消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(171) 道州制(13) 橋下大阪府政と関西州(13) 

2009-06-05 07:06:37 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


 六 「自治体財政健全化法」の衝撃


 〇七年六月に成立した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」が、第三セクターをはじめ、自治体病院のような公的な住民サービスを危機に追いやっている。
 
  この法律によって、地方自治体は、〇八年度の決算から、第三セクターや、自治体病院などの公営企業の赤字や借金を、自治体会計として公表させられることになった。これまでは、自治体病院や第三セクターなどの運営費は特別会計(19)に計上され、一般会計には計上されていなかった。そのために、特別会計で赤字が計上されていても、自治体の財政状態を判断する指標が一般会計であるかぎり、赤字の自治体病院なども存続できていた。自治体病院や第三セクターの赤字は顕在化せず、自治体の「隠れ赤字」とか「隠れ借金」とか非難されてはいたが、それでも、このことが自治体の一般会計を直撃することはなかった。

 しかし、これによって、自治体は真の赤字には鈍感で、第三セクターや公営事業の赤字の解消を先送りしてきたのは事実である。その結果、夕張市のように、事実上の破綻に追い込まれるまでは、自治体の財政危機の実情は外部には知らされなかった。

 新法は、こうした隠れ赤字や借金を浮き彫りにし、手遅れになる前に財政再建に向けた取り組みを自治体に促すべく、一九五五年に制定された「地方財政再建促進特別措置法」(再建法)に代えて、じつに五二年ぶりに新たに制定された法律である(伯野卓彦[2009]、二四~二五ページ)。

 再度説明する。新法では、連結しない会計と連結した会計とを対比させている。つまり、実質赤字比率と借金比率の二つの項目を、連結しない場合と連結した場合に区分する。そのうえで、「財政健全化団体」に指定されるか、それよりも厳しい「財政再生団体」に組み入れられる(20)。

 「財政健全化団体」に指定されると、自治体は、健全化の具体的計画を総務大臣に報告しなければならなくなる。そして、目標達成が困難であると判断されたときには、総務大臣から改善の具体的な勧告を受けることになる。「財政再生団体」に指定されると 予算の変更、財政再生計画の変更等の措置を講ずることを総務大臣から勧告されることになる(http://72.14.235.132/search?q=cache:WTBHQ4Ge6ioJ:www.soumu.go.jp/iken/zaisei/kenzenka/exm/pdf/080604_1_3.pdf)。

 以下、四つの指標を説明する。

 ①「実質赤字比率」は、第三セクターや自治体病院の会計と連結しないもので、一般会計内の赤字比率である。自治体の標準財政規模によって、一一・二五%から一五%以上で、「財政健全化団体」入りとなる。二〇%以上で「財政再生団体」入りとなる。

 ②連結したものは連結「実質赤字比率」で自治体会計に計上される。この赤字比率によって、「財政再生団体」入りとなるが、その基準は年を経るごとに厳しくなる。〇八年度と〇九年度では、四〇%以上。二〇一〇年度では三五%以上。二〇一一年度では三〇%以上となる。

 ③借金の比率も連結しな場合は「実質公債費比率」である。これまでは、①と③だけで財政状態がチェックされていた。今後、③だけでも、二五%以上になれば「財政健全化団体」入りとなり、三五%以上で「財政再生団体」入りとなる。

 ④公営企業の借金をも連結させたものが「将来負担比率」である。三五〇%以上で「財政健全化団体」入りとなる。

 しかし、分母になる標準財政規模が、地方交付税の多寡で大きく左右される点に難点がある。地方交付税は総務省が所管しているために、地方分権の流れに逆行し、ますます国の関与が強まるという問題点がある。地方交付税が減額されると標準財政規模が小さくなり、赤字の規模が変わらなくても実質赤字比率などの数字は上昇することになる。

 国の胸三寸で、恣意的に自治体を「財政健全化団体」や「財政再生団体」に陥れることもできる。在日米軍再編に伴う岩国基地への空母艦載機部隊移転問題で、反対を貫いていた当時の井原勝介・岩国市長のときには、政府は、市庁舎建設補助金三五億円をカットするなど、不当な圧力が井原市長には加えられた。

 伯野卓彦の上記著作では、「こんな法律が、絶対にそのまま施行できるはずがない。そんなことになったら、日本の地方自治は崩壊してしまう」と吐き捨てるように言った地方自治体職員を紹介している(伯野[2009]、二八ページ)。

 総務省が発表した調査結果(〇七年九月時点)によれば(http://blogs.yahoo.co.jp/hatahata8/53407101.html、および、伯野[2009]、三三~三四ページ)、「五億円以上の債務超過に陥っていることが判明した第三セクターと公社(自治体が一〇〇%出資)」の数は全国で九七社あった。大阪府関係では一〇社あり、一一三五億円もの債務超過である。件数は、東京都よりも大きい。

 各自治体の当該会社の債務超過額合計は以下の通りである。北海道(八〇億五〇〇〇万円)、青森県(八九億円)、岩手県(六億四〇〇〇万円)、山形県(二一億五〇〇〇万円)、茨城県(六二九億五〇〇〇万円)、群馬県(二一八億円)、千葉県(七三五億円)、東京都(一四六六億円)、神奈川県(四二億七〇〇〇万円)、新潟県(二八億円)、富山県(六億五〇〇〇万円)、石川県(三一億円)、山梨県(一四五億七〇〇〇万円)、長野県(一八億円)、静岡県(二七億円)、愛知県(二四一億円)、三重県(一〇億円)、滋賀県(三三億円)、京都府(八億円)、大阪府(一一三五億円)、兵庫県(三七七億円)、奈良県(三七億円)、和歌山県(二九五億円)、島根県(一一二億円)、岡山県(七億円)、広島県(六六億円)、山口県(六億三〇〇〇万円)、愛媛県(七億四〇〇〇万円)、高知県(二〇億円)、福岡県(五億円)、長崎県(一五億円)、大分県(二七億円)、宮崎県(八億円)、鹿児島県(二一億円)、沖縄県(二四億円)。全国合計(六九九九億五〇〇〇万円)。

 東京都だけで全国の二一%、大阪府は一六%、東京都と大阪府を合わせると、じつに全国の三七%も占めている。さらに、全国の地域・土地開発事業の債務超過比率は、五二八三億七〇〇〇万円と全国の総債務超過のじつに七五%を占める。つまり、青森件大鰐町の典型的なリゾート開発事業の処理はほぼ終了し、いまや、大規模土地・都市再開発事業の処理に照準が移ってきていることをこの数値は示している。

 事態は、「進むも地獄、退くも地獄」(伯野[2009]、三二ページ)の様相を呈しているのである。


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