消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

現代米国の黙示録 01 黙示録と『レフトビハイインド』 1

2006-08-20 15:54:15 | 現代宗教

 

 『旧約聖書』に当たる「エゼキエル書」第3839章には、北の果てから敵の大軍が、ペルシャ、リビア、エチオピアという敵側同盟軍を引き連れてイスラエルを攻めてくるが、神の御業によって、敵軍は壊滅し、その武器は燃料になり、敵側兵士は鳥の餌食になり、敵の死体は大きな墓に埋葬されると予言されている。全米で650万冊を超すベストセラーとなり、「レフトビハンド現象」という言葉すら生んだテイム・ラヘイ&ジェリー・ジェンキンズレフトビハンドは、バイブルでの予言がことごとく的中し、悪魔に支配されるようになった世界を救うべく、イエス・キリストが再度、クリスチャンを救いに降誕してくるという黙示録的歴史観を前面に押し出したものである。

 

 

 経済破綻に苦しむロシアが、繁栄するイスラエルを攻めたが、神の怒りに触れて殲滅されてしまったという書き出しで始まる。

 

 

 イスラエルが繁栄するようになったのは、ハイム・ローゼンツバイクというユダヤ人植物学者が開発したミラクル肥料のお陰である。わざわざ灌漑しなくても、ミラクル肥料に水を加えるだけで、砂漠を肥沃な土壌に変えることができるようになったというシナリオである。この肥料のお陰で、大地には穀物が稔り、穀物輸出によって世界有数の富裕国になった。イスラエルは、周囲の石油輸出国よりも豊かになった。世界の国々がミラクル肥料の製法を知りたがったが、イスラエル政府はこの重要機密を外部に公開しなかった。開発者のローゼンツバイクは、外国勢による誘拐を防ぐために、イスラエル政府の厳重な警備体制下に置かれた。

 

 

 ロシアがこの肥料を略取するために、イスラエルに夜襲をかけた。ロシアは核弾頭を装備したミグ戦闘爆撃機や大陸間弾道ミサイルをイスラエルに送り込んだ。奇襲はロシア版パールハーバーと呼ばれた。誰もがイスラエルは破壊され尽くすだろうと覚悟した。

 

 

 しかし、奇跡が起こった。戦闘機やミサイルのことごとくは空中爆破されて、建物の上でなく空き地に墜落して炎上した。これは、イスラエル軍のミサイルで打ち落とされたものでなく、神の御業であった。地上が燃え盛り出したとき、大きな霰が、降ってきた。それで地上の炎熱地獄が解消され、つぎに雷鳴とともに激しい雨が降ってきた。火災は完全に収まった。ロシアの戦闘機とミサイルは一機残らず壊滅した。ロシア人の死体とともに、エチオピア人、リビア人の死体も混ざっていた。これはロシアが中東諸国と同盟を結んでいたことの何よりの証拠であった。しかし、イスラエル国民はかすり傷ひとつ負わなかった。

 

 

 戦闘機の残骸の中に残された燃料は、イスラエルの6年間分の燃料に匹敵するものであた。死体はハゲタカの餌食になった。疫病の蔓延を防ぐために、死体は急いで大きな墓に埋められた。これは、聖書の言葉を本に作り出された荒唐無稽な小説である。

 

 

 ここに、「レフトビハンド現象」が集約されている。現実に米国人の心理を脅かす国際的なテロリズムが存在する。米国人には強烈な仮想敵国への憎しみの感情がある。中近東諸国に追いつめられている(と見なす)イスラエルへの連帯感がある。荒唐無稽なこの種の小説のシナリオはあり得るという感情も米国人の多くがもつ。そうした感情に訴えたのがこの小説である。現在の現前で展開されている恐怖は、すでに、聖書、とくに「黙示録」で予言されていたものである。予言通り、歴史は進行している。米国人よ、そして、米国を中心とするクリスチャンよ、いまこそ、悪と闘う正義の戦争に立ち上がろうと、この小説は米国人に呼びかけた。

 

 

 この小説のアイデア提供者であるティム・ラヘイTim LaHaye)は、23歳で牧師資格を取り、25年間、サンディエゴの「サドルマウンテン・バプティスト教会」というメガ・チャーチの牧師を務めている。クリスチアン・ヘリテージ大学も創設している。ジェリー・ジェンキンズJerry B. Jenkins)が実際の執筆者である。原著は1995年、邦訳は2002年。


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