッシャー・ブラック (Fischer Black) とマイロン・ショールズ (Myron Scholes) が共同で発表した理論であり、このモデルを使って当時の懸案であったヨーロピアン・コール(およびプット)オプションのオプション・プレミアムを計算してみせた。後にロバート・マートン(Robert Marton)が彼らの方法に厳密な証明を与えた。これらの理論は現代金融工学のさきがけとなったともいわれる。ブラック-ショールズ方程式はヨーロピアンオプションのオプション・プレミアムの計算には使用できるがアメリカンオプションには使用できない。満期日のみ行使可能なヨーロピアンオプションに比べて、アメリカンオプションは権利行使日が不確定なため、価格付けが難しく、その分アメリカンオプションのプレミアムは割高になっている。この点がアメリカンオプションの買い手にとってのメリットといえるが、良い計算方法はまだ理論化できていない(http://ja.wikipedia.org/wiki/)。

(10)優先株(Preferred Stock, Preferred Share)優先株とは、他の種類の株式に比べて優先的取扱を受ける株式のこと。多くの場合、配当や会社清算時の残余財産を普通株に優先して受ける権利を有する一方、議決権に一定の制限が付された株式のことを言う。一般的に優先株が上場されることはなく、事業会社に対する支配規制のある金融機関などが引き受けることが多い(http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_930.html)。

(11)スティグリッツは、FRB議長のベン・バーナンキ(Ben Shalom Bernanke)のインフレターゲット論を念頭に置いているようである。バーナンキはグリーンスパン(Alan Greenspan)後の金融政策のあり方のひとつとして、インフレターゲット政策を採用すべきだと主張し、事実、FRB議長指名を受けての上院銀行委員会の公聴会においてグリーンスパン路線の継承を約束した(〇五年一一月一五日)。その理由は、物価水準の目標値を決めて、目標値を上回れば金利上げ、下回れば金利下げというFRBの行動が金融関係者に自動的に伝わるという形で市場とのコミュニケーションを円滑にするという点にあった(FRB, Testimony of Ben S. Bernanke, Nomination hearing Before the Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs, U.S. Senate, November 15, 2005; http://www.federalreserve.gov/boarddocs/testimony/2005/20051115/default.htm)。

 彼の証言を要約しておく。
 <一層透明性を増すための可能なステップの一つは、FOMC(Federal Open Market Committee、連邦公開市場委員会)が長期的な価格安定性の目標に合致していると考えるインフレ率、あるいはインフレ率の範囲の数値を明示的に提示することであり、これは世界の多くの中央銀行によって現在採用されている手法です。私は学術的な文書や、理事会の委員としてのスピーチにおいて、この考え方を支持してきました。「長期的価格安定性」の意味に関して数値的指標を提示することには、金融政策に対して一般の感じる不確定性をさらに低下させ、長期的なインフレ期待をより効果的に固定できるなど、いくつかの利点が存在します。私は、長期的なインフレ目標の明示的な提示は、政策形成において判断および柔軟性がもつ役割に対する適度な強調も含めて、連銀の現在の政策アプローチと完全に一貫性をもったものであると見ています。もっとも重要なことは、このステップは政策目標としての雇用の最大化の重要性を決して損なわないということです。実際、このアクションの主要な根拠は、インフレおよびインフレ期待をさらに安定化させることにより、より強固でより安定的な雇用の成長に寄与し得る可能性があるということです。いずれにせよ、私の指名が承認された場合は、長期的な価格安定性の定義の数値化に向けた拙速なステップは取らないということを、この委員会に保証します。この事項に関しては連銀によるさらなる研究、および多大な議論と協議が必要です。このようなステップ(明示的なインフレ率の提示)を取ることにより、価格安定性および持続可能な雇用最大化の両者を達成するという二つの義務を満足させるFOMCの能力がより強化されるというコンセンサスが形成された場合にのみ、私はさらなるアクションを提案します。>

野崎日記(63)新しい金融秩序への期待(63)CDS(10)

2009-01-24 00:43:01 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

 

