七 第三セクターの苦難の脱却への道筋-道州制への予感
第三セクターの財政危機が、東京都や大阪府などの巨大自治体の破綻に結びつきかねないとの恐れが、国を第三セクターの延命だけでなく、より強力な自治体を創り出すという方向に向かわせている。
まず、第三セクター関連の「損害補償契約」の見直しの指針を政府は最近になって打ち出した。総務省が出した「第三セクター、地方公社及び公営企業の抜本的改革の推進について」がそれである(http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/saimu_chousei_20/pdf/081205_1_1.pdf)
個条的に総務省の見解を要約する。
①第三セクターの債務処理を容易にすべく、時限立法を講じることになった。「第三セクター等の整理(売却・清算)、または、再生を促すため、債務処理のため、とくに、必要となる経費について、時限的に地方債の特例措置等を講じるべき」。
②国の機関はそうした自治体の政策に関与する。「国の施策に関連して設立された第三セクター等に関しては、関係省庁はその改革に積極的に協力すべき」。
③第三セクターの経営責任者を明確にしておく。つまり、自治体の長による名誉的なポスト就任は許さない。「第三セクター等の経営に当たっては、独立した事業主体として自らの責任で事業が遂行されるものであり、経営者の職務権限や責任を明確にしておくべき」。
④「損失補償」は自粛すべき。「第三セクター等が経営破綻した時には、当初予期しなかった巨額の債務(財政負担)を負うリスクもあることから、特別な理由がある場合以外は新たな損失補償はおこなうべきではない」。
⑤会計基準を明確にする。つまり、第三セクターなどの経営において、恣意的な会計は許されない。「会計基準の徹底、監査の活用、情報開示の強化」。
⑥財政健全化との関係で公営企業も第三セクターに準じる。「公営企業についても、第三セクター等の改革に準じた取り組みをおこない、地方公共団体の財政の健全化を進めていく必要」。
⑦そのための時限的な地方債発行を認める。「改革推進のため、時限的に地方債の特例措置等を講じるべき」。
⑧公営企業会計にも国の標準に従うべき。「経営状況等をより的確に把握できるよう、公営企業会計基準の見直し、各地方公共団体における経費負担の考え方の明確化等、所要の改革をおこなうべき」。
⑨先送りはさせない。「地方公共団体は、健全化法の施行も踏まえ、先送りすることなく早期に改革に取り組み、将来負担の明確化を図ったうえで、その計画的な削減に取り組む必要がある」。
⑩国は、第三セクターに積極的に関与する。「総務省は、地方公共団体が取り組む第三セクター等の抜本的改革を促進するため、実効性のある指針を策定するとともに、必要な支援措置を講じるべき」。
⑪整理方法も国の基準に従い、新たな損害補償契約は交わさない。「債務調整に当たっては、法的整理や私的整理ガイドライン等一般に公表された債務処理の準則等の活用を図ることが適当。処理策において、新たな損失補償等をおこなうべきではない」。
⑫第三セクター整理にも地方債発行を時限的に認める。「第三セクター等の整理(売却・清算)、または、再生を促すため、債務処理のために、とくに必要となる経費について、時限的に地方債の特例措置等を講じるべき」。
⑬国、自治体間の責任分担を明確にすべき。「経営状況等をより的確に把握できるよう、公営企業会計基準の見直し、各地方公共団体における経費負担の考え方の明確化等、所要の改革をおこなうべき」。
見られるように、これは、第三セクター問題の深刻化に伴い、国が第三セクターや公営企業の運営・処理において、これまで以上に関与するための指針であることが明らかである。第三セクターの整理が格段に容易になる反面、それだけ国の介入が強められることになったのである。しかも、地方財政の困難さの最中にあって、地方債の発行が第三セクター関連で認められるという項目がある。これは、地方債の発行認可を通じて、第三セクターをはじめ、自治体病院や教育機関に国が介入することを法制的に可能にするものである。
これは、道州制をにらんだ布陣である。いずれにしても、「自治体財政健全化法」は、人件費の削減や公共サービスのアウトソーシングをいっそう加速させるものである。
二〇〇〇年四月から施行された「地方分権一括法」(21)は、中央と地方の関係を、これまでの上下・主従関係から対等な関係へと改める方向を目指すものと通常は理解されている。しかし、それは、国の権限を地方に移譲することを実現させるという単純な内容ではない。地方自治体を、かぎりなく道州制に向かわせようとするのが、この法律である。平成の大合併はそれを示した。
憲法第九二条には、地方自治に関する事項は「地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」となっている。しかし、実際には、地方行政の多くは国の下請け機関と化し、都道府県においては日常業務の七〇~八〇%が国の機関委任事務で占められるていた。また、人事面においても、地方自治体の幹部は自治省からの出向組に占められることが多く、そのため、地元採用の職員の士気を低下させ、地方自治を確立する妨げとなった(http://sakura.canvas.ne.jp/spr/h-minami/note-tihoujiti.htm)。
「地方分権一括法」によって、従来の機関委任事務の半分以下にあたる四五%だけが法定受託事務に移管されることとなり、地方の負担は大幅に軽減されたと喧伝されている。しかし、実際には、財政面での国の介入はいささかも緩和されていない。岩国市の例に見られるように、補助金を通じる支配構造には何らの変化もないのである。
地方財政を支える地方税は、住民税、固定資産税、事業税などである。 しかし、これだけだと、自治体の必要経費の三分の一程度にしかならない。そのため地方自治は三割自治と言われてきた。
残りの七割の財源は国から得てきた。それは二つルートを通じて交付されたものである。一つは国庫支出金。これは国が地方自治体に金の使い道を指定して与えるものである。もう一つは、地方交付税。これは地方公共団体の間の格差をなくすために交付されるものである。過疎地域には多く、財政の豊かな大都市圏には少ししか交付されない。地方交付税の使い道は、地方の自由になる。
「地方分権一括法」と「三位一体改革」(22)によって、〇七年度の地方財政の歳入総額約八三兆円のうち、地方税が四八・六%、地方交付税が一八・三%、国庫支出金が一二・二%、その他、などとなった。しかし、全部合計しても七三兆円にしかならず、不足分の一〇兆円は地方債の発行で補われている。国も借金、地方も借金という構図は変わっていない。