消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

民営化される戦争とグローバル企業(6) 広島講演より(9月24日)

2006-10-30 23:22:55 | 世界と日本の今

 

4、ICタグで世界支配をもくろむペンタゴン

 ICタグは儲かる

 何度も言いますが軍事というのはものすごく儲かるのです。具体的にいいますとICタグをご存知でしょうか。あの世界貿易センタービルが燃えた時に、ほんとうに勇気のある消防士達がビルに入ったのです。彼らは死を覚悟していたのです。だから自分達は後で見つかるように一生懸命ヘルメットに自分の名前を書いていた。

  それを見ていたある起業家がICタグを思いついた。1ミリ程度の小さなICつまり集積回路を皮膚に埋め込んでしまうと、人物が誰であるかが認知される。そこで開発されたのが、今流行しているICタグです。

  広島ではまだないのかもしれませんが、関西では「ICOCA」、あるいは関東では「SUICAとか、こういうものを通すだけで認知されます。ICの中にすべての情報が取り込まれていき、それが読み取り機により一瞬ですべてがそこで分かるということです。例えばスーパーで読み取るバーコードがあります。あれもアメリカが開発したのですが、商品をいちいち通さなければなりません。ICタグを全ての商品に植え付けたら、カートを押すだけですべての計算が済む。カードを渡すだけで一瞬で取引は終わるということです。あるいは入庫するときも出庫するときも瞬時で数量を把握できる。

 一番恐ろしいのは、私達が例えばヘアークリームを買って家で開けて使った。その時にそのヘアークリームのメーカーは、この製品は広島のどの地区で今開けられたということが分かる。こういうことなのです。これがICタグなのです。

ペンタゴンの命令でICタグ開発

 このICタグの開発を命令したのがペンタゴン、つまり国防総省です。ペンタゴンが使うアメリカの国防費はものすごい額です。日本の国家予算にほぼ匹敵する年間40兆円ぐらい。そしてアメリカ以外の世界の全ての国の軍事費を合計したよりもアメリカ一国の軍事費の方が上なのです。古今東西、これだけの軍事予算を費やしている国はまずないのではないかと思います。

 逆に言えばものすごくおいしい蜜がそこにあるということなのです。企業にとっては、ペンタゴンと取引することがどれだけ大きな意味を持つかは明らかでしょう。そしてペンタゴンの命令でICタグの開発をやる。ペンタゴンに出入りする業者はそれを義務付けられている。同時に民間にノウハウを蓄積させるために世界最大のスーパーマーケットであるウォルマートにICタグの開発を依頼したのです。結局ウォルマートでは、最初にテキサスのダラスで納入業者がICタグ取り付けを義務付けられた。そして今年に入ってそれが全米のウォルマートで義務付けられている。

 アメリカ方式の押しつけ

 そして、その次にそれを世界的に普及させていかなければならないということになり、今、日本でどの方式を採用するかの対立がある。経産省はアメリカ方式、つまりMIT(マサチューセッツ工科大学)方式を日本に採用させようとしている。それに対してわが日本には東大教授だった坂村健さんのICタグがあり、方式が違うのです。それをアメリカ方式にしろということになった。坂村さんが負けたのはこれで2回目なのです。 ご存知ですか。日本人は独創性がなく物真似ばかりすると我々もそう信じこまされていますが、嘘です。独創的なものを作ればすべてアメリカによって叩き潰されるのです。

 日本にはトロン方式というのがあったのです。そのトロン方式は坂村さんが開発したのです。それを松下電器が普及したのです。松下が普及して、小学校段階からこのトロン方式を学ばせようとしていたらアメリカがいちゃもんをつけてきた。カーラ・ヒルズという女性のアメリカ通商代表(USTR)が文句をつけてきて、けしからんと中止させられてしまった。生産も取りやめになった。 そして松下の不買運動が起こった。かわいそうに松下は、パソコンで先行していたのに、それを禁止されたのです。あの打撃は大きかった。それを世間の人は、「松下は松下幸之助が天皇になりすぎて技術開発をさぼったのだ」と言った。よくもかわいそうなことを言うなあと思いますが、寄ってたかって潰されたのです。そしていつの間にかあっという間にウィンドウズです。この様に独創的なことをやって、そのマーケットが奪われそうになったらアメリカに叩き潰されるのです。

  坂村さんはいい人です。坂村さんが毎日新聞に寄稿していて、それを読んで私は涙が出てきました。彼は書いています。「日本人はグローバル・スタンダードを作るのが下手だ。実はフランスで寿司を食べて美味しかったけれどその寿司屋には日本政府の認定証がない。せめて日本のコシヒカリ(実は、わが福井がコシヒカリを開発したのです。越の国の光、魚沼ではないのです)を使ったら5つ星だとか、カリフォルニア米を使えば4つ星とか認定制度を作るべきである。認定制度を作らないがために、寿司は下手したら安物のブランドという形で転落する可能性がある」と。

  坂村さんは精一杯に、「国家たるものは世界的なブランドを作るためにあるのではないのか。私は2回も開発し、トロンとICと2回とも叩き潰された。その間、国家は何をしてくれたか」との訴えを彼らしく奴隷の言葉で寿司を例にとって政府批判をやったものだから、私は一遍にファンになりました。坂村さんはすごくいい人だと思ったのです。


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