(1)AIGは、一九一九年創業。本社・ニューヨーク。一三〇以上の国・地域に進出し、従業員は約一一万人。保険業務のほか、デリバティブ取引や金融商品の保証などを幅広く展開してきた。日本では、生命保険三社(アリコジャパン、AIGスター、AIGエジソン)と損害保険二社(アメリカンホーム、AIU)を運営。富士火災とジェイアイ傷害火災の最大株主。破綻した旧千代田生命保険など国内生保の積極的な買収を進めるとともに、格安の保険料を売り物に業績を伸ばし、生保三社の保険料等収入は国内大手四社に次ぐ規模(http://mainichi.jp/select/today/archive/news/2008/09/17/20080917k0000e020044000c.html)。

(2)SIV(ストラクチャード・インベストメント・ビークル)とは、特別目的会社が銀行やファンドから出資を募り、さらにコマーシャルペーパー(CP)で負債を調達して、債務担保証券(CDO)などに投資するプログラム。資金調達の手段というより、証券化商品を積極的に運用する特別ファンドに近い。資産側のCDOなどを時価評価し、資本を食いつぶす恐れがある場合には解散トリガーが引かれることもある。そうなればCDOのほか、SIVが投資している企業のCPなども放出され、市場が混乱する可能性がある(http://nikkei225kuroiwa.blog90.fc2.com/blog-entry-1100.html)。

(3)ちなみに、LIBOR(ライボー)とは、ロンドンにおける銀行間の取引金利のことである。一般的には英国銀行協会(British Bankers' Association=BBA)が複数の銀行の金利を午前一一時の時点で集計して毎日発表するBBALIBORのことを指す。LIBORは、は、国際的な金融取引の際に金利の基準とされる。例えば、プロジェクト・ファイナンスなどの国際的な融資契約をおこなう際には「LIBORに何%上乗せ」という表記で金利が決定されることが多い。一般に信用力の高い企業はLIBORより低い金利で融資を受けることができ、企業のリスクが高ければ高いほどLIBORよりも割増しな金利を払う必要がある。なお、LIBORと同水準で資金の調達がおこなわれた場合には「LIBORフラット」または「Lフラット」と呼ばれ、LIBORよりも低い金利で資金調達がおこなわれた場合には「サブLIBOR」と呼ばれる。類似のものとしてはTIBORがあげられる。これは東京の市場における銀行間の貸し手レートを毎日午前一一時に全国銀行業界が集計して発表しているものである(http://m-words.jp/w/LIBOR.html)。

(4)パススルー証券(Pass-through securities)とは、同種複数の債権をプールし証券化したものである。証券化したものを、投資家に売却することで、債権を保有する金融機関が、その債権をもとに、資金調達することが可能となる。代表的なものとして、モーゲージ証券がある。一般に、ファニーメイやフレディマックなどにより保証されたものが多かった(http://www.nomura.co.jp/terms/japan/ha/pass-through.html)。

(5)米大手商業銀行のJPモルガン・チェース(JP Morgan Chase)が、〇八年三月一六日夜、資金繰り難から経営危機に陥った米投資銀行第五位のベア・スターンズを救済買収すると発表した。株式交換によって、前週末に一株三〇ドルだったベア社の株を約二ドルで買い取り、事業や債務を引き継ぐことになった。Fedも、最大三〇〇億ドルをJPモルガン・チェースを迂回しての、ベア・スターンズへの資金支援を表明した。商業銀行と違って、投資銀行にFedは公的資金を直接に融資することはできなかったからである。

 ベア社は、〇八年三月一〇日頃から「資金繰り難に陥っている」との風評が広がり、同月一三日には一七〇億ドルもの運転資金が流出した。また、大手格付け会社が相次いで格付けを引き下げたことから、資金調達が困難になっていた。ベア社の価値は、前週末の時価総額の約一五分の一に相当する約二億三六〇〇万ドルにまで低下した(『讀賣新聞』〇八年三月一七日)。

(6)フューチャーとは、先物取引のことである。先物取引は、ある特定の商品を対象として、買付時に買付代金を支払わず、将来の一定の期日まで代金の支払いが猶予される取引である。通常、価格の上昇を予測して買い注文を出す。同様に売り注文を出すということは、通常、価格の下落を予測してのことである。先物取引は、ある特定の商品を対象として、売付時に受渡しをおこなわず、将来の一定の期日まで、受渡しが猶予される取引である。このようにあらかじめ決められた受渡日に、現時点で取り決めた約定価格で取引することを約束する契約を先物取引という。受渡日までに反対売買(買い方は転売、売り方は買い戻し)をすれば、当初の契約価格と反対売買価格との差金の授受によっても決済することもできる。買い方は、予測通り相場が上昇した時に反対売買をすると利益を得ることができるが、反対に下落した時には損失が生じる。売り方は、予測通り相場が下落して、反対売買をすると利益を得ることができるが、反対に上昇した時は損失が生じる(http://www.nomura.co.jp/terms/japan/sa/sakimono.html)。

(7)フォワードとは、銀行間市場(外国為替市場)の外国為替取引の種類の一つで、フォワード取引(金利のフォワード取引とは異なるので注意)とも呼ばれ、一定期間の通貨の交換のことをいう。通常、二営業日後にスタートをして、一定期間後に反対売買を約束して行う取引である。機関投資家などは、二~三か月先の受渡しの為替予約をおこなう。その際の為替レートは、スポット取引のレートとは同一ではない。
 一ドル一一五円の時、ドルをもっている人と、円をもっている人が三か月間それぞれの保有通貨を交換するとする。三か月間のドルの金利を五%、円の金利を〇・〇二%とすると、三か月後に再び一一五円で交換する場合、三か月間ドルを手放し、円を保有する人は、金利が〇・〇二%しかつかないので、損をしてしまうことになる。そこで、どちらも損をせず、この契約を成り立たせるために、次のような計算の上、契約をする。

 一ドルを三か月間運用した場合の受取額は、1ドル×1.05 × 3÷12=1.0125ドル。
 一一五円を三か月間運用した場合の受取額は、115円×1.0002×3÷12=115.00575円。つまり、一・〇一二五ドル=一一五・〇〇五七五円で返還されるとき契約が成り立つ。よって、この例示においては、115.00575円÷1.0125米ドル=113.58592。一ドル=約一一三・五八六円で三か月後に返還する約束をして、一ドル=一一五円で交換する契約となる(http://www.nomura.co.jp/terms/english/f/sakimono_gai.html)。


野崎日記(62)新しい金融秩序への期待(62)CDS(9)

2009-01-23 00:40:53 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)
 具体的な合成CDOの仕組みについて、日本格付研究所(JCR=Japan Credit Rating Agency)が格付けをした「Cypher Limited シンセティックCDO」について見よう(http://www.jcr.co.jp/release/pdf/06d511.pdf?PHPSESSID=99a38d664bb8b207c92758e7ae208915)。

 ①この合成CDOの名称は、「債券シリーズ一〇債券」である。

 ②その格付けは、ダブルAマイナス(AA-)。

 ③発行金額は、一〇億円。

 ④裏付け資産は、本邦企業一〇〇社を参照プールとするクレジットデフォルトスワップ、金利スワップならびに日本国債(第二三五回一〇年債)。⑤信用補完措置は、優先劣後構造。

 ⑤発行日は、二〇〇六年九月二八日。

 ⑥予定償還期日は、二〇一一年一二月二九日」。

 ⑦金利支払い方式は、クーポン・タイプ変動型。

 ⑧利払日は、毎年六月二九日・一二月二九日。

 ⑨元本償還方法は、満期一括償還。

 ⑩発行会社は、Cypher Limited。

 ⑪スワップカウンターパーティは、野村證券式会社。

 ⑫トラスティーは、HSBC Trustee(C.I)Limited。

 ⑬計算代理人は、Nomura Bank(Luxembourg)S.A。

 ⑭Cypher Limitedは、ケイマンのSPC。債券の種類は、スタティック型のシンセティックCDO。

 ⑮Cypherは、参照プールに係るCDS及び担保債券からの固定金利を変動金利に変換する金利スワップ(IRS)含む、スワップ契約を野村證券株式会社と締結する。

 ⑯本スワップ契約によって得られるキャッシュフローが、本債券の利払い(年二回)の原資となる。

 ⑰本債券の信用補完は、参照プールに対する優先劣後構造である。

 ⑱Cypherが野村證券と締結しているスワップ契約は、二〇〇三年ISDA定義集に準拠している。スワップ契約の中で定義されているクレジットイベントは、「Bankruptcy」、「Failure to Pay」、「Restructuring」の三種類であり、そのうち「Restructuring」については、いわゆる「Old Restructuring」によるものである。

 ⑲クレジットイベントの発生の認識は、野村證券からの通知(Credit Event Notice)、または公開情報(Publicly Available Information:二つ以上の公開情報源による情報を含む)を充足するものとする。

 ⑳本件のCDSに係る参照プールは、本邦法人一〇〇社を対象としたスタティックなプールである。一社あたりの想定元本は一〇億円、合計一〇〇〇億円となる。

 上記①~④までは説明の必要はないであろう、⑤の優先劣後構造という信用補完措置について説明する。

 優先劣後構造とは、対象資産から生じるキャッシュ・フローを優先的に受け取ることができる部分と、劣後して(優先順位が低く、後回しになる)受け取る部分にとに分けて、優先順位を設けることをいう。予想通りにキャッシュ・フローが生じなかった場合のリスクを劣後部分が吸収することによって、優先部分の元利払の確実性が高まるという仕組みである(20)。

 ⑤⑥から合成CDOの期限が五年間程度であることが分かる。⑦~⑨から利払いが変動性であることが分かる。

 クーポンとは利息のことであり、利付きであるという意味である(21)。

 
利息は半年ごとに支払われるという契約であることが分かる。償還は一括方式である。⑩は、プロテクション(CDS)の売り手にして合成CDOの組成者でもあるCypherは、日本の金融当局が十分監督ができないタックス・ヘイブン(Tax Haven=税金逃避地)で登記されたSPVであることが示されるもうこの段階から、日本の金融当局は詳細な資金の流れが掴めない構造になっている

 ⑪はカウンターパーティが証券会社であることを示している。カウンターパーティとはスワップの相方を指す。合成CDOの組成者であるCypherは、CDS(プロテクション)を野村證券に売る(プロテクションをスワップする)。ただし、野村證券はCDS(プロテクション)の対象である債券をもっているわけではない。しかし、CDSが対象としている企業の返済支払いが困難になったときに、対象債券がないのに、CDSを組成者から買った野村證券は支払い保証を受ける。その代わり、野村證券はCypherにプレミアムを支払わなければならない。Cypherは、野村から支払ってもらえるプレミアムをクーポン型の変動金利に変えてもらう(スワップする)。その相手が野村證券である。これは、カウンターパーティが図抜けて信用度の高い企業に集中しがちであることを示している。野村が、プロテクションを実行したもらうために、CDSを買ったのではないだろう。

 野村がカウンターパーティであるという信用度の高さから、Cypherは、合成CDOの組成面で有利になる。保証を支払う信用度が十分に高くないCDSの売り手が、信用度の高い企業にカウンターパーティを集中させてしまえば、  しかし、カウンターパーティにデフォルト時の支払い条件が集中してしまえば、一つ二つ少数のカウンターパーティの経営破綻が、一挙に世界を破滅させかなない可能性を大きくしてしまうのである。

野崎日記(61)新しい金融秩序への期待(61)CDS(8)

2009-01-22 00:00:50 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)
 CDSの原理は、あくまでも支払い保証対象の債券がCDSの買い手によって保有されているということにある。債券がデフォルトすれば、債券の保有者はその債券をCDSの売り手に渡す。CDSの売り手は、その債券を受け取るとともに、約束の保証額をCDSの買い手に支払い。受け取った債券にはまだわずかではあるが価値が残っているので、CDSの売り手は、支払額から債券の残存価値を差し引いた額を損失額とする。

 この状況であると問題は分かりやすい。常識的な意味での保険支払い取引だからである。問題が分かりにくくなるのは、CDSの買い手、したがってCDSの支払い保証の実行を迫る側が、支払い対象となっている債券を実際にもっていないときである。CDS取引が始められたときには、CDS支払い請求者は、当該の債券を調達する必要があった。これを「現物決済」という。

 ところが、CDS市場が大きくなると、「現金決済」が出現することになった。この方式に従うと現物(対象債券)をCDSの売り手に渡さなくてもよくなる。その代わりに保証額の取り決めが買わされる。対象債券の額面が一〇〇億円であるとしよう。対象債券がデフォルトしても、債券を発行した企業が消滅せず、民事再生を申請しておれば、債券も幾分の価値が残っている。それを例えば、四〇億ドルとしよう。現物決済ならば、CDSの売り手は支払い額は一〇〇億円であるが、債券の残存価値が四〇億円であるので、実質的には六〇億円の損失である。

 現物を渡さない「現金決済」方式になると、額面の六〇%のみ保証するという契約となる。プレミアムは年間で数%程度であるので、実際にデフォルトが発生すれば、CDSの購入者は大儲けする。ここから倫理なき投機が横行する。対象となる債券を発行した企業が倒産すればするほど、CDSの購入者は投機的に儲かるので、らゆる情報を流して当該企業を倒産に追い込みかねない。そのことは金融市場を混乱に陥れる。金融システムの安定化のために開発されたCDSが逆に金融システムを不安定化させてしまうのである。

 そして、CDS自体がさらに転々と売られる。CDSの所有者は契約期間(通常五年間に一〇回は代わるといわれている。

 二つ目の論点に進む。プロテクションの売買ではなく、プロテクションから得られる「プレミアムの売買」という局面がCDSの第二の恐ろしさである。CDSのデリバティブ取引といわれているものがこれである。プレミアムを得る権利が売られ。この権利を、プロテクションという保証金支払い義務をなくして、CDSの組成者が、第三者に売るのである。支払い義務とプレミアム取得権利とが分離されて取引されるようになっている。合成CDOはその典型である。

 三つ目の局面は、CDSのデフォルトの定義が、プロテクションの対象となる債券のデフォルトとはまったく異なるということである。

 CDS取引は、市場を通さない当事者間の相対取引である。この取引の契約時に保証額の取り決め以外に、デフォルトの条件を決めておく。対象となる債券を発行した企業が公的管理に入ればCDSはデフォルトとされる。つまり、CDSの売り手は買い手に対して保証額を支払わなくてもよい。当該企業の経営者が交代すればデフォルトになるという場合すらある。

 〇八年九月七日、ファニーメイとフレディマックの優先株を米財務省が引き受けた時点で、これら二つの住宅公社は公的管理に入ったと見なされ、これら公社を対象とするCDSはデフォルトした。同月二九日、グリトニル銀行(Glitnir Banki)(14)が公的管理に入って同社対象のCDSがデフォルト、〇八年一〇月七日のランズバンキ銀行(Landsbanki)の公的管理によって(15)、同行を対象としたCDSがデフォルトした。同月九日には、カウプシング銀行(Kaupþing Banki)(16)対象のCDSもデフォルトした。

 検討されるべき第四の論点は、合成CDOの契約条件の厳しさである。ソフトバンクは、組み込まれている全銘柄(一六〇)のわずか五%のデフォルトによって、全額の損失、つまり、七五〇億円のすべてを失ってしまうという契約であった。以下、合成CDOの仕組みを検討する。

 CDSの流れの最初は、プロテクションの売りにある。売るの銀行、保険会社やモノライン(monoline=支払い保証のみを専業とする保険会社)(17)だけでなく様々な機関である。売り手は、銀行が最大の比率であり、四〇%弱、その次がモノラインで,
一五%である(CRMNG[2005], Chart 3, A-11)。

 プロテクションの取引は、CDSを売る目的で作られたSPV(18)を通じておこなわれる。

 SIVは、自社の社債などの債券を発行し、投資家に買ってもらい現金を得る。この受け取り代金が、業界用語として、「代わり金」という。発行した債券売却代金は、「債券発行代わり金」と呼ばれる。おそらくは、現金の受取が、債券売買契約を「代わりに」表現しているという意味なのであろう(19)。この代わり金を原資として、裏付けになる日本国債をSPVは購入し、一〇〇銘柄のCDSをまとめる。このCDSはプロテクションである。当然、プレミアムを得ることができるが、デフォルトすれば契約した保証を実行しなければならない。このプロテクションをカウンターパーティという取引相手に買ってもらう。

 カウンターパーティからプレミアムを得ることができるようになる。このプレミアムと金利をスワップする。オリジナルではなく、転売されてきたプロテクションの買い手がそれを売るさいには、プレミアムの大きさを決定することはできない。そこで、変動するプレミアムをある程度決めることのできる金利とのスワップ協定が、合成CDOの組成者とカウンターパーティとの間で買わされる。こうして、CDSが生み出す金利と裏付け担保債券である国債を合成して、合成CDO(シンセティッックCDO)が組成されて、証券として発売されるのである。