消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

世界と日本の今を読み解く(1)

2006-04-23 17:58:14 | 世界と日本の今
 こんにちは、本山です。この4月より福井県立大学に移りまして、大学がある町が「永平寺町」というんです。大学は何か宇宙ステーションみたいでして、ビックリすることもあります。まず、歩いていける範囲で生活ができない。買い物するにも近くでは間に合いません。コミュニティが崩壊して、おじいさん、おばあさんが生活できない。もうウソみたいな町でして、まず車がないと暮らせず、歩こうにも歩道がないので路肩を歩くんですが、田んぼとの境に柵もありません。
 今の時代、日本中に巨大なスーパーが進出している。「ショッピング・センター(SC)」ですね。これはいわゆる「スーパー」、つまりスーパー・マーケットよりも大きい「スーパー・スーパー」です。現在、人口40万人につき、ひとつのスーパー・スーパーがあると言われています。福井県の人口が100万前後ですから県に三つのスーパー・スーパーがあれば福井県民の暮らしは賄える。そういう施設はだいたい高速道路のインターチェンジの近くにあります。映画館、ボウリング場、パチンコ屋など、もう何でもある。わたくしは京都にいたころは京都が嫌いでしたが、今はもったいないと思います。蜷川さんのおかげで、世界に誇れる町になっていると思う。世界でも日本でも、将来の町の景色はどこも同じになるでしょう。巨大ショッピング・センターがあり、そこへ行く途中は夜は真っ暗闇になるところです。大学と宿舎の間は真っ暗です。そして車がビュンビュン飛ばしていく。湿気が多い土地なので、雲が多くて月も見えません。源氏蛍がいるらしいんですが、これが救いです。こういうのが世界の趨勢です。ふつうの町は大事です。この先、治安維持はどうなるか。交番は減り、自転車に乗ったお巡りさんも減る。パトカーがビュンビュン飛ばしていく。駐在のオッちゃんがいなくなる。犯罪が増えます。それも劇場型の犯罪です。人の多いとこで犯罪をやる愉快犯です。ショッピング・センターなど塀で囲まれた地域があり、内側には民間警備員がいますが、一歩外へ出るといない。外側では幼児が死にます。町づくりの失敗ですね。郊外に団地、ショッピング・センターです。駅前のスーパーはなくなる。高速道路時代は、郊外スーパーも潰す大ショッピング・センター時代です。ダイエーさえ潰れます。しょうもない経済学者は中内さんのワンマン経営がダメだという。これはバカです。政治の問題なんです。大店法で巨大ショッピング・センターが優遇される。ウォルマートなどが弱小スーパーを(買収で)集めて大きくなる。車社会になり、世界がアメリカの中西部のような社会に向かっている。塀の中は安全で、外は貧困、怨念、殺人があふれる。安全のため装甲車のような車が出てきて、家はセキュリティ・システムを入れる時代になった。この前、鍵を落としまして、家に入れず、仕方がないから塀を乗り越えて入りました。ちゃっかり防犯カメラに映ってました。
 こういう状況を難しい言葉で「ゲイティッド・コミュニティ(gated community)」という。ゲートで囲まれた小社会です。こんなことやってたらダメですよ。人間、平たいところで「こんにちは」っていうものです。50階建てのマンション、車はビュンビュン、エレベーターはガーっと動く。コミュニティが崩壊しているんです。警備員が流行ります。公営住宅は廃止に追い込まれ、住宅公庫さえなくなる。金持だけが塀の内側の人になれる。すべてがアメリカ的生活スタイルになるんです。安全が巨大成長ビジネスになる。「奥さん今日はまた一段とおきれいですね」といってものを買ってもらう世界はなくなり、映像だけ見て物を買う。会話がありません。こういうことが、今の世界を考える上で大事なんです。わたくしは抽象的な話が苦手でして、生活の中から理論を組み立てたいと思っております。

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3 コメント

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いよいよ始まるのですね。 (suzuki)
2006-04-23 18:18:50
本山先生ご苦労様です。いよいよブログが始まるのですね。

我々一同、心待ちにしておりました。

 第二職場で、それも福井の新興学園都市のような町に行かれたのですから、大変ですね。お体に気をつけてくださいませ。
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第1時世界内戦後の世界では普段の暮らしが戒厳令的 (A.M.)
2006-04-23 20:55:28
これは興味深いお話ですね。ゲイティッド・コミュニティ時代をもたらしたのは、ポール・ヴィリリオが「第1次世界内戦 Global Civil War I」と呼んだ対テロ戦争という新種の戦争です。主権国家A vs.主権国家Bになるとセッティングが大変ですが、主権国家A vs.テロ集団ならもっと簡単に生活が戦争状態に近いものになる。イラクとアメリカが戦争してますが、別にそれがなくても、今の日常生活の戒厳令的状況は変わりないでしょうね。このもとでテーマ・パークのような大型「スーパー・スーパー」が小売店の生きる糧だった地域の購買力を吸い取り、それは規模の経済で大手の独占供給となる。同じように、新興住宅の開発でも、すでにセキュリティが売りになってます。日常生活が警戒と監視の応酬になる。ある種の業種にとっては大きなビジネス・チャンスですね。今は自由主義経済思想が華やかですが、実際に進行しているのは、むしろ重商主義的世界ですね。大規模な受注の機会に与ろうとして、各社はレント・シーキングをせざるをえない。コネを固める活動が「自由化」されているだけです。同じことを裏から見れば、全然自由化じゃなく、まったく逆です。新規参入も競争もなくなり、独占・寡占に落ち着くだけ。自由化=数年後の独占です。これくらいのこと、分からナイト。
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ちょっと変換ミス (A.M.)
2006-04-24 02:32:20
今のコメントのタイトル、「第1次世界内戦」の誤り。変換ミスでした。
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