消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

現代米国の黙示録 07 宗教を取り込むことに成功した子ブッシュ

2006-08-30 23:23:08 | 現代宗教

 米国の「福音派キリスト者」は、イスラム過激派集団「ハマス」の指導者アハメド・ヤシンをイスラエルが殺害したことを、イスラエル人自身より強く支持していることが、世論調査で明らかになった。

 ヤシンは、イスラエル人側に死者375人、負傷者約2100人を出させたテロ攻撃を425回にわたって指揮したとされている。


 調査は福音派の「キリスト者とユダヤ人国際フェローシップ」によって、2004年3月22、23の両日、福音主義者を対象に、インターネットを通じて行われたものである。回答者1630人のうち、89%の1457人が、ヤシンを殺すというイスラエルの決定を支持した。反対は41人(2.5%)、「どちらとも言えない」が132人(8.1一%)であった。

 

  一方、イスラエル人側への調査は、イスラエル紙『マアリヴ』が行った。その結果は、ヤシン殺害支持が61%、反対が21%であった。結果は、両者ともに2004年3月23日に発表された。


 EP通信によると、こうした雰囲気を敏感に察知した子ブッシュ大統領は、「全世界反ユダヤ主義認識法」に署名した。この法案は、米議会ではただ1人ホロコーストの経験者、民主党のトム・ラントス議員が提出していたものである。この法律は、国務省が特別コミッショナーを任命して、世界中で反ユダヤ主義の動向を調査させ、年次報告を行うというものである。


 2004年の大統領選挙ではっきりしたのは、キリスト教の取り込み、とくに福音主義者を取り込めた子ブッシュが、米大統領に再選されたということである。主要な宗教グループのほとんどが共和党を支持した。それまでは民主党の強力な支持層だった黒人プロテスタントにまで共和党は食い込んだ。


 PBSテレビの「週刊・宗教と倫理ニュース」番組が行った出口調査によると、教会に通う人ほど、ブッシュに投票し、無宗教の人はほとんどがジョン・ケリーに投票した。これは前回2000年の選挙でも示されていた傾向である。


 「宗教ギャップが一層明確になった。これは今後数年間の米政治の特色になろう」と、アクロン大学のジョン・C・グリーン教授が同番組で語った。2004年の選挙でのブッシュの勝利は、福音派とカトリック信徒を中心にした広範な「宗教連合」の支持を取り付けたことにある。


 さらにブッシュは、福音派だけでなく、主流プロテスタントの取り込みにも成功した。プロテスタントの過半数がブッシュに票を投じた。これも2000年の時と同じである。しかし、実数としては、2000年の時よりは微減した。


 大きな変化が起こったのは「黒人プロテスタント」の動きであった。これまでは、この層には、圧倒的に民主党支持の伝統があった。黒人プロテスタントの16%がブッシュ支持に回った。これは、2000年の時の倍である。


 カトリック票を見ると、2004年、ブッシュは52%を獲得、自身がカトリック教徒のケリーは48%であった。2000年の選挙では、カトリック教徒ではない、バプテスト(Baptist)のアル・ゴア(Albert Arnold Gore, Jr)ですら、カトリック票の半分を獲得し、ブッシュが46%であったことからも、2004年には、カトリックを味方につけたこともブッシュに勝利をもたらした。1週間に1度以上教会に通うカトリック信徒の58%はブッシュに投票した。ケリーを支持したのは、ミサには行かないカトリック信徒か、年間数回だけミサに出席すると言う人たちだけであった。


 伝統的に民主党支持のスペイン系カトリック信徒の票の58%はケリーが獲得した。しかし、ブッシュは、ここでも2000年の30%から2004年には39%へと大きく得票を伸ばした。 同様に民主党の有力基盤であるユダヤ人社会にも共和党が食い込んだ。2000年、ブッシュの得票は20%であったが、2004年には、24%に上昇した。


 当然だが、もっとも劇的に変化したのは、イスラム教徒の動向であった。92%がケリーに投票し、ブッシュはわずか6%であった。2000年の選挙では、イスラム教徒の大部分がブッシュに投票していたのである。


 ブッシュ氏の宗教界取り込みが広がる中で、福音派と保守的なカトリック信徒が今後も選挙の決め手になると思われる。


 「ロナルド・レーガン大統領が始めた福音派プロテスタントの政治的動員は、この4半世紀に米国の選挙戦に起きたもっとも重要な変化である。信仰者の多くが、自分たちの要求や関心を受け止めてくれる唯一の党は共和党だと見なすようになった」と、クレムソン大学ローラ・オルソン准教授は言う。


 多くのアナリストが、民主党と宗教界の大グループとの間の溝の大きさを指摘する。


 「米国人の約40%が、毎週教会に通うことからすれば、民主党は、その人たちの関心にもっと敏感にならなければ、大統領を選出に苦労することだろう」と、カルバン大学ヘンリー研究所「政治学におけるキリスト教徒」部門でペッパーダイン大学でスティーブン・モンスマが講演した。


 テキサス大学オースティン校(ブッシュ夫人の母校)のマーク・レグネルス教授は、民主党が国政選挙に勝てる唯一の方法は、妊娠中絶や同性愛者間結婚などの社会問題で、基本路線を再考することだ、として「党員にはショックをかもしれないが路線を修正すべきだ。今回の傾向から見ると、中絶反対の民主党だったら、多くの宗教保守派、とくにカトリック信徒を取り込めただろうに、逆に民主党は彼らを噛み砕いて、吐き出し続けた」と語った